米軍イラク完全撤退 「誤った選択」の検証を
21日、オバマ大統領は、米軍のイラクからの完全撤退が表明した。琉球新報社説が「米国は開戦の誤りも認めず、その責任も何ら取っていない」と検証を、支持した日本も含め求めている。(大手新聞は社説なし)
イラク戦争を「無駄な戦争」「誤った選択」として検証にとりくんでいる柳澤協二さん(元防衛研究所長・元内閣官房副長官補)が法学館憲法研究所の「今週の一言」は、なかなか奥が深い。
【911から10年の憲法論争に求められる新たな視点 柳澤協二 2011/10/24】
【米軍イラク撤退 これで一件落着ではない 琉球新報10/24】
【オバマ米大統領、年内のイラク完全撤退を表明 CNN10/22】
【911から10年の憲法論争に求められる新たな視点 柳澤協二 2011/10/24】911から10年が経過した。イラクは、政治的独立を回復した後も依然として混乱が続いている。アフガニスタンでは、米軍の撤退が迫る中、治安はむしろ悪化している。今年5月には、対テロ戦争の標的であったオサマ・ビン・ラーディンが殺害されたが、テロの脅威はなくなっていない。この10年の経過は、軍事力による国家の転覆がテロ撲滅には役立たなかったことを証明している。
米国内でも、多くの米軍兵士や民間人の犠牲が戦争の大義に大きな疑問を生じ、膨大な戦費負担が米国の国家財政を破綻のふちに追いやっている。2つの戦争は、明らかに「無駄な戦争」であり、政治的に「誤った選択」であった。この間、日本は、米国の対テロ戦争を支持してインド洋に自衛隊を派遣し、「同盟国の義務」という論理でイラクに自衛隊を派遣した。これらは、日本の"show the flag""boots on the ground"として米国から評価された。日米同盟は"better than ever"といわれる時代を迎え、政治的・軍事的リスクを共有する「真の同盟国」として「深化」する方向性が固まっていった。
05年5月の小泉・ブッシュ共同声明では、中曽根首相の「西側の一員・日米運命共同体」、橋本首相による「日米安保の(地域安保としての)再定義」をさらに進め、日米同盟のグローバル化を謳いあげた。こうして、911を契機に、日米同盟を唯一の拠り所とし、グローバルな軍事協力によって米国主導の国際秩序を維持するための「日米同盟基軸」路線が確立され、政権交代後の民主党政権にも継承されている。安倍内閣が進めた集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しや、民主党前原誠司政調会長が表明した憲法解釈・自衛隊の武器使用基準の見直しも、こうした文脈の中でとらえる必要がある。
一方、米国が自国経済の復興を優先し、イラク・アフガニスタンから撤退を進め、中東民主化にも主導的役割を果たせなくなった今日、グローバルな軍事協力を柱とする日米同盟基軸路線は破綻を余儀なくされている。安倍内閣による憲法解釈見直しが頓挫したのも、参議院選挙の敗北が直接の原因とはいえ、イラク後における同盟協力のメニューが見出せなかったことが背景にある。他方、前原氏の「解釈改憲論」は、日米同盟だけでなく、PKOという国連主導の秩序維持における日本の役割を意識しており、南スーダンへの自衛隊派遣が検討される中で、一定の政治的影響力を持つ可能性がある。
私は、憲法解釈の変更を一概に否定する立場ではない。例えば、57年の朝日訴訟は、生活保護水準が憲法第25条の「生存権」に合致するかどうかを問うものであったが、今日、ワーキング・プアに代表される格差の拡大の中で、「生存権」のあり方が再び問われている。それは、日本の産業構造や経済原理そのものを問う問題でもある。
同様に、グローバル化が進む今日の世界で日本と日本国民の安全をいかに守るかという課題も、戦争が是か非かといった単純化した視点ではなく、冷戦時代とは異なる多様な視点から、政策としての合理性を考えなければならない。
私が安倍・前原両氏の解釈改憲に反対するのは、第1に、戦略的基軸を依然として日米同盟のグローバル化においている点で政治的合理性がないこと、第2に、自衛隊の海外任務が人道・復興支援に限定される(べきである)以上、武器使用の拡大には軍事的合理性がないと考えるからだ。
憲法第9条を巡る論争は、つきつめて言えば、どのように国の安全を守るかというビジョンの論争である。改憲論の中には、世界の困っている人々を助けなくてよいのか、という「善意の」動機もある。自衛隊や米国を批判するだけではこうした「善意の」意見を説得することはできない。
