どうしたら貧困はなくせるか ~ 貧困研究と「資本論」 備忘録
唐鎌直義・元専修大学教授の「前衛」2011/12の論文の備忘録。同氏の備忘録は、「相対的過剰人口」論に続き2度目。今回も展開しているが、学生への講演ということで、現在の労働者は、未来永劫存在する労働者という意味でなく、資本主義の中の労働者階級という歴史的存在であり、「労働力」はかけがえのない唯一の生活手段である。が、資本家階級と労働者階級は対等平等ではない。という解明。また実質的平等に近づけるためには「労働力の販売ができないときでも生活ができる道をつくる」ために労働組合、社会保障、「労働市場の組織化」による競争の緩和を説明。労働観の転換を訴えている。
「多様な貧困」論と「自立支援」方針への批判も展開している。
【どうしたら貧困をなくせるか~ 貧困研究と「資本論」】
唐鎌直義・元専修大学教授 「前衛」2011/12
◆はじめに
・カレン・ヴァン・ウォルフレン(オランダ・ライデン大教授)「政治化された社会におけるウソの事実」(邦題「人間を幸福にしない日本というシステム」95年)で「日本は、官僚や学者が作り出した『ウソの事実』で隅々まで『政治化された社会』である」と評価。
民主主義の対極にある「政治化された社会」~ 原発安全神話などなど・・・ (貧困、失業なども)
Ⅰ 資本と労働、失業と貧困 ~ 「資本論」から学んだ2つのこと
1.労働者階級という歴史的存在
未来永劫存在する労働者という意味でなく、資本主義の中の労働者階級という歴史的存在。3点
(1)「本源的蓄積」過程における労働者の「二重の意味での自由」の獲得
【商業資本主義から産業資本主義へ】
・英仏の市民革命による封建制の打倒し、資本主義がスタート、そんな簡単な話ではない
・封建時代にすでに芽生え、商業基本からはじまり、産業資本に変わっていった。
→コロンブスのアメリカ発見に象徴されるスペインでの商業資本主義の早くからの発達/インカ帝国の虐殺など銀の強奪/しかし、商業だけでは資本主義の本格的な発達しない。
→ 銀をいくら溜めても食べていけない。有用物の生産に努めないと銀は流出するだけ/銀は、貨幣、装飾品の材料になるだけで使用価値は限られている/ 銀はフランス語でargent(アルジャン)~アルゼンチンの国名/ スペイン人を笑う資格はない
→漁業国だったアイスランドの金融機能に特化。リーマンショックで破たん~破たん前は、外国人のお金でも集まれば豊かになれると「アイスランドをめざせ」と絶賛。ギリシャ神話の拝金主義者「マイダス王」の如し
・国内産業が発達し、有用物の生産がされないと資本主義は本格化しない/ イギリスは、産業を興し、人間に有用なものを生み出すことに強みがあった。
→ イギリスがスペイン(そこから独立したオランダ)に勝つことはわかっていた。/商業、交換からだけでは富は生まれない(重金主義、重商主義の限界)
【資本主義はどのように生まれたか】
・「本源的蓄積」過程を通じて/ 資本(お金)を持つ資本家階級と、資本家に労働力を売り渡し、その対価として賃金を得ないと生きていけない労働者階級~この二大階級を生み出される過程が必要。
・資本の誕生/ まず「資本とは何か」~「価値を生む価値」「増殖する価値」をマルクスは資本と呼んだ。/「価値の増殖」が資本主義の宿命なので、徹底して無駄を嫌う
例)資本主義では歴史的建造物はできない/都庁舎1500億円、複雑につくりすぎメンテに1千億、雨漏りだらけ、コンクリの寿命75年。100年も経てば灰燼に帰す/法隆寺 1200年でも健在、樹齢千年の檜は、材木にしてからの寿命2千年。なぜ立派な建物ができたか~農耕社会では、為政者は集めた税金を全部一度に使うことが可能だったから。来年になればまた年貢が入る。/歴史的な建造物は封建時代、ベルサイユ宮殿など
