バフェット・ルールに反する日本の現実(メモ)
貧困と格差の拡大、長期不況と財政危機の中で、暮らしを守り、経済と財政の再生に寄与する税制のあり方について、「社会保障』を口実とした庶民大増税」(垣内亮氏)、「社会保障・税一体改革の経済学」批判(関野秀明・下関大学准教授)、「貧困の拡大と生活保護需促進の課題」(布川日佐史・静岡大教授)の各論考(前衛2012/2)から、関連、関心ある部分の備忘録。
タイトル「バフェット・ルールに反する日本の現実」は、垣内氏の論考から。トヨタの社長の税率は社員より低い、金融資産の3割を上位1%が保有している、国民はまずしくなってるのに大企業は利益を増やしている・・・など日本の異常な税と社会保障のあり方を示していると思う。
以下、備忘録と、ファイル。
「20120125.doc」をダウンロード
【バフェット・ルールに反する日本の現実】垣内亮「『社会保障』を口実とした庶民大増税」(2012/2)より
◆「富裕層に課税を」が世界の流れ
・累進課税、応能負担が税の原則/ 世界一、二の大富豪バフェットの「われわれに課税を」の提唱
・オバマ大統領の財政赤字削減策 中心は、10年間で100兆円を越える富裕層への増税
「年収100万ドルを超える富裕層の負担率が中間所得者よりも低くなることを許さない」ことを税制改革の原則の1つとした ~ これを「バフェット・ルール」と名付けている。◆日本の状況
①1億円を超えると所得税の負担率が低下
→07年/100億円を超える所得は9人。所得税負担率は14.2%(バフェット氏より低い17.4%)
/この負担率は、所得1500万円より低い②住民税、社会保険料と合わせると格差はさらに拡大。
→ 住民税 定率10%、社会保険料負担は上限あり
→ 所得100億円の層は、所得100万円の低所得者層より低い☆ その要因は、証券優遇税制(所得税7%、住民税3%)10% /欧米の3分の1程度
③社員より負担率が低いトヨタ社長
・2010年度の報酬
報酬8400万円、賞与2400万円、ストックオプション(新株予約権)2700万円/計1億3500万円
・創業者の一員として457万4千株を所有
配当金 09年度分期末配当25円、10年度中間配当20円の計45円 /年間配当額2億583万円・基本報酬と賞与は「給与所得」として、給与所得控除、基礎控除など引いた後、最高税率40%
・住民税10%
・配当は優遇税制 所得税7%、住民税3%
・ストップオプションは、新株を取得した段階、または販売した段階でないと課税されない。・所得税と社会保険料負担の試算
(万円)年収 所得税 住民税 社保料 〃事業主分 負担率
社長 34083 5130 1610 131 171 計5438 16.0
社員平均 727 41 42 80 103 計 224 30.7
(保険料率など仮定条件を置き試算。2010年度有価証券報告書、トヨタ自動車健康保険組合HPより)
★この試算は、バフェット氏の「17.4%」と主張した連邦税(国税)である「所得税」、「給与税」(年金保険料にあたり事業者負担分に含む)と比較するためのもの(メモ者)。★年収に対する税(所得税、住民税)と社会保障の個人負担分との対比にすると
社長 6871 20.16%
社員 163 22.4% と、やはり社員より低い(メモ者)。◆横行する大資産家の「合法的税逃れ」
・大口株主に対する優遇税制の適用範囲 批判受けて、5%以上から3%に変更(2011年)
→ 譲渡と贈与で保有率を3%未満にする例が続出 280人、所得税30億、住民税7億の“節税”
京セラ稲盛名誉会長 約3億円の節税/「空の安全」は無視しても「自らの懐の安全」は確保・しかも、多くの場合は、自分が出資してつくった法人(資金管理会社)に、販売した格好にしている。
→ バンダイナコム名誉相談役 600万株を、自らが代表をつとめる「有限会社ジル」に販売/ジルの資金は「私募債発行」により調達、というが不明。購入者は本人?/実際は名義のつけかえ◆応能負担の回復を
(1)日本でも富裕層への課税強化を
・証券優遇税制 0.5~1.4兆円の減税の是正
→ 総合課税に。その実現できない段階では、高額所得者には30%程度の税率を・所得税、住民税の最高税率の復活
所得税75%→40%、住民税18%→10%に低下(97年水準合計で65%でも0.7兆円の増収)・富裕層の各種控除の見直し
①給与所得控除は、青天井の5% /政府案は1500万円(控除額245万円)で頭打ちの実施
②配偶者特別控除 富裕層の適用制限を/ アメリカ 本人、子ども含め高額所得者の人的控除はない
