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「リストラ・デフレと円高・空洞化の悪循環」からの脱却

友寄英隆氏の論考(経済2012/2)の備忘録。
リストラ・低賃金を起点とする円高・内需低迷の「二重の悪循環」。さらに円高による産業空洞化のサイクルがくわわり、実質的に「三重の悪循環」を構成している。
 またインフレ・ターゲット論を、貨幣的側面を一面的に切り離した主張と明快に批判している。
 以下、備忘録。他に現状認識についてのメモ

「リストラ・デフレと円高・空洞化の悪循環」からの脱却

Ⅰ「超円高」を生み出す国内要因~「二重の悪循環」

・震災後の重大な問題・・・急激な円高の進行、企業の海外立地の展開・産業空洞化の動向
・円高 実体経済の安定的に発展しているわけではない。
→ 世界経済の財政・金融危機、資本主義の危機の深まり。ドル安、ユーロ安はその現われの1つ/投機的で流動的な資金が、当面「円」に集中
→一握りの「多国籍企業化した大企業」の急激な成長が経常収支の黒字、対外純資産の膨張をもたらし、ドル、ユーロにくらべ「円」が「相対的」に安定とみられ、投機資金が集中。

・が、「超円高」の背景には、国内的に円高を促進する「二重の悪循環」がある。

(1)リストラ・「合理化」・低賃金と円高の「悪循環①」

・「国際競争力」のスローガンのもと強行された「リストラ・『合理化』・低賃金」→「競争力回復・貿易黒字」 →「円高」→「リストラ・『合理化』・低賃金」→「競争力回復・貿易黒字」→ 円高」→ 
という、いわゆる「悪魔のサイクル」(野村総研)

・高度成長期、「価格競争力」を官民一体で追求。集中豪的輸出で、欧米との貿易摩擦が政治問題化 → 73年変動相場制移行 → 円高の流れが定着 → 為替レートの切れ上げで、「価格競争力」が一瞬で消滅
・これ以降、「価格競争力」が円高で消滅、「悪魔のサイクル」の形勢へ。

(2)デフレによるインフレ率低下(相対的購買力平価上昇)と円高の「悪循環②」

・90年代以降、低賃金・雇用不安による内需不振・長期不況、デフレと円高の悪循環
→ 内需低迷による物価上昇率の低下が、各国と比較したときに通貨価値としての「円」の相対的上昇をもたらし、円高を招く「悪循環」

・相対的購買力平価(PPP)… 
→ 説明/ 基準年1ドル100円が、10年後、アメリカの物価が2倍、日本が変化なしと仮定したら、相対的にドルの価値は半分になる。

・73年基準年として「PPP」の変化
①消費者物価、輸出物価の「PPP」は、一貫して上昇
②80年代後半以降、実勢相場と輸出物価の「PPP」は重なりあう形で「悪魔の循環」が進行。2000年年代は、輸出物価の「PPP」の上昇が実勢相場を上回る。
③消費者物価の「PPP」については、実勢相場が一貫してはるかに円高にふれている
   2011年8月 消費者物価の「PPP」131.00円、実勢相場77.09円/7割も円高に。
④日本の「PPP」の上昇は、日米のインフレ率に大きな格差があったことの反映。デフレによる円高

Ⅱ 「二重の悪循環」の絡み合い――大企業のリストラ・低賃金が主導的な要因

・95年を基点として日米の消費者物価指数 2010年 アメリカ143.1、日本98.9
→ ここからインフレ率格差が円高の要因とみて「インフレ目標でデフレ・円高を止める」という結論をだすなら、それは大きな誤り(インフレ・ターゲット論)。
→ この主張は、「二重の悪循環」の貨幣的側面だけを一面的に切り離し、実態を正確にとらえてない/ この一面的なデフレ・円高論では「真犯人は、(貨幣供給を渋る)日銀だ」となる。

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・「二重の悪循環」は深く絡み合っている
→ 「二重の悪循環」の起点は、実態経済における大企業の「リストラ・低賃金」路線 /「PPP」の上昇という貨幣価値の変動は、あくまで実態経済の反映にすぎない。

・さらに「第三」(メモ者)の悪循環を形勢し、日本経済の矛盾をいっそう拡大
   リストラ・低賃金→円高→空洞化→デフレ→リストラ・低賃金→

★日本経済の「二重の悪循環」の根源には「国際競争力」強化をかかげて、リストラ・低賃金をおしつけながら、多国籍企業化してきた大企業の「経済成長」方式の歪みがある。

Ⅲ「二重の悪循環」を断ち切るために

・この5年、首相が6人も交代/ 国民の要求にこたえきれない政策的なゆきづまり。/3.11大震災・原発事故は、日本社会のあり方を問いかけることに
→ 日本経済の再建の国民的討論をすすめる年に。/ そのための政策的課題

(1)対米従属の通貨政策からの転換――通貨自主権の確立と実効ある金融投機規制

・安保条約にもとづく日米同盟最優先の立場から、円はドルの世界支配体制のもとで、追随してきた。/自主的な通貨政策、投機マネーのかく乱をふせぎ(例 為替取引税など)、通貨価値の安定をかることが必要

