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ユーロ圏の経常収支は黒。ドイツの賃上げが危機打開のカギ 

 富士通総研・根津 利三郎氏のコラム「なぜユーロは強いのか」。
 ギリシア、イタリア危機が言われながら、ユーロが堅調。資金がユーロ形県内の移動であり、ユーロ全体では、経常収支の黒字だから。ユーロで最も得をしたのは経済の実力以上に安い為替ルートで黒字を集中させているドイツであり、ユーロの将来はドイツにかかっている。その方策として、第一には、ドイツは賃上げをして内需の拡大、赤字国からの輸入を促進させる、というもの。
 さて、世界最大の純対外資産国・日本のとる道も・・・賃上げだろう。 
【なぜユーロは強いのか 富士通総研 根津 利三郎11/22】

 なお、本文中の図は、ウェブサイドを見ください。

【なぜユーロは強いのか 富士通総研 根津 利三郎11/22】

1.なぜか堅調なユーロ

 ユーロ経済が混乱し、先行きどうなるのか誰にも見通せない。ギリシャはユーロから離脱すべきだという意見もあれば、逆にドイツやオランダなど強い経済にはユーロ圏から脱退して独自の経済圏を作るべきだという意見まである。180度見解の異なるエコノミストの間で唯一あるコンセンサスは危機はまだ始まったばかりで、来年も混乱は続き、景気後退は避けられない、ということだ。これほどお先真っ暗ならユーロは当然暴落するはずだが、実際のところユーロは決して弱くなっていない。【図1】にあるように、ユーロの為替レートは2009年9月にユーロ危機が始まった直後にドルに対して多少下落したが、その後はほぼ横ばいだ。円から見ると確かに下落し続けているが、これはユーロ安というより、円の独歩高と見た方がよい。

 ユーロが安くなっていないということは、総体としてみれば、為替市場ではユーロが売られておらず、資金はユーロ圏から逃げてはいないということだ。確かに米国銀行が欧州から資金を移しているという話はあるが、逆に欧州の銀行がアジア向け貸し出しを減らし、ヨーロッパに資金を引き揚げるという動きもある。つい数か月前までは中国が外貨準備を米ドルからユーロに切り替えている、という報道もあった。ギリシャでは銀行預金の2割が国外に流出したといわれるが、それはドイツなど他のユーロ加盟国への移動である。企業でも取引口座を安全と思われるドイツやオランダの銀行に移しているが、これもユーロ圏内での動きだ。世界通貨と呼べるのはドルとユーロしかないので、ドルに全幅の信頼がおけない以上、ある程度のユーロは保有せざるを得ず、ユーロの下落は限定的なものにならざるを得ない。
【図1】ユーロの為替レート

2. ユーロ圏全体の経常収支は黒

 だがユーロが強いもっと積極的な理由がある。それは、「ユーロ圏の経常収支は黒字である」ということだ。【図2】にあるように、ユーロ圏全体としてみると、リーマンショック時の2008年を除けば安定して黒字を続けている。経常収支が黒字ということは、「ユーロ圏は全体としてみれば外から借金をしていない」ということを意味する。そもそも借金をしていないのだから、域外に対して返済しなければならないような負担は無い。もちろん、個別の加盟国政府や企業は米国や日本、あるいは中国の銀行から借金もしているし、国債、社債などの証券も買ってもらっている。しかし、ユーロ圏以外の国や企業もまたユーロ加盟国の銀行や年金ファンドなどから借金している。差し引きすればユーロ圏の純対外資産は日本、中国に次ぐ大きさになっている。
 
 経常収支がプラスなら、その国の通貨は強くなるのが自然だ。ユーロ圏の企業が輸出で手にした外貨の額が輸入の代価を払うために必要な外貨の額を上回ることになるので、為替市場ではネットで外貨を売ってユーロに換える取引が大きくなり、ユーロは値上がりする。もちろん為替市場では、輸出入の代金決済や配当や利子の送金などの経常取引よりも、ファンドや金融機関が行う投機的な資金の移動など、いわゆる資本取引の方が額としては圧倒的に大きい。このような投機的資金は金利差に敏感に反応して動くが、欧州中銀(ECB)はインフレ・ファイターとしての姿勢に揺らぎがないので、金利が長期にわたり地域より低くなることは考えにくい。したがって資本取引の面でユーロ圏から資金流出が続くことはなく、この面からもユーロが安くなることはない。
【図2】ユーロ諸国の経常収支

