派遣の正規化で成功。「ものづくり」は人間尊重が不可欠
派遣社員1000人を正規社員にし、職場を活性化させ、生産性を向上させたダンボール会社・レンゴーのとりくみ。綱領講座で、「あとは野となれ山となれ」という資本に対し、社会がルールを強制する事が、経済のまともな成長に大事だとして、それは今の日本にとっても重要と、紹介されていた中身。
[PRESIDENT Online]が5回にわたり“「儲かりすぎて困る」きんとま経営とは レンゴー ①~⑥”として配信していた。社会のルールとして 「ものづくり」の現場を本当に大切にする、そのことが今とわれている。
【正規と派遣「不良品が出たってオレには関係ない」レンゴー① 10/9/28】
【キヤノン、トヨタ派遣切りへの大きな疑問 レンゴー② 9/29】
【正社員化で働き方に変化!ロス率も改善 レンゴー③ 9/30】
【正社員化の効用「社長になれるならなりたい」 レンゴー④ 10/1】
【「きんとま」とは商売の鉄則 レンゴー⑤ 10/4】
【空間演出!「安さ」を売る時代は終わった [レンゴー⑥ 10/5】
ような報告を出している。この報告ともシンクロする内容である。
「グローバル競争が強まり、外需依存が高まったため、貿易セクターでは政府も企業も国際競争力を維持、強化することが主な関心事となっている。これは労働コストをできるだけ低く保つ傾向を誘発してきた。しかし他の諸国も同じ戦略を追求するのだから、輸出が期待通りに増えなければ、また輸出産業の生産活力が他の経済部門に波及しなければ、……それらの措置は、持続可能な雇用創造にとって逆効果になりうる。
雇用と、生産・需要の増加の間に密接な結びつきがあることを考えると、固定投資を促進するためいっそうの資本収入を生み出そうとして、または競争力の優位をえるため生産価格を引き下げようとして、賃金を低く保つという戦略は、自滅的なものとなりうる。なぜなら、もし賃金が生産性よりもゆっくりとした割合で増加するなら、供給の潜在力が結局は国内需要よりも早く成長することになり、イノベーションや生産的投資を冷え込ませるからである」。
【正規と派遣「不良品が出たってオレには関係ない」レンゴー① 10/9/28】日本経済の中核を担う製造業。その最前線の工場には身分の異なる2種類の労働者が存在する。一人は月例給と賞与が保証され、なおかつ期間の定めのない、いわゆる終身雇用の正規社員であり、もう一人は、わずか3年で雇用期間が終了し、正規社員より処遇が劣る派遣社員である。製造現場の階層化はいったい何をもたらしたのか。
「制服が違うことよりも何か近寄りがたい感じがありましたね。一緒に喋ってはいけないような雰囲気があり、休憩中も別々に集まっては小声で話をしていました。なんでこんな小声で喋らないといけないんだと、よく仲間内で語っていました。不良品が出ると、どうせ俺たちには関係ないよという雰囲気があり、上司もどうせ彼らがやっているんだからしょうがないなと思っていたのではないでしょうか」
ある男性の派遣社員は製造現場の実態をこう吐露する。2003年の労働者派遣法改正により、国策でつくり出された「製造業派遣労働者」は“身分格差”を内包したまま、一時は100万人を超え、日本の製造業を底辺で支えた。しかし今や経済不況の直撃を受け、大量の“派遣切り”に象徴される構造的矛盾を一挙に露呈し、中途解約、雇い止めに踏み切った企業はマスコミをはじめ世間の指弾を浴びた。
先の男性は05年に派遣先の子会社の派遣会社に入社した。しかし、多くの派遣社員が雇い止めに遭うなかで、彼は晴れて派遣先の正社員に登用された。彼の名は大坊幹博、30歳。派遣先は段ボールメーカー国内最大手のレンゴーである。しかも彼だけではなく、派遣社員ほぼ1000人が正社員に登用された。