③社会保険料の負担/ アメリカ メディケア(高齢者医療)税に上限なし
~ その場合、「社会保険料控除」の青天井の適用の見直しを
④適切な富裕層の資産課税/ 過去の減税の恩恵への適切な課税/ フランスに存在(2)大企業に応分の負担を(過去の論考を参照 経済2010/10)
・実効税率40%というが各種の優遇措置があり、平均33%。10-20%の企業も少なくない。
・企業の海外進出の理由 「進出先に需要が見込める」「安価な労働力が確保できる」が多く、「税の優遇措置がある」は少ない(経産省企業アンケート)
→ 海外子会社からの配当を95%まで非課税に「改定」(09年)。海外進出を促進する税制をつくった。/「税が高いから海外に逃げていく」というのは、自分で火をつけて「火事だ」と騒いでいるようなもの
【「社会保障・税一体改革の経済学」批判 関野秀明・下関大学准教授】Ⅰ.“公費投入による「受給者の給付膨張と負担軽減」「現役層の過剰負担論”/新自由主義
・ 「公費投入で、負担が軽減され、過剰な利用で給付が膨張している」論。
・「公費投入による高齢層の給付膨張による現役層の過剰負担、受給者と納税者の矛盾」論
・「社会保障での成長は誤り」論Ⅱ.「給付と負担を巡る受給者と納税者との矛盾」論における3つの問題点
「構造改革」派「経済学者」/社会保障給付は「現役層」、納税者・「国民」の負担でしかないとの立場だが
①支出・納税負担の主体が「現役層」「国民」だけに。/大企業・資本が隠されている
・資本と賃労働者の所得配分を最初から除外。/過剰利益、過剰貯蓄への課税を対象外に
資本金10億円超の大企業/93兆円の資本剰余金、141兆円の利益剰余金、45兆円の手元現金
家計金融資産1453兆円(09年末)の半分を、上位1割の富裕層が持つ(上位1%で30%保有)②貨幣資本、設備・生産能力、労働力とも100%完全稼動状況という「現実無視」の前提をしている。
・資本と労働力を「医療・介護等」と「その他の部門」が奪い合っているという仮定は虚構
→ 大資本、富裕層の過剰利益、過剰貯蓄を、賃金・社会保障として所得分配を通じて有効需要とすることで、整備・生産能力の過剰、失業の増大を解消しないと経済成長はない。
→ 国民経済計算 09年10-12月30兆円、10年10-12月期20兆円の内需不足③「社会保障財源・給付と国民の賃金・所得とは対立・矛盾関係」という誤り
・納税者「国民」を、「大企業・富裕層」と「現役労働者」とに分析すれば、矛盾しない。
→社会保障への公的財政投入が削減され、給付削減され、労働力の「急迫販売」、悪条件の就労が強制される。・2010年、厚労省「市町村国保の赤字補填は、一般会計からの繰入金でなく保険料値上げと収納率向上で行うべき」と通知/「国保引き下げに、国保加入者以外の国民が税を負担するのはおかしい」という「給付と負担の矛盾」を意図したもの。
→ 大企業にとって国保加入者は「保険料負担も税負担もない割安の労働者」となり、「健保組合の事業主負担」を払ってまで正規労働者を確保する必要がますます減少。/国保だけでなく健保の危機にも通じる★日本の特長 企業税、事業主負担の小ささ、本人負担の大きさ
★そもそも小さな政府の日本/医療費の対GDP比も高齢化の進展にかかわらず先進国最低クラス
→それなのに財政赤字なのは、政府財政を支える税と社会保障料の収入が少ないから。/大企業、富裕層の減税など負担の低さによる。
~ 「われわれは99%」を分断する「給付と負担」「高齢層と現役層」の矛盾論を克服するために、「社会保障・税一体改革」論の「議論」で中で隠されている巨額の剰余金、金融資産を持つ大企業・大資産家を、ひっぱりださなくてはならない。
(尚、論考の中のマルクスの「相対的過剰人口」論は、以前、備忘録として紹介したので省略)
【貧困の拡大と生活保護需促進の課題】 /布川日佐史・静岡大教授・97年以降、相対的貧困線が低下し続けているもとで、貧困率が高くなっている
97年 149万円→09年125万円。/低くなる貧困線よりも低い層に多くの人が落ち込んでいる。貧困線よりも所得の多い中流層の平均所得が下がり貧困線を押し下げている/社会全体の地盤沈下
・生活保護の増加 205万人が示すもの
→ ①最低限度を保障し、貧困からの脱却を支援する課題の一定の前進の反映
②貧困の予防と貧困の是正の緊急性、重要性が極めて高い /2040万人が相対的貧困層
(メモ者 「労働市場の組織化」~ 不安定就労、労働力の「急迫販売」をなくすことが、現役労働者の労働条件を守る。 )
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