3. 広がる経常収支格差
 
 ユーロ圏全体の経常収支が黒字ということは、これからユーロ加盟国は何をすべきかについても重要な示唆を与えてくれる。まず、ユーロ圏経済は他の地域からの支援を得ることなく回復可能なはずだ、ということだ。10月26日のユーロ圏首脳会議で一連の「包括戦略」がまとまった直後に欧州金融安定機構(EFSF)の総裁が中国に飛び、またサルコジ大統領も胡錦濤主席に電話し、EFSFへの出資を要請したと伝えられた。だが、これは不必要な行動である。ユーロ圏は自力回復力がある。
 問題は、ユーロ圏で経常収支黒字国と赤字国のギャップが急激に拡大していることだ。【図2】にあるように、黒字はドイツとオランダに集中し、それ以外の加盟国の赤字が拡大している。自力回復するためには、これら2国がギリシャやスペイン、イタリアなどを支援するかどうかだが、現在までのところ、ドイツを始めとする黒字国にはそのような意思はなく、むしろ赤字国の怠慢に対する非難を強めている。

4.経済統合でも競争力格差は解消しなかった

 筆者は1995年から2001年の間、OECDの科学技術産業局長としてパリのOECD事務局に勤務したので、ユーロ誕生の瞬間を目撃してきた。経済構造や競争力に格差があるのに通貨を統一すれば、為替による調整が不可能になり、いずれユーロは破綻するのではないか、という疑問を強く持っていたので、多くのヨーロッパ人の同僚と議論した。その際のヨーロッパ人の考え方は次の2点に整理される。
まず財政については、財政安定化協定に基づき、財政赤字はフローではGDPの3%以内、累積で60%以内に抑えるという合意ができているので、財政規律が守られる。

 次に民間セクターでは、製品や労働、金融市場を開放し、ヨーロッパ域内で国境を越えて自由に移動できるようにすれば、自ずと競争条件は均一化し、経済格差は縮小するはずだ、というものだったと思う。

 だがこの2つの想定は、いずれも外れた。まず財政合意については、2005年頃よりこのルールからの逸脱が目立つようになり、特にリーマンショック以降は景気対策のため、あえて財政赤字を拡大する政策をとったため、この安定化条約は空約束になった。2009年にはギリシャの財政赤字に関するデータが偽りであり、ギリシャは初めから加盟要件を満たしていなかったことが判明した。さらに仔細に調べると、財政赤字の少ない国も危機に直面するという、矛盾するような事態に陥った。例えばスペインは累積財政赤字ではユーロ圏加盟国中最も低い方で、ドイツよりも良い。イタリアは唯一プライマリー・バランスが黒字の国だ。にも拘わらず、この2つの国の国債は売り込まれ、金利は7%という危機ラインに近づいている。

5.拡大する単位労働コストの格差

 市場統合が競争力格差を縮小するはずだ、という想定も外れた。各国のインフレ率や金利、生産性や賃金など、いわゆるファンダメンタルズが異なる場合、その格差は経常収支の不均衡という形で表れる。これは、通貨が異なる場合なら、為替レートが変動することで不均衡は長期に継続することなく、自ずとと是正される。  
通貨を統合するのであれば、ファンダメンタルズがある程度収斂して経常収支の不均衡が拡大しない、という状態が確保されている必要がある。それはインフレや金利などのマクロ統計を比較すればすぐわかるが、ここでは競争力の指標として最もふさわしい単位労働コスト(ULC)を見てみよう。【図3】はULCを図表化したものだが、ドイツとそれ以外の国の競争力の格差が年々拡大していることが見て取れよう。これがドイツ1国に経常収支黒字が集中した最大の理由だ。これではユーロの崩壊は不可避だ。

【図3】ユーロ加盟国の単位労働コスト(ULC)

