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内部留保の検証 ~ 活用は可能 労働総研

 労働総研が、内部留保をめぐるいくつかの議論を検証し、「活用は可能」とのレポートを発表している。
目次は以下のとおり。
・内部留保とはなにか?
・内部留保はどのようにしてため込まれたのか?
・内部留保は設備投資などに使われている?
・内部留保は負債を担保するためのもの?
・企業は内部留保とほぼ同額の負債をかかえている?
・内部留保といっても賃金などの原資に変えることはできない?
【内部留保をめぐるいくつかの議論について――内部留保の活用は可能である 】

 図、表は、省略。元のサイトで見てください。

【内部留保をめぐるいくつかの議論について ――内部留保の活用は可能である】

◆はじめに
 労働総研は、企業の内部留保について、歴史的な分析を踏まえて、この間、様々な提言をしてきました。ことし4月には「雇用と就業の確保を基軸にした、住民本位の復興――東日本大震災の被災者に勇気と展望を」を発表し、復興財源に内部留保をあてることを提起しました。また、内部留保を活用して賃金や労働条件、雇用の改善をはかることの重要性を明らかにした春闘提言――「働くものの待遇改善こそデフレ打開の鍵――企業の社会的責任を問う」(2010 年12 月)、「経済危機打開のための緊急提言――内部留保を労働者と社会に還元し、内需の拡大を!」(2009 年11 月)なども公表してきました。
 これらの提言に共通するのは、日本の企業が内部留保を過剰にためこみ、それが外需依存・内需低迷という日本経済の脆弱な体質をつくることになっていることを具体的に明らかにしたうえで、内部留保を活用することの重要性を指摘し、それが日本経済の国民的再生につながることを強調していることです。

 内部留保については、いまでは労働総研だけではなく、連合総研や富士通総研、さらには新日鉄系など民間シンクタンクのエコノミストも、労働者の賃上げなどに活用すべきと主張するようになっています。厚生労働省「09 年労働経済白書」も、日本経済の内需型成長に向け、過剰な内部留保を賃上げなどに配分して総需要喚起を提言するようになりました。

 ところが、内部留保の活用について、一部の人たちから、「内部留保の積み立ては必要」「内部留保は流動負債を担保するもの」「内部留保は貸借対照表の資本の部だけを見て、負債の部は見ていない」などの反論がおこなわれています。労働総研が主張する内部留保活用論を否定しようとする主張です。

 この小論では、これらの「反論」を念頭に置きながら、内部留保は、労働者の賃上げや労働条件、雇用の改善はもちろん、東日本大震災の復興財源としても活用できるということを改めて明らかにしたいと思います。

◆内部留保とはなにか?

 まず、内部留保とは何かということです。一般に、内部留保は、利益のうち、配当や役員賞与などで流出せずに、企業内部に留保した部分の累計額といわれます。具体的には、貸借対照表上の「純資産の部」にある「利益剰余金」(利益準備金+その他利益剰余金〈積立金+繰越利益剰余金〉)をさしています。これは、公表された財務諸表に示されていることから、公表内部留保と呼ばれ、もっとも限定した内部留保であることから、「狭義の内部留保」といわれます。この狭義の内部留保概念については、会計の学者・専門家のなかでも異論が少なく、一般に認められているものです。

 しかし、労働総研は、内部留保は、「狭義の内部留保」にとどまるものではないと考えています。企業は、隠れた利益の蓄積を含む実質内部留保をため込んでいるからです。実質内部留保は、「引当金」「特別法上の準備金」、「資本剰余金」が該当します。これらを含めて「広義の内部留保」といわれています。(図表1「内部留保の内容」 略)

 労働総研が考える内部留保は、この「広義の内部留保」の概念を取り入れています。その理由です。まず、「引当金」や「特別法上の準備金」です。これらは、将来の支出に備えるものとして計上されますが、費用として計上されても現金では支出されないので、実際には資金の留保となっています。ですから、日銀もかつては、「主要企業経営分析」のなかで、内部留保について「利益準備金、任意積立金、当期未処分利益のうち配当金、役員賞与を除いた額」に加えて、「特別法上の準備金、引当金」をあげ、その合計額を内部留保と
していました。労働総研と基本的に同じ考えにたっていたのです。