派遣切りや正社員のリストラの猛威が吹き荒れるなかでの大量の正社員化を世間はちょっとした驚きをもって迎えた。本来、企業にとって派遣社員の魅力はコスト圧縮と生産量の多寡に応じて要員を調節する雇用の調整弁としての機能であったはずだ。事実、レンゴーも00年以降、輸送部門の子会社だったレンゴーサービスを人材派遣会社に切り替え、そこで雇った社員を全国のレンゴーの工場に供給してきた。急激な需要の落ち込みで生産量が低下すれば、派遣契約を打ち切るのは当然と考えるのが普通の経営者の感覚だろう。実際に相次ぐ派遣切りに対するマスコミの批判的報道に「どこが悪い」と開き直る経営者や人事担当者も少なくない。にもかかわらずレンゴーはあえて正社員化に踏み切った。その理由はどこにあるのか。
直接の契機は2009年問題だった。07年に製造業派遣期間の期限が1年から3年に延長されたが、3年後には直接雇用に切り替えるか、一定期間のクーリングオフを経て再び派遣社員として雇い入れるか、請負契約にするかの選択を多くの企業が迫られていた。ところが経済不況による需要縮小で渡りに船とばかりに多くの企業は派遣切りに走った。レンゴーが正社員化に踏み切ったのは「業務の効率化による生産性向上」と雇用に関する「社会的不公正の是正」という大きく2つの狙いがあった。
【キヤノン、トヨタ派遣切りへの大きな疑問 レンゴー② 9/29】レンゴー社長の大坪清は、一連の派遣切りに対して違和感を持った経営者の一人である。
「確かにリーマンショックは日本の経営者を心理的に萎縮させたとは思います。その結果、固定費ではない変動費扱いの派遣会社との契約を一気に打ち切ってしまった。しかし、私自身は長期的に見て、いくらアメリカの影響があるといっても派遣を一挙に切ってしまう必要はなかったと思っています。1990年代にIT革命が起こり、00年以降、時代はニューエコノミーだという表現がずっとされてきたが、今回の派遣切りはニューエコノミーじゃない。90年代と変わらんじゃないかというのが私の率直な思いでした」ニューエコノミー論とは、ITにより企業内での情報網が整備され、調達・生産・在庫・販売の各局面における最適化が進み、それまでの見込み生産によるタイムラグで発生していた景気循環が消滅するという議論である。大坪はニューエコノミー論をさらに発展させて日本企業の経営者にこう苦言を呈す。
「ニューエコノミー論には経済だけではなく、社会のあり方も変えていこうという発想もあったのです。一時、会社は誰のものか、という議論がIT革命以降流行し、アメリカ的な株主資本主義が叫ばれるなど、日本企業はずっとそれに対応せざるをえない状況が続いてきた。これは悲しいことです。日本の経営者はここで踏ん張って日本のニューエコノミー、ニューソサエティーとはこういうことだと示すべきだった。ところがキヤノン、トヨタといった日本を代表するトップ企業が派遣を切る事態になった。本来なら、そういう企業こそ率先垂範して日本の社会のあり方を企業として見せるべきだったのです」大坪はそもそも人を変動費化することに大反対だ。それは人を商品化することであって絶対にあってはならないことだと言い切る。
「経済は土地と資本と労働を使って、対価である商品・サービスをつくり出すというのが大前提です。なかでも労働は一番神聖なものです。派遣というのは変動費でカバーする以上、商品化していることと同じなのです。株主への配当を削ってでも労働は守ったほうがよいというのが私の基本的な考え方です」
大坪のこうした信念が派遣社員の正社員化に踏み切った一因ではあろうが、もちろんそれだけではない。業務の効率化による生産性の向上という狙いもある。大坪は業務の効率化を阻む要因として前述した派遣と正社員の混在を指摘する。
「これまでは派遣の人と正社員では一緒に仕事をしているのに作業着の色も違えば、帽子のマークも違っていました。そうすると心理面でも『これ以上やっても自分は正社員じゃないから』という気持ちがどこかにあるわけです」①の大坊の独白と一致する。こうした萎縮した職場の雰囲気下では互いに意思の疎通を欠き、仕事に対するモチベーションも上がりにくく、結果として生産性の低下を招きやすい。とりわけ製品のロス率に大きく影響する。そのために正社員化することで見えない壁をなくそうとしたのである。