→ 資本主義はドケチ/「増殖を宿命とするお金」なので、奢侈に回せない。
・宗教の流派も変わった/新教であるプロテスタントの精神は「勤勉、節約、蓄財」~生活以外のお金はすべて蓄財し、「資本」の形成を助けた。
・私たちは、特殊歴史的な「勤勉と吝嗇(りんしょく・けち)が賞賛される世界」で生きている。~落語に出で来る「宵越しのお金は持たない」生き方はできない。ずくに「自立支援」政策の対象者にされる
→ 現在の「自立支援」も同じ/「保護費でお酒をのんではいけない」「月1万円でも働きましょう」と、資本主義の倫理観を体現した政策。だから「善」と思う人が出てくる/我々は労働者として生きる覚悟を
【労働者階級はどのようにつくられるか】
・封建時代を支えたのは百姓/資本主義は、農民を工場でまじめに働く労働者に改造しなくてはならない
・「時間を守る人」への改造~ 夏場は4時、冬場は7時、雨は起きないでは困る。太陽とともに働く生き方から、年中決まった時間で働く人へ
・江戸時代は、約二時間が一刻(とき)、日の出と日の入りを12等分した時間。夏と冬で、昼の長さが一刻も違う。明治期まで「遅刻」という概念がなかった。戦前でも「西洋時間の人」(時間を守る人)という言葉が使われていた。江戸時代の大工の労働時間は5時間~ これが本来の「日本時間」
・農民から労働者に仕立てられる過程を「労働力の陶冶」/今や世界一の「西洋時間の人」、新幹線の「定刻」で走り続けるほど「労働者力」を高めている。
・資本主義によって労働者は「二重の意味で自由」を獲得/「身分的自由」~土地に縛り付けられた農民(土地を離れると罪人)から、労働者になるためには「身分的自由」が必要。/「生産手段からの自由」~農地という生産手段から切り離され、「移動の自由」とともに、雇ってもらわないと「生きていけない」
→ この「自由」は「貧困の自由」と表裏一体/土地という生産手段から切り離され、自分で自分の身をまもらないといけない。
【労働力を資本家に売ることでしか生活できない労働者】
・労働者は自由な「無産階級」として、資本主義生産関係に入る/「自分の労働力を資本家に売るしか生活できない」という特徴~身分的自由、生産手段からの自由とともに引き受けさせられた宿命/今は8割が労働者
【労働力は自分の生命活動と切り離せない】
・雇用労働につかなくても生活できる人にとって、働くことは趣味、自己実現、使命~ 鳩山悠紀夫、母親から毎月1500万円、政治家としての仕事は「友愛」実現の使命、趣味の世界。
・一般の人「食べるために労働力を売る」/労働力は(特殊な商品)~人間の精神、肉体活動からは切り離せない。/生命活動と自分の労働力は一体化。~働くことは命を売ることと同義/命を売るのだから徹底的に保護されなければならない/労働法、労働基準法がある根本的理由
→ 資本主義の当初は、当初は気づかなかった。/奴隷のようにこき使った~ それを労働者自身の力で/自分の命は、家族、妻・子ども、社会全体の命。賃金引上げ、労働時間の短縮を減らしてくれと闘った。
・日本の大企業/若い時は、会社の発展を使命に低賃金で働かせ~40才過ぎると出向、リストラ~ 人生の中で一番働ける花の時代を最大限活用
(2)「労働力」はかけがえのない唯一の生活手段
・資本主義では健康の意味がとても重い/健康は超歴史的に重いのでは?と思うがそうではない
→ 資本主義は障害者問題を顕在化させる。障害者は、企業に必要な労働遂行能力を持たないと採用されない/ハンディキャップとは、企業が社会的に付与しているもの、/雇われなければ生きていけない。
