高知市 津波対策(メモ)
東日本大震災・・・ 南海地震対策を考えるうえでも、教訓を丁寧に、総合的に汲み取る必要がある。
共通しているので「ハード依存ではダメ」、「避難・防災教育の重要性」。しかし、これは「ハードは不必要」ではない。 逃げるための時間稼ぎ、被害の縮小という点で、当然ながらハードも大事である。「ソフトもハードも」と思う。以下は、今後、考えていくうえで、論点整理のためのメモ。
いろいろレポートを見てみた。
①岩手県釜石の湾口堤防・・・ ブロック間の30センチの隙間の強い水流で基礎部分がほりくずされ、7割が倒壊したが、波の高さを4割軽減し、津波の遡上面積を5割軽減、到達時間を6分遅らせ、釜石湾の一帯ではハザードマップの浸水は想定にほぼ近い状態に収まっている。
これに1200億円かかっているというのをどう評価するか。岩手県は「高さは同じ」で再建する方針。
②普代村の15.5mの堤防。村長がかたくなに主張してつくった堤防でほとんど被害はでなかった。長さ155mで5800万円(当時)というローコストのハードである。
③田老地区。10.5mの堤防が二重になっている。もともとの堤防は、への字型で、津波のエネルギーを分散させ、避難の時間を稼ぐというつくりで、避難とセットの仕組みである。それが人口増で二重化することになった。チリ地震の8mの津波に耐えたことで「万里の長城」と注目され、もともとの思想が失われたと言われている。
しかも、今回の津波は、当初、気象庁が6mと報道したことで、「大丈夫」となったのではないか(今回の件で、津波の報道の仕方が是正された。)
また、岩手県洋野町種市の12mの「防潮堤」は、人的被害ゼロに抑えた。
④松島湾。ハードではないが、湾の入り口にある幾多の島しょが津波のエネルギーを分散させ、そのあと広がっている湾全体でうけとめることで、被害を減少させている。
⑤宮城県仙台市若林区の荒浜地区は、平野だが、仙台東部道路の盛土が津波を食い止めた。また、広い面積の防潮林は一定の効果を発揮した。などなど・・
さて、南海地震に対する高知市の備えだが
①浦戸湾は、入口が狭く、しかもカギ形をしており、奥が広い構造。左右に山があり天然の防波堤の役割を果たしている。浦戸湾には鏡川、江の口川、国分川など7つの河川がある。川を遡上する危険性と裏腹だが、市街地への干渉のやくわりも果たす。この構造が、豪雨の時に、内水がなかなか引かないという問題となっている。
②高知市は、2メートル地盤沈降すると予測されている。長期浸水が重要課題である。また液状化により堤防が2.5m沈む調査結果が出ている。内水排除のためには河川を含む堤防の強化が喫緊の課題である。
津波対策は、どの地域にどれくらいのものが必要かの検討。長期浸水対策が大きな課題となる。
今回、四国整備局が、浦戸湾の可動式防波堤と周辺の堤防かさ上げ330億円、堤防の液状化対策300億円をセットの事業(セットというのが… )として概算要求を出した。後者にはあまり異論がないだろう。
前者については、未知の領域で、実際に可動するのかも含め効果については定かではない(最初はすべてそうだが・・・)。中央防災会議の被害想定、そして調査・検討だけでも数年はかかると思われるので、費用対効果、実現性などきちんと検証し、住民が納得することが実施の前提だろう。(概算要求が通ったとしてだが・・・)
この計画に至る経過が地元紙で報道されている。「浦戸湾を封鎖せよ」(10/17付)。浦戸湾沿いの防潮堤が地盤沈降と液状化で堤防が津波前に水没するので「津波を浦戸湾の入り口でせき止めるしかないんじゃないか…」 というものである。
膨大な人口をかかえる県都で、「避難」の場所、時間をどうするか、考えると「藁をもつかむ」気持ちなのだろう。
ただ、地盤沈降は、海水も含めて沈降するので、即海水流入にはならないとのこと。可動式では、鉄パイプが柵状に浮上してくる案のものは、鉄柱と鉄柱の間に隙間(開口率)がある。この隙間は、狭くすれば、構造が複雑になるうえ、施設にかかる圧力が増し、より強固なつくりが必要となる。広くすれば、津波のエネルギーを削減する力が落ちる。いずれにしても水は入ってくる(開口率5%で30-40%、10%で50-60%の透過率 港湾空港技術研究所資料07/7)ので、表題の「封鎖せよ」という表題は、「入ってこない」という誤った印象をあたえるものとなっていると思う。
