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「保育の市場化」の経済的本質 備忘録

 保育高コストや規制緩和による効率的で多様なサービスなど「主張」する「保育の市場化」論を批判的検討したもの。
関野秀明・下関市立大准教授「福祉・保育労働者は低賃金でよいか 『市場重視の社会保障改革』の経済学的本質」(「経済」2011/10)の備忘録
 関野氏の論考は、「資本論」と現実と切り結んでいて興味深い。以前にも「備忘録」がある。
【「非正規労働は『自己責任』なのか ――「資本論」の産業予備軍論に立ち返り考える」2010/10】

【福祉・保育労働者は低賃金でよいか

「市場重視の社会保障改革」の経済学的本質   関野秀明・下関市立大准教授 「経済」2011/10】

◇はじめに
・「構造改革」派の社会保障、特に公的負担を攻撃する論点 ~福祉が「補助金漬けの不効率な公的経営」であることが効率的なサービス拡大を妨げている。
→ その「目玉」として国民の運動で守られてきた保育分野の「改革」を急ピッチで推進

・「新システム」中間とりまとめ(7/27)にみる重大な改悪
①幼稚園、保育園に直接交付される補助金を原則廃止し、保育サービス提供の公的責任も廃止。/かわりに、利用者個人へ補助金を給付し保育所と個人を契約させる「利用者補助金」方式。

②保育の「最低基準」は廃止。自治体の条例に任せた上で行政の「許可制」から、条件を満たせば自動的に企業も参入できる「指定制」へ。

③価格(保育料)について利用者から上乗せ徴収を認める「自由価格制」の導入。
 → これは公的保育を解体するもの
・本稿は、市場重視の社会保障」論を主張する鈴木亘学習院大学教授の「保育改革論を批判的に検証する。

1.「待機児増加の原因は保育士の高賃金」なのか。

・ 鈴木説“保育士の給料が高すぎて保育所の運営費が過大になり、保育所増設を財政的に妨げている”とし、東京武蔵野市を例に、常勤保育士の年収は、市職員とほぼ同じ740万円程度、退職積立金や社会保険料を加えると人件費ベースで900万円強と述べている。
 →高コストの原因として、公立保育所の正保育士が、地方公務員俸給表に従っているので、国の補助金の「保育単価」の人件費をうわまわっており、地方自治体の一般財源で運営費を補っていると「指摘」。/調理施設を持たないといけないとの規則が、外部からの給食搬入ができないこと、常勤調理師も高年収であること、災害時緊急避難や障害児対応のために、国の定めた最低基準以上に保育士を配置も「驚くべき高コスト体質」を形勢し、/ 80万人の定員増には、年間1兆1千億円、当初では2-3兆円の公費投入が必要、と説く

2.保育労働者の低賃金の現実

・福祉・保育政策の専門家のアンケート調査 (金沢誠一、浅井春夫、福祉保育労)
  正職員であっても月収15~25万円が60%、年収800円以上に相当する月収50万円以上は、0.1%
・国の「保育単価」では、月収19万5228円 /実方伸子「保育現場の貧困」 、

・06年「賃金構造基本統計調査」では  / 〃
 「現金給与の比較」~
  保育士・男22.9万、女21.8万  全職種平均・男37.9万、女23.9万
    と「保育士の処遇の劣悪さは他職種と比べても顕著」と指摘

 「平均年齢の比較」~
  保育士・男29.2歳、女32.9歳  全職種平均・男41.8歳、女39.1歳
    と「低賃金が雇用継続のネックになっている」と指摘

・非常勤保育士の給与 「保育単価」では、1日592円(時給換算740円)

★実態調査では、正規の賃金も全職種平均と比較し低いこと、ワーキングプア的な非正規職員が多いこと(メモ者 公立では約5割)、若年層が多くの継続困難な職種であることを示している。

3.保育士の専門性と賃金・労働条件

・待機児解消には、児童福祉法24条に基づく認可保育所の増設と、保育士の増員が不可欠
 ~ 保育士の賃金を切り下げて、児童福祉法で定められた保育を保障することができるのか?

