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「個人請負」も「労働者 最高裁

 個人請負契約の形で、労働者保護の義務や負担を免れる脱法・違法行為が横行する中、意義ある判決である。
【個人事業主でも「労働組合法上の労働者」 最高裁が判断 朝日4/13】
【最高裁判決:個人請負も「労働者」 団交拒否は不当行為 毎日4/13】 
 
高裁の不当判決に、労働弁護団が意見書決議をあけでいるが、今回の意義がよくわかる。
【労組法上の労働者性を否定した東京高裁3判決の是正を求める決議 2010年11/13】

 そこでは・・・ 憲法28条が「勤労者」に団結権、団体交渉権を保障しているのは、使用者に経済的に従属する勤労者が団結をすることによって使用者との実質的な対等化を図り、その生存権を保障するためである。労組法が、労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(3条)と広く捉えているのは、憲法28条の趣旨を具体化し、これを実効あるものとするためである。
 と指摘している。
 
この判決を力に、偽装「個人請負」の是正をすすめたい。

 なお、建築現場の一人親方についても、川崎市の公契約条約は、労働者ととらえる見方を示しているが、これも判決との関係でさらに重要な意味をもつ。


【個人事業主でも「労働組合法上の労働者」 最高裁が判断 朝日4/13】

 住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主は「労働組合法上の労働者」に当たるか。劇場側と個人として出演契約を結ぶ音楽家の場合はどうか。二つの訴訟の判決で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は12日、いずれも「労働者に当たる」との判断を示した。
 企業が外注化を進め、個人事業主が急増する中で、判決は個人として働く人の権利を重視し、組合をつくって団体交渉する道を開いた。IT技術者やバイク便のドライバー、ピアノ教室や塾の講師など形式的には独立した事業主でも、働き方の実態によって労働者と認める先例となりそうだ。
 うち一つの訴訟を起こしたのは住宅設備会社「INAX」(現リクシル)の子会社「INAXメンテナンス」(IMT、愛知県常滑市)。製品の修理などを一定の資格をもつ「カスタマーエンジニア」(CE)に委託してきた。
 CEでつくる労働組合は2004年9月、労働条件を変える際には事前に協議することなどを同社に申し入れたが、拒否された。この対応を中央労働委員会が不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じたため、同社が命令の取り消しを求めて提訴した。
 第三小法廷は、IMTがCEの担当地域を割り振って日常的に業務を委託していたことや、CEは業務の依頼を事実上断れなかった点を重視。「時間、場所の拘束を受け、独自の営業活動を行う余裕もなかった」として労働者に当たると結論づけた。
 09年4月の一審・東京地裁判決は労働者と認めたが、同年9月の二審・東京高裁判決は「業務の依頼を自由に断れ、いつ仕事をするかの裁量もあった」として労働者とは認めなかった。第三小法廷はこの二審判決を破棄し、IMT側敗訴の一審判決が確定した。IMTは今後、CE側との団体交渉に応じることになる。
 もう一つは新国立劇場(東京都渋谷区)のオペラ公演に出演する1年ごとの契約を結んでいた合唱団員をめぐる訴訟。ただし第三小法廷は、契約を更新しなかったことが不当労働行為かどうかをめぐり、審理を東京高裁に差し戻した。
 合唱団員の女性は1998年から5年間、毎年のオーディションに合格し、契約更新を続けた。しかし03年に不合格となり、女性が加入する労働組合が劇場側に団体交渉を申し入れたが、拒否された。
 一、二審判決は「労働者に当たらない」と判断したが、第三小法廷は「女性は公演に不可欠なメンバーとして劇場に組み入れられており、事実上、出演を拒めなかった」と判断した。(山本亮介)
    ◇
 ■労働組合法上の「労働者」 職種を問わず、賃金や給料などの収入によって生活する人を指す。憲法で保障される「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の三つの権利が認められる。このうち団体交渉権は、賃金や解雇などについて労働組合が使用者と交渉する権利のこと。労働組合法では、正当な理由もないのに使用者が労働組合の代表者との団体交渉を拒めば、不当労働行為になると定めている。


【最高裁判決:個人請負も「労働者」 団交拒否は不当行為 毎日4/13】 

 INAX(現LIXIL)の子会社と業務委託契約を結んで製品修理を個人で請け負う「カスタマーエンジニア」(CE)が、労働組合法上の「労働者」に当たるかが争われた訴訟で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は12日、「労働者に当たる」との判断を示した。そのうえで、団体交渉を拒んだ会社の対応を不当労働行為とする判決を言い渡した。こうした就業形態は個人の立場を不安定にするとの批判がありトラブルも多いが、請け負う側に有利な判決となった。
 CEは「INAXメンテナンス」(愛知県)からINAX製のトイレや浴室の修理補修を請け負っている。04年にCEらが加入する社外の労働組合が労働条件改善を訴えて団体交渉を求めたが、会社側は「CEは『労働者』ではない」と拒否した。
 労組法は労働者を「給料やこれに準ずる収入で生活する者」と規定している。CE側は「社員同様会社の指揮監督を受け、労働の対価として事実上の賃金を得ている」と主張。会社側は「CEは個人事業主であり発注業務を拒める。報酬も委託業務に対して支払われている」と反論した。
 小法廷は「CEは会社側の依頼に応じるべき立場にあった」と指摘。「報酬は会社が等級や加算額を決めており、労働の対価と言える」として労働者性を認めた。
 訴訟では、東京地裁が08年にCEを労働者と認めたが、東京高裁(09年)が1審を取り消す逆転判決を言い渡していた。
 小法廷は同日、CEと同様に新国立劇場運営財団(東京都渋谷区)と契約を結んで公演に出演しているオペラ歌手についても労組法上の「労働者」に当たるとする判決を言い渡した。【伊藤一郎】