役割として津波エネルギーを軽減させる湾口堤防と同じである。
なお和歌山県の直立可動式防波堤について、沿岸技術研究センター 高山知司参与の論考には「設計に用いた津波としては、今世紀半ばに発生が危惧されている東海・東南海・南海地震の3連動地震である。しかしながら、今年(2011 年)3月11 日にわが国では初めての経験であるM=9.0 の地震とそれに伴う津波が発生し、それによって東北から関東の太平洋沿岸が大災害を被った。このような巨大地震がわが国近海で起きたからといって、直ちに海南地区における直立浮上式防波堤の設計条件である3連動地震による津波を見直す必要性はないと考える。
しかしながら、設計した直立浮上式防波堤が津波防御機能を失うような被害を受ける津波規模については予め検討しておくことが重要であると考えている。ただし、今後の中央防災会議において既存の東海・東南海・南海の三連動地震モデルが大きく修正された場合には、これにどのように対応するかは今後、検討を行うことになろう。」と述べている。(和歌山では、3連動想定での要求される開口率として3%となっている。)
これは主に国の予算(直轄事業は国負担2/3。ただし高知県は補助率1.25倍。知事会は、地方負担金の廃止を主張。維持管理費は負担なしに変更されている。)の使い方の問題である。
また、超巨大地震の規模や津波の大きさの予測は地震計からの推定では困難といわれており、海面の変動を直接測る方法が研究されている。リモートセンシング(遠隔測定)と呼ばれ、海洋レーダーや人工衛星を使って、広範囲の海面の状態を点ではなく面でリアルタイムに把握するシステムである。南海トラフの中央部に臨む和歌山県南端の潮岬と高知県南端の室戸岬に設置すれば、東海、東南海、南海の3つの地震の震源域を一度にカバーすることができるとのこと。(関西大学・高橋智幸教授)
問題は、市の対策をスピードアップさせること。22年度末で、学校耐震化65%、保育所も公立65%、民間37%である。津波避難タワー(正確にはタワーでなく、消防屯所)も1箇所のみ。「逃げる」ことを基本にした対策を、トータルにどう実施するのか、明確にする必要がある。
須崎市は従来の避難場所50ヶ所をゼロから検討しなおし、約80箇所を指定しなおしている。防災意識が高まっているときに、それをさらに向上させ、持続させる機敏な対応が必要である。
奥尻島では多くの犠牲が出たが、迅速な行動で多数が助かっている。
「約8 割の人が緊急避難した。奥尻町の多くの人々は地震直後に津波の来襲を予測したため、いっせいに高台へ避難を開始した。その避難行動は、非常に迅速だったといえよう。つまり、まず、地震の後どのくらいしてから避難をはじめたかをたずねたところ、「まだ揺れがおさまらないうちに避難しはじめた」人が23%、「揺れはおさまったが、津波がまだ来ないうちに避難しはじめた」人が54.9%と、ほぼ8割の人が緊急避難しており、避難するより早く津波が来てしまった人は2割弱である。[『1993 年北海道南西沖地震における住民の対応と災害情報の伝達』東京大学社会情報研究所(1994/1),p.17-18]、」と、独自の判断での避難行動の大事さが強調されている。避難場所の確保、避難道の整備は急務である。
市HPの「南海地震関係」欄は、以下の内容しか発信されてない。
2011年11月25日 平成23年度高知市消防職員(初級職等)採用資格試験 最終合格者発表
2011年11月4日 津波避難ビル一覧
2011年10月26日 火災・救急・救助統計(平成23年1月から10月)
2011年8月 5日 平成23年度高知市消防職員(上級職)採用資格試験 最終合格者発表
2011年7月14日 平成22年高知市消防年報(平成23年刊行)
2011年5月18日 地震ハザードマップの修正について
2011年4月1日 高知市土砂災害ハザードマップ
2011年4月1日 高知市地震ハザードマップ
特に避難ビル指定について急がれる。学校関係者が「地域の子ども達のために」と働きかけるのも有効だろう。
現在、50箇所、長期浸水にそなえ一定の備蓄などとセットで指定しているが、緊急時にとにかく「逃げ込む」場所をどうするか、という複眼の視点がいるように思う。