 次に、「資本剰余金」です。これは、「資本準備金」と「その他資本剰余金」からなっています。「資本準備金」は、株式発行によって得た株主からの出資金のうち、資本金にしなかった残りの部分です。 株主からの出資金のうち、いくらを資本金にして、いくらを資本準備金にするかは企業が決めることができ、会社法では、出資金の半分以上を資本金に、残りを資本準備金にしていいことになっています。 「その他資本剰余金」とは、会社法で定める資本準備金以外の剰余金で、資本金の減資差益や自己株式の処分をした場合等に生ずる差益などです。
 この「資本剰余金」を内部留保として位置づけるかどうかについては、以前は、専門家・研究者の間でも議論が分かれていました。しかし、最近では、内部留保に加える考え方の方が一般的です。
2006 年の新会社法改定で、「その他資本剰余金」を取り崩して配当することができるようになり、また、「資本準備金」を取り崩して「その他資本剰余金」とすることも認められるようになりました。そのため、「資本準備金」は「利益剰余金」に類するものとみなされるようになったのです。こうした経過を経て、「資本剰余金」を「広義の内部留保」の一部として考えることが妥当であるというのが研究者のなかでも一般的に認められるようになりました。

 労働総研は、「狭義の内部留保」である「利益剰余金」に加えて、「広義の内部留保」を加えて、内部留保と考えています。なお、「広義の内部留保」には、減価償却費の過大償却部分や株や土地の含み益も含まれますが、これらは、具体的な金額を計算するのが難しいことから、内部留保の金額としては計算していません。

◆内部留保はどのようにしてため込まれたのか?

 日本企業は、もうけた利益を、内部留保として企業内にため込んできましたが、1998 年度をターニングポイントとして、急激に内部留保を積み増しするようになりました。1998 年度以前の10 年間の内部留保の推移をみると、1988 年度の159.6 兆円から1998年度の209.9 兆円へと、50.3 兆円しか増えていません。1 年間の内部留保平均積み増し額は5 兆円です。(財務省「法人企業統計」)ところが、1998 年度以降の内部留保のため込みは、以前には考えられないようなスピードで積み増しされていきます。1998 年度は209.9 兆円だった内部留保は、2009 年度には441.0 兆円へと、11 年間で231 兆円も増えました。1 年間に21 兆円も増えたのです。1998年度以降は、その前の10 年間の年間平均積増額の4 倍以上のペースで内部留保を積み増してきたことになります。

 このような内部留保の異常な積み増しは、どうして可能になったのでしょうか。売上高を伸ばして、それにともなって利益を増やして、内部留保をためたのでしょうか。そうではありません。日本企業の売上高は、1998 年度は1381 兆円でしたが、2009 年度は1368兆円でしかありません。売上高は減少傾向にあり、2009 年度は98 年度より13 兆円も減らしているのです。

 売上高も増えていないのに、高利益をあげ、内部留保を増やすことができたのはなぜでしょう。その最大の要因は、コスト削減です。賃金の切り下げや派遣労働者など非正規労働者の大量雇用と解雇など労働者の犠牲、下請単価切り下げなどによる中小企業への犠牲転嫁のうえに、積み増しされてきたのです。そのことは、図表2「大企業における内部留保増大の経緯と賃金の増減」をみれば明らかです。

 まず、賃金です。1998 年度以降、民間労働者の賃金総額は年々減少し、1998 年の222兆円から2009 年には192 兆円へと30 兆円も減っています。これに加えて、非正規労働者の大量活用は、コスト削減の大きな要因となりました。非正規労働者は、1998 年の1173万人から2009 年には1721 万人と548 万人も増加しました。雇用者に占める非正規労働者の割合は、31.5%にもなっています。1998 年は21.9%だったから10 ポイント近くも増えたことになります。非正規労働者の賃金は、正規労働者のほぼ5~6 割ですから、正規労働者に代替して非正規労働者を活用すれば、それだけで企業は“濡れ手に粟”の大もうけをすることができます。1998 年に改悪された労働者派遣法は、そうした非正規労働者を大量に活用する道を国の制度として開いたのです。日本の企業にとって、それが、売り上げが伸びなくても高利益をあげる大きな力になりました。
 下請け企業にたいしても一方的単価の切り捨てを迫ってきました。たとえば、トヨタは関連企業にたいして、半期に1 回のペースで部品の購買価格の改定(平均1.5%程度の引き下げ)を強要しています。

