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放射能被曝 「直ちに健康被害はない」の意味

 原子力の専門家である武田邦彦・中部大学教授(高知工科大学客員教授でもあり、内閣府原子力委員会専門委員、同安全委員会専門委員も勤める)が、放射能レベルが基準を超えても「ただちに健康に被害がない」「安全」という専門家の発言に、苦言を呈し、「その差」の意味を解明している。
【放射線の専門家に自重を求める 3/26】
【教育関係者に訴える! 今すぐ、立ち上がってください!!  4/2】
【生活と原子力02 1ミリ、100ミリ、「直ちに」の差は?】

 1年間の被曝してもよい量は、法では1ミリシーベルト。しかし、解説者や政府は「直ちに健康に被害はない」と説明しているが、その差は何か。

100ミリシーベルトを支持する論の典型は「人間はがんで死亡するのが、人口の約半分なので100人に50人はガンで死ぬ。だから放射線に被曝して100人に1人だけガンが増えたからといって問題ではない」というのが「ただちに健康に被害がない」論。

これに対して、武田氏は次のような例を考えて反論する。
1) 「どうせ人間は100人に100人が死ぬのだから、交通事故で死んでも問題はない。それに、交通事故の死者数はわずか10万人に5人だから、交通事故対策等はやらなくてよい」
2) 「飲酒運転をしても、交通事故死の10分の1にしか過ぎない。ましてその数は100万人に5人だ。だから飲酒運転を取り締まる必要はない」
 ということでしょうか、と・・・

武田氏は自らの立場をこう説明しています。
“ 「どのくらいの放射線なら安心なのかというのは多くの人の関心事だと思います。国際的にまた国内の法律でも「普通の人が安全だと言える放射線の量」は、1年間に1ミリシーベルトです。・・・・・・

 私の発言に対して「危険を煽るのは良くない」と言う人がいますが、ここで説明したのは、国際勧告と日本の法律(放射線障害防止の法律)を解説しているだけです。

 今回の事件で私は「自分の意見」を言わないことにしています。というのは、私は神様ではないので、これまで40年ほどにわたって議論されてきた最終的な結論(1ミリシーベルト)をそのまま伝えています.

 これに対してテレビなどにでる人が法律に書かれた値の100倍でも大丈夫と発言していますが、私にはできません。なぜなら、もし法律の限度の100倍の被曝をして、その赤ちゃんが将来、ガンなどになっても私は専門家として責任をとれないからです。
 つまり、「非常時だから」というのは判っていますが、国際勧告とか法律に定められた「限度」は、人の健康を考えているのですから、「パニックになるから、放射線に対する人への影響が変わる」とか、「福島市の人を全部、移住させることはできないから、まあまあ」ということとは関係がありません。
 これまで「これが限度」と言われていた値を、原発の事故が起こったから、誰の許可もなく違う数字を言うことは科学者としての私の範囲ではありません。
 政府が「直ちに健康に影響がない」と言っているのは私も同意します.なぜなら放射線をあびて直ちに健康に害がでることは、すぐ死ぬときぐらいしかないからです.”


【放射線の専門家に自重を求める 3/26】

 テレビ出られて福島原発の放射線について「安全だ」と言っておられる専門家の方に自重を求めたいと思います。
 わたくしたち原子力の専門家は、原子力や放射線の正しい利用を進めるために、国際的な勧告や放射線障害防止に関する法律を厳しく守ることを進めてきました。
 決してレントゲンや CT スキャン等だけを参考にして安全性を議論してきたのではありません。また、1年間の被曝量で規制値を決めても、それは1年間ずっと続く場合だけではなく、規制値を超える場合には、危険があると考えて良いということだったのです。

 委員会では、半減期はもとより、元素の種類による身体への影響等極めて詳細で厳密な議論を経て決めてきたのです。

 確かに国際的な基準になっている空間の線量率が1年に1マイクロシーベルトという数値、WHO が定める食品の放射性物質の量など、日本の委員会では厳しすぎるという意見があったことは確かです。

 しかしわたくしたちはそのような議論を経て、現在の基準を作ってきたのです。

 特に私が問題だと思うのは、3ヶ月に1.3ミリシーベルトを超える場所は「管理区域」として設定し、そこでは放射線で被爆する量を管理したり、健康診断をしたりするということをわたくしたちは厳密に守ってきました。
福島市においては瞬間的な線量率が1時間に20マイクロシーベルと程度まであがり、現在でも毎時10マイクロシーベルトのレベルにあります。この線量率は、文科省の測定方法を見ると外部被爆だけであって、規則に定める外部被曝と内部被曝の合計ではないと考えられます。