護憲の目的が平和すなわち戦争を防ぐことであるなら、今日の国際社会における戦争の発生メカニズムを知り、それが、日本だけでなく米国や中国にとっても、政策的に合理性がないことを立証し説得する努力が必要である。
◇柳澤協二(やなぎさわ きょうじ)さんのプロフィール
東京大学法学部卒。防衛庁に入庁し、同運用局長、防衛研究所長などを経て、2004年から2009年まで内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)として、イラクの自衛隊を最初の派遣から最後の撤退まで統括。著書に「抑止力を問う」「脱・同盟時代」。
【米軍イラク撤退 これで一件落着ではない 琉球新報10/24】これで一件落着、とはいかない。イラク駐留米軍の年内完全撤退をオバマ米大統領が宣言したが、戦争の内実についても、開戦判断の是非についても、米国は何ら検証しないままだ。真摯(しんし)な総括と深刻な反省が必要であろう。
声明の中でオバマ氏は選挙公約の実現を強調したが、実態はいささか異なる。米兵の免責特権維持を求める米側と免責を受け入れないイラク側で交渉が決裂した結果にすぎない。
米兵が外国で罪を犯しても、被害者側の国が裁けず、罰を与えられない。沖縄の現実にも通じるそんな理不尽が通用しなくなりつつあることを、米国は知るべきだ。
オバマ氏は声明で「イラクに最後まで残った米兵は胸を張って帰国する」と述べたが、空疎な宣言で歴史の批判には耐えられまい。
2003年の開戦後、これまでに米軍は4400人を超える死者を出したが、イラク側の、民間人も含めた死者数はおそらく途方もない数だ。開戦当時、フランクス米中央軍司令官が「われわれはイラク人の死体を数えない」と公言していた。だから実態は不明だが、アメリカのジャスト・フォーリン・ポリシーというNGO(非政府組織)は09年1月までで133万9771人と推計している。
アブグレイブ刑務所に見られるように、米軍による人権侵害もまた、途方もない規模であろう。
ファルージャなどでは今、先天性四肢欠損症などの新生児が増えているが、米軍が無差別爆撃で使ったウラン弾との関連が疑われている。これが、オバマ氏の誇った戦争の実態だ。
開戦は大量破壊兵器の保有が理由だったが、兵器の現物はもちろん、保有の痕跡すら見つからず、米英の情報機関の捏造(ねつぞう)の疑いまで浮上した。それなのに米国は開戦の誤りも認めず、その責任も何ら取っていない。
英国は09年に独立調査委員会を発足させ、ブレア元首相の喚問すら実施し、公聴会で証言させた。一種のガス抜きという批判もあるが、ともあれ当事者の証言を国民の前に開示しようとするのは民主国家として誠実な態度である。
オランダも調査委員会を設置し、検証を進めた。米国はもとより、開戦を支持し、有志連合に加わりさえした日本も、何ら検証をしていない。撤退を機に、本格的な検証を進めるべきだ。
【オバマ米大統領、年内のイラク完全撤退を表明 CNN10/22】オバマ米大統領は21日、イラク駐留米軍を年内に事実上、完全撤退させると発表した。
オバマ大統領は「約9年間に及んだイラク戦争が終結する」と述べ、「向こう数カ月間は帰国シーズンとなる。イラクにいる米軍兵士は全員、年末休暇までに帰国する」と語った。
またオバマ氏は、イラク戦争を終結させるという2008年の大統領選での公約を果たすと述べた。イラク戦争は2003年の開始以来、米国の世論を二分し、これまでの米国民の犠牲者は4400人以上に上る。
人命の犠牲だけではない。米議会調査部(CRS)によると、過去10年間に米国防省がイラクにおける軍事活動に費やした費用は約7570億ドルに上り、同省の予測を500億ドル上回ったという。
オバマ大統領は21日にイラクのヌーリ・マリキ首相と電話会談を行い、今後の方針について話し合った。イラクの首相官邸の声明によると、マリキ首相とオバマ大統領は両国の戦略的関係の新たな段階をスタートさせる必要があるとの認識で一致し、2週間以内に高官レベルの会談を開くことで合意したという。
しかし、21日の発表に対し、共和党議員からは批判の声が上がっている。2008年の大統領選でオバマ氏と争ったマケイン上院議員は、「この決定は、中東における米国の敵、特に米軍のイラクからの完全撤退を強く求めてきたイラン政権の戦略的勝利とみなされる」とし、オバマ政権の「重大な失敗」と痛烈に批判した。
これに対し、デニス・マクドナウ国家安全保障問題担当大統領次席補佐官は、イランはすでに弱体化、孤立化しており、イラクからの米軍撤退がイランに影響を及ぼすことはないと反論した。
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