グローバル化経済の実態と未来 備忘録
雑誌「経済」11月号の菊本義治・兵庫県立大学名誉教授の論考、「現在のグローバル化経済とは何か」・・・
短い論考故に、本質論が凝縮されて展開している。視野がすっきりする。
以下、備忘録。
【現在のグローバル化経済とは何か 備忘録2011】
菊本義治・兵庫県立大学名誉教授 経済2011/11
はじめに
・多くの人が持つもやもや感~ グローバル化は歴史の流れだが、それを受け入れるには抵抗がある
→ この解決には/経済(生産力)の発展により生じるグローバル化がどのような形(生産関係)で現れてくるのか、明らかにすることが大事
1.現在のグローバル化経済とは何か
・「グローバル経済」とは、文字通りの解釈では、地球連邦・地球中央政府が成立した下での経済システム
→ その意味では、グローバル経済は成立していない。現在は、その過渡期、グローバル化経済」
・グローバル化は今に始まったものではない。では現在の特徴は
→ ①企業の多国籍化 ②市場経済 ③経済の金融化 がキーワード
・この特徴をもったシステムが「アメリカン・グローバリズム」(AG)
→ ヒト、カネ、モノがアメリカ中心に流れる。その共通の尺度として「アメリカン・スタンダード」
・アメリカを基軸とした世界経済システムの背景は、アメリカの経済力
→ GDP 世界の25%(2位日本8.7%)、貿易総額11.7%(中国6.9%、日本4.3%)と圧倒的力
・アメリカの圧倒的力は、WWⅡ以来。90年代以降の「AG」の特徴は
→ アメリカの貿易赤字。他の国は総計して貿易黒字になっているのが現在のシステムの特徴
/80年代に赤字の拡大、06年の貿易収支赤字7600億ドル、経常収支赤字8040億ドル
(メモ者 「経常収支」は「貿易・サービス収支」「所得収支」「経常移転収支〔援助、資金協力など〕」、また「経常収支」と「資本収支」は符号が逆で同額)
★現在の世界経済システムは、アメリカの貿易赤字を基礎にして、他国はアメリカへの貿易黒字に依存していることを理解することで、3つのキーワードが理解できる。
2.アメリカは貿易赤字をなぜ続けているのか。
・他の国は、貿易黒字により、利潤が増え、生産と雇用が増える /利潤決定式の理解が大事
税引き国内利潤=資本家消費+民間投資+財政赤字+貿易黒字-勤労者貯蓄…〔1〕
→ 貿易が増えると利潤が増える。では、なぜアメリカは貿易赤字を続けるのか?
・貿易赤字とは、外国の生産物を自国が利用すること。貿易黒字とは、自国の生産物を外国が利用すること
→ 貿易赤字の持続できるなら /自国生産以上の需要を充足できる
→ アメリカは貿易赤字により、外国の生産物を享受している。/現在の「世界収奪システム」
・赤字国は国内の利潤を低下させるのに、アメリカの企業が甘受しているのは何故か?
→主要企業が、多国籍化し、アメリカ一国で利潤を獲得する必要がないから。/アメリカの貿易赤字が世界利潤を増やすならば、アメリカの多国籍企業にとって文句はない。/さらに金融立国になっている。
3.赤字をなぜ持続できるのか
①一般に、貿易赤字には外資を支払わなければならない。長期の貿易赤字は不可能
→ アメリカは、自国通貨が国際通貨として通用するから、と一見思われる。はたしてそうか?
・貿易黒字でドルを獲得した企業は、自国での企業活動のためドルを自国通貨(例えば円)に替える
→ ドル売り円買いで、ドル価値が下がる /アメリカの貿易赤字が累積すると、ドル価値が下がりつづけ、どの国もドルを受け入れなくなり、ドルを基軸とした国際通貨体制は崩壊せざるを得ない。
②ドル支払いだけでは不十分。貿易赤字を埋める資本収支黒字がいる。
→ 世界がアメリカに投資を行うことがないと、「AG」は、崩壊する。/なぜ投資するのか?