【正社員化で働き方に変化!ロス率も改善 レンゴー③ 9/30】「これまで請負や派遣社員を使ってきたのはやはりコストを抑えるためです。1000人強の派遣社員をこの際どうするのかという議論のなかで、今後も派遣社員として使い続けていくのであれば従来と何も変わらない。会社にとって本当に必要な人間であれば、レンゴーで働く人間は全員正社員にしようと決めたのです。ただし、本社採用の転勤があるナショナルスタッフと各地の工場で働く地域限定のローカルスタッフの2つに区分するやり方で1回やってみようとスタートしたのです」(大坪)
当然コスト増になる。派遣社員1000人は2009年4月から正式にレンゴー社員として採用されたが、正社員化に伴う人件費は年間4億~5億円アップしたという。
ところが「結果としては大成功」(大坪)を収めた。因果関係は証明できないものの製品のロス率が目に見えて低下したというのである。板紙を段ボールに加工する過程で、例えば一トンの板紙から完成する段ボールのロス率が10%とすれば900キログラムになる。ロス率を1%低下できれば10キログラムの製品が生まれる。レンゴーグループ全体では年間20数万トンの段ボールを生産しており、ロス率の改善は収益にも大きく影響する。
「ロス率の改善というのは価格設定に、まして業績には非常に反映されるのです。2月に派遣社員の正社員化を発表して以降の3~6月のロス率が目に見えて改善している。想定外というより想定以上のいい結果が出ています」(大坪)。大坪はロス率改善の理由をこう分析する。
「何より現場の人間同士の意思の疎通がよくなったことです。それと当社では6Sと称して整理・整頓・清潔・清掃・躾・作法を徹底してやらせていますが、こちらも目に見えてよくなっている。やはり日々のちょっとしたケアがロス率に関わっているのです」ロス率の改善は4~6月の決算(連結)にも大きく貢献した。売上高は6%減の1076億円だが、営業利益は前年同期比81%増の80億円、純利益は2倍の42億円に達した。「近年、業績が大変厳しい製紙業界にあって、儲かりすぎると目立つので困る。(正社員化に伴う)人件費アップ分は十分に出るぐらいの効果を生んだ」(大坪)のである。
正社員化と生産性を結びつける考えは何も大坪の独創ではない。戦後の製造業は「雇用の維持」と「公正な配分」を謳う「生産性三原則」を遵守することで発展してきた。自ら関西生産性本部会長を務める大坪はその忠実な実践者でもある。
実際に正社員化したことで従業員の働き方にどういう影響を与えたのだろうか。それを知りたくて同社の千葉県佐倉市にある千葉工場を訪ねた。同工場の従業員は事務系を含めて約100人。うち約40人の元派遣社員が働いている。紹介した大坊もその一人である。
千葉県成田市に住む大坊は妻子を抱え、以前は市内のホテルに勤務していた。退職後、求人広告を見て応募し、05年11月に派遣会社のレンゴーサービスに入社した。工場内ではレンゴーに対して“レンサ”と呼ばれていた。作業着は同じ色でも、服に刻まれた社章はレンゴーが三角形の中に逆三角形をあしらい、レンサは逆三角形の部分にSの文字が入るなど明確に区別されていた。
最初は印刷機の給紙係を担当した。入社直後の給与は約20万円。レンゴーの社員の多くは検品など工程管理の責任者である「機長」だった。工場の様子について大坊は「レンゴーの人は機長で僕らは給紙係ですし、上下関係じゃないが近寄りがたい雰囲気があり、朝のミーティングのときも双方分かれてこそこそ、喋っていた」と語る。
【正社員化の効用「社長になれるならなりたい」 レンゴー④ 10/1】処遇面ではレンゴーの子会社ということで、親会社に準じた昇給の仕組みはあったが、福利厚生やボーナス面では明らかに格差があった。例えば労使のボーナス交渉では彼らはかやの外に置かれる。千葉工場長の原田圭亮は「工場内に組合員平均何カ月と労使の妥結額が掲示されても彼らには関係ない。彼らも何も言わないけれども、どういうふうに感じるかを考えると、見えない壁のようなものがあったのかもしれない」と推測する。
