「議会改革」考
自治基本条例や議会基本条例が「ブーム」と言える状況になっており、県内でも四万十町、土佐清水市などなど、各地で、工夫と努力がされている。全体の論調として、新自由主義的「地方分権」改革の流れともかかわる側面があり、先日、地方議員団会議に報告する機会があったので、この間の問題意識を整理してみた。
【議会改革について】
Ⅰ 地方自治、住民自治の基本的な捉え方について
(1)地方議会の規定/憲法
①地方自治の規定 憲法第92条「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」
② 地方自治の本旨」は、共通理解として「住民自治」と「団体自治」
「住民自治」 地域の住民が地域的な行政需要を自己の意思に基づき自己の責任において決定すること
「団体自治」とは、国から独立した地域団体を設け、この団体が自己の事務を自己の機関によりその団体の責任において処理すること
③二元代表制 /憲法第93条第2項 「地方公共団体の長」「議会の議員」を、住民が直接これを選挙。
→ 執行機関と議会は独立・対等の関係に立ち、相互に緊張関係を保ちながら協力して自治体運営にあたる責任を有する。/「車の両輪」「チェックアンドバランス」
(2)地方自治の拡充めぐる2つの流れ
①「地方分権改革」の流れ /「国と地方の役割分担」論~ 国の社会権への責任の放棄、地域受益者負担主義を徹底するための「地方自治体」の権限の強化。それと一体での議会の役割の強化。
→ 枠付け・義務付けの廃止、一括交付金化
②国民の「福祉の向上」をめざす流れ/国のナショナルミニマムへの責任のもと、機関委任事務など国の下請け機関とされてきた地方自治体の権限の拡大。
【憲法原理をもとにした「地方分権」論】
「地域主権改革」の動向と課題について 三橋良士明・静岡大学名誉教授 2010/8
①「国と地方」というが「憲法原則である国民主権原理は、国家権力の帰属と政治支配の正当性が国民にあることを意味するが、その国政レベルにおける統治団体が国であり、地域レベルの統治団体が自治体であ」り、「『政府間関係』として、対等・並立的関係にあると理解すべき」。
②「国と自治体は、その共通の目的=人権保障=実体的価値的公共性を実現するために、それぞれの役割に応じて、ともに協力・共同すべき関係にあるのであり、国民・住民は『人権保障のための二重の統治体系をもつことを意味する。』」
③日本国は、連邦国家ではなく、「主権国家の中央集権権力の存在を前提として、地方自治(住民自治と団体自治)が保障されている」のであり、「憲法の保障する基本的人権の実現に関して国に固有の責務・役割があることを大前提として、国と自治体は、人権の保障・実現のために、それぞれの役割に応じて、協力共同すべき関係にあるということである」。そのあり方は、「各行政分野ごとの個別具体的な検討をすること求められている」
【住民自治の矮小化】
①今井照先生・福島大学教授 雑誌「ガバナンス」09年8月号
最近、「住民自治」という言葉の理解、使い方が変質しているのではないか。本来は、まさに自治体政府を住民がどうガバナンスしていくか、統制していくかが住民自治と言われてきた。
だが、最近、研究者でも「住民が自らやるべきことをやるのが住民自治だ」などと異なる使い方をしている人たちがいます。
②金井利之・東京大学教授 同 09年9月号
「近年、各地の自治体では、住民自治組織が自治体行政に依存しないで、課題解決にあたり、公共サービスの担い手となることが、『住民自治』として唱導されている。しかし、これは『住民自治の矮小化』というべき現象である」「住民の意向に従って自治体行政に仕事をさせるという、自治体に対する民主的統制の発想が『住民自治』から消え去っている」
③「被災者支援から問い直す『新しい公共』」について」 仁平典宏 雑誌『POSSEvol.11』
・被災者支援においては、NPOも、住居や収入・生計手段や医療・福祉などの社会権に属する分野までは救いようがない、健康と安全と尊厳の基盤を提供できるのは最終的に公的セクターしかない
・自治体や社会福祉協議会自体が大規模に損壊し、住民ニーズを把握できないために「ボランティアが足りている」という倒錯した状況が生まれた。公的セクターと市民セクターは相補関係であるべき
・社会的に困難を抱える人々が安心して暮らせることを公的・制度的に保障し、その上に市民の創意工夫や直接民主主義的な参加が花開くような、二層的な公共空間であるべき
(4)日本共産党の「民主的自治体論」 ~ 地方自治の性格、人件費・行政機構のあり方を規定
・「政府の出先機関」と「地方自治の機構」性格 → 地方自治の保障を主眼におく
社会党は「ブルジョア独裁の一機関にすぎない」論
・住民本位の行政を効率的な機構で
行政費用 なるべく少ないのがよい 「小さな政府」論でなく
職員定数 むだのないもの。住民福祉部門は十分確保
労働条件 生活と基本的権利を守り、住民の奉仕を果たし得るもの /欠陥・弱点は大胆に改善を
~ よって「議会改革」は、国民主権の発揚の拡大、自由権・社会権の拡大、「福祉の増進」という憲法原則を基軸にして考えるべきこと。
Ⅱ 議会改革の具体的な視点
(1)「議会の役割」をめぐる議論の状況
・執行機関とは「規定上」は、独立・対等の関係。 機能として、地方自治体の基本事項を決定(議決)する団体意思の決定機能、執行機関を監視・評価する機能の2つがある。
・二元代表制の一方として、「多様な住民の意見を反映させ、審議の過程において様々な意見を出し合い、課題や論点を明らかにしながら合意形成」し、執行部と対置する・・・という面の一面的強調
「公約」よりも「合意形成」を
「対等」にこだわり、「執行部にも反問権」などなど・・