(1)高金利 (相対的に。メモ者 例プラザ合意)
(2)為替レートの安定性
(3)アメリカ金融市場が高収益の金融商品を提供し続けること
4.世界に羽ばたく多国籍企業
・複数の国で活動する企業ならば古くから存在していた。多国籍企業の特徴は・・
→ 企業の一連の活動/資金調達→生産(労働、資源・原料、技術・投資など)→販売→資金回収(配当、内部留保、税支払い)という企業内分業を世界的に展開すること
*調達コストが安く資金豊富な所で資金調達→低賃金労働を利用、資源豊富な所で資源を確保、環境など生産規制の少ないところで生産→大きな市場を持つ国で販売→税率が低いところに本社を置く。
・検討すべき点/ 戦前は、企業の利益を代弁・擁護する国家が外国に進出し、相手国の政治的経済的独立を踏みにじり植民地化しようとした。そのことにより外国資本の進出には反対があった。また利益は基本的に本国に送還され、外国企業の投資が受け入れ国の経済発展に寄与するとは限らなかった。
→ 戦後は、植民地支配は難しくなった。利潤が、投資先国に再投資されるケースがおおくなり、投資先国の経済発展に寄与するケースが多くなった。ここが基本的に違っている。
5.金融資本の暴走と金融危機
・金融 もともと経済循環を円滑に行うための資金調達で、実態経済を下支えするものであったが
→「AG」の進展とともに、金融が1人歩きし、ついに暴走した。リーマンショックはその一例
・金融危機の第一の原因 /バブル ~ 投機による原油や穀物、住宅価格の上昇し、それを背景に、銀行は住宅を担保に、低所得者に貸付を行い、住宅価格の伸びが鈍化、低下することで、返済が滞り、抵当物件が値崩れした。
・第二の原因 / ローンの証券化 ~ 貸付金回収のリスクを避けようとしたが、債務者が利子や元金を払えなくなると、その影響で証券価格が下落(メモ者 しかも証券化商品の中身がブラックボックスとなったため、証券化商品の値崩れにつながった。)
・こうした金融危機は→ アメリカの景気後退→ アメリカの輸入減→ 他国は輸出減により景気悪化→ 世界同時不況に
★アメリカの貿易赤字に依存した構造のもろさを白日のもとにさらした
6世界利潤の規定要因
・多国籍企業が求める世界の利潤は、どのように決まるか?
税引き世界利潤=資本家消費の世界総計+投資の世界総計+財政赤字の世界総計-勤労者貯蓄の世界総計…〔2〕
→ 貿易黒字は、総計ではゼロとなる。
◆高成長国
・最も重要なものは投資。投資は生産力を高め、経済を成長させる。/ 世界利潤が高水準を維持するには、
高投資=高成長の国が世界のとこかになければならない。
→ 戦後、日本、NEIS、ASEAN、中国・インドと続いている。
・日本の成長は、自前成長に特徴 ~ 外資・外国系多国籍企業に依存せず、内需中心 /それ以外の国、外国依存に特徴 ~ 外資導入により外国の技術を輸入し、国内市場が十分でないので外需に依存
・経済成長規模指数 ~ある国の世界経済への影響を見るには、成長率と経済規模を総合的に見る
経済成長率%+対世界GDPシェア%
1975年 米111、日本69、NIES11、ASEAN6、中国5、インド4
1990年 米78、日本61、NIES20、ASEAN9、中国20、インド6
2007年 米72 日本30、NIES22、ASEAN9、中国72、インド18
~ アメリカは一貫し大きな影響力、2000年以降低下傾向。日本は90年代まではアメリカと並び大きな影響力、その後低下。中国は90年代以降飛躍的に成長し、07年にアメリカに匹敵
◆世界的財政赤字
・財政赤字も利潤を増やす要因/ 財政支出→需要増→利潤・生産増、というメカニズムによる。が財政赤字には限界がある。
⇒ 財政赤字増→国債発行が証券供給増に →証券価格の低下、長期利子率の上昇 →設備投資の低下
/また、需要増が、外国に向かい輸入を増やし貿易赤字を拡大する場合/ 赤字返済のための増税など
・日本の国債発行残高は巨額であり、財政再建は必要だが、大事なことは正確を期すこと
→ 「財政再建論者」は、庶民増税と社会保障カットを行うために財政危機を利用しようとしているが、
①赤字とは純負債、つまり負債マイナス資産。負債額だけが強調されている/
②政府の赤字は、必ずしも国の赤字ではない/ 国債を自国の家計、企業が購入すれば、一国の赤字にならない/ 日本の国債の93%は国内所有
③さらに国と国との関係で見れば、日本は対外債権国(約250兆円)
・アメリカ/ 国債のほとんどがドル建てであるのでデフォルトの心配は少ないだろうが
①国債の外国保有率が高い(50%弱) ②負債上限が議会によって決められている ③ドル安でドルの信頼が揺らいでいる ④国債格付けが低下
→ 大規模な新規国債発行の妨げに。
◆世界的な労働条件の悪化
・勤労者の貯蓄を減らすことによって利潤を拡大できる