 日本企業は、このようにして、売上高が伸びなくても、コスト削減によって高利益をあげることができる体制をつくり上げたのです。

 では、大もうけをした利益はどこにいったのでしょうか。普通、もうけた利益は、労働者や関連下請け中小企業などに、賃上げや労働条件の改善、下請単価アップなどの形で還元されます。また、もうけた利益で設備投資をおこない、事業拡大をすすめる、そういう形で、日本経済は発展していくわけです。日本経済が安定的に成長した時期は、こうした循環がおこなわれていたのです。

 しかし、売上高が伸びなくても高い利益をあげる“秘密”が、労働者や中小下請け企業への犠牲転嫁だったわけですから、どんなに利益をあげても労働者や中小企業には還元されるはずがありません。そのことは、世界の先進資本主義国のなかで、ここ10 数年間、賃金が停滞・抑制傾向になっているのは日本だけという事実からも明らかでしょう。

 それでも、設備投資に回せば、投資需要効果が生まれますから、日本経済のプラスになります。しかし、次にのべるように、もうけた利益は、設備投資にも使われていません。

 日本企業は、ため込んだ利益をもっぱら内部留保としてため込み、それを活用して証券購入や金融部門での運用、海外投資等にふりむけているのです。

 その結果、日本経済は、賃金の低下・雇用の減少→内需縮小・外需依存→円高の進行・輸出不振→国内生産縮小・デフレ→雇用の減少・賃金低下という“負の循環”に陥り、不況の長期化へと傾斜していくことになったのです。こうした企業のやり方が、日本経済の不況が長引く中で、問われているのです。

◆内部留保は設備投資などに使われている?

 賃上げや労働条件の改善、東日本大震災の復興財源など内部留保の活用論にたいして、「内部留保は設備投資のために使われているので活用できない」という反論が、経団連などの財界サイドからさかんに繰り返されています。2011 年の経団連「経営労働政策委員会報告」では、「企業は内部留保を設備や研究開発などに投資することで事業を維持・発展させることが可能となるため、その確保は企業の発展に不可欠なものである」と主張しています。
 労働総研は、企業が「内部留保」を蓄積すること自体を問題視しているわけではありません。企業経営上、また、経済社会の安定のために、資本準備金や貸倒引当金は必要であるし、企業が安定的に成長するために設備投資などに振り向ける積立金を確保しようとするのは当然のことです。

 しかし、そうなっていないところに問題があるのです。日本の企業がきちんと設備投資をしていれば、土地や工場・機械などの「有形固定資産」は増加するはずですが、「有形固定資産」の最近の10 年間の推移をみると、1998 年度の498.5 兆円から、2009 年度は459.1兆円へと39.4 兆円も減少しています(財務省「法人企業統計」)。企業が経営規模拡大のための設備投資をまともにしていない証拠です。(図表3「日本企業の有形固定資産の推移」)経団連などの主張は、過剰な内部留保のため込みを嘘で「合理化」する、まったく根拠のない議論といわなければなりません。

◆内部留保は負債を担保するためのもの?

 一部の論者は、「内部留保は流動負債を担保するもの」「流動負債を返済すると内部留保はなくなる」などと主張しています。この主張とかかわって、まず、明確にしなければならないのは、負債を担保するのは内部留保ではないということです。
 貸借対照表をみると、そのことがよくわかります(図表4「貸借対照表の一例」)。貸借対照表の左側に「資産の部」が記載され、右側に「負債の部」と「純資産の部」が記載されています。

 「資産」は企業の財産をあらわし、企業に投下された資金の運用形態を表しています。

 企業はこの「資産」を運用して、商品・サービスを販売し、利益を出しています。この「資産」の資金の出所、つまり、企業に入ってくる資金の調達源泉を表しているのが貸借対照表の右側にある「負債」と「純資産」です。「負債」と「純資産」で「資産」をまかなっているので、必ず左右の合計が一致します。バランスシートといわれるのはそのためです。

 「資産」をまかなっている資金のうち、将来のいずれかの時点で返済の義務があるのが「負債」です。一方、「純資産」は企業を解散でもしない限り返済の義務はありません。「純資産」には、内部留保の一部である資本剰余金や利益剰余金が含まれます。

