震災復興 効率偏重の農業、転換を
災害を契機に「大規模化推進」「TPPも促進できる」というに、東大農学生命科学研究科教授・鈴木宣弘さんが「誠に不見識で心ない極論」と批判し、「目先のコストが低くなかったとしても、地域の中で自給的に支え合う生産システムこそサステイナブル(持続可能)であり、原油や食料の輸入が減るといった有事にも強い国づくりの鍵だと思います。人の命を守るには、大きなコストをかけてでも備えねばならぬことがあります。」と主張している。
破たん済みの神戸空港が「創造的復興」の産物・象徴だったことを思いだす必要がある。
【復興に向けて:東日本大震災 東大農学生命科学研究科教授・鈴木宣弘さん 毎日5/2】
【復興に向けて:東日本大震災 東大農学生命科学研究科教授・鈴木宣弘さん 毎日5/2】◇効率偏重の農業、転換を 「今こそ大規模化」心ない極論
大震災から1カ月以上たち長期的な復興論議が始まっていますが、10年先の議論の前にやるべきことができているでしょうか。被災地は今も大震災と大津波、あるいは原発事故の深刻なダメージから立ち直れていません。被災者の生活再建という「いま」の問題をおろそかにして、「希望の持てる長期計画」もあり得ません。しかし、国の対応は機動性や即応性を欠いています。被災地は日本を代表する農漁業地帯ですが、大切な田畑、港や船を失い、放射能汚染や風評被害で生産物が売れなくなった人々は破綻の危機に直面しています。現場独自の優れた復旧プランがあっても、実行する財源が不足しています。現場が前に進めるよう「全責任は自身が取る」と明言し、平時の予算執行ルールに縛られず早急に概算的な資金投入を指示できるリーダーシップが必要です。東京電力には後で負担を求めるとして、当面の住居や生活資金、雇用の確保に国は責任を持つべきです。
農地などが壊滅的な被害を受けたのを見て一部の識者は「今こそ大規模化の好機」「それを全国モデルにして環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの貿易自由化も推進できる」といった議論を展開しています。現場の農業者が「どうやって経営を再建するか」と悩んでいる時に誠に不見識で心ない極論です。大災害によって可能になるような大規模化がどうして全国モデルになるのでしょうか。しかも、被災地の農地を大規模化したとしても、1戸当たり数百から数千ヘクタールの耕地面積がある米国や豪州の農業とはしょせん競争できません。
むしろ、単純に「規模を大きくしてコストを下げれば良い」という目先の効率一辺倒の発想を転換すべきではないでしょうか。たとえば、規模は大きくなく、目先のコストが低くなかったとしても、地域の中で自給的に支え合う生産システムこそサステイナブル(持続可能)であり、原油や食料の輸入が減るといった有事にも強い国づくりの鍵だと思います。人の命を守るには、大きなコストをかけてでも備えねばならぬことがあります。その備えのない状態で「効率」を競ってもほとんど意味がありません。食料自給を含め、真に強い国の在り方を考える機会にすべきだと思います。
国民全体の支え合いも重要です。原発事故による風評被害は深刻ですが、一方で福島県産や茨城県産の農産物を都会で直売すると、大勢の人が集まって買っていくという現象が起きています。多くの消費者は誤った風説に惑わされず、むしろ食を通じて被災地を応援したいと思っているのです。それなのに、一部企業が出荷停止対象外の野菜まで購入を打ち切ったことは残念です。食品の加工・流通・販売に携わる企業の姿勢も問われています。【聞き手・行友弥】
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■人物略歴
◇すずき・のぶひろ
82年東大農学部卒。農林水産省、九州大教授を経て06年より現職。専攻は農業経済学と国際貿易論。著書に「食の未来に向けて」など。52歳。
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