原発輸出、復興基金~ インフラ・ファンドの危険性
2010年12月経済 坂本雅子「『新成長戦略』は日本をどこに導くか ~ アジア戦略、「インフラ・ビジネス」を検証する」からの備忘録。
もともとは、原発などのシステム輸出が、事故などの補償も日本もちというとんでもない条件で進められてることのスケッチをするつもりだったが、こうしたリスクの伴うインフラ、システム輸出は、一部巨大企業のアジアでの本格展開のための基盤づくりであり、その危険を伴う投資に、年金や郵貯など国民の財産を突っ込ん進めようとする究極の「棄民政策」である。
そのインフラ・ファンドの仕組み(儲けは企業、リスクは最終的に国民)が、震災復興対策として進められようとしている。そこで改めて備忘録をつくってみた。
【アジア戦略、「インフラ・ビジネス」を検証する】
Ⅰ「新成長戦略」のアジア戦略とインフラ・システム輸出
・2010.6 「新成長戦略化背「元気な日本」復活シナリオ」閣議決定、その具体化として「産業構造ビジョン2010」/ とりわけ、アジア戦略、官民一体の「インフラ、システム輸出」を検討し「新成長戦略」の問題点を明らかにする
・新たな成長分野の提起/ 「環境・エネルギー」「健康」「アジア」「観光」の4分野 /ビジョン「戦略5分野」~生産面の拡大…①インフラ・システム輸出、②環境、エネルギー、⑤先端分野(ロボット、宇宙)、雇用の拡大 ③医療・介護・子育て、④文化産業(ファッション、食、観光)…と 国内雇用は介護等のみ。
・「戦略」でのアジアとは、アジアでの需要拡大、アジア展開、アジア拠点化のこと
→ 需要拡大といっても、耐久諸費財などの販売拡大を指してはいない。「パッケージ型インフラ海外展開」のこと/「ビジョン」では、インフラ関係/システム輸出(原発、水、鉄道等。)
→ 急速に拡大する、特にアジアのインフラの新・増設需要をビジネスチャンスとして取り込もうとするもの
→11主要分野(ビジョン)/水、火力発電・石炭ガス化プラント、送配電、原発、鉄道、リサイクル、宇宙、スマート・グリット、再生可能エネルギー、情報通信、都市開発・工業団地 ~ 「環境配慮型」インフラと先端技術開発が一体となったインフラ
・オールジャパン体制で推進/政府がトップ外交で売り込む。企業連合で建設・運営を丸ごと引き受ける一括受注で「国家間の熾烈」な競争に勝つ
~ 「ビジョン」が示す4つの転換
①産業構造の転換(自動車、家電などの一極依存の転換)
②政府役割の転換(政府がビジネスの先頭に立つ)
③企業ビジネスモデルの転換(日本企業同士の競争でなく、企業連合などオールジャパン体制で臨む)
④発想の転換(グローバル化と国内雇用を対立するものととらえる発想の転換)
Ⅱ 拡大するインフラビジネス ~ 原発
・「戦略」「ビジョン」の中核は「インフラ関連、システム輸出」(環境配慮と先端技術を含んだもの)
→ 官民一体で、環境に配慮した産業分野、インフラ整備でアジアと世界の発展に貢献し、それによって日本経済を回復するという戦略、~ 本当に好ましい方向なのか、検討する
【原子力発電】
①増設の進む原発
・温暖化対策の「有力かつリアルな解決対策」として、増設ラッシュに
09年341ギガワットから2030年826ギガワットという予測
2010年、世界で建設中・計画中の発電所は、140基/ 1年前から22基増大(中国10→36)
②官民一体で原発を推進
・原発 1基、数千億円から1兆円の巨大ビジネス
・今秋、官民共同出資の新会社「国際原子力開発」を立ち上げ
→ 東芝、日立、三菱重工の原発建設3社、東電・中電・関電等も参加。/建設から運営まで含め受注めざす。
/首相・閣僚のトップ外交で交渉し、新会社が一元的に受注。政府系金融機関中心に融資を実施
・国内でも原発推進に/ エネルギー基本計画(2010.6)「2030年までに、少なくとも14基以上新・増設」「稼働率も90%にあげる」(メモ者 現在は、5割、6割台)
・東芝 一歩先んじた動き
→ 06年、米原発大手ウエスティングハウス(WH)を5400億円で買収 /WH社はすでに中国、米国で原発を受注。/ 東芝は、2015年までに39基の受注をめざしている。
→ 技術面でも、出力1~5万キロワットの超小型原発で30年連続運転可能な炉を開発 / ビル・ゲイツと組み100年運転できるTWRの開発に着手している。
・日立 07年、原子力事業をGEと統合。2030年までに38基の新規受注めざす。
・三菱重工 170万キロワットの大型炉の開発 米国で三基採用が内定。2010年、スペインのイベリンコと提携
③激化するベトナムの受注競争