 ◇解説 契約より労働実態重視
 最高裁は、契約が形式的に「委託」や「請負」であっても、実態が「雇用」と同一視できるなら労働法の保護対象とすべきだとする判断を示した。労働組合側が「偽装雇用」や「名ばかり事業主」と批判する企業の手法に警鐘を鳴らしたといえる。
 今回のCEのようなケースでは、企業は契約相手の個人に社員と同様の労働をさせながら、「雇用」していないとの理由で社会保険などの負担を免れている。働き手には最低年収の保障もなく、残業、出張手当が払われないこともあるが、組合を通じた団体交渉やストライキ権が否定されることが多い。
 労組関係者によると、同様の契約形態はトラック運転手や建設作業員、駅の売店従業員など幅広い業種に及び、総数は100万人以上との見方もある。地裁や高裁では契約を重視して企業による団体交渉拒否を正当とする判断も示されてきたが、最高裁判決により不安定な立場で働く人々の救済に向けて道が開かれる形となった。
 一方で、法律上の「労働者」の定義があいまいだったことが問題の背景にあるとの指摘が以前からあり、厚生労働省の研究会が7月に中間報告を出す予定だ。今回の判決も踏まえ、労使の紛争を増やさないような明確な基準策定が求められている。【伊藤一郎】

【労組法上の労働者性を否定した東京高裁3判決の是正を求める決議 11/13】

2010年8月26日、東京高等裁判所第19民事部は、ビクターサービスエンジニアリング株式会社(「会社」)に個人請負(委託)形式で就業していた者らが、労働組合法上の労働者にあたらないとする不当な判決を言い渡した。
 これまでも、業務委託形式の契約のもとで就労する労働者の労組法上の労働者性を否定した新国立劇場事件東京高裁判決(平成21年3月25日)、INAXメンテナンス東京高裁判決(平成21年9月16日判決)と、東京高裁で相次ぐ不当判決が行われてきた。
 ビクター事件判決は、労組法上の労働者性について、「労働契約、請負契約等の契約の形式いかんを問わず、労働契約上の被用者と同程度に、労働条件等について使用者に現実的かつ具体的に支配、決定される地位にあり、その指揮監督の下に労務を提供し、その提供する労務の対価として報酬を受ける者をいう」とする。これは朝日放送事件最高裁判決と同様の表現であるが、同事件は労組法上の「使用者」性の判断基準につき言及したものであり、「労働者」性が問題となるビクター事件とは事案を全く異にする。しかも、ビクター事件判決は労働者性判断につき、契約の形式は問わないと述べながら、業務委託契約について、「委託者の必要に応じて受託業務に従事する以上、委託内容により拘束、指揮監督と評価できる面があるのが通常であるから、契約関係の一部にでもそのように評価できる面があるかどうかによって労働者性を即断するのは事柄の性質上相当でな」いとして、労働の実態より契約形式を重視する姿勢を見せている。そして、会社と顧客の調整により受託者の受注する業務の日時や場所が決まること、業務遂行方法について一定の指示があることは委託契約の内容の性質上そのように定めるほかないものであるとするなど、本来労働者性を基礎付けるべき事実についてこれを契約内容の性質上当然のものとして切り捨てるなどして、労働者性を否定した。

 ビクター事件は上告され、これで新国立劇場事件、INAXメンテナンス事件と並び、労組法の労働者性に関して3つの事件が最高裁判所に係属することとなった。
 憲法28条が「勤労者」に団結権、団体交渉権を保障しているのは、使用者に経済的に従属する勤労者が団結をすることによって使用者との実質的な対等化を図り、その生存権を保障するためである。労組法が、労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(3条)と広く捉えているのは、憲法28条の趣旨を具体化し、これを実効あるものとするためである。したがって、労組法上の労働者性は、その就労実態から団結権、団体交渉権の保障を及ぼす必要性の有無で判断すべきことは自明である。この点、これまで労組法上の労働者について判断した唯一の最高裁判例である中部日本放送・CBC管弦楽団事件最高裁判決(昭和51年5月6日)も労組法上の労働者については、その就労実態を重視した判断を行い、労働委員会もこれに沿った適切な判断を行ってきた。東京高裁の前記3判決のように、契約形式にとらわれ、労組法上の労働者の範囲を狭く解することは到底許されない。
 日本労働弁護団は、東京高裁の前記3判決を改めて強く批判するとともに、これら上告事件について、最高裁判所において口頭弁論を開き、不当な判断を正すように強く求める。

2010年11月13日    
  日本労働弁護団第54回全国総会

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