・現場は、「保育士不足が深刻」「募集しても職員がなかなか集まらない」
 → 資格保持者167万722人、登録者73万464人、実際に働いているのは34万4209人
 (メモ者 学童保育指導員などに、保育士、教員などの資格を求めている自治体も多い )
 → その理由は、処遇や労働条件のまずしさにある(浅井、金沢)。

・鈴木氏が、保育士賃下げ論に固執する理由
→ “保育労働は、低賃金でも容易に供給を確保できる単純労働”でとする誤った前提
 同氏「伝統的に家族が担ってきた保育と介護は、経験者の指導と監督があれば、熟練していない人でも十分担い手になれるはずだ」(朝日09/4/19付)

 ★単純なのは、同氏の「保育労働観」

・保育士の賃金・就労と、待機児問題解決とを経済学的に正しく関連づけるには
→ 保育労働の専門性についての正しい認識が前提

・保育の専門性(浅井春夫氏)
①高度な専門的知識・能力を持ち社会的期待と責任を担っていること
②専門の教育と訓練を受けていること
③一定の資格を持つこと
④安定的な生活が保障される賃金体系であること
⑤現場で専門的職員集団の発達が保障されていること
(メモ者 急速に発達する子どもの発達の節目の援助〔0-5歳年齢児2年ずつ受け持っても、一人前に12年と聞く〕、障害や虐待の早期発見、親の不安、悩みに応え親の成長を支援する、貧困問題など福祉の現場につなぐなど、そのためには「子どもカンファレンス」とも言える場の保障が必要である。)

・保育士の賃金を構成する労働力の価値には、この専門性を担う価値が含まれなくてはならない
→ 福祉の仕事は、国民の人間らしく生きていく権利を保障する仕事であり、福祉労働者の生活が、よい文化にふれ、ゆったりと睡眠をとる健康で文化的なものであることが前提である。
 (メモ者 介護労働者の劣悪な状態が、心身ともの余裕を奪い、高齢者虐待の一つの誘因となっている)

・保育労働の専門性を継続的に育成する賃金とは?

 子どもの成長と発達にかかわる「初等教育教師」の賃金との比較検討
 → 欧米5カ国の比較 96-200年(三富紀敬氏)
   米42%、英50% に対し、デンマーク76.1~85.9%、スウェーデン84%、フィンランド81%
 → 職業資格保有率    英米20~30% に対し、北欧3カ国 66.6~98%
 → 継続的教育訓練の場  英米なし、デンマーク「助手に18ヶ月の訓練コース、全員に年最低3週間の訓練」、スウェーデン「助手に大学教育機会、全員に年最低30日間の訓練」
 → 離職を示す「年間稼働率」 英30%、米23-59%、デンマークは11%

・日本の場合(07年学校統計調査、07年賃金構造基本調査から筆者試算)
保育士、月額21.72万円(32.9歳)  初等教育教師 36.55万円(44.4歳) /比率は59.4%と「構造改革」を進めてきた英米に近い数字

・資本論の解明 (第一部第二篇第4章「貨幣の資本への転嫁」)
労働力の価値 ①労働者自身の維持費、②家族の生活費、③労働者の技能や専門性の育成費

→③が満たされてない労賃は、労働力の価値以下の低下であり「標準的品質」を保つことができない
「その場合には労働力は、ただ萎縮した形態でしか維持され発揮されえないからである」

→ 保育労働者のさらなる賃下げは、保育所の増設どころか既存の保育所における保育士の疲弊と保育の質の低下を招き、保育所そのものの運営させ危機に陥れることになる(人手不足のさらなる深刻化)

4.低い保育料が待機児童増加の原因か?