・東南アジア初の原発建設(二箇所に、中型炉4基の計画)/ベトナム 2030年までに14基の計画。1号機はロシア受注。2号機(7500億円)に対し、日本は、低利の資金貸し付けを提示し食い込みに。
→ ベトナムで実績をつんで今後につなげる意図/ アセアンでは、ブルネイとラオス以外で原発計画 /2010年7月ASEAN日中韓エネルギー相談会合 日本は、振興策、人材育成の支援を表明 /9月、マレーシアと原発に関する協定文書に署名
③インドと原子力協定締結へ
・海外での原発建設には、相手国と、二国間協定が必要。
→ 「原子力協定」/ 原発関連の技術・部品輸出を平和利用に限定。国際原子力機関の査察の受け入れ。核物質の軍事転用禁止などの条件を明示したもの。
→日本/米英仏中加豪・EUと発行済み。露・カザフスタンと署名済み、ヨルダン・UAE・韓国・南ア・ベトナムと交渉中。
・新たに目指そうとする国がインド /ところがインドは、NPTすら参加してない。しかし、参加しなくても「原子力協定」を結べば原発建設が可能とする“ご都合主義”の先鞭をアメリカ、フランスが実施。/日本もインドとの協定へ交渉を開始。
④「原発ビジネス」を問い直す
・被爆国日本(メモ者 フクシマで、更に「被曝国」となった)が、国をあげて「原発ビジネス」に邁進すべきか、という根本的な問題がある(メモ者 原発を稼動すれば、原爆の原料となるプルトニウムが発生する)。
・膨大な建設資金の援助問題→ ODAが使えないので、国際協力銀行が原発の融資を引き受ける。
・事故の補償問題 ~ 政府全額出資の日本貿易保険で保証される。
ベトナム「原子力法」(08年)~原発事故が起きた際の賠償責任限度(154億円)を超える損害については、電気事業者の負担などに基づく「支援基金」で対応。対象には、外国企業を含んでいる。
・政府 新たな支援の7項目 / すでにベトナムに提示
→「最先端技術の供与」「人材開発」「核燃料の安定供給」「使用済み核燃料と放射性廃棄物の管理」
「資金支援」「放射線事故の際の医療体制の整備」
原発の導入で生じるCO2の「排出枠」を日本が購入し、相手国の原発運営費にあてる。
*日本政府が先頭に立って交渉し、資金を出し、事故の場合の補償や医療体制、さらに廃棄物の管理まで責任を持ち、「排出枠」まで買い取ってでも進めるべき分野なのか。
◇他にも、水、宇宙などシステム輸出や、輸送網など産業基盤整備などASEANへの投資、アジア総合開発、デリー・ムンバイ産業大動脈などに積極的な関与 (メモ者 このパラグラフは、摘要略)
→ 多国籍企業化した巨大企業の本格的な、アジア進出にとって、インフラ整備に大きな格差のある状態を改善することが不可欠であるため。/ 背景に、日本企業のアジア移転。部品の現地調達。
Ⅲ 「新成長戦略」と日本経済のゆくえ
・基本的考え(発想の転換)~ 「アジア全体を成長させることが日本全体の成長につながる」「アジアの成長を取り込む」というもの
→ しかし、11分野の「インフラ/システム輸出」は、膨大な資金をつかっても、国内需要にはほとんど回らない。~材料、機材、労働者も現地調達が主だから。日本では、一部の中枢部分くらい。
→ しかも、産業空洞化をさらに加速させ、深刻化させる /さらに自由貿易圏構想ともリンク
→ 徹底して多国籍企業化した大企業の利益に奉仕するための方策
◇膨大な資金需要と国民へのリスク
・インフラ輸出は、巨大ビジネスであるが、膨大な資金をどう日本側か支援するかが大きな問題
→ 超低利の資金提供が不可欠 /ODAは増やせないし、「ひも付き」批判もあってアンタイド援助になっており、「ビジネス」には適さない
①「インフラ・ファンド」の設立
・「膨大なインフラ需要に対応するためには、PPPによる民間資金の活用が不可欠」。しかし、長期的かつ大規模な投資は「大きなリスクを伴うため、民間資金のみでは困難」と、公的機関の機能拡大・強化を提案(新成長戦略)
・なぜPPP方式か /膨大な資金が必要で、公的資金だけでは賄えないので民間資金が不可欠。しかし、アジアのインフラ部門は儲からず赤字に陥ることは目に見えているので「官」が支援し、リスク分担する必要がある。
→ PFIは、民間が「利益をあげられる」場合。PPPは、「民間のみが実施した場合には赤字になる案件」であり「官が基礎的インフラを整備したり、規制ルールを作ったりして市場の補完を行う」必要がある。(アジアPPP研究会報告書)
②出資者にされる年金資金
・インフラ事業からインフラ・ファンドへの返還金、配当金は「儲からないインフラ事業」の運営益から捻出。また、インフラ・ファンドそのものの出資者への配当も「儲からないインフラ事業」の運営益から捻出」することになる → そんなことが可能か??