しかし今では雰囲気もガラリと変わったという。大坊は「これまでガツガツ言い合えませんでしたが、会社が一緒になったことで、もっとこうすれば自分も楽だし、うまく生産できるんじゃないですか、と言える関係になった」と語る。互いが知恵を出し合うコミュニケーションの活性化は生産性の向上に直結する。実際に千葉工場のロス率は08年度下期までは月によって変動するなど不安定な状態が続いていたが、09年度上期はロス率が低い状態で推移している。
原田は「わずか数%のロス率の改善でも非常に大きい。ただし、それが正社員化したことでそうなったのかどうかはわかりませんが、大坊が言ったように、自分が思ったことを言えるとともに、現場の話し合いができつつあることも大きな要因ではないか」と指摘する。
変わったのは元派遣社員だけではない。原田は「トラブルが発生しても、レンゴーだからとかレンゴーサービスだからとか、逃げ道というか双方がそういう意識を持っていたのではないか。それが同じレンゴーの社員になったことで一体感が生まれ、レンゴーの社員の意識も変わった」と語る。
大坊自身も今、仕事に対する張り合いのようなものを感じている。将来は何を目指すのか、と聞くと「社長になれるなら、なりたいですね」と言って笑う。
「仕事をする以上、上を目指さないで何するのという気持ちはあります。だらだらやるのも一つの生き方かもしれないが、それでは人生に張りがなくなってしまうじゃないですか。でも今は上を目指すより勉強することがたくさんあります。今は一つの機械の機長をやらせてもらっていますが、まだ、機械はほかにもいろいろあります。多くの機械を覚えていれば、例えば誰かが休んだときに手伝えるとか、皆の役に立てるじゃないですか。段ボールといっても、ミリ単位の誤差も許されないし、まだまだ勉強することがいっぱいあるのです」コミュニケーションの活性化、技術習得などのモチベーションの向上、そして何より生産現場の一体感の醸成による生産性の向上――。今回の派遣社員の正社員化の効用は大きい。しかし、これは何もレンゴーに限ったことではない。
第一生命経済研究所・主席エコノミストの永濱利廣は「派遣社員は、より労働環境のいい職場を探しながら勤務するため、定着率も悪く、技能の習得もできない。正社員になることで、賃金面や社会保障の面でも労働環境が改善される。企業にとっても人的資本の形成ができるので労使双方のメリット。とくに企業側にとっては定着率の改善により新規採用にかける資金も減り、技能教育に関しても、新しい人が来るたびに行う必要がなくなる」と、その効用を指摘する。
【「きんとま」とは商売の鉄則 レンゴー⑤ 10/4】
日本のお家芸である「ものづくり」は人的資本の蓄積なしには成り立たない。さらなる高付加価値を目指すレンゴーの模索は続く。じつはレンゴーが世の風潮に逆らって正社員化に踏み切った背景として無視できないのが同社独自の経営哲学である「きんとま」哲学である。創業者の井上貞治郎が生み出したもので、「きん」はお金と、鉄のように固い意志を表し、「と」はandであり、「ま」は真心の真と間を意味する。つまり、金鉄の意志・金・真・間の4つを握ったら死んでも放すなという商売の鉄則だ。
社長の大坪はさらに間という字に「時」「空」「人」をつけて時間、空間、人間を加えて会社の原点とした。
「大切にしたいものとして時間、空間は物と物との間、つまりモノであり、それから人間。お金と強い意志を持って、時間管理を重視し、モノを大切にし、そしてなんといっても人間を大切にしながら真心をこめて事業経営をしなければならないというのが『きんとま』哲学の原点。これを社員に徹底して浸透させるようにしています」(大坪)
人間尊重主義はまさに同社の社是でもある。しかも単にお題目だけではない。価格戦略上も人件費を重視した経営を貫いている。大坪はこれをフルコスト主義と呼ぶ。売上高から変動費を差し引いた利益を限界利益と呼ぶが、従来の製造業の経営者は固定費をカバーするために生産量を上げて限界利益を追求しようと懸命に努力してきたと大坪は言う。しかし、成長が止まると限界利益では固定費をカバーできなくなる。その結果、発生するのがリストラに象徴される人件費の削減だ。