 今後、内部被曝などを考えると、毎時数マイクロシーベルトの状態が2、3年は継続すると考えられます。
・・・・・・・・・

 一方、福島市には、幼児や妊婦も生活しておられます。また、1時間だけの被曝量を言っても、その人たちは24時間ずっと生活をしているのです。たとえ屋内にいても換気をすればあまり差はありません。

 放射線障害防止規則による妊婦の被曝量の限界は毎時約0.5マイクロシーベルトですから、私達専門家は福島
県の東部の多くの市町村において、妊婦等の避難を勧告する立場にあるのではないでしょうか。

 現在ではむしろ政府より放射線の専門家の方が「安全だ」ということを強調しているように見えますが、むしろ放射線の専門家は国際勧告や法律に基づいて、管理区域に設定すべきところは管理区域に設定すべきといい、妊婦の基準を超えるところでは移動を勧めるのが筋ではないかと思います。

 その上で、政府や自治体がどのように判断するかというのは放射線の専門家の考えるところではないとわたくしは思います。

 政治家やメディアでは「国民を安心させなければいけない」と言っていますが、現実に法律で定められた規制値を超えている状態を安全といい、それで安心していいというよりもむしろ、現実をそのまま伝えて判断を社会に任せるべきと思います。
・・・・・・・・・
 また我々は学問的立場で考えていますので、各々の専門家に各々の考え方があることは十分に知っています。
 わたくし自身が国際勧告のレベルは少し厳しいと考えている人間ですが、しかし、放射線防護に関する日本の法律も50年を経ています。その間、十分に検討を尽くされてきたのです。わたくしたちは原発問題とか社会問題とは切り離して、厳密に放射線と人体への影響を考えて発言していかなければいけないと思います。
特に核分裂生成物に汚染された土地は、長寿命半減期の元素によって線量率は直ちに下がらないと考えられます。このような場所に長く生活しなければならない子供たちのことも考えて発言をお願いしたいと思います。
・・・・・・・・・
 むしろわたくしたちは、福島原発の事故がもたらす新しいこと、例えば東京のようなコンクリートとアスファルトで固まったところにどのくらいの残留放射線が残るかとか、福島第一、3号機のようにプルトニウムを燃料として用いている原子炉の放射性物質の影響等を至急検討する必要があると考えています。
・・・・・・・・・
 2011年3月26日のあるテレビの番組を見ていましたら、今まで「安全だ」と断言していた人が「私の言っている「安全」というのは東京だけだ」と最後にご発言になったのに強い違和感を覚えました。
東京が人口も多く、重要なことはわかりますが、最も危険なのは福島県とその周辺であり、安全だと発言されるには福島県の人のことを考えなければならないと思うからです。

 わたくしの経験では、原子力や放射線を扱っている方々は決して不誠実な人ではありませんでした。むしろ会議等を行っている時にわたくしは、皆さんが十分に考え放射線の身体に対する影響を少しでも減らそうと努力されていると思っていました。

 その我々の専門家の雰囲気をぜひ思い出していただきたいと思っています。
(平成23年3月26日 午前9時 執筆)


【教育関係者に訴える! 今すぐ、立ち上がってください!!  4/2】

 福島県及び近県の教育関係者に御願いします。
 現在、福島県及び近県の空間放射線量は1時間あたり約2マイクロシーベルトで、呼吸による体内被曝と水や
食糧から入る放射線量もほぼ同じ量ですから、約6ミリシーベルトになります。

 一方、福島原発の処理は長期化が予想され、児童生徒の被曝量は「考慮しなければならないレベル」になります。1年間の被曝が予想され、その場合、6×365×24=53ミリシーベルトになり、児童生徒の放射線障害は100人に0.5人を越える段階にまで達しています.
・・・・・・・・・
 教育者の先生方、児童生徒は先生方の命令のもとに行動することを求められます. 自分たちでは自分の健康を守ることができません。
 言うまでもありませんが、教育は政府と独立しており、子供達の命と健康を守ることが教育者のもっとも大切な役割です.
 政府の指示や勧告は教育委員会とは独立です.そのための教育委員会です.
 学校の開始日を5月の連休明けにしてください。そして屋外の運動はしばらく中止してください。御願いします!!

 放射線の量と健康障害については様々な学説がありますが、50年にわたる研究の結果が、ICRP(国際放射線防護委員会)および放射線障害防止の法律と規則(国内)で決まっていて、年間1ミリシーベルトです.それを越えているのですから、学校はそれに対して真剣に取り組み、将来、児童生徒に放射線障害を万が一でも出さないように、情熱のある行動を求めます.