・中世では・・精神、知的障害者は農業に従事していた。自営業だったから・・ロシア童話「イワンのばか」知的発達の遅れた若者が純真な心で多くの村人を救う話。/しかし、資本主義では生きていけない
・現在もミクロネシアでは漁業が中心。追い込み漁で、サメに襲われ足を失う人も出るが、その人は浜辺で魚網の補修を担当する。漁の分け前をもらう
→ 障害者問題とは、足が不自由とか属人的な問題でなく、社会的に跡付けさせたもの。
・資本主義はシビア/不景気ではハードルがあがる/面接で、あいさつや話の仕方、グループ行動でリードできたか、コミュニケーション能力とか・・・その程度で人を判断する。もっと長く付き合わないと、その人の良さなど分かるはずがない/ 採用枠に絞るためのあら探し。
(3)資本家階級と労働者階級は対等平等ではない
・資本を持っている人を資本家階級、雇い主。労働者階級は持たざるもの、無産階級。~ 貯金2千万円でも無産階級。2千万円では、家族が何年も生活できない
・法の上では、労働者も資本家も平等だが、経済的には平等ではない。
労働災害の裁判~ 裁判が長引けば不利になるのは労働者。生きていけないので和解に応じる。/お金があれば持久戦に持ち込める。/東日本大震災後の政府・東電の対応も・・・要求の水準が下がるように兵糧攻めにしている。/生活保護ですべての被害者を救えば、少なくとも対等に近い交渉ができるが、政府はそんなことさせない。
【労働力の販売ができないときでも生活ができる道をつくる】
・経済力の不均衡のある社会では、労働者階級が労働力を販売できない時でも生活する道を用意しておかなくてはならない。/国が生活を支える~そうでないと実質対等にはらない。
→ だから、労働保護立法、社会保障制度が大事。/実質的平等に近づけていくために、労働者にとって階級的なものとして非常に大事(メモ者 失業する権利、労働力の安売りしない権利)
・自立・自助を完結できるのは富裕層だけ/だから社会保障に利益を見出せないし、関わりたくない
→労働運動が激しくなり、社会保障要求が高くなると譲歩をするが/弱いと「自己責任」「消費税」でとなる。
【労働者にとって伝家の宝刀、ストライキ権】
・労働者が労働力を売らないと生産がストップする。大企業へ打撃。/ストライキは、労働基本権で認められている~ 実質的平等に近づける方法
・資本主義のシステムをよく知ること~自分だけうまく生きていこうという抜け駆けではダメ。認められている法律、権利を集団的に、最大限行使しながら、賢く生きていくことが大事。/社会保障論も社会政策論も、そのことを教える学問とならなくてはいけない。
【労働者の力が弱くなると「生活の自己責任」が強まる】
・アメリカ 富裕層の力が強いので公的医療制度ができない/ オバマ大統領もつくれなかった。民間保険の加入に少し補助をし、貧困層も入れるようになっただけ。
・アメリカの医療費はGDP15%、日本7.8%。アメリカはGDPで3倍、人口2倍なので、1人あたりの医療費を,日本の3倍も使って、国民の健康を守れない(医療が金儲けの手段となっている)国。
→ 日本も医療制度改悪を放置すると、アメリカのような高負担になる。
以上が、労働者という歴史的存在について、マルクスを読んで理解した内容。
2.資本主義的蓄積の一般的法則
・失業の原因は何か? /近代経済学では、不景気になると生産が縮小するので、失業が発生する~「需要・供給関係」(一般均衡論)で失業を説明 ~ 好景気になれば失業も解決し賃金もあがる、と考えるので
→「経済成長こそ問題を解決してくれる」という「成長待望論」となる。/これは正しいか?
