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子どもの貧困と子育て「新システム」 

「 子どもの育ちと貧困克服の展望」 浅井春夫・立教大学教授(経済2011/9)より
 そのうち、最後の「求められる本来の子育て支援策」の部分--  「子ども・子育て新システム」は、児童福祉としての保育を骨抜きにし、保育を必要する子ども・家庭を遠ざけ、「子どもの貧困」克服に逆行するものと批判する。また、子どもの貧困は、教育機会の剥奪に集中的にあらわれるとし、真の無償化、給付型の奨学金、定時制高校の重視など、提案している。
 以下、備忘録

 全体の備忘録→ 「20110821.doc」をダウンロード

 【求められる本来の子育て支援策】

◆「子ども手当」重点主義ではなく
・民主党の子育て支援策 現金給付に力点  月2.6万円 年31.2万円/半額支給 2010度2.7兆円
 → 現金給付は、子どものために使われると限らない / 児童のいる世帯の所得 97年767.1万円 → 09年 688.5万円。78.6万円減となっており、生活補填につかわれる可能性が高い
 ~博報堂 意識調査(09年、中二以下の子どものいる世帯、1418人)
  「将来的に教育・育児に使用」42.5%、「給付年度内に生活全般」24.5%「給付年度内に教育・育児」24.8%
・経済的支援という点では、意味があるが、保育所整備、医療費無料化など現物給付との総合的施策が必要

(メモ者→ 現金給付に偏るのは、保育、教育などの市場化、バウチャー制度という、個人の責任によるサービス購入に、現在の児童福祉法などにもとづく制度を変質させることと一体であるから)

◆「子ども・子育て新システム」と児童福祉としての保育

・何のための制度改革か。政策評価の視点
①保育の公的保障は、拡大するのか、縮小するのか /児童福祉法24条を活かすのか、骨抜きにするのか
②保育所保育、幼稚園教育は、発展するのか、後退するのか
③子どもの権利は豊かになるのか、貧しくなるのか
④保育・教育分野の労働条件は向上するのか、ワーキングプア化するのか
⑤国・自治体の公費投入は拡大するのか、縮小するのか
⑥各事業体が、経営的にみて安定するのか、不安定になるのか

・学校教育現場では、教育機能とともに福祉機能の拡充が求められる。保育現場では、子どもの成長にとっての教育機能が求められる。

・新システム 3歳未満の教育の排除、3歳以上の利潤追及化 
「子ども子育て新システム」は、幼稚園と保育所を一体化し「こども園」する考え。
→「こども園」の保育の考え/3歳以上は、標準的な教育と保育を保障するが、3歳未満は、保護者の就労時間に対応する保育に限定 /3歳未満児は、「標準的な教育」を排除
→ 3歳未満は、子ども預かりサービスになる(集団行動、集団の中での育ちが疎外)
    3歳以上 幼児教育の内容に特色を持たせ、オプション料金に連動し「儲け」の対象とする。

・児童福祉としての保育から見ての大きな問題
 子どもの虐待への対応/児童福祉施設として保育所は、虐待防止と日常的ケア・支援する重要な役割
  → 新システムは、直接入所契約。/保育を必要する保護者が自ら契約を結ぶこととなり、困難な状況にあるほど、保育所制度から遠ざかることになる。また、事業者からの逆選択の危険もある。
 
①もっとも困難な状況にある人にこそ優先して権利保障をするという福祉機能が低下する

②料金が、公定価格+オプション価格となり、お金のない家庭ほどオプション部分を使えず保育内容に差が生まれ、無差別平等の福祉の原則が崩れる

③保育料の高騰は、子どもの貧困の緩和に逆行し、所得格差が保育内容の格差と連動し、「福祉としての保育」の機能が無視される。

④保育の必要性の認定が2段階(保育の短時間利用、長時間利用)となり、4時間で帰る子、8時間の子と分断され、子ども集団の形成上、多くの問題がある。

⑤市場原理の導入、保育が儲けの対象となり、体制の細切れ化がすすみ、保育労働者の貧困化が進む(メモ者 それは専門性の低下にむすびつく) 
 
~ 児童福祉を骨抜きにする危険をもつ「新システム」 /今、もとめられる改革は、60年間も改正せずに放置している、4.5歳児30人に対し、保育士1人という職員配置の最低基準の改善

◆求められる支援の視点 ――子ども個人を単位として政策展開
・「子どもの貧困」を克服するための4つ政策視点

①子ども個人を単位=権利の主体と位置づける
  これまでの児童福祉・教育政策の基本的性格は、家族責任論。そのもとでの家族支援策 
→ 子どもの生活改善に直接活用されることをめざした施策

②「劣等処遇の原則」から「積極的格差改善の原則」へ
   劣等処遇~ 一般の市民レベルを超えない範囲で処遇するというもの。
根底に、扶養義務者の努力不足、自己責任論がある。
積極的格差是正~ 実質的意味での平等の保障。えぐられてきた発達保障の機会、格差を、上乗せした支援で是正する。

③貧困の世代間継承を克服するため、大学等を卒業し、一定の生活的安定が確立されることを目標に、施策を整備する。若者が自立して生活できる年齢まで、施策対象年齢を30才まで引き上げる

④包括的長期的展望にたった政策展開をすすめる。

◆労働政策、住宅政策、福祉・医療政策

・児童福祉、保育政策(脱「子どもの貧困」への処方箋 参照)以外の基本的な施策として必要なこと
・非正規雇用による収入の低下、雇用の不安定化など国民全体の貧困化をストップさせる働くルール
・稼働所得比率の高さ、不十分な所得再配分機能の是正
・子どもの医療費無料化制度が緊急に求められる。

◆脱「子どもの貧困」のための教育政策

・人生のスタート時点から、教育権が平等に保障される具体的施策が必要

・教育費の無償化の促進
 就学援助制度 一般財源化による引き下げが全国で横行
   給食費を除いて実際に学用品等にかかる費用が補填される割合 小学生45%、中学生46%
  → 高校の授業料無償化を第一歩にして、教材費、修学旅行費など教育費の無償化が必要

・給付型奨学金の創設、大学、高校の授業料免除制度の抜本的拡充

・定時制高校を「子どもの貧困」の視点から捉え ①統廃合計画の凍結 ②希望者全員の定員枠 ③閉口した学校を必要に応じ再開する ④健康保障の視点から、給食の充実、

~ 「子どもの貧困」の実態は多面的であり、決定打はない。子どもの福祉全般に及ぶ幾重もの政策が、克服につながっていく。「子どもを大切にする国」にするために、国と自治体に役割を発揮させること、そのための国民的な運動が必要。今日の運動には、政策立案・提言づくりが求められている。

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