 「負債」は「1 年以内に」返済義務のある「流動負債」と返済義務が1年を超える「固定負債」に分かれます。この「負債」のなかには、「製品保証引当金」や「退職給付引当金」などが含まれていることも見ておく必要があります。「負債」といっても、すべてが返済しなければならないものではありません。「内部留保とはなにか?」のところでもふれたように、「負債」のなかには、費用として計上されても現金では支出されない「引当金」が含まれているからです。それでも、「流動負債」を返済することができなければ、その企業は倒産の危機に見舞われます。ですから、「流動負債」の担保はどうしても必要です。

 しかし、「流動負債」の担保は、貸借対照表の右側にある「純資産の部」にある内部留保の一部である利益剰余金や資本剰余金ではありません。「流動負債」を返済する原資となるのは、貸借対照表の左側にある「資産の部」にある「流動資産」です。「流動資産」には、「現金及び預金」をはじめ、売ったけれども代金を受け取っていない「売掛金」、それを手形で受け取っている「受取手形」、短期売買目的の「有価証券」商品や製品、仕掛品、原材料などの在庫を表す「たな卸資産」などがあります。預貯金や、通常の営業サイクルで回収・使用されるもの、あるいは1 年以内に売却する予定のものなどが「流動資産」です。

 この「流動資産」が「流動負債」より多くあれば、企業の資金繰りは当面困らない、負債は担保されているということになります。

 これが貸借対照表の見方で、「流動負債」を担保するのは、内部留保ではなく、「流動資産」なのです。「内部留保は流動負債を担保するもの」という主張の誤りは明白です。

◆企業は内部留保とほぼ同額の負債をかかえている?

 「内部留保は負債の担保」という主張をする人の中には、トヨタの財務諸表を取り上げて、次のようにいう論者がいます。
 トヨタの貸借対照表をみると、「平成13 年に6 兆円だった内部留保が平成20 年には12兆円に増えている」。しかし、「負債の部の短期負債である流動負債は、平成13 年の6 兆円から平成20 年には11 兆円に増えている」として、ここからわかることして、①「トヨタは流動負債を飛躍的に増加させて、事業を拡大することで利益を増加させていた」、②だから、「労働者を安く使って利益を貯めこんだのは嘘」である、③「トヨタは利益も莫大だけど負債も莫大だ。トヨタの内部留保は流動負債を返済するとすべて吹っ飛ぶ」と主張しています。

 トヨタの公式ホームページに掲載されている財務諸表は、2002 年度(平成14 年)3 月決算以降のものなので、2002 年3 月期と2010 年3 月期を同様に比較した表(図表5「トヨタの連結貸借対照表」)を作成してみました。表5にもとづいて、これらの主張を検討することにしましょう。

 第1の「流動負債を増大させ、事業拡大をすることで利益を増大させた」という主張です。たしかに、トヨタの「流動負債」は、7.2 兆円から10.7 兆円に増えています。しかし、トヨタは「流動負債」だけを元手に事業拡大をしているわけではありません。というのは、先にもふれたように、貸借対照表の右側に掲載された「負債」と「純資産」で、トヨタの資産をまかなっているからです。
 「流動負債」だけを「飛躍的に増加」させて事業拡大をしているという主張はあまりに一面的です。事業拡大の元手になる、もう一つの源泉であるトヨタの「純資産」、そのなかで大きな比重を占める利益剰余金(「狭義の内部留保」)が6.5 兆円から11.6 兆円へと5兆円以上増加していることを見過ごしてはなりません。トヨタは、これらの「負債」と「純資産」を元手に、2002 年3 月期から2010 年3 月期の8 年間で、資産を20.0 兆円から30.3兆円へと10 兆円以上増やしてきたのです。

 この主張は、内部留保を活用して、事業拡大をしてきたことにはまったくふれない、意図的な議論といわなければなりません。

 第二は、「労働者を安く使って利益をため込んだというのはうそ」という主張です。この主張の前提となっている「流動負債」を活用して事業拡大をしてきたという議論の誤りは前述しました。ここでは、トヨタが「労働者を安く使って利益をため込んだ」という事実について、具体的に指摘することにします。
 トヨタが売り上げを大きく伸ばしたのは2002年度からリーマンショック前の2007 年度にかけてです。この時期は、アメリカを中心に売り上げを大きく伸ばし、トヨタが“世界一の自動車メーカー”になったといわれた時期です。まさに、トヨタが事業拡大に成功した時期ということができます。この時期、トヨタ全体の売り上げは、02 年度の16 兆円から07 年度には10 兆円も伸ばし、26.3 兆円にもなりました。内部留保も8.5 兆円から13.9兆円へと飛躍的に増やしています。

