「君が代判決」 減給・停職を取り消し
「君が代の起立・斉唱行為には、思想・良心の自由に対する間接的な制約となる面があることは否定し難い」というのが職務命令を合憲とした昨年の判決の指摘。今回の判決は、「内心の自由」を守るための行為を、停職や減給にすること「行きすぎ」とした。去年の合憲判決に2名の判事が、今回の「戒告は許容範囲」にも1名の反対意見がついた。「強制と厳罰」は教育の条理と真逆の位置にある。
【君が代判決 過剰な処分に歯止めを 中日/東京 1/17】
【社説:日の丸・君が代判決 行き過ぎ処分には警鐘 毎日1/17】
(以下は、後日追加)
【君が代斉唱時の不起立等を理由とした懲戒処分取消等請求訴訟の最高裁判決に対する日弁連会長声明1/20】
私達は、「日の丸・君が代」に反対でなく、「強制」に反対しているのである。
厳罰による強制、異質なものの排除・・・「総書記の死を嘆き悲しまなかった市民らが罰せられている」と報じられる北朝鮮と同じ思考パターンではないか、と危惧せずにいられない。
【君が代斉唱時の不起立等を理由とした懲戒処分取消等請求訴訟の最高裁判決に対する日弁連会長声明1/20】本年1月16日、最高裁判所第一小法廷は、東京都内の教諭ら計約170人が、入学式などにおける国歌斉唱の際に起立斉唱あるいは伴奏を命じる校長の職務命令に従わなかったことを理由にされた停職、減給ないし戒告の懲戒処分の取消し及び国家賠償を求めた計3件の訴訟の上告審判決で、上記職務命令は憲法19条に違反しないことを前提としつつ、「減給や停職には過去の処分歴や本人の態度に照らして慎重な考慮が必要」との初判断を示した上で、停職の2人のうち1人と減給の1人の処分を取り消し、一方で「学校の規律の見地から重過ぎない範囲での懲戒処分は裁量権の範囲内」とも判断し、戒告を受けた教諭らの処分を取り消した2審判決を破棄し、逆転敗訴とした。
これまで当連合会は、君が代について、大日本帝国憲法下の歴史的経緯に照らし、君が代の起立・斉唱・伴奏に抵抗があると考える国民が少なからず存在しており、こうした考え方も憲法19条により憲法上の保護を受けるものと解されることを指摘し、君が代の起立・斉唱・伴奏行為は日の丸・君が代に対する敬意の表明をその不可分の目的とするものであるから卒業式等においてこれらを職務命令で強制することは思想・良心の自由を侵害するものであると重ねて表明してきた(平成23年6月10日付け会長声明等)。
したがって、今回の判決が戒告処分を容認した点は強く批判されるべきものであるが、過去の不起立などによる処分の累積で停職、減給とされた合計2人について「処分は重過ぎて社会観念上著しく妥当性を欠く」と取り消した点は、注目されるべきである。すなわち、本判決は、不起立等の行為が教員個人の歴史観ないし世界観等に由来するものにとどまり、式典の積極的な妨害に及ばない場合は、戒告処分が累積してもより重い減給以上の処分を選択するのは違法であるとの判断を示したものであり、君が代不起立に対する処分の濫用に一定の歯止めをかけたものと評価し得る。
この点について、本判決に補足意見を付した櫻井龍子裁判官は、起立斉唱することに自らの歴史観・世界観との間で強い葛藤を感じる職員が、式典の度に不起立を繰り返すことで処分が加重され不利益が増していくと、「自らの信条に忠実であればあるほど心理的に追い込まれ、上記の不利益の増大を受忍するか、自らの信条を捨てるかの選択を迫られる状態に置かれる」として、このように過酷な結果を職員個人にもたらす懲戒処分の加重量定は法の許容する懲戒権の範囲を逸脱すると厳しく批判している。
また、反対意見を述べた宮川光治裁判官は、本件職務命令が憲法19条に違反するとの理由に加え、懲戒処分の裁量審査について、戒告処分であっても勤勉手当の減額、退職金や年金支給額への影響等の実質的な不利益を受けること、他の処分実績との比較でも過剰に過ぎ比例原則に反することを指摘し、たとえ戒告処分であっても懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱すると明快に述べている。以上の補足意見と反対意見の趣旨からも、本判決は、東京都及び立川市公立学校の教職員に対する国歌斉唱時の起立・斉唱・伴奏の強制や、大阪府で昨年来続いている教職員に国歌起立斉唱を強制する服務規律条例の制定や教育基本条例案による懲戒分限基準の策定への厳しい警告となるものといえる。
当連合会は、これまでの関連する声明を踏まえ、改めて、東京都、立川市及び各教育委員会を含め、広く教育行政担当者に対し、教職員に君が代斉唱の際の起立・斉唱・伴奏を含め国旗・国歌を強制することのないよう強く要請するとともに、あわせて、大阪府及び大阪市の各地方議会に対し、君が代不起立に対し分限免職を可能とする教育基本条例を制定しないよう求めるものである。
2012年(平成24年)1月19日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児