さきの高橋教授は、「地元の企業などが所有する既存のビルを津波避難ビルとして指定することで対応する。政府は、そういう社会貢献を行う企業には、例えば税制上の優遇措置を受けられるようにするなど、法整備を進めて環境を整えることが求められる」と提案している。
ソフトと言えば職員削減の影響も深刻である。市は、職員削減による財政効果を強調するが、若者の採用抑制であり、その結果、技術系や消防の職員の中心が50歳代となっており、専門性や経験の蓄積・継続に大きな課題が生まれている。これは被災時の救援、復旧にとって重要なポイントとなる。
22年度と18年度の決算で、人件費(職員給)は、経常一般財源でみれば、119億円-138億円と年間19億円減少している。大型プロジェクトのつけで、もともと人件費、物件費で中核市シップクラスの効率的運営だったのを大幅削減したのである。市民負担と同時に、公務の専門性の低下を生み出した責任は大きい。
すでにゴミ有料化が提起された時点で、2014年の大型事業による借金返済のピークがすぎれば財政はドンドン改善していくことはわかっていたのであり、この点もトータルとして考えるべき対策の一環なのである。
好転する財政を前に、新庁舎建設をめぐっては、使えるものまで壊して新築するとか、財政危機をつくったかつてのイケイケドンドン風の声が聞こえてくるが、本末転倒だろう。
遅れている「逃げる」対策など身近な防災事業や県下最低の子育て支援策(市は、子どもが多いので困難と言っているが、多いからこそ中核市として率先実施する責任がある。これも本末転倒)の本格的な改善である。
避難、被災後の生活にとっても、地域の絆の果たす役割は大きい。この絆づくりを、ボランティアまかせにするのでなく、公的セクターがかかわって官民共同で強める仕掛けが必要である。県のあったかふれあいセンターを利用した「アテラーノ旭」は、1人暮らしの高齢者などと様々につながり絆を強めている。防災面からのアプローチも強め、こうしたセンターを地域ごとにつくり、担当職員も配置し、様々な官民のセクターをつなぎ、福祉と防災を一体ですすめる。高知市の社協も、大街区での編成から、様々なマンパワーの構成単位となっている小学校単位に編成が変わると聞く。地震直後には、行政機能がマヒすることを想定して、小学校単位での情報の共有と発信ができる仕組みをつくり、効果的な救援活動、支援の受け入れを可能とする。
ところが市は、あったかふれあいセンターが来年度から市町村負担が発生する(現在は県基金)ことから、事業を廃止するとのこと。残念だ。
防災教育の通じ、地域の防災文化をつくる。
今年の「子ども白書」は、大震災・原発事故、無縁社会をテーマに、「つながろう」をキーワードに編集されていて読みごたえがある。
その中で、「防災教育」の片田敏孝・群馬大教授の話が載っている。
「想定を信じるな」「その場で最善をつくせ」「率先避難者たれ」というキーワードは有名になった(市の広報でも、市長コラムで紹介している。)が、重要なのは、その思想である。
どれほど危険か、という「脅かしの防災教育」では、子どもが地域を嫌いになり、意欲も続かない。
豊かな自然に恵まれて地域の生活があるが、ただ、自然は、ときどき「大きな振る舞い」をして被害をあたえる。自然の恵みを享受するには、その振る舞いに付き合い、「やり過ごす知恵」を身につけなくてはならない。
すると防災教育が「愛着ある地域で住み続けるため」のものに変わってくる。という。
それを前提に「姿勢の防災教育」という中身が、3つのキーワードとなっている。
特に、中学校、小学生高学年の取り組みは、地域を面としてとらえ課題を共有する、避難のリーダーとしての役割も期待できる・・・と思う。
そうした防災教育を実施するためには、教師の「子どもと向き合わない時間」による多忙化の解消が急務である。
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被災地と高知と両方の風景を思い浮かべ、てらし合わせて読ませていただきました。
災害弱者への対策は急務ですよ。
とくに高齢者と子どもの避難方法。
老人施設や保育所の職員数は圧倒的に足りません。
アテラーノ旭のような拠点がいっぱいあればいいのにね。
Posted by: おりがみ | November 30, 2011 11:45 PM