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「最賃法に風穴」の危険 協同労働法案

 労働弁護団が、「協同労働の協同組合法」案について、業務に従事する組合員の「労働者性」を否定し、労働法制の適用外をおくことを、悪用される外国人研修制度のように「安価な労働力(チープレイバー)を使うために悪用される危険性」があり「他の事業における労働者の賃金・労働条件を引き下げる事態がもたらされる」とし、労働法制の適用、協同組合に使用者義務を課すことを提言している。
【協同労働の協同組合法案に対する意見書 5/19】

 ただでさえ、労働者保護のルールがなく、ルールが守られてない日本社会で、悪用されることは目に見えていると思う。労働法制を空洞化させかねない、つくり憲法25条にもかかわる極めて重大な問題である。

【協同労働の協同組合法案に対する意見書 5/19】

2011年5月19日
日本労働弁護団  幹事長 水口 洋介

◆意見の趣旨
 日本労働弁護団は、超党派の議員連盟が国会提出を準備している「協同労働の協同組合法」案を、協同組合の業務に従事する組合員に労働基準法、最低賃金法、労働組合法等の労働諸法令の適用を全面的に適用し、協同組合には労働諸法令上の使用者としての義務を課す内容に変更することを求める。

◆意見の理由

1 はじめに

  超党派の議員連盟(「協同出資・共同経営で働く協同組合法を考える議員連盟」会長・坂口力衆議院議員)(以下、「議員連盟」という。)により「協同労働の協同組合法」案(以下、「法案」という。)の国会提出が準備されている。法案は、「組合員が協同で出資し、経営し、及び就労する団体に法人格を付与すること等により、働く意思のある者による就労の機会の自発的な創出を促進するとともに、地域社会の活性化に寄与し、もって働く意思のある者がその有する能力を有効に発揮することができる社会の実現に資すること」を目的としており、このような目的の法律が制定されることには積極的な意義がある。

 しかし、法案は、協同組合の業務に従事する組合員(以下、「業務従事組合員」という。)が労働者ではないという立場に立ち、労働諸法令の適用を原則として排除するものである点で、根本的な問題を有する。業務従事組合員は、協同組合に使用されて労働し、賃金を支払われる者であるから労働者である。労働者である業務従事組合員を労働者として扱わないこの法案が成立すれば、提案者の意思に関わらず、安価な労働力(チープレイバー)を使うために悪用される危険性がある。そして、労働諸法令の適用が排除され、チープレイバーを使うことができる協同組合とそれ以外の事業の間では、公正な競争が実現できなくなり、他の事業における労働者の賃金・労働条件を引き下げる事態がもたらされるであろう。また、業務従事組合員が賃金・労働条件の改善のために労働組合を結成し、団体交渉や争議権を行使することもできないなら、組合員は労働者として最も有効な問題の解決手段までも奪われることになる。同じように労働諸法令が適用されない外国人研修生の場合、チープレイバーとして、例えば、月給6万円、残業時給300円といった条件で働かされ、使用者に改善の要求をすることすらできず、奴隷的拘束の下で著しい人権侵害がなされてきたが、これと同様の事態がもたらされる危険がある。

 憲法27条2項は、賃金、就業時間、休憩その他の勤労条件に関する基準の法定を義務づけ、これに基づいて労働基準法、最低賃金法等の労働諸法令が規定されている。法案が、業務従事組合員について労働諸法令の適用を排除し、勤労条件に関する基準を法律で定めないのであれば、憲法27条2項に違反するおそれがある。また、憲法28条は、勤労者の団結権、団体交渉権及び団体行動権を保障しているのであるから、法律の規定によってこれらの権利を奪うことはできない。

 日本労働弁護団は、法案がその目的を達成するためにも、業務従事組合員への労働基準法、最低賃金法、労働組合法等の労働諸法令の適用を全面的に認める内容に変更されるべきことを求める。

2 「労働関係法令に関する基本的考え方」(「基本的考え方」)について

 2010年4月14日、議員連盟で確認された「協同労働の協同組合法案の要綱(案)」(以下、「要綱案」という。)には、「労働関係法令に関する基本的考え方」(以下、「基本的考え方」という。)が添付されており、「要綱案」は「基本的考え方」に基づいて作成されているので、これについて論ずる。

(1)集団的労使関係

 「基本的考え方」は、集団的労使関係について、「協同組合においては、組合員の就労条件は、使用者との交渉ではなく、組合員自らが協同して決定する。したがって、使用者に対する対抗手段ということは想定しにくく、労働組合法、労働関係調整法等の集団的労使関係法を組合員に及ぼすことは適当でない」としている。
しかし、協同組合の業務従事組合員は、労働力を提供して対価を得て生活する者、すなわち、「勤労者」であるから憲法28条により労働基本権を有しており、労働基本権を制限することは憲法28条違反になる。「協同組合においては、組合員の就労条件は、使用者との交渉ではなく、組合員自らが協同して決定する。」とはいっても、組合員の労働条件に関する業務執行は、理事会の決定に基づき、協同組合の代表者によって行われるはずであり、実質的には組合員が関与できるものではないのであるから、協同組合を使用者として扱わない理由はない。

