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面積基準 「緩和」撤回し充実を  日本保育学界

 「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進」を口実に、面積、安全基準など保育水準を引きさげる「自由」を拡大する政府案について、日本保育学会が意見を表明している。 
 国際的にも低い保育環境をさらに悪化させる。震災・災害の国という状況を無視している。自治体が求めて忌めるのは国庫負担の復活など財政支援、として問題点を指摘し、「規制緩和の撤回」し、その充実こそを求めている。
 保育を、子ども預かり業に変質させる「新システム」といい、民主党のチルドレンファーストが泣く。
【 「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(以下「整備法」)の施行に伴う児童福祉法施行規則等の一部改正に関する意見書  2011年8月10日  日本保育学会】

【 「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(以下「整備法」)の施行に伴う児童福祉法施行規則等の一部改正に関する意見書  2011年8月10日  日本保育学会】

日本保育学会は2009年10月地方分権推進委員会第3次勧告の保育所最低基準廃止・地方公共団体への権限移譲や規制緩和の提案に対して反対し、国による良質な保育環境保障への政策拡充を要請して緊急アピール声明を発表しました。特に面積基準や保育士の配置等「国際的にも低い水準」にあり、「さらなる規制緩和は保育環境の崩壊に繋がりかねない」ため、国、自治体は、「将来を担う子どものために、子育て・保育施策の拡充を最優先施策」として取り組むことを要請しました。

さらに日本弁護士連合会はこの「整備法」(当初は「地域主権改革推進一括法案」)の審議についての意見書(2010年12月)において、「保育、教育の分野にも重大な影響が及ぶ可能性があるため」、「最低限、具体的影響を精査し、影響を受ける当事者の意見を十分聴取したうえ、拙速を避け、国民的論議をふまえた慎重かつ徹底した審議がなされるべき」と要請しています。

 この様な要請があったにもかかわらず、「整備法」の審議自体、「慎重かつ徹底した審議」のないまま成立されています。今回に関連するなら、厚生労働省令(児童福祉法施行規則)で定める「基準」における「従うべき基準」と「参酌すべき基準」について、その線引きについてもきわめて曖昧で、実態をふまえた審議さえ行われていないのです。

 日本保育学会は、今回の「従うべき基準」に係わる「保育所の居室面積に係わる基準」についての特例措置関するパブリックコメントについて、前述の日本保育学会緊急アピール声明をふまえて、以下の意見を表明します。

1.保育所に係わる居室の床面積の基準は、現在の基準では一つの狭い部屋で遊ぶ・食べる・寝ることをこなしているのが実情です。本学会会員も研究メンバーとして参画し、2009年3月に公表され、厚労省に提出された「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業 総合報告書」(全国社会福祉協議会)では、現行の保育環境の厳しい状況が明らかにされ、日本の住宅計画の基本概念である「食寝分離」を実現する環境にすべきという考えが示され、そのためには、 少なくとも二歳未満児は3.3㎡を4.11㎡に、二歳以上児1.96㎡を2.43㎡に改善することを提言しています。

 このような状況の下で、「チルドレンファ-スト」が叫ばれているにもかかわらず、一定の地域に限定するといっても、保育環境のさらなる悪化をつくりだすことは明白です。しかも、「従うべき基準」には「人員配置基準」、「居室面積基準」の他に「人権に直結する運営基準」と定められていますが、自園調理の原則を示しながら「特例」で外部搬入を承認し、子どもの生活に係わる保育時間も参酌基準、園庭も規制緩和で条件付き設置となり、さらに屋外非常階段や避難上有効なバルコニーの設置などを内容とする耐火構造についても参酌基準となっています。子どもの人権に係わる基準が次々と参酌基準等に引き下げられている中で、さらに居室の床面積を狭めようということは保育環境の劣悪化を一層促進することでしかありません。