・鈴木氏~保育への公費投入の多さ(自己負担の少なさ)が、過剰な保育需要を生み出し、待機児を生む
 /この「論」は、医療・介護にも援用され、「待機者」問題の「原因」とされている。

→ 「保育士の高賃金」のせいで保育所増設をさまたげられている被害者として描かれた国民は、一転してコスト感覚を失いサービスに群がる迷惑な人とされてしまう。
・同氏は、「0歳児一人当たりにかかる運営費」は50万円で、「保育料負担が平均2万円」、「実に48万円の公費が投入されている計算」になると「主張」する。

5.社会保障支出・公的負担の現実

 「社会保障事業における過大な公費負担」「公的保育への過剰な補助金投入」という「謬論」に対して

(1)社会保障と財政との本来あるべき関係から見る
①国民の生存権は最優先に保障されるべきもので、財政はその目的に用いられるべきで、財政のために社会保障があるのではない。

②税、社会保障の負担は、生計費非課税・応能負担原則という経済民主主義の立場をつらぬくこと。

③子ども関連予算は、経済・財政・社会保障の将来的な土台に関わる問題であり、現在の財政制約のみ考える矮小化した立場に立たないこと。

(2)日本の社会保障事業、公的保育への補助金は、諸外国と比べ過剰ではない(むしろ少ない)
①GDPに占める社会保障の公的負担の割合(08年)
 日5.4%、英13%、独9.9%、仏9.3%

②社会保障負担における大企業を中心とした事業主負担(08年)
 日5.5%、英5.9%、独8.6%、仏6.3%

③子ども向け公的支出のGDP比(07年)
 日0.8%、米0.7%、英3.2%、独1.8%、伊1.4%、仏3%、スウェーデン3.4%

④保育所運営基準の低さ

・職員1人あたりの年間研修費 1520×2日分 /月253円 (08年)

・一般生活費(給食材料、保育材料、炊飯食器、光熱費)
   3歳未満 月額9550円  / 3歳以上 6466円(給食主食費除く)

・「0歳児1人の運営費50万円」は「数字の詐術」
   保育士配置基準  0-2歳 2-3歳 3歳 4-5歳 
    アメリカ    4対1 4対1 5対1 7対1
    イギリス    3対1 4対1 8対1 8対1
            乳児 1~2歳 3歳  4歳以上
    日本      3対1 6対1  20対1 30対1

 →日本は、3歳以上の配置基準が以上に少ない。つまり「1歳以上の子どもの数を0歳児に換算」すると、
  子どもの数が見かけ上少なくなり(4-5歳児10人で、0歳児1人)、1人あたりの人数が高騰する仕掛け

★事実は、保育の公的負担、補助金投入の過少さであり、待機児解消には、
 児童福祉法24条にもとづき公的責任で保育所、保育士の数量を増やすこと
 保育の質を公的に保障した「数量調整」
 → 国際的に見て制度上貧困な日本の保育を、保育料を値上げして保育の需要を抑制する「価格調整」は、
   子どもを公的保育制度から追い出すだけで、公的責任の放棄である。
 → 「安ければ欲しがる」から、値上げして追い払えという「市場重視」の論理は、人間軽視の思想。

6.保育市場化論の経済学的本質

・鈴木氏の処方箋 ~ 規制緩和 3点
①自治体と社会福祉法人に限られている「参入規制緩和」/株式会社、NPOなどの参入
   「介護保険の居宅サービスの例」のように、低費用で効率的な運営ができる。
②経営努力にかかわらず「同じ公定価格」では高コスト体質は変わらないので「保育料を自由化」
③保育所への補助金投入は「自由価格を歪め」「待機児や高コスト、補助金漬けの副作用」を伴うので「(社会的弱者に)直接わたる補助金」とする。そうすれば公費投入も少なくてすむ。

・この「保育の市場化」とは
「国・自治体が保育義務・事業責任を負って直接、保育サービスを現物給付する、公立・直営方式」
→「親が自己責任で事業者と契約し、国・自治体は間接的に一部の補助金を給付する、株式会社・民間方式」
への転換。
・ 「社会保障としての保育」と「市場化した商品としての保育」には
→ それぞれが固有にもつ「目的と手段」には主客転倒というべき決定的相違がある