 日本の政労使も含めて圧倒的多数で可決されたILO第193号勧告(協同組合の促進に関する勧告、2002年)は、「協同組合のすべての労働者に対し、いかなる差別もなしに、国際労働機関の基本的な労働基準並びに労働における基本的な原則及び権利に関する国際労働機関の宣言を促進すること。」(8b)を求めており、「国際労働機関の基本的な労働基準並びに労働における基本的な原則」には、ILO第87号条約(結社の自由及び団結権保護)及び第98号条約(団結権及び団体交渉権保護)も含まれるから、協同組合の業務従事組合員に労働基本権を保障しないことは、同勧告にも反することになる。
よって、協同組合の業務従事組合員には、労働組合法等の集団的労働関係に関する法令の適用を認めるべきである。

(2)個別的労働関係

 「基本的考え方」は、協同組合の業務従事組合員への労働基準法の適用を排除した上で、組合員の「就労条件は、組合員が協同して就労規程により定める」ものとして、「就労規程の内容が労働基準法の水準を下回っている場合には、労働基準監督署が就労規程の変更を命じられることとする。」としている。また、労働安全衛生法は「準用」するとしている。
 そして、最低賃金法については、「組合員の報酬は分配可能利益の範囲内で従事分量に応じて分配するという仕組みをとる以上、分配可能利益がない場合には分配できず、組合員に及ぼすことが困難である。」としている。
 労働基準法は、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように、最低の労働条件を法定したものであり、協同労働の場合において、これを排除する理由は存しない。労働基準法に違反する労働条件を定めた「就労規程」のその部分は労働基準法13条により無効とされ、無効となった部分は労働基準法の基準によることとすべきである。また、労働基準法には、労働基準監督官による行政指導が予定されており、また、違反した場合の罰則規定もある。これらの規定は使用者に義務を課することによって労働者を保護するものであるから、これらの規定も排除されるべきではない。

  労働安全衛生法は「準用」ではなく、適用すべきである。

 最低賃金法は、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように、最低賃金支払いを使用者に義務づけるものであり、労働者の生存権保障にとって極めて重要な法律であるから、その適用を排除することは許されない。

 なお、法案は、労働契約法の適用の有無については明言していないが、同法は、労働者保護のために重要な規定を含むから、その適用を認なければならない。
 また、育児・介護休業法、男女雇用機会均等法、賃金確保法等、すべての個別的労働関係法の適用を認めるべきである。

(3)労働保険関係

 「基本的考え方」は、「役員以外の組合員を、労働者災害補償保険や雇用保険に加入することとする。」としており、この点は妥当である。

(4)社会保険関係

 「基本的考え方」は、健康保険法、厚生年金保険法の適否について明言していないが、労働者保護の観点から、当然、適用を認めるべきである。

3 「協同労働の協同組合法案(仮称)要綱」(2011年2月23日)について  2011年2月23日、議員連盟において、「要綱案」が改定され、「協同労働の協同組合法案(仮称)の要綱」(以下、「新要綱」という。)が議決された。

 「新要綱」は、「第一・七 労働基準法の適用の特例」において、「協同労働の協同組合において就労規程に従って働く者は、労働基準法の適用事業に使用される労働者とみなすものとすること。」としている。しかし、そもそも、協同組合と業務従事組合員との関係には、当然に労働基準法が適用されるはずであるのに、同法の適用を排除した上で、業務従事組合員を「労働者」とみなしつつ、協同組合を「使用者」とみなしていないことから、協同組合が同法上の使用者としての義務を負わないことになる点で妥当ではない。労働基準法は、事業者である使用者に対して、罰則付の義務を課すことによって労働者保護を図る点について重要な意義を有しているのであるから、この点は看過できない。

 更に、「新要綱」は、同法の就業規則に関する規定の適用を排除し、協同組合と業務従事組合員に、就労規程を適用するとしているが、就労規程に同法及び労働契約法の就業規則に関する規定が適用されるか否かが明らかでない点にも疑義がある。
 また、「新要綱」も「基本的考え方」に基づいて作成されていると考えられることから、労働基準法以外の労働諸法令の適用について明言していないものの、その適用を認めるものとは到底思われない。

4 市民会議による「新要綱」の一部改正案について

 その後、「新要綱」を一部改訂し、「第一・七 労働基準法の適用の特例」を、「第一・七 従事組合員の法的地位」として、「協同労働の協同組合において就労規程に従って働く者は、労働基準法の適用事業に使用される労働者であるものであることとする。」に変更する案が協同労働法制化市民会議(以下、「市民会議」という。)から提案されているが、この案によっても、業務従事組合員に労働基準法が全面的に適用されるかどうか、協同組合が使用者としての同法上の責任を負うかどうかは明確ではない。
 また、そもそも、「基本的考え方」が撤回されていないのであるから、労働基準法以外の労働諸法令の適用を認めたものとは考えられない。
なお、市民会議は、対照表の理由の記載で、「組合員は、労基法10条の事業主としての法人たる組合に使用される労働者として労働関係法令の適用をみる」と述べているが、この記載が提案の内容に含まれているかどうかは不明である。

 「新要綱」を改訂するなら、「基本的考え方」を撤回し、協同組合及び業務従事組合員の双方に労働基準法等のすべての労働諸法令の適用を認めることを明確にした上で行うべきである。

5 結論
 
 日本労働弁護団は協同労働の協同組合を立法化することの積極的意義を認めるが、協同組合及び業務従事組合員に労働諸法令の適用を認めない内容の法案が可決された場合、法律が悪用され、新たなチープレイバー雇用の温床となることを強く危惧している。協同組合及び業務従事組合員への主要な労働諸法令の適用を否定する「基本的考え方」を撤回し、本文書の内容に従って、法案の内容を再検討することを求める。

以上


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