6.ユーロの将来はユーロの最大の受益者ドイツにかかっている

 黒字国であるドイツ、オランダ、フィンランドの国民は、今までのところギリシャを始めとする南欧諸国を支援する気はない。むしろ勤勉さに欠けるこれらの国々をなぜ自分たちが助けなくてはならないのかという反発が強いようだ。だが、筆者は、特にドイツはユーロを守るためもっと支援すべきだし、ユーロが崩壊すれば最も損をするのはドイツであると考えている。【図2】をよく見るとわかるが、実はドイツは2000年のユーロ発足までは経常収支が赤字であった。1980年代まではドイツは黒字を続けていたが、1989年の東ドイツの統合の後、赤字に転落し、90年代を通じてヨーロッパの問題国であった。それがユーロ成立後、急速に黒字を拡大し始めた。これにはいくつかの理由がある。
 まずは、東ドイツの統合に伴うコストが10年を経てようやく解消したこと、第2に、労働市場の自由化などの経済構造改革を進めたことだ。だが、もっと大きな理由は、ユーロが成立し、ドイツの競争力に比べて安いユーロ建て価格での輸出が可能になったことである。物価や賃金があまり上がらないドイツの工業品は時とともに競争力を増していった。輸出は拡大し、失業率は低下、成長率も改善し、再びヨーロッパ経済のエンジンとしての地位を取り戻した。ドイツの輸出の4割はユーロ圏内だ。ユーロ加盟国の経常赤字のかなりの部分はドイツからの輸出によるものだ。ユーロの最大の受益者がドイツであることは議論の余地はない。ドイツ国民がこの事実を謙虚に受け止め、相応の貢献を受け入れるかどうかが、ユーロ経済の再建のカギとなる。

7.緊縮財政一本槍ではユーロ圏経済は悪くなるばかりだ

財政赤字についての考え方も再考する必要がある。ユーロ加盟国は、財政赤字を削減すれば問題はすべて解決するかのように考えているが、これは誤りだ。財政赤字と経済危機との関連は、それほど単純ではない。財政赤字は政府の赤字だが、経済全体の中では政府部門だけではなく、企業や家計といった部門がある。先進国では一般的に政府部門のGDPに占める割合は2割程度であり、企業や家計の方が遥かに重要だ。現在ギリシャやスペイン、イタリアで起こっていることは、財政赤字を減らすための増税や歳出削減が民間経済を委縮させて失業を増やし、税収を減らし、結局のところ財政もさらに悪化するという悪循環である。財政均衡のためには経済成長が不可欠なことは多くの国の経験から明確である。米国も日本も巨大な財政赤字を抱えており、もし財政赤字が諸悪の根源ということで先進国すべてが財政赤字削減に動くとしたら、世界経済は確実に大不況に落ち込む。

昨年来の一連の国際会議では、財政赤字が巨大な国は財政健全化を着実に進めることと併せて、経常収支の黒字国は内需拡大をすべき、ということが繰り返し書かれている。すべての国が緊縮財政に向かうのではなく、ドイツやオランダ、さらに中国などアジアの新興国は、輸出依存から内需中心の成長にギアシフトし、経常赤字に悩む国からの輸入を増やせ、ということだ。特に米国はドイツに対して、財政健全化を急ぐことなく内需拡大せよ、と繰り返し唱えている。日本はどうかと言えば、最大の財政赤字国であると同時に大きな経常収支黒字国だ。野田総理はカンヌのG20首脳会議で、消費税増税を2010年代半ばまでに実施する、と「国際公約」した。が、どのようなタイミングで行うかはこれからの世界経済の動きを見つつ決めるべきであり、今後の世界経済の回復が遅れるような場合にはもう少し先送りすべし、という圧力がかかってくるものと筆者は見ている。ステイグリッツやクルーグマンなどの経済学者も財政緊縮政策の危険を繰り返し唱えている。
 
8.賃金の動きが鍵となる

ユーロ圏の崩壊を防ぐためには加盟国間の競争力格差の是正が不可欠で、そのためには単位労働コストを調整する必要がある。以下の4つの対策が考えられる。

ⅰドイツなど経常収支黒字国の賃金上昇
ⅱ黒字国の生産性の低下
ⅲ経常収支赤字国における賃金の抑制
ⅳ赤字国における生産性の向上

このうちⅱは経済政策としてはナンセンスだが、残りの3つは、いずれも取り組むべき施策だ。特にドイツにおける賃金の上昇は、内需の拡大と赤字国のドイツへの輸出の拡大にとって極めて有効だ。遠からずドイツは、ほかのユーロ国から内需拡大とともに賃金の引き上げについても強い要請を受けることになろう。他方、赤字国では賃金の抑制が必要であり、そのため公務員の賃金カットはやむを得ざる措置だ。
またⅳのためには、労働市場の改革や、競争政策の強化、さらには生産性の高い外国企業の誘致などが必要だ。そのためには欧州企業が南ヨーロッパに直接投資を増やすことが大きな効果を持つはずであり、それを妨げている規制や慣行は速やかに撤廃する必要がある。

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