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貧困問題と「失業する権利」  備忘録

「失業しても幸せでいられる国 フランスが教えてくれること」 都留民子・著 
 同著について「自治と分権」2011.4の「著者に『肝』を聞く」からのメモ。「失業する権利」を、ブースの「貧困の発見」から触れ、貧困とは労働の問題、階級的問題であることをフランスの労働運動のたたかいを紹介しながら、改めて説き起こす。
 社会的排除論についても簡潔ながらその弱点について本質的な批判をしている。新たな発見で、興味深い。

【失業しても幸せでいられる国 「著者に『肝』を聞く」備忘録】

◆貧困を失業問題=失業権としてとらえる

・貧困論は多くあるが、先駆的研究を踏まえた貧困論が隆盛とはいえない
→ 貧困は、惨め、貧乏とかの「非歴史的概念」ではなく、今日の資本主義下での「労働者の貧困」でなくてはならない。/貧困が広がる背景に、資本主義生産における資本家-労働者という敵対的関係がある/ 先人の優れた研究には、敵対的関係に言及しなくても、その研究には反映している。

◆ブースの貧困調査—貧困の大量性と社会的性格の二重の把握

・ブースによる「貧困の発見」~ 従来の「貧困」とは正反対の「貧困の発見」/臨時就業や不規則就労という資本制生産で不可避な不安定就業を要因とした「貧困」
→ それ以前/ 労働者は「貧乏人(プア)」と蔑視され、怠惰・生活習慣のせい、個人責任の「貧困」
・ブースの調査は/ 「貧困」は、「労働」が要因。また、人口の3割をとらえている「大衆的貧困」
→ この「貧困の大量性」と「社会的要因」の2点が重要。
・ラウントリーの「貧困線」/ 主に肉体的維持が可能か否かの貧困基準で「貧困は労働力の再生産問題」ととらえている。
・ブース、ラウントリーは、この意味で階級的視点をもっていた。

◆日本の「属人的貧困論」の問題点

・日本の貧困論は、圧倒的に「属人的貧困論」
→「母子世帯」「学力が低い」(例 岩田正美)、また「貧困というバスから抜け出せないことが問題」として、労働者階級全体の貧困や貧困が発生するメカニズムを問題にしない
→「社会の責任か、個人の責任か、はケースによって違う」とし、個人支援、自立支援が結論となる~様々な社会的病理現象に分割された個別支援の奨励となる。

・貧困は、所得の分配、再分配の問題。/ 賃金は労働力の価格なので、必然的に不平等になるので、再分配=社会保障が必要となる。~ 今の貧困論は、富の再分配、社会制度の問題が軽視されている。

◆「失業の権利」の形成――「不安定就業」の根絶

・ブースの調査/ 貧困の要員に「失業」をあげていない ~ 不安定就労、ワーキングプアの問題
→ 「何らかの商品を売らなければ所得を得てはいけない」原則(ポランニー)が確立し、どんな労働も受け入れざるを得なかった。
→ ブースの研究から、貧困の根絶には、/不安定就業をなくし労働を常用化すること /常用雇用を確保するまで、不就業状況を「失業」とすること/「失業」中の労働者に、失業保険など社会制度で生活を保障する
→「失業者」「失業の権利」の「発明」/「失業の権利」は、労働力の急迫販売、不安定就業を根絶するため。

・英、ベバリッジの指導で、1909年に職業紹介所ができた~ その役割は、不適切な労働の排除・是正/ ベバリッジ「適切な出口(常用雇用)がないまま職業訓練をしてはならない」とも言っている。

・戦後フランスでは「無制限契約雇用」、「失業」を権利として国家責任で保護。/最低賃金、適切な労働時間/住宅・教育・医療・交通などを公共財として賃金から切り離し、労働者が生活を企業に全面的に依存する状態を防いだ ~ こうして「貧困」を減らしてきたが、「土台」は、やはり資本主義
→ 石油ショック後、日本製品の席巻の中で、失業・「新しい貧困」が急増
→ これは「福祉国家の限界」でなく「資本主義社会の限界」

☆ 失業の権利をまもるたたかい
・失業が「摩擦的な失業」でなく、「長期失業」となり、長期失業者が「排除された人々」と呼ばれるようになった。~ この中で、失業の権利が不十分だった若者、長期失業者の扶助制度がつくられた。