 半減期のある放射性物質は時間が経てば減っていきます. だから最初が大切なのです!
 「おそらく大丈夫だろう」とか「政府が言っているから」では教育者としての信条に反します. 「万が一にも児童生徒の健康に害が亡いこと」を第一にしてください。

 政府は、原発の近傍の海で規制値の3355倍でも「健康に影響がない」と言っています. その海で児童生徒を海水浴はさせないと思います.
 ご自分でご判断しないでください。あくまでも「基準以上は危険。基準以上で児童生徒の登校をさせない」と決意してください。
 学校の先生は教育上の全権があります。いろいろな事情があるでしょうが、ここで教育者としての責務を貫いてください。
 これまでの、世界の被曝の経験では、ICRPのデータにもあるように、すでに数100名の児童生徒が20年以内にガンになる可能性のレベルまで来ています.

 「危険を承知で知らない顔をする」ことこそ「風評」であり、事実を直視することは「風評」ではありません。事実を見るには勇気が要りますが、将来の子供のために先生方が勇気をもって事実を見て、具体的な行動をとっていただく事を切望します.
(平成23年4月2日 午後9時 執筆)

【生活と原子力02   1ミリ、100ミリ、「直ちに」の差は?】

 福島原発で放射性物質が漏れたとき、一般人が1年間に被曝しても大丈夫な量は、
(法律と私) 1ミリシーベルト
(解説者) 100ミリシーベルト
参考;(政府)「直ちに健康に影響はない」
と大きく違いました. これでは普通の人が迷うので、「違いの原因」だけ解説をしておきます
.
・・・・・・・・・
 まず、100ミリシーベルトを支持する専門家は、国立研究所系研究者、京都大学、長崎大学、東芝関係者などに多いようですが、その一人は、かつて長崎大学におられて、今、京都大学の渡邉正己教授です
.
 わたくしは普通このようなことを論じるときに、個人名を挙げません。それは、内容を批判することがあっても、人間を批判したくないからです。
 しかし今回の場合ははっきりと発言しておられますことと、ここでは渡邊先生を批判するのではないので、先生のお名前を挙げさしていただきました。

 先生が3月20日に発言されたことは次のようなことでした。

 「100ミリシーベルトで健康に害を与えると仮定しても、発がん率はおよそ100人に1人。放射線の被曝がなくても100人のうち50人はガンになるので、あまり影響はないと予想されます。」

 これは先生のお考えであり、わたくしの考えとは違いますが、だからといって先生のお考えが間違っているというわけではありません。わたくしと違うということです。それでは何が違うかを整理してみたいと思います。
・・・・・・・・・
 「人間はがんで死亡するのが、人口の約半分なので100人に50人はガンで死ぬ。だから放射線に被曝して100人に1人だけガンが増えたからといって問題ではない」というのが先生の趣旨です。
これに対して、わたくしは次のような例を考えます。

1) 「どうせ人間は100人に100人が死ぬのだから、交通事故で死んでも問題はない。それに、交通事故の死者数はわずか10万人に5人だから、交通事故対策等はやらなくてよい」
2) 「飲酒運転をしても、交通事故死の10分の1にしか過ぎない。ましてその数は100万人に5人だ。だから飲酒運転を取り締まる必要はない」
どうせ人間を100人に100人が死ぬのだから交通事故で死んでも病気で死んで同じであると言えば、それはそうかもしれません。渡邊先生はこのように考えておられると思います。

 しかし、社会が交通事故を何とか無くそうとしているのは、人間が自然の中で死んでいくのは仕方がないが、幼い子供や青年が、また、仮にお年を召した人でも、やはり交通事故で亡くなるというのは悲惨なことだと日本社会は判断していると思います。

 次に、飲酒運転による交通事故死は、交通事故全体の10%に過ぎません。ですから、飲酒運転で犠牲になる方は年間「たった」50人です。確率的で言えば「100万人に5人」にしかすぎません。100万人に5人しか被害を受けないものをメディアが騒ぐというのも問題かもしれません。

 しかし、お酒を飲まなくても運転できるし、お酒を飲めば交通事故が多くなるのです。だからたとえ50人増えるにしても、日本社会は何とかそれを食い止めようとしてきたと私は思っています。

 このような通常の社会的だ災害に対して、100ミリシーベルトの放射線を浴びると100人に1人がガンになるわけですから、約1億人の日本人を考えれば、100万人がガンになるということになります。

 現在では福島市の約半分がかなり危険な状態にありますから。放射線を浴びている人たちの数は100万人程度です。従って、福島県だけを考えても、1万人の人が放射線の被曝でガンになるということを渡辺先生はおしゃっています。
 確か事故の福島県の100万人の人は、最終的にお亡くなりになる時の原因はガンが50万人ということになりますが、お年を召して自然にガンで死亡されるのと、福島原発から出た放射性物質を浴びてガンになって死ぬというのは大きく違うと私は思います。