・マルクスの失業理解/ 「景気がよくなっても失業は創出されつづける」~「資本蓄積が進行すれほど(資本主義が発達するほど)、もう一方の極に貧困が蓄積される」
~「表面的な現象(因果関係)で物事を説明することは容易なことで、その次元では原因が結果になり、結果が原因となることもある。つまり、どうにでも説明がつく。真理に近づくためには現象の把握を超えて、その背後を探ることが必要で、法則理解ということが大事」/失業問題は、その大事さを教えてくれる
(1)失業は好況期でも進行する――「資本の有機的構成の高度化」
・労働には、企業が受け取る利潤のための労働「剰余価値労働」、労働力の再生産のための価値を生み出す労働「必要労働」。/この剰余価値の生産が、資本家による労働者の「搾取」
・資本家は、景気がよくなると生産性をあげて、より多くつくり、利益を上げたいと考える/つまり、景気がよくなると生産合理化を進める。労働力も増やすが、追い求めるのは生産合理化。
【機械の採用】 好況下では、機械の導入による労働力の代替化が急速に進む
→ 当初、機械設備など不変資本に半分、賃金・可変資本に半分の投資。/生産合理化を進め、不変資本の投資が増え、投資資本の総量に占める不変資本の割合が高くなる。/景気がいい時には、総量全体も増えるので、賃金の総量かわらないかもしれないが・・・投下資本のうちの可変資本比率の低下が静かに進行する。(メモ 有機的構成の高まりが、総量拡大よりも早い場合は、好況期にも失業が増加する/小泉改革下の好況と貧困の拡大)
・自由競争のもと、無制限への生産の拡大が一時、過剰生産として露呈し、企業倒産、長期の不況におちいり、失業者が一気に顕在化する。/大量失業の原因は、好況時に準備されたもの、とマルクスは見抜いた。
【相対的過剰人口は好況時に準備される】
・資本は、好況時に、相対的過剰人口を増やしておかないと、労働者の賃金が上がってしまう。不況期に一気に現在化する失業は、賃金引下げの強力なテコ、資本が労働者に与える経済的負荷で最大のもの。
・「相対的」過剰人口とは・・・資本の蓄積にとって過剰だという意味。/マルサスの「絶対的過剰人口」、有限な土地、食料生産に対し、人口は幾何級数的に増加する。貧困者を救済していると、ネズミ算式に人口が増え、飢饉を引き起こす。救貧法は悪であり廃止すべき。貧困者には避妊を強制すべき/ この論に対し、マルクスは「世界に絶対的に過剰な人口」は一人もいない、というヒューマニズムの現われとして「相対的過剰人口」の概念をつくった。
・相対的過剰人口の形態
①流動的形態 資本の移動、基幹産業の移り変わりの時に、すぐに移行できずに生まれる形態
資本は世界を自由に移動できるが、労働者はなかなか移動できない。家、家族、友人
②潜在的形態 農業など遅れた産業部門に居て、機会があれば工場で働きたい、という人びと
③停滞的形態 高齢者など低賃金労働に従事している事実上の失業者、半失業者/年金が低く生活できない。高齢だからと足元を見られ、低賃金できつい肉体労働に付いている。働いてはいるが、まともな賃金、人間らしい生活ができない状態にある人びと(山谷、釜が崎など)
④本来のルンペンプロレタリアート 犯罪者や売春婦など
【相対的過剰人口は現役労働者に対して、錘りの役割を果たす】
・過剰人口は、停滞的形態を中心にしながら、現役労働者の労働条件、賃金低下の圧力、錘りの役割となる。
→ 単なる「景気の調整弁」ではない。
・資本主義は、失業をとてもうまく作り出し、失業の存在を不可欠とする。/企業利益を最大にするには、失業をどうコントロールするか(メモ者 解雇の自由、有期雇用などの雇用形態。また失業したら生きていけない劣悪な社会保障にどうとどめるか)がポイントとなっている。→ 厚生労働省の役割が一番大きい。
【失業・貧困に対する資本主義の枠内でのたたかい】
・マルクスの失業と貧困の関する指摘はここで終わり、解決は、資本主義を乗り越えた未来社会への移行となっている。
(メモ者 同時に「工場法」の制定を非常に高く評価している。/それまで資本家のやりたい放題だった生産過程に社会があたえた「 最初の意識的かつ計画的な反作用」(第1部第22章)。「工場立法の一般化」は「新しい社会の形成要素と古い社会の変革契機とを成熟させる」(同前))
・社会主義への移行は、賃金と労働条件をめぐる資本家との日常的な闘いの中で生まれ、目指されるもの。