(2)「多国籍企業化した大企業」の成長を優先させるリストラ・低賃金路線の転換

・「多国籍企業化した大企業」の経済成長と、国民経済全体の発展の矛盾
→ 大企業が発展するほど、多くの労働者、国民の暮らしは悪化し、貧困と格差が拡大している。

・労働者の現金給与総額(平均水準) 95年を「100」とすると、2010年は「94」まで低下
→ 貧困と格差の拡大、内需低迷・長期不況・円高の悪循環の拡大、若者のワーキングプア・少子化問題など「労働力の再生産」の危機、社会の持続性の危機にまで深化

(3)原発からの撤退・エネルギー政策を転換し、地域経済の活性化によるデフレ脱却

・巨大な電力会社にたよっていた電力供給を、地域の自然条件を活かした地産地消へ転換する
→ 地域経済の活性化にとって必要なだけでなく/(メモ者/地域への売電益の還元、再生エネへの投資による内需の活性化。再生エネと一次産業をくみあわせた持続可能な地域、雇用の場づくり。それらによる「相対的過剰人口」の抑制、ディーセントワークへの足場など ) デフレ脱却にとって計りしれない重要な意味を持つ/戦後の日本経済の資本蓄積・再生産のあり方を「自然と人間の正常な循環の回復」という視点から根本的に見直すことになるから。

・再生エネを地域から発展させるため、新たな地域ぐるみの取組みが必要( メモ者/エコファンド、製造・維持管理の地産地消など地域循環型経済の仕組み)

(なお、地域再生が、極めて重要なたたかいの舞台であることは、以下の論考参照。
  【地域再生に何が必要か 岡田知弘  備忘録 2010/9】 )


(4)「安保・TPP」路線を阻止し、「憲法9条・アジアの共存共栄」の路線の道を開く

・焦点の1つTPP/ TPPをめぐる対決点は「国を開く」とか「内向き」とかではない。
→「日米安保、TPP、自由貿易圏」(メモ者/ 日本をアメリカの一部として一体化)の道か、「憲法9条、アジア諸国との共存共栄」の道かの選択。
・急成長するアジアの中で、日本が共存共栄の立場で生きていくためには、対米従属のTPP推進ではなく、非核・非同盟の自立した外交・通商政策への転換が必要。

 転換点にある国際的な動きについて興味深い論考。
【「スティグリッツ国連報告」から「パリグループ提⾔」へ 森史朗】

【TPPは、日本と世界の直面する課題を解決できるか】(経済2012/2より)

●世界が直面する課題

・20カ国・地域首脳会議(フランス11/3-4)/最終宣言の冒頭
「世界の景気回復は特に先進国において弱まり、失業は依然容認できない水準にある。主としてヨーロッパにおけるソブリン・リスクのため、金融市場の緊張が増大した。脆弱性の兆候が新興市場に現れている。一次産品価格の上昇は、成長を阻害し、最も脆弱な人々に打撃となっている。為替レートの変動は、成長と金融の安定性に対するリスクを生む。世界的な不均衡が依然として存在する」

・国連ミレニアム・サミット(2000年9月)/8つの開発目標
①極度の貧困と飢餓の撲滅 ②初等教育の完全普及の達成 ③ジェンダー平等推進と女性の地位向上 ④乳幼児死亡率の削減 ⑤妊産婦の健康の改善 ⑥HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止 ⑦環境の持続可能性確保 ⑧開発のためのグローバルなパートナーシップの推進

・日本/非正規雇用の拡大、貧困と格差、震災復興、財政危機など

●市場原理主義の限界

・G20首脳会議そのものが、弱肉強食の新自由主義の破たん、行きすぎた金融の規制緩和の反省が迫られる中で発足したもの。

・第二回ロンドンサミット(09年4月)首脳声明
「持続可能なグローバリゼーションと万人の繁栄の増進のための唯一の確かな基盤」は「効果的な規制及び強力な世界的機関」(メモ者 グローバル化にあわせたガバナンスの構築/スティグリッツ)

・ILOは、世界的な失業、貧困と格差の拡大に対し「ディーセントワーク」という戦略的課題を提起
→「仕事の世界報告書2011」(10/31) “公共負債や赤字削減に向けた努力が、労働市場措置や社会措置に不均衡が集中している場合が多い”現状に警告を発し、“雇用奨励計画の維持あるいは強化、実体経済に対する投資の支援、包括的な所得主導型回復戦略”を求めている。

●グローバル化は国民を潤したか

・「世界貿易投資報告」(ジェトロ2011版)/営業利益に占める海外の比重 97年23.4%、2010年53.1%、うちアジア大洋州が急伸

・この間のグローバル化による影響

①労働分配率の低下 /「経済財政白書」11年版
「企業活動のグローバル化は従業員への利益配分を抑制」すると結論。その理由として「貿易に伴う海外との競争圧力の高まりや外国人投資家によるガバナンスの強化」

②国内の工場立地が抑制 /「労働経済白書」11年版
「国内の工場立地が抑制されてきた面があった」。/企業が海外進出する理由は「労働コストが低い」「資材、原材料、製造工程全体、物流、土地・建物等のコストが低い」など、低コストを理由にあげる企業が多い。

③海外子会社からの受け取り配当金は、雇用のまわらず /「通商白書」11年版
使途/ 研究開発・設備投資44.1%、株主配当19.3% /雇用関係支出は、16.1%のみ。
02-07年 海外の現地法人の就業者 約4割増。国内製造業就業者 約3%減少 「生産の海外シフトが雇用を減少させているようにも見える」

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