→日本は、90年代に入り長期不況にかかわらず利潤は拡大。根本的な理由は、勤労者の貯蓄率の低下、つまり勤労者の所得の減少(リストラによる失業増、非正規雇用の急増、賃金抑制)
・勤労者の賃金抑制ができたのは、国内事情だけでなくグローバル化の影響
→ 外国人労働者の流入、生産拠点の移動により、労働市場が世界的になった。/賃金決定に重要なのは、雇用率と失業率~雇用率は、労働供給に対する雇用者の比率。この労働供給に外国労働が入り、雇用率が低下。
7.アメリカン・グローバリズムの矛盾
アメリカの貿易赤字を基礎にする世界経済体制の矛盾
◆経済のギャンブル化
・アメリカは世界から資金をあつめて貿易赤字を決済/ 高収益の金融商品を次々と供給し、世界から資金をあつめ、それを世界的に運用し高収益をあげようとしてきた(金融立国)/他国もアメリカを模倣し、金融資産の運用で収益を上げようとした。
→世界の金融資産 90年43兆ドル(対GDP比201%)、06年167兆ドル(対GDP比346%) /これが世界的な投機にまわり、為替変動の振幅を大きくし、金融危機を引き起こしている。
◆アメリカ経済の脆弱性
・貿易赤字により世界から財・サービスを調達するアメリカの経済力の低下
・宇宙産業、軍事産業、情報通信産業、金融業、農業においては世界のトップ水準を譲ってないが、製造業部門において既に遅れをとっている。
→ この脆弱化するアメリカ経済に依存する世界経済システムは極めて不安定
◆貧困問題
・世界のあらゆる国で貧困問題が深刻化している(メモ者 中国、南米での絶対的貧困層の減少もある)
・アメリカの貿易赤字/ 国内生産以上の需要充足という側面と、国内生産力を十分稼動せず外国生産物に依存する腐敗的な側面を持つ。その結果、失業率は10%ほどになり、国内勤労者の不満が高まっている
・先進国/ 企業の多国籍化により経済空洞化が進み、成長率が低下し、失業率が増加。労働市場が世界的になり、労働条件が悪化
・途上国/ 高成長を続ける途上国では所得は増えているが、所得と資産の格差が拡大。新興国以外の途上国の多くが成長の恩恵を受けずに極貧の生活を余儀なくされている。
・これらの貧困問題は、新自由主義の思想によって激しさを増している。
→ 新自由主義は、「AG」を支えている思想。競争と市場調整能力を絶対視し、拝金主義を煽っている。「強い者が思い切り活動すれば未来を切り開くことができる。競争から落ちこぼれる弱者は無能(メモ者 努力不足)のゆえであり、やむをえない。」 /その結果、所得と資産をめぐる分配闘争が激化し、格差が拡大
(メモ者 全国民の能力発揮を制限し、将来の経済力の基礎を掘り崩すととともに、社会不安をもたらす)
◆企業と国家、国家間の矛盾
・企業活動は、国家の枠を破ろうとするが、国家は存在している。ここから多国籍企業と国家の間に、国家間に矛盾が生じる
①投資国の矛盾/投資国は、経済空洞化に陥り、経済が停滞する。貿易収支の悪化、失業の増加など
②受け入れ国との矛盾/ 多国籍企業によって国の自主性を奪われるかもしれない。
③国家間の対立/ 資源問題に端を発する領土紛争、環境問題での利害対立。アメリカ文化となじまない仔国や民族の存在と対立の激化
④文化の多様性の喪失/ 同質化の進展による国や民族の固有の文化、歴史をつぶす危険性。同質化を強要するグローバリズムは、対立と混乱をもたらす。
◆高成長の新興国を今後も作り出せるか
・世界利潤を決める最大の要因は投資であり、高投資・高成長の国が存在することが前提。
・成長の最大の制約要因は、「環境問題」
経済成長とともに汚染物質が世界中にばらまかれ、環境問題が激化。環境問題のグローバル化~ もはや一国レベルでは解決できない、すべての国の共同事業
→ しかし、現状は「総論賛成、各論反対ないし保留」で、遅々として進まず、深刻さをましている。
/人間は、自然に働きかけ自然を変えることで(自然と人間の物質代謝)、現在の生活を享受しているが、自然の摂理を無視した行動が環境破壊という形で人間に復讐している。
→ 原発「安全神話」はその典型
☆自然とどう向き合うかが問われている
・汚染処理に関する技術が一定のとは、環境問題と経済成長は二律背反の関係にある(メモ者 自然エネルギーへの加速度的な投資の拡大をどう見るか?)
・高成長国が生まれ続けないと、世界に高利潤を追求するアメリカン・スタンダードは崩壊するだろう/環境問題を解決できないと、人類の存続が危うくなる(マルクス、エンゲルスの解明、指摘!)
⇒ この解決には技術革新が不可欠である。それが実現するかどうか。/高利潤の追求を目的としない経済システムを作れるかどうか、に人類の運命がかかっている。
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