・「社会的排除」という「属人的貧困」論に対し、「労働者の権利」を持って貧困の拡大とたたかう労働組合
→ 失業保険により「失業の権利」を守るたたかい/ 失業者を社会保障で守らないと、自らも守れない。
→ 90年代。職場のポスト削減に対抗し残業規制の強化、週35時間労働制。「無期限契約雇用」の防衛。

・失業保険 財政難で後退したが、/「1日の就労に1日の給付」原則で、50歳未満なら2年、50歳以上は3年。どんな労働でも失業保険加入は不可欠の権利で、失業保険がきれたら「失業扶助」「生活扶助」に連動。
→ 日本では、加入は労働者の65%、完全失業者の2割しか受給してない。給付期間は、事実上90日。/ 生活保護は、相変わらず「稼動力者排除」。第二のセーフティネットは、失業者を借金漬けにする施策

◆日本とフランスの労働組合運動――労働者の均等待遇をめぐって

・パート、派遣労働も、無期限契約雇用と均等待遇。/ むしろ、有期雇用は、退職時に賃金総額の10%を払い、有給なども平等保障なので、派遣労働は安くならない。契約も1年以上は付加。

☆不安定就労問題に目をむけた江口英一
・労働力の再生産の問題ととらえた。/多くの貧困論は、それが忘れられ、弱者対策として、「不利な人たち」への教育的人間開発・ソーシャルワーク・自立支援・エンパワーとなっている。
→ 貧困に陥っている人の病理的問題は、「貧困の結果」であり、まず貧困解決は「経済給付」を充実させるべき。

・労働者派遣法と労働組合 ―― 労使関係の根本的破壊、半失業者を構造的に創出するものとたたかったが、ほとんど見向きもされなかった。日本とフランスの労働組合の差
→ 日本、労使は「我らは同じ船に乗れり」で、労働者も生産性をあげ、会社に奉仕し、喜びを見出す状況/フランスの労働者は、社会保障制度によって企業から自立した生活と意識をもっている。

◆社会的排除論は、「属人的貧困」「没階級的社会」論

・今までの「up or dawn」という階級関係から、「in or out」の水平関係に変わったという議論として批判

・社会的排除論は、親も貧困だから子どもも貧困だという貧困の再生産論、属人的(低学力、移民など)な要因で排除される、ととらえる。
→ 社会的排除論を、もっとも厳しく批判した「失業者団体」/ 「問題は、企業が企業閉鎖したり解雇したり、不安定就業をふやしたこと」「問題を俺達のせいにする。俺達は排除なんかされてなく、自分達で主張できる社会的存在だ」「会社の社長と現役労働者が一緒にされインの人で、失業者はアウトとされる。これではもう資本主義じゃないということと同じだ」

・新自由主義の変種としての「社会的排除」論 / ニューレーバーのブレア、ギデンス
(メモ者 セーフティネット論、トランポリン論も、市場原理主義を前提としての社会統合?の装置、ゆえに個人の能力開発という、企業に選んでもらえる人間づくりの支援に収斂されている)
→ 「無縁社会」「社会的孤立」は大変重要な告発だが、「地域で孤立した老人をコミュニティーが支えていく」という、労働の実態をみない現象的な議論 

◆年金は高齢者の「失業保障」= 失業の権利

・孤立なども、根底には、高齢者の貧困、労働者の貧困がある

・高齢者の貧困は、経済給付を充実させる。年金は、失業保障。
→高齢者は、労働市場の中で常に不利を被り、不安定就業、不就労を余儀なくされるので、(メモ者、全体の労働条件悪化の重しとなるので)労働市場から「隔離」する必要があり、それが「年金」であり、定年制という「集団解雇」に対する「解雇補償」/ ヨーロッパの運動は、不利に陥る高齢期の労働者を、「高齢者」という社会的地位を与え、「失業の権利」として、年金制度を拡充していった。

・フランス 35時間労働、5週間のバカンスで、余暇・文化活動が活発で、退職後も、自由な時間を謳歌できる。/  若いときから、余暇活動をしているので、老後も孤立しない。/なお、職場の同僚と、職場外で交流する習慣はない。しかし、利害・権利が侵されると一挙して団結しストライキする。
→ 日本の労働者は、身包み企業に支えて、働くことが自己目的となっているので、老後に孤立する。
→ 高齢者の孤立は、「1人ぐらし」だからでもなく、その支援は在宅介護、在宅福祉ではなく、労働者の働き方、年金・医療など社会保障を見直すこと。