~またロシア革命、ソビエト政権は、8時間労働、男女平等、無料の医療制度など「社会保障」制度を打ち出し、危機感を抱いた各国の資本家層は、高揚する労働運動に大幅な譲歩を始めた。~その方向は、自由放任の経済を国家がコントロールし、失業、貧困を一定以下に抑えるというもの/ケインズは、「自由放任の終焉」の中で「自分の経済学は資本主義を擁護するためのものである」と明記せざるを得なかった。
・「企業の暴走」を制御しながら「民主主義の発展」を粘り強く模索していく方向の根底に、失業・貧困の撲滅があり、社会保障・社会福祉の本当に意味がある。
Ⅱ どうすれば貧困と格差をなくせるか
1.労働者間競争圧力を緩和する仕組みが重要
大企業の利益擁護にし、労働者に対する負担増大の仕組みを改善すること。
(1)団結による競争圧力の緩和――労働組合の役割
労働者が団結するのは、資本主義における自分たちの地位を客観的に理解したうえでの話/「必然性を理解することが、人間が自由を獲得する一番の基本」~ 法則がわからないとだまされるか盲目的行動に
~ 「多様な」という曖昧な把握は問題を隠す/「多様な働き方」~派遣労働、「高齢者の多様なニーズ」~介護保険法、「多様な貧困」~自立支援策 /「必然性の理解」とは対極にある
・労働者は、資本の有機的構成の高度化によって常に相対的過剰人口が作り出されるので、労働者階級の背後にはポストをめぐる競争の網の目が張り巡らされている。/入試、就活・入社試験、昇進など多様に準備された競争のシステムにより、団結を阻止しようとする工夫が凝らされている。
→ 団結というが、「必然性の理解」にまで高まらないと進まない。/つまり「労働者として生きていく覚悟」を決めることが重要。/本当に意味で、労働組合運動を理解している人は、そう多くないのでないか。
~ 労働組合のある意義は大きいが、空気のようになっている。
(2)社会保障制度による競争圧力の緩和
・失業保険、公的扶助による失業者の生活保障の重要性
・日本 30代前半で失業、雇用保険は多くは90日/保険料納入10年以上180日。最高330日/ただし再失業後の給付は、3ヶ月に。/現在、完全失業者中の失業手当受給者22%。EU90%台
・EU 保険料納付の長短によらない一律給付
デンマーク48ヶ月、ベルギーは無制限、ドイツ25ヶ月、オランダ30ヶ月
→職業訓練に4年かけられるデンマーク。雇用保険3ヶ月+求職支援給付12ヶ月、計15ヶ月の日本/しかも、デンマークは、職業訓練を公的機関が運営し、質の高い内容を提供。勤め先は正規雇用が基本。日本は、リクルート等に丸投げ。
・EU 失業保険後の公的扶助で対応/ 日本では、精神疾患など病気で働けない状態でないがきり青年の受給はほとんどない。
・日本 長期不況で大量失業が長引くと、失業手当の受給者が減りつづけ、雇用保険財政が黒字になる異常な構造。
(3)「労働市場の組織化」が必要
・正規と非正規が入り混じることで競争圧力が高まっている。労働力の窮迫販売、命の安売りが起こる。
→ 防止のためには、非正規労働者(半失業者)を、完全失業者として、労働市場から分離する。失業中の生活を保障する/ イギリスのブース、ベヴァリッジの提唱したもの 「貧困の発見」
・20世紀初頭のイギリス /資本主義を自由放任にすると社会がどんどん悪くなるので、企業行動を規制する方向に転換。「労働市場の組織化」も「有規制」の1手段として実施
→「労働力の組織化」とは、労働者を完全就業者と完全失業者に二分化する/ 失業保険、公的な職業紹介所の設置(処遇の悪い企業、職業の排除)/日本 規制緩和で「なんでも紹介」、自立支援事業として民間委託
(4)労働観を変えよう
・フランス週35時間労働(昼休みの1時間含む)/早く帰る。集中力の高い仕事、ボランティア活動
バカンス 大企業11ヶ月、非正規5週間、/1935年 人民戦線政権のもとで、「バカンス法」
/フランスではバカンスを取っていな人の事が国会で追及される 調べると「牧童」
・労働時間 日本はドイツより年間500時間近く長い
・EUでは、労働時間、休暇、失業給付など国家が労働者を支援し、実質的平等につとめている/日本は企業偏重