【君が代判決 過剰な処分に歯止めを 中日/東京 1/17】君が代を歌わなかっただけで、停職処分としたのはやりすぎ-。東京の教職員らが処分撤回を求めた裁判で、最高裁はそう判断した。過剰処分を断行し、国歌斉唱を強いる風潮の歯止めとなろう。
卒業式での君が代斉唱は、戦後も一般的に行われている。一方で、「戦時中の軍国主義のシンボルだ」と考える人々が少なからずいることも、また事実だ。
東京都は職務命令として国歌斉唱を強いているが、信念として歌えない教員らがとった行動が「不起立」である。その結果、多くの教員らが懲戒処分を受けた。
斉唱の職務命令が憲法違反かどうかの決着はすでについている。昨年五月以降、最高裁が「合憲」判断を続けて出している。
その後の君が代訴訟は、命令に従わなかったことが、戒告や減給、停職などの懲戒処分に相当するかが焦点だった。最高裁は「戒告は都の裁量の範囲内」としたものの、停職など重すぎる制裁には、一部原告の訴えを認め、処分取り消しの判決を出した。
ある教員のケースをチェックしてみよう。最初は卒業式で起立しなかったから戒告。二回目は不起立で減給。三回目も不起立だったから、減給のうえ、三回繰り返したという加重処分の方針に従って、停職となったのである。
積極的に式典の進行を妨害したわけではない。最高裁が停職処分を取り消したのは当然だろう。規律や秩序の必要性と、処分の不利益をてんびんにかけてみると、「処分の重さが社会観念上、著しく妥当性を欠く」からだ。
ただし、「戒告は許容範囲」とする多数意見について、宮川光治判事は反対した。「思想・良心の核心と密接に関連しており、精神的自由は憲法上保護されねばならない」という考えからだ。
確かに戒告は軽くない。懲戒処分だから、昇給の遅れ、さらに退職金や年金額への影響もあり得る。宮川判事は「戒告がなされると、こうした累積処分が機械的にスタートする」と懸念した。
そもそも職務命令を「合憲」とした三つの小法廷でも、思想・良心の自由の制約になるなどとして、判事の二人が反対意見を書いた。その事実は重い。
大阪府で君が代斉唱条例が成立し、大阪市でも条例化が進む。強制と厳罰は、さらに教育現場に深刻な対立を生みかねない。自然で自発的な国歌斉唱こそ望ましい姿ではないだろうか。
【社説:日の丸・君が代判決 行き過ぎ処分には警鐘 毎日1/17】学校の式典で、日の丸に向かって起立せず、君が代を斉唱しなかった教職員を懲戒処分にするのは妥当か。東京都立学校の教職員が処分の取り消しを求めた訴訟で、最高裁が具体的な考え方を初めて示した。
結論としては、学校の規律や秩序保持などの見地から重すぎない範囲で懲戒処分をするのは、懲戒権者の「裁量権の範囲内」というものだ。
では、どういう場合が重すぎるのか。最高裁は「戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択するに当たっては、慎重な考慮が必要となる」と指摘して、まず線引きをした。
さらに、停職処分については「直接の職務上、給与上の不利益があり、昇給にも影響が及ぶ。式典のたびに懲戒処分が積み重なると、不利益が拡大する」と指摘。学校の規律や秩序の保持と処分による不利益の内容を比較し、「停職処分が相当だという具体的な事情が必要だ」とした。具体的な事情は、過去の処分歴や本人の態度などから判断するのだという。そして、最高裁は停職と減給処分を受けた2人の処分は取り消しが妥当と結論づけた。その点を都教委は重く受け止めるべきだ。
一方で、戒告処分の教職員について、判決は処分を妥当だとした。1度の不起立行為での戒告処分も認めた。要するに「行き過ぎ」はいけないということだろう。
都教委は03年、「式典の際に教職員は国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること」と通達した。また、校長に職務命令を出すよう指示し、違反者に次々と懲戒処分を科して処分件数は400件を超える。
だが、そもそも教育現場で、力で抑え込むような指導が妥当なのかは疑問が残るところだ。生徒らの入学や卒業を祝う式典の場ではなおさらではないだろうか。
学校で君が代斉唱を巡り処分が相次ぐようになったのは、99年に国旗・国歌法が成立した影響も大きいだろう。だが、当時の小渕恵三首相が国会論議で述べたように、個々人に強制するものであってはならない。
最高裁は昨年、君が代斉唱時に起立を命じた校長の職務命令が合憲だとした判決で「君が代の起立・斉唱行為には、思想・良心の自由に対する間接的な制約となる面があることは否定し難い」と述べた。たとえ戒告処分であっても慎重に判断すべきなのは当然だ。判決を「より軽い処分」のお墨付きにしてはならない。
大阪府では昨年、公立校教職員に君が代の起立・斉唱を義務づける全国初の条例が成立した。府議会には、「常習的な職務命令違反者」の分限免職も規定した教育基本条例案が提出されている。最高裁の判決の内容も踏まえて議論してもらいたい。
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