 まして、「時期の問題」を考えると、放射線による疾病の調査のほとんどは20年間ぐらいなので、現在の赤ちゃんは、仮に1ミリシーベルトの放射線をあびると、20歳ぐらいまでにガンになるということになります。
わたくしは、渡辺先生と考えが違うのはこのように思うからです。
・・・・・・・・・
 もう一つの違いは、飲酒運転というのは「してはいけないことをする」という問題でもあります。
今回の原発事故は、原子力に関係してきたわたくしにとって見れば、原子力が「してははいけないことをしてしまった」と申し訳なく思っています。

 「原発を運転すれば必ず放射線が漏れる」ということが最初から判っていて、その上で国民は電気がいるという理由で原発を認めていたというのなら少し違うのですが、原子力の関係者は今まで「原発から放射線が漏れることはない」と言ってきたわけですから、今はせめて付近住民の方に安全な情報を早く伝えることと思います。
 「してはいけないことによって出た放射線でガンになる」ということはわたくしには「してはいけない飲酒運転をした犠牲者」と同じと考えるからです
.
・・・・・・・・・
 また、わたくしは、「100人に1人」という数はかなり高いように思います。親の気持ちなれば、1000人に1人でも危ないと思い、1万人に1人ぐらいになれば、何とか防いであげることができると思うのではないでしょうか。
 渡邊先生と同じ長崎大学の先生は、「100ミリシーベルトで、100人に0.5人しかがんにならないので大したことがない」というふうに発言されていました。渡邊先生とほぼ同じ数値です
.
 わたくしは交通事故が「1万人に0.5人」ということを考えれば、これも100倍の危険ですから、非常に大きな値ではないかと思います。
 ちなみに、福島県全体のことを考えると、すでに汚染が開始されてから1ヶ月になろうとしていますが、空間の放射線量が1時間あたり2マイクロシーベルトぐらいのところは、1ヶ月経ったところで、空間放射線から1.5ミリ、内部被曝が1.5ミリ、水から1.5ミリ、食品から1.5ミリで合計6ミリシーベルトぐらいになっています
.
 それに、自然放射線0.12ミリ、胃のレントゲン0.6を足して約7ミリシーベルトが1ヶ月後に放射線がゼロになったとしての被曝量です。
被曝によるガンの発生が受ける放射線の量によるとしますと、100万人あたり700人のガンがでることになります(渡邊先生の予想を比例計算)。
・・・・・・・・・
このように整理していくと、渡辺先生とわたくしとは、放射線を浴びることによってどのくらいガンになるかという「科学的事実」については見解はほぼ同じです。
違いは「危険」と感じる程度が違います
.
 おそらく、渡辺先生は100人が50人とか100人がガンになるような場合が「危険領域」とご判断されていると思いますが、私は100人中1人でもガンになるというのは「大変なことだ」と考えているという感覚の問題かもしれません。
 この判断は、読者の人がご自分のお考えに合わせて判断するべきものと思います。政府やメディアは「1万人に1人ぐらいで騒ぐのは風評だ」と言っていますが、騒がない方が風評のように思います。
・・・・・・・・・
 さて、このことで二つ考えるべきことがあります。

 一つは、一見して科学者の間で、科学的事実の解釈に差があるように見えても、よくよく見ると科学的事実は一致していても、「人生、健康、思想、政治的立場」で差がある場合があります。
このようなときに専門家はお互いに非難することなく「どこに考えの差があるのか」ということをはっきり言ったほうが聞いている方はよくわかると思います。

 もう一つは政治の問題です。
 かつては、日本に資本主義を支持する人と社会主義を支持するグループがあって、国会では与党と野党を形成していました。

 こんどのような時には、資本主義を支持する与党の人はどちらかというと原発推進の立場から「このくらいの放射線なら大丈夫だ」という発言をし、それに対して、社会主義で野党の人は庶民を守ると言う見地から「危険だ、政府は隠している」と追及して、それがあるバランスになっていたように思います。

 またメディアの中でも政府に批判的なメディアがあり、国民が放射線を浴びるのは良くないということを基本に、紙面を作り、それが政府を動かしたりしました。

 しかし最近ではメディアも含めてオール与党のようになったので、今回の件でも政府の発表等を鋭く追及する力が弱かったようにも思います。

 特にわたくしは、発電所周辺の海で基準値の3355倍の放射性ヨウ素が見つかった時に、保安院は「直ちに健康に影響はない」と記者会見で言っていました。政府は明らかに不適切なことでも言うこともあります。

それに対して、もし、わたくしがそこにたら、
1) それならば何万倍になれば危険になるのですか?
2) 健康に影響がないということは原発の近くの海で子供を海水浴させてもいいのですか?
という質問をしたと思います。これを考えても政府発表に対しての記者の方の追及の力が弱いように思います。わたくしはそれこそがメディアや学者の役割と考えています。

(平成23年4月2日 午前9時 執筆)


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