 大都市部であればこそ、幼い子どもたちの保育環境を少しでも改善するように国、自治体、そして住民が総力を上げて優先的に取り組み、改善の方向で格差の是正を進めることこそ緊急にすべき課題です。国はそのリーダーシップを発揮する責任があります。

2.今回の特例措置は、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進」を目的に、待機児童解消を理由に厚労省省令で定める基準を一部緩和するということです。ここで大切なことは、「地域の自主性及び自立性」をどのような方向で高めるかということです。憲法、児童福祉法、子どもの権利条約を踏まえ、子どもの権利を保障する立場に立つなら、国際的にも低い水準にある保育環境を少しでも改善する方向で「地域の自主性及び自立性を高める」ことが大切なのです。国は国際的動向や全国的状況をふまえて、改善の指針を示すことこそやらなければならない課題と言えます。

3.大都市部における保育環境については、すでに規制緩和で園庭のない保育所が容認され、今回の特例措置で狭い部屋にもっと詰め込むことを容認するだけでなく、さらに、屋外非常階段や避難上有効なバルコニー等避難設備の設置義務も規制緩和するということは、保育保障の最も基本的な子どもの安全と安心を保障する国の責任を放棄しているに等しいといわれても致し方ないのではないでしょうか。

 むしろ、震災・災害の国といわれている日本にあって、震災・災害を想定して安全・安心な保育環境を日常的に整備しておかなければならないのです。園庭や避難設備の設置義務もなく、詰め込みの狭い部屋という保育環境で、幼い子どもの安全と生命が危険にさらされることは火を見るより明らかです。そうした事態が生じてからでは手遅れなのです。私たちはこのような危険な状況が想定されることをとても見過ごすことはできません。

4.「地域の自主性及び自立性を高める」という趣旨からするなら、保育の責任を担っている区市町村が積極的に望んでいるか否かの慎重な検討が必要です。前述のように「整備法」の審議においても、「具体的影響の精査」や「当事者の意見を十分聴取すること」等慎重な検討がされないまま法案が成立されています。このことを踏まえるなら、保育行政の当事者である区市町村の意見や要望を十分聴取しなければならないのです。

 東京特別区議会議長会は平成23年度国への要望書「保育待機児童解消に向けた自治体支援」(2010年8月)として、まず「公立保育所整備のための土地取得の補助制度の創設及び一般財源化された公立保育所の運営費、建設費への国庫負担を復活させること」を要望し、国有財産の情報提供、国有地の優先的な払い下げ、私立保育所に対する運営費補助の拡充等を要望しています。さらに東京都社会福祉協議会「保育所待機児童対策に関する区市町村調査結果」(対象・都内保育主管課62ヶ所 2010年9月調査)では、安心子ども基金の平成23年度以降も継続か同種の補助制度の創設、待機児童解消のための公立保育所の整備や運営に対する補助等の要望が出されています。多くの自治体は待機児童解消のための国の財政支援を強く求めています。面積基準の規制緩和を積極的に望んでいるわけではないのです。

 国が一方的に面積基準の緩和を示すことは、「地域の自主性及び自立性を高める」ことになるとはとても思えません。地域が望んでいない規制緩和を押しつけることは、「地域の自主性及び自立性を高める」ことに背くことになります。

 以上の理由から、居室面積の緩和は子どもの生命と安全の確保、たのしい生活を営めるような保育環境の改善に逆行する政策であり、認めることはできません。むしろ、保育環境改善のあゆみを進めるためには、面積基準の規制緩和を撤回し、保育士の配置基準や保育室の面積基準の改善、園庭の規制緩和の撤廃、園長や主任保育士の配置やクラス規定・規模の明記、子どもの生命に係わる避難設備等設置義務化等について改善策を迅速かつ計画的にすすめることを要請します。また、規制緩和などの理由となっている待機児童解消については、保育所不足が原因であることは明白であり、保育所整備を進めている区市町村への積極的財政支援を国の責任で緊急に行うことを要請します。

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