これに対して大坪の発想は固定費を再生産のための費用と考え、売価を決定するというものだ。
「限界利益という言葉を使うのは間違いだと思っています。固定費や租税コスト、資本再生の設備投資、社会還元など企業が生き残り、社会が生き残っていくための再生産可能な原資を全部費用として考えようというのが私の発想の原点であり、それを売価に反映させるというのがフルコスト主義です」(大坪)
【空間演出!「安さ」を売る時代は終わった [レンゴー⑥ 10/5】実際にフルコスト主義の観点から2008年、製品の値上げを断行した。その結果、09年3月期の連結決算は売上高が前期比2.6%増の4467億円、純利益は38%増の78億3000万円を達成している。その一方で09年の2月には原油などの原料の下落を反映し、製品の値下げにも踏み切っている。大坪は「原油などの変動費が下がった場合は値下げもするし、取引先も『レンゴーは値上げも非常に強気だが、値下げもちゃんとやっている』と評価してくれている。これもフルコスト主義を理解してもらううえで重要なこと」と言い切る。
限界利益の追求は過剰生産、過剰在庫に陥るとの強い危惧が大坪にはある。失われた10年が生んだ過剰設備・過剰在庫を正常化するためにレンゴーは業界の先頭を切って事業構造改革に着手してきた。01年当時、日本で53万トンあった段ボール原紙を40万トン以下に減らすために、大坪は自社の製紙工場を閉鎖するとともに、20万トンの在庫を15万トン以下に縮小した。レンゴーの動きに刺激された同業他社も追随し、結果的に40万トン以下にすることができた。
さらに減産分を補うフルコスト主義に基づく価格体系の正常化に着手するなど一連の改革を推進してきた。いうまでもなく段ボールは物流にとって不可欠な存在であり、ほぼ全産業に関わる。他の産業が再編・集約化されていくなかで、物量に関わる段ボールメーカーの集約化も必然的に求められてくる。結果的に破談に終わったものの、2008年、大坪が持ちかけた日本製紙グループ本社との経営統合もそうした危機感の表れである。
もちろん物流がある限り段ボールが消えることはないが、経済の成熟化による需要の落ち込みは避けられない。そのためには時代やユーザーのニーズにマッチした新たな需要を喚起していく以外にない。現在、同社は事業戦略のビジョンとして、省資源とCO2対策を柱に、段ボールを中心にした包装紙材を駆使し、ユーザーの多様なニーズや課題を解決していくパッケージ・ソリューション・カンパニーを掲げている。
省資源の取り組みの一つが、「Aフルート」と呼ばれる厚さ5ミリの段ボールから4ミリの「Cフルート」への転換だ。日本はAフルートが主流だが、Cフルートは世界で約60%を占める標準仕様。わずか1ミリ薄くなるだけだが、容積は約20%減となり、車の積載・輸送・燃料効率は飛躍的に向上する。しかし、Cフルートへの転換はコストもかかるため同業他社も踏み切れないでいた。大坪は4年前に自ら陣頭指揮をとり、強制的に全工場での生産を指示し、今や同社が優位性を誇る商品となっている。
かつての段ボール営業といえば、新規開拓するには価格の安さを売り物にしていたものだが、もはやそんな時代ではない。顧客に対し「知恵と知識を武器にお客様の役に立ついろんな提案を仕掛けていく」(研究・技術開発部門パッケージング技術開発本部・木村博行パッケージ・デザイン部長)ことがビジネスの勝機につながる。パッケージは単に物流の手段ではなく、数多くの消費者の目にもさらされる。商品を消費者に訴求するメディアとしてのパッケージの役割も同社では重視している。
段ボールは物と物との間にある「空間」を演出する素材でもある。成熟する市場のなかで見えない需要を掘り起こすという「きんとま」哲学の理念にも適った戦略といえる。時間を重視した生産性の向上、正社員化による人間を大切にする経営、そして空間を駆使した新規ビジネスの創出――。きんとま哲学の本領がいかんなく発揮されている
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