・巨額のプロジェクトで、利益を度外視したようなプロジェクトに投資する機関投資家がいるのか??
→ 「わが国の機関投資家などが抱える650兆円(企業年金100兆円、公的年金150兆円、保険会社400兆円)の金融資産を、成長するアジア、特に経済の基盤となるインフラ事業に投資する」ことは、金融資産の有効活用に望ましい道を開く(グローバル金融メカニズム分科会報告など)
→ しかし、実際にファンドに投資するかについて、民間はアンケートに厳しい回答。(カントリーリスクの高さ)
→ つまり、インフラ・ファンドには、リスク覚悟で出資する機関投資家が必要/ そんな投資家がいるのか
→ その奇妙な投資家として「公的年金」が焦点に。/報告は、公的年金の運用規定の改定を提言 /新成長戦略「ビジョン」でも「年金基金・機関投資家によるインフラ・ファンドの設立・投資支援」を掲げている。~ 将来的には郵貯・簡保(300兆円)も投入を予定
⇒アジアPPP研究会が「利益が上がらない」と判断し、民間投資家がカントリーリスクを想定して「危険」と判断するアジアのインフラ事業に、日本国民が命の綱としている年金、郵貯資金を大量投入し、一部、巨大企業の利益確保に手をかすもの (メモ者 究極の、国家依存、国家財政への寄生)
③「公的金融支援の強化」とは
・「ビジョン」では、インフラビジネスは、「大きなリスクを伴うため民間資金のみでは対応は困難」として「公的金融支援の強化」が必要としている。
・公的金融支援= 国際協力銀行、日本貿易保険、国際協力機構の強化
・国際協力銀行 発展途上国だけでなく先進国向けの投資にも融資(原発、高速鉄道)
・日本貿易保険は、テロ、災害、戦争など民間保険でカバーできない「非常リスク」に対する保険だが、新たに「(投資先の国の)政府による一般的かつ合法的な政策変更」による「政策変更リスクに対する補てんを開始」、また、日本企業の投資会社、販売経典も対照に、
・国際協力機構 国際協力銀行よりもリスクの高い投資への資金協力
⇒ 一連の改革で、政府資金を、日本企業の受注に直接つなげ、水道、電力などの運営で、相手国の要望で料金低下した場合の損失も補てんしてもらえ、今までリスクが高くて手がでなかった部門にも手がだせる。
④リスクは最終的には、国民の税金で
・焦げ付く案件
・原発事故、プラント事故の補償 / 水・電気、新幹線などの運営赤字 ~台湾新幹線は開業早々危機に。~ それらは日本貿易保険で補てんされる。
◇終わりに
・「新成長戦略」とは、財界、それも数十社程度の巨大多国籍企業にとってのもので、国民にとっては日本の金融資産、税金まで、危険なインフラ・ファンドに投入し、年金や未来まで危ぶまれる世界を目指すもの
→ しかも、インフラ輸出は、海外展開だけでなく、国内のインフラ民営化とセットで進められようとしている。 / 高度成長期のインフラの老朽化という「インフラ・クライシス」の目前にして、国民の安全性や公共性より利潤が優先される。本当に、安全な未来が築けるか?
→ 製造業を空洞化させ、国民の生活基盤を整備、維持する国家の基本的役割の縮小させていく政策
(メモ者 財界が、労働力の再生産も不可能にするまで搾取し、疲弊した日本を見捨てて、アジアに逃亡するため、条件を整備に国民の年金基金を活用するという、究極の、「棄民政策」ではないか)
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