◎「社会保障としての保育」
 「社会全体が子どもを計画的に平等に育てること」であり、

その目的は、「全ての子どもの必要を満たす、子どもの成長を補償すること」であり
その手段は、「国・自治体が保育事業を運営する」

→ 国・自治体は、全ての子どもの必要とする保育を満たすという義務を子どもに対して負い「保育予算を数量調整(必要な水準まで予算を増やす)する」

◎「市場化した商品としての保育」
 「個人・家庭が自己責任で子どもを育てること」であり

その目的は、保育事業・ビジネスの黒字刑英、利潤性を満たし、企業の成長を保証すること
その手段は、「お客さん」としてお金を払ってくれる保護者の必要を満たすこと

→ 事業経営者は、利潤をあげるという株主への義務を負い、最も効率よく利潤を確保できるよう「価格を調整する」(儲けられる保育料を設定し、払えない子どもを市場から退場させる)

・資本論の解明「商品の物神的性格とその秘密」(第一部第1章4節)
上記のような「主客転倒」、「社会を支えあう人間関係」と「モノ、カネの交換関係」の「入れ替わり」について論述

 → 共同体的な支えあいの経済では
 “社会全体の必要が、労働に先立って事前的に認識され、その必要充足を目的に、個々の労働が最初から社会的総労働の一部分として計画的に行われる”

 → 商品市場経済では
“そのような社会的計画、社会的必要の事前的な認識は存在しない”
“個々バラバラに独立した、社会的には無計画な私的労働が交換・売ることを第一義的目的にして行われる”
“私的労働生産物の交換を通して結果的・事後的に社会的分業・必要充足が「目的」に沿う限りで形勢される”
 ~ したがって、人と人との関係・分業は、物と物との交換関係・価値関係を通してのみ成立する

・保育の市場化の経済学的本質・・・
 国・自治体を通して「社会全体で子どもを育てる社会的関係」を、親が自己責任で「お金を用立てられる限りにおいてのみ成立する商契約」に変質。
→ 「社会保障」・相互扶助としての人間関係を、モノ・カネの取引に「逆立ち」させること

7.社会保障で国の成長はないのか?

・鈴木氏「社会保障で成長は誤り」とし、
①潜在成長率が低い場合、財政支出で一時的に需要を増やしてもインフレになるだけ。潜在成長率を高める構造改革・規制緩和・企業減税が重要
②増税して政府の社会保障支出を増やし社会保障部分が成長しても、増税分他の産業への家計の支出が減って全体として成長しない
③社会保障分野は、技術的革新が少ない低成長部門。そこに資金を移すことは他の高成長部門の技術革新を阻害する
④社会保障充実で、家計金融資産が消費に回ると、その分設備・金融投資に回る資金が減り、金利が上昇し、マイナス成長となる
⑤家計金融資産の大半は、一部の富裕層の所得。富裕層は社会保障充実による消費増大と無関係

の5点を「主張」する。

・批判的検討
①「潜在成長率」は、全てのモノ・サービスが売れるな充分な需要条件の下で、共有側の資本、設備、労働力がどれだけ増やせるか、という供給側「成長率」であり。20兆円もの需要不足という現状を無視した謬論。

②⑤ 誰に増税し誰に給付すべきか、という所得再配分の基本問題。

③④は、267兆円の金融資産を海外に貸し付けるなど極端なカネ余りの現状を無視した謬論
→ 同氏の「論」は、「社会保障で成長はない」という結論だけが先にあり「需要不足」「大企業・富裕層の課税・負担逃れ」「カネ余り状態」という政府統計も無視した事実にもとづかない「理論」。

★「社会保障充実による経済成長」とマルクス
・直接には、需要の補填による消費不況対策、過剰生産恐慌という基本矛盾の緩和策、であろう
・しかし、マルクスは・・
“資本蓄積により、労働者階級の健康と寿命が危機に瀕し、経済社会の健全性が損なわれる”という文脈からも論じている。
~資本は「人類の将来の退化や結局は食い止めることのできない人口の減少という予想によっても少しも左右されない」「“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ” これがすべての資本家およびすべての資本家国民のスローガンである。それゆえ、資本は社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命に対し、なんらの顧慮も払わない」

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Comments

保育の市場化について順序立ててわかりやすくまとめられた防備録だと思います。
ありがとうございます。

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