・孤立は、高齢者でも若い人の問題でもなく、日本の「労働社会」の反映

◆50年代から「幸福度」が上昇するフランス

・フランス 50年代で幸福度がアップ(退職が近づく)、ピークは、60年代後半から70代。
 ~ 60年代「アージュ・ドール」(黄金世代)、イギリスでも「ゴールデンエイジ」
→フランス 定年延長反対の大ストライキ。 一方、日本は、労組が定年延長、生涯現役を掲げる /労働者の反撃の弱さ、資本の支配が徹底した国

◆ヨーロッパと日本のワークフェアの決定的な違い

・「再分配後」が貧困が少なくならず、子育て世代では貧困率が上昇する日本で、ヨーロッパに見習って、「ワークフェア」論が導入されている。日仏の違いは・・ 

・フランス アクティベーション策 失業者の(再)確保する雇用は「無期限契約雇用」。また、経済給付と社会サービスなど「失業の権利」は健在。
 

◆社会保障は、働かなくても食べられる権利

・資本主義には、労働力の販売、「労働原則」があるが、・・・生活基盤は公共財とし、賃金は日常生活費を賄うようになる。さらに、高齢期や平均的な労働力を有しない障害者などには年金を支給し、競争的な労働市場にはいらなくてよいようにし、元気な失業者にも「無理して働かなくてよい」とい権利を広げてきた。-- 働かなくても生きていける、これが生存権(メモ者 無条件の生存の肯定、「生きさせろ」)
→ 資本主義は、それでも保険料の納付金間、額で格差をつけるなど、社会権を、個別的権利にしてきた。だから労働者・勤労者階級は、それと戦い、無条件の「最低限年金」「生活扶助」などつくってきた。
→ 資本主義だから「労働原則」は当たり前と言うのは、ヨーロッパの労働者の戦い、社会保障への浅学。

・フランスと日本のナショナル・ミニマムの差・・・

◆労働礼賛思想の克服を

・「失業の権利」がなかなか理解されない/ 圧倒的に、労働礼賛イデオロギー 
→ 経団連も、自立支援者も、労働礼賛イデオロギーをもって「失業なき労働移動」をめざそうとしている。

* 「生活保護自立支援プログラムの活用」/「労働することによって喜びが生まれる。生活がより豊かになる。働くことで社会的に理解してもらうことが大切」など、「頑張れば報われる」という資本家と同じ主張。
→ 不安定就労を増やし、貧困を拡大するという、ブース以前のイギリスの状況

☆「失業の権利」は「労働力プール」の根絶をめざすもの
・「失業者が、働かないで生活保護を受けるのは、ある意味、社会的ストライキ」「福祉国家での失業の権利」
→ 「失業」のない資本主義はない。/マルクス 相対的過剰人口、産業予備軍。資本家にとって、汲めども尽きない「労働力のプール」/ 「失業」の本質は、不安定就労などの「半失業」
→ しかし、「失業」を「半失業」ではなく「完全な失業」として、彼らの権利を保障する。そして「労働力のプール」を縮小させる。これが「福祉国家」の「失業の権利」/ 急迫販売を防ぐもの

・「協同組合労働」… 日本では、「失業の権利」がないために、低賃金・不安定就労 /労働市場の競争が激化しているなかでは、経営者の善意があっても、「協同組合」でも、安価な労働力に堕していまう。
→ 失業率が高いことは悪いことではない。悪いのは「失業の権利」がないこと。


◆労働組合は、社会的意識を変える運動を

・1930年 人民戦線政府の2週間のバカンス 当時の担当大臣「これからの労働は、分業が進んでますます機械・歯車になっていく。労働者は今後の余暇のなか、文化活動の中に喜びを見出すべき」

・ドミニク・メーダ労働省官僚・政治学者「労働社会の終焉—経済学に挑む政治哲学」で、「今は労働時間を減じて、政治活動を取り戻すべき」と主張

・企業から独立し、自己と社会をどう確立するか、が労働組合の思想、土台であるべき /労働組合の幹部が、イデオロギー的な先駆性をもつことが重要 ~ 要求アンケートで、この要求が一番多いということでは変わらない。今の土俵の上でのニーズしかでてこない。

・労働組合は、ポピュリズムに迎合してはいけない。運動団体の先駆性、原点が問われなくてはならない。

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