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医療を営利産業化してはならない 日医報告書

 全体198ページの報告書だが、提言部分は4章60ページ。
1章「ポスト311の社会保障と政治」(山口二郎・北海道大大学院教授)、2章「TPPと今後の日本医療」(二木立・日本福祉大教授)、3章「医療の営利産業化より医療関連産業の強化を」(桐野高明・国立国際医療研究センター総長)、4章「医療保障政策と医療団体の政治経済学的位置」(権丈善一・慶大教授)。
 権丈氏の自由放任、経済政策の「合成の誤謬」・・・「過少消費の状況下で供給サイドに向けて民間投資を促すだけの政策は、無人島で商売を強要しているようなもの」という指摘やヘンリーフォードの言葉が興味深い。
 【医療を営利産業化していいのか 日医医療政策会議2/8】
【医療の営利化「許してはならない」- 日医の有識者会議が報告書  QBニュース2/8】

米政府が「公的医療の廃止もとめず」と報道されているが、「いままで要求したことはない」というだけの話。米韓FTAでは、当初そのように説明されたが、公的医療を構成する医薬品の規制緩和、特区による混合診療が合意されている。

【医療の営利化「許してはならない」- 日医の有識者会議が報告書  QBニュース2/8】

 日本医師会は8日、日医の「医療政策会議」が取りまとめた報告書「医療を営利産業化していいのか」を公表した。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、医療ツーリズムなどに対する有識者の見解をまとめたもので、田中滋議長(慶大大学院教授)は「『医療本体の営利産業化は許してはならない』ことは当然の前提」と強調している。

 同会議では、2010年7月に日医の原中勝征会長から諮問を受け、12年1月に答申した。

 報告書は、▽「ポスト311の社会保障と政治」(山口二郎・北海道大大学院教授)▽「TPPと今後の日本医療」(二木立・日本福祉大教授)▽「医療の営利産業化より医療関連産業の強化を」(桐野高明・国立国際医療研究センター総長)▽「医療保障政策と医療団体の政治経済学的位置」(権丈善一・慶大教授)―の4章構成。

 TPP参加について、山口氏は「無原則な自由化が医療のみならず、日本の社会的共通資本を荒廃させる恐れがあることに鑑み、十分な議論を尽くす必要がある」とけん制。二木氏は、日本がTPPに参加すれば、米国の要求は「日本の医療機器・医薬品価格規制の撤廃・緩和」「医療特区(総合特区)での株式会社の病院経営の解禁と混合診療の原則解禁」「全国レベルでの株式会社の病院経営解禁と、混合診療の原則解禁」の3段階に及ぶと分析。各段階の実現可能性について、第1段階は高く、第2段階も長期的には否定できないものの、第3段階はごく低いと判断している。ただし、第3段階が実現すれば、国民皆保険制度の基本理念は変質し、給付も大幅に劣化するとの見解を示している。

 こうした各章の内容を受け、田中議長は「医療は、資本利得のために用いられるべき産業分野ではない」とまとめた。さらに、4人の執筆者に共通する考え方として、▽健全な(非営利・公益)産業として、医療は世の中に大きな貢献を果たす▽医療関連産業の活性化も、日本経済のために重要な課題▽TPPが政治アジェンダ(検討課題)に挙げられている情勢下では、国際的視点がますます不可欠―などを挙げている。


【「医療保障政策と医療団体の政治経済学的位置」(権丈善一・慶大教授)より】

“1.合成の誤謬と自由放任の終焉
   (略)
日本経済の現状を鑑みれば、社会保障による中間層の創出は十分とはいえない。それどころか、日本における労働市場の非正規化と低賃金化は、消費を支える中間層の厚みを薄くする方向に強く作用してきたのであるが、日本の社会保障は所得分配面でその傾向に抗する力をもっていなかった。その結果、長期にわたって、日本の消費は非常に弱く、これが、消費単位である人口減少と相まって企業の期待収益率を引き下げ、積極的な投資を思いとどまらせてきた。つまり、消費と投資からなる有効需要の不足が、デフレを長期化させてきた。日本のデフレは、国民経済における中間層が薄くなる中、貨幣を消費、投資に回さずに、手元に保蔵している層が厚くなる一方で、購買力が弱い低所得層が厚くなっていることによる。

一方、日本の政策レベルでは、需要不足は投資不足ゆえとみなして、多くの投資促進政策を展開した。それが効果はなかったのも当然で、過少消費の状況下で供給サイドに向けて民間投資を促すだけの政策は、無人島で商売を強要しているようなものだからである。バブル崩壊以降の生活自己責任原則の徹底の下に、社会保障を削減して将来の生活不安を増幅させながら、国民に自助努力を促して貯蓄に走らせるのは、過少消費論の視点から見れば、必要な経済政策とは全く逆のことをしていたとも言える。そこに、当時野党であった民主党は、年金をはじめとした社会保障を政争の具として将来不安をかき立て、過少消費を加速した。大罪である。

2.合成の誤謬に基づく政策に抗う経済界
市場における個々の主体が私的利益を求めると、国民経済は過少消費という合成の誤謬に陥って、経済成長という公共善を失うことになる。したがって、政治過程を通して、市場活動に規制をかけ、私的利益の追求を抑
制することにより、国民全般が公共善を享受できるようにする政策が、再分配政策としての社会保障である。
企業家であっても、過少消費という合成の誤謬に陥るメカニズムを理解している者はいた。たとえば、ヘンリー・フォードである。フォードの理解を、次の言葉は端的に示している。

『雇用の削減とか賃金カットによる国家利益などという言葉をよく耳にする。賃金カットは結局購買力を低下させ、国内市場、国内需要にブレーキをかけることになるのだが、なぜそれが国家利益になるのだろうか。    ヘンリ・フォード/豊土栄訳『ヘンリー・フォードの軌跡』2000 年87 頁』

『我が社が本当に発展しだしたのは、1914 年に日給を2 ドルから5 ドルに引き上げ、最低賃金を定めてからであり、それによって従業員の購買力は増加し、他社の製品を買う力もますます向上していった。わが国が繁栄する背景には、高い賃金を払い製品価格を下げて、大衆の購買力を向上させるという考え方がある。これは我が社の基本的な考え方であり、我々はこれを賃金指向と呼ぶ。
ヘンリ・フォード/豊土栄訳『ヘンリ・フォードの軌跡』2000 年146 頁』

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