・坂本龍馬、秋山兄弟などのブーム… 時代を駆け抜けた偉人の生涯への共感/ しかし、「自分の労働力を時間を決めて売る」という労働者階級本来の姿からみるとどうか? /経営者が労働を「ミッション」(使命)にまで昇華させて、がむしゃらに働かそうと仕向けていることの反映。/労働者に属する人が、経営者側の意識を共有させられている。~桐野夏生「グロテスク」~「金・知・美」の崇拝という個人的欲望、資本家的価値観を、知らず知らずのうちに共有し、それに踊らされて破滅していく庶民の悲劇。
・「シッコ」/英労働党・ベン氏「健康で自信をもっている国民くらい、為政者にとって扱いにくいものはない」と語っている。労働者の自信とは「仲間」「団結」。
・資本家の文化に対抗する「仲間」「団結」に自信を持つ集団的価値、集団的文化の創造が必要。
2.貧困と格差の日本的要因――「労働の尊重」なき「労働要求」の広範化と社会保障の後退
(1)「労働の尊重」と「労働の質」
・労働力の販売は、命の販売と表裏一体/ だからこそ労働は尊重されなければならない。
→ しかし、日本では、そのことが忘れられ、働く機会を増やすことだけが要求されている。
・「労働の質」の重視を/ 労働の質がどんどん崩されている。その対抗手段は「労働力売らない」ことを労働者が選択できるようにすること。社会保障で生きられる道を用意すること。
(2)貧困の原因を個人の資質や行動様式に求める最近の貧困論
・貧困を、失業、半失業から切り離して捉える傾向が、最近の貧困論の特徴/ 「失業が原因と言ってもラチがあかない。もっと個人的に解決すべき原因を研究すべき」という流れ
①「怠惰」「努力不足」に求める見解 「パソコンも使えない」「資格取得に熱心でない」などなど
②「浪費」に求める見解 東京の介護士で手取り12万円の若者。借金は無理もない状況こそ問題
③「悪習」、飲酒、賭博など 「貧困になれば、人間的欲望それ自体が矮小化する」(江口)~ある程度の生活と賃金所得がないと人間の欲望の高度化は生まれない。
→ ところが、今は即「自立支援」の対象に。/人間に対する理解が深いところで欠落しているのでは。
④「注意不足」 10代での早すぎる出産、無計画な出産、簡単な離婚、夫によるDV、放任による子の非行などを「注意不足のために人生の選択に失敗した人」という把握。
・個人の行動様式を研究すると、様々な事情が複雑に絡んでいるので「多様な貧困」という把握になる。
つまり、最終的に原因が解明できなくなってしまう。
(3)「自立支援」に特化した政府の政策――「生活の自己責任」と社会保障の後退
・「自己責任」の名のもとに社会保障を後退させてきた政府
・「自立支援」は、厚労省の政策の要の位置 ~
例)障害者自立支援法 雇用環境の改善に努力しないで、自立を求める政府 /現状の雇用環境のもとでは、自立できないから障害者という社会的地位を作りだした。今度はそれを否定し、自立という。~つまり障害者という特別な存在を否定し、最低限の生活すら保障しないということ。
→ こうした政策が、失業者、生活保護受給者、要介護高齢者など「弱者」に強力に展開されている。
・働いたら幸せになれる雇用、労働の質が保障された仕事に従事することが重要
→ 失業を減らせるのなら不安定雇用でもかまわない、というのは財界の思う壺。/失業者は、完全失業者として、社会の構成員が納める保険料、税で、生活を支えるのが基本。
・日本の社会保障財源の使われ方~ 年金、医療、遺族補償で86.7%。残りで、障害、家族(児童)、失業、雇用創出、住宅、生活保護。~ ヨーロッパと比べて圧倒的に少ない。
→ 日本の「世代間扶養論」がEUで通用しないのは、若者含む現役世代の要求に社会保障制度が対応しているから。日本では、世帯間の対立を煽る要因になっている。/「社会保障は労働者階級の生活を守るためにある」という基本原則にそって、再構築することが必要。
☆おわりにかえて –被災地のナショナルミニマムの実現を
(1)被災地を「ナショナル・ミニマム」保障の先進地域に。
・財源は、内部留保税(戦後、一度実施したことがある)で・・・257兆円の内部留保の活用
・北欧型の福祉国家をモデルとして復興する
(2)社会保障で経済の循環が上向く社会を実現しよう
・生活不安の解消で、有効需要拡大型の経済循環をつくり、出生率も向上させる。/働いて幸せにならない社会からの転換を ~ 真に革命的な提案、ラディカル(根源的)な提案、行動を
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