 この大もうけを支えたのが、期間工など低賃金の非正規労働者です。トヨタが02 年以降、売り上げを伸ばし、巨額の内部留保をため込むのと比例して非正規労働者が増加します。トヨタグループ全体で、02 年に3 万人だった非正規労働者はわずか5 年間で5 万7000人増えて、8 万8000 人にまでふくれあがります。トヨタの正社員の平均年収は、約800万円ですが、非正規労働者は300 万円です。非正規労働者を増やせば、それだけで人件費コストが削減できて、大もうけができるのです。
 正規労働者を非正規労働者にかえて、大量に活用することによって、利益を伸ばしたことはだれもが否定できない事実です。

 第三は、「トヨタの内部留保は流動負債を返済するとすべて吹っ飛ぶ」という主張です。すでに指摘したように、流動負債を担保するのは流動資産です。流動資産と流動負債の差をみると、2002 年度は、その差が3.2 兆円でしたが、2009 年度は2.4 兆円になっています。その差は少なくなっていますが、流動負債を返却しても、あまりある流動資産があることは明らかです。
 しかも、トヨタは、貸借対照表の「資産の部」をみてもわかるように、流動資産以外に長期金融債権や投資その他の資産を保有しています。流動負債をすべて返却しても、これらの資産は12.9 兆円にも上ります。これらの資産は、流動負債返却後に残された資産ということになります。固定負債と固定資産を考慮しても、その大半はため込んだ巨額の内部留保を運用した資産ということができます。

 「流動負債を返済すると、内部留保はすべて吹っ飛ぶ」どころか、「流動負債をすべて返済しても、巨額の内部留保はありあまる」というのが実際なのです。「トヨタの内部留保は負債を返済するとすべて吹っ飛ぶ」というのは、まったくのデタラメといわなければなりません。

◆内部留保といっても賃金などの原資に変えることはできない?

 内部留保は、すでにのべたとおり、その多くはさまざまな資産に投下されています。しかし、その資産の中には、現金・預金、有価証券など換金可能な資産も含まれています。こうした換金性資産は、「現金・預金」「有価証券(流動資産)」「公社債(固定資産)」「その他の有価証券(固定資産)」「自己株式」をあげることができます。日本企業は近年、換金性資産を増大させており、1999 年度176 兆円だったのが、2009 年度には209 兆円にもなっています。10 年間で33 兆円も換金性資産を増やしているのです。(図表6「換金性資産
の推移」)
 これらの換金性資産を活用すれば、賃金はもちろん、雇用の拡大も可能です。労働総研の試算では、すべての労働者の1 万円賃上げに必要な原資は7.87 兆円、310 万人の非正規労働者の正規化7.90 兆円、年休完全取得6.92 兆円、最低賃金1000 円への引き上げ5.42兆円ですから、これらすべてを実現しても、その原資は28.11 兆円ですから、この10 年間にため込んだ換金性資産をまわせば、おつりが来ます。

 「利益剰余金は、株主に配当すべき利益を保留したものだから、株主のもの。経営者の勝手な判断では使えない」という議論がありますが、それは誤りです。株式会社は形の上では、出資者である株主のものですから、利益剰余金の使途はもちろん、企業の決算については株主総会の承認を得ることは必要です。しかし、内部留保を活用するのに、事前に株主総会の承認が必要なわけではありません。
 春闘で賃金を引き上げる、あるいは、正規雇用を増やすことについて、いちいち株主総会の承認を得て、おこなうという経営者はいないでしょう。そうして決算が赤字になったとしても、その段階で内部留保を取り崩して賃上げや雇用増の原資に充てるということを株主総会に提案して、事後的に承認を受ければいいことです。

 内部留保の活用は可能なのです。

(文責・労働総研・労働者状態統計分析研究部会 藤田宏)

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