→ 現実政治を反映した階級間の闘争・政治闘争の舞台、4年毎の審判をつうじた「改革」(公約・活動の評価にもとづく住民の立場に立つ議員の増加)としての側面が欠落、強大な官僚機構を持つ執行部機構の存在を無視した「議会改革」をめぐる「混乱」が生じている。
(2)議会の機能強化を実態から考える
①自治体のブラックボックス化を防ぐ ~ 議会の権能
アウトソーシングのひろがりとともに、議会が関与しないブラックボックス化が広がっている。
a 条例化など制度、ルールの透明化促進
・条例 、地方自治法第14条
1 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。
2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがあるものを除くほか、条例によらなければならない。
3 (略)
・規則 、地方自治法第15条 /議決を必要とない。義務・権利に関するものは条例化を
1 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。
2 (略)
・要綱、要領 (整理して公開を、必要なものは条例化を)
行政内の内部規定。しかし、料金や減免規定が要綱にうたわれたりしている場合がある。
b 業務委託契約
地方自治法には、議決は、一定の予定価格以上の「工事又は製造の請負」に限定。
それ以外の委託契約は金額がいくら多くても議決を要しないし、報告する義務もない。
→ 地方自治法96条第2項において、条例で議決事件を追加することができるとされている。
【04年 全国町村議長会・調査 】
・市町村が議会の議決を経て定める「基本構想」を「基本構想及び基本計画」に改めること。
・住民生活に直結する高齢者保健福祉計画、一般廃棄物処理計画等個別計画のマスタープランを議決事項に追加すること。
・事務・事業の民間委託、企業と結ぶ公害防止協定等私法上の契約で重要なものは、法定の議決事項に追加すること。
・地方公共団体が設立した公社及び出資法人等に対し、議会が直接関与できるよう改めること。
c指定管理者制度 ~ 選定の過程がブラックボックス
倉敷市の例 候補者選定過程の「議事録」の公開、アンケート調査と評価結果の公開
d覚書、念書の公開
e調査権について 国会議員 個人に調査権 /地方議会 議会にはあるが議員にはない。
→ 議会基本条例で、“議会の調査権を補完するものとして、議員の調査活動に職員は最大限協力する。議員は「住民の福祉の増進」という地方自治法の範囲で調査にあたる”などの規定を
②住民参加
・基本/ 住民参加の大道は「議会」
→ 選挙の規程、議員報酬 /「ヒマと金」がある人だけを対象とすることを原理的に拒否
→ 議会と住民の距離を縮める努力を /党として、議会報告、アンケート、要求懇談会
・議会の公開、インターネット中継、議事録、出前議会、報告会、請願・陳情の意見表明・・・さまさまだが
その中でも、議員の予算、条例、意見書、請願などへの賛否の公開を重視したい。
・公聴会、住民投票条例
・パブリックコメントの改善
そもそも執行部側のとりくみだが/出された生の意見ではなく、執行部側が主旨を解釈して要約・整理して、そのうえで回答
→ 意見を出した人も自分の意見がどれかわからない。
→ 議会としても行うとか、議会には意見そのままを公開するなど改善を
③議会の活性化
・議会事務局の充実 ~ 修正案、条例作成、他自治体の政策調査などなど
・十分な審議時間の確保
事前の議案等の説明、勉強会
議案質疑の充実… 質疑と一般質問の分離
決算委員会の閉会中審査など
・議会質問について
事前通告の功罪と2問、3問の活用 /一問一答形式の採用
正確な情報・内容を答弁させるためには通告は必要と思う。その上で
反問権 /強大な権限をもつ執行部をチェックするのが議会の重要な役割
質問潰しに使える/ 質問意味の確認等に限るべき、と思う。
・インターネット中継やケーブルテレビの放送により活発になった例
(4)議会の民主的運営
・二元代表制の地方議会の運営に、議員内閣制の国会の制度が影をおとしている。
代表質問、質問時間、会派の基準など少数議員の排除 ~ 議員平等の原則から外れる
おわりに ~ 基本をおさえた上で、自由闊達なとりくみを
« われわれ富裕層に増税を 米投資家 | Main | 民・自 「ビラ」をめぐって国会空転 »
「地方自治」カテゴリの記事
- 2024.11地方議員学習交流会・資料(2024.12.02)
- 24年9月 意見書決議・私案 「選択的夫婦別姓」「女性差別撤廃・選択議定書」(2024.09.05)
- 24年9月議会に向けて 意見書・私案1(2024.08.31)
- 「指定地域共同活動団体」~地方自治法改定による新たな課題(2024.08.17)
- 202408地方議員学習交流会資料+α(2024.08.15)
「公務の民営化」カテゴリの記事
- 「指定地域共同活動団体」~地方自治法改定による新たな課題(2024.08.17)
- PFI事業 検証した27件全部で割高 会計検査院(2021.05.19)
- 「スマート自治体構想」と公務労働 (メモ)(2020.03.29)
- 日本郵政の迷走は「民営化」という構造改悪の結果(2019.10.22)
- シルバー人材センターによる公務職場の置換え・・・会計年度任用の本格導入を前に(2019.10.08)
「備忘録」カテゴリの記事
- 2024.11地方議員学習交流会・資料(2024.12.02)
- 「賃上げ・時短」政策と「人手不足」問題~ カギは、持続可能な働き方(2024.10.01)
- 202408地方議員学習交流会資料+α(2024.08.15)
- マルクスと自由・共産主義と自由 メモ(2024.06.27)
- 2405地方議員学習交流会・資料(2024.05.16)
Comments