「新福祉国家の自治体像」 補完性原理批判とナショナル・ミニマム保障
渡辺治・一ツ橋大学教授の2011年4月「経済」の論考から、あるべき自治体像として「補完性原則」批判とナショナル・ミニマム保障について述べられた部分の備忘録。
【新福祉国家の自治体像 「補完性原則」批判、ナショナル・ミニマム保障】
2011年4月「経済」 渡辺治
・地域主権改革、社会保障構造改革は、新自由主義的な地方自治体像を念頭においている。
→ 地方の自由裁量にゆだねるという場合の、地方は、大阪、名古屋型の首長独裁型の権威的な地方政府を前提としている。/その地方政府は、構造改革の執行単位として、福祉などの歳出削減とグローバル開発について自由な権限を持ち、市町村合併を通じて、ある程度の規模を持つ。
・憲法の求める地方自治体 /第8章の地方自治体は、3章の基本的人権を保障するため、地方自治体の存在はなくてはならない、という構成/ 福祉国家型の自治体とは、憲法を実現しようとする自治体
◆「補完性の原則」~ 公的責任解除への利用
・「補完性の原則」の基本的な考え ~ 地域の共同事務については共同体の中で行う。/それで足りない医療福祉は、住民に最も近い基礎的自治体が第一に担う/ それでも担いきれない部分は、それを「補完」する上で広域自治体が対応 /それでも担えない事務は、国が面倒見る
・問題点
①構造改革で、国の責任を解除して自治体に丸投げ、公共部門を民間に委ねる際の「根拠」に使われている/ 国・自治体の責任解除のイデオロギーとして使われている。
②地域主権戦略会議の言う補完性の原則は、憲法のナショナル・ミニマムを実現するための制度運用に適合してない。
→ 基礎自治体が人権保障の機能を担うためには、広域自治体が基礎自治体に関与・支援し、国は基準を設定し場合によれば直接管理運営し、また基礎自治体の財源保障を行うことが不可欠。/ 基礎自治体だけで完結して人権保障を行うことはできない。
・国や県は、単なる補完ではない・・・憲法の人権保障を実現するという目標のもと、基礎自治体と共同して事務・事業を担う共同分担関係にある。/それでこそ人権保障の機能を果たすことができる。
→ 生活保護 窓口は市町村、基準や財源保障は国/ 保育 実施は基礎自治体、基準は国、県は認可
◆「自助」「公助」論と「自己責任」論
・この「補完性の原理」と似た面があるのが、社会保障の「自助、共助、公助」論 /まず自らやって、できなければ共助、それでもできないと公助、という社会保障分野で流布されている、誤った考え
→ そもそも社会保障が機能していなければ、「自助」、すなわち「自己責任」を発揮して生活・雇用を支えることは不可能
→ 失業時の雇用保険、職業訓練がなければ「自助」努力はできない。/強力な共助、自助があって初めて自助が生きてくる。/ 共助も公助の保障なくしては機能しない
→ 福祉国家の一番基本のところを掘り崩すイデオロギー
(メモ者 自治体の高齢者福祉計画/ 介護サービスを受けないのが「自立」ととらえ、介護サービスを受けながら、よりよい生活を送ることを「自立」ととらえない、という倒錯したものに)
◆ナショナル・ミニマムに不可欠な自治体の役割
・ナショナル・ミニマムと自治体の関係 ~ 福祉国家型の地方自治体が担う役割
①自治体の役割が不可欠 /具体的に医療、教育、保育、介護などの運営を住民に対して実施(当然、国の基準、財源保障の枠組みのもとで・)
②自治体は、ナショナル・ミニマムを、歴史的に発展、豊富化していく役割を持っている
→ 岩手県沢内村で始まった老人医療の無料化が、革新自治体に広がり、国の制度へ / 大都市部が独自の上乗せ(ローカル・オプティマム)をつくり、その住民が人口のかなりの部分を占めると、国の制度に発展していく(最近では、小学1年の35人学級)
→ ナショナル・ミニマムの拡充には、住民自治が重要な力となる。
*逆の例/ 保育の基準が1948年以来60年間ほとんど変わってない。
・地方自治体は、ナショナル・ミニマムの実施義務、そして豊富化の点から二重の役割を担う。/新しい福祉国家の実現をめざす上で、地方自治体は、その第一歩を築く役割を担う。/いっせい地方選は、福祉国家型の国づくりへ転換していく大きなたたかいを進める場に!
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