TPPへの参加で建設業・地域経済が疲弊 建政研
社会資本のメンテナンスが重要が時代に、ランク別入札や地域要件の廃止・縮小などで国際資本が参入し、地域の経済力、能力がそぎ落とされる危険がある。建設政策研究所の見解
東日本大震災を見ても、行政・消防、医療・福祉、地元建設業などの役割の重要さが示されたと思う。地域の力をそぎ落とす道州制とか、TPP参加は賛成できない。
【TPPへの参加が建設分野に与える影響に関する見解 】 建設政策研究所 2011年3月25日TPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)「環太平洋戦略的経済連携協定」は、2006年5月にブルネイ、チリ、ニュージランド、シンガポールの4か国が参加する、小国による自由化レベルの高い包括的貿易協定(「P4協定」と呼ぶ)として発効された。その後、2009年にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加し、協定づくりの交渉が新たに行なわれている。TPP交渉は24の作業部会を持ち、11月のAPEC首脳会議までに合意することを目指している。
TPPではP4協定において原則全品目の即時又は段階的関税撤廃と、サービス貿易、政府調達、競争政策、人の移動などを含む包括的協定が行なわれている。
その後、TPP協議へのアメリカの参加により、協議対象が投資、金融サービス分野にも広げられるとともにアジア諸国のみの「共同体」づくりに楔を打ち込み、アメリカ主導の環太平洋貿易協定体制になる可能性が強まっている。
2010年6月に発足した民主党菅内閣は、当初、2010年度中に「包括的経済連携の基本方針」を策定し、2020年度までに「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を含む経済連携の推進」をめざすとしていた。ところが、菅首相は2010年10月の臨時国会の所信表明演説で、突然TPPへの参加を検討すると表明した。
9カ国で交渉中の新たなTPP協定づくりは非公開で行なわれているため、建設政策研究所ではP4協定の条文やWTO政府調達協定、「日米経済調和対話」に基づき、TPPへの参加がもたらす日本経済および国民生活への影響とともに建設分野に与える影響についての見解を述べ、TPPへの日本の参加に対し反対の意思を表明するものである。Ⅰ.TPPへの参加が日本経済および国民生活に及ぼす影響
1.農林業生産に壊滅的打撃を与え食料自給率を急減させる
TPPへの参加はアメリカとオーストラリア・ニュージランドという世界最大の穀物・食肉・乳製品輸出国に関税ゼロで日本市場を開放することになる。1960年代から主に対米市場開放を行なってきた日本の農産物の自給率は今日では40%にも落ち込み、高齢化した農業従事者のもとで辛うじて経営を維持している農業は壊滅的打撃を被ることになる。農林水産省の試算ではTPPへの参加により、自給率は13%程度に落ち込み、340万人程度の農業従事者の就業機会が喪失されると推測している。
市場には多くの外国産食品が出回り、国民は否応なく外国産品を口にせざるを得ず、食の安全は危機的状況になる。また、自給率の低下は国民の生存の糧を外国に依存することになる。外国の食糧政策や天変地変等により、海外からの食糧輸入が減少すれば、価格急騰、食料不足など、国民の生存権さえ脅かされる可能性がある。さらに農業の衰退は水田をはじめ耕作農地の急減を招き、生物の生態系破壊、景観・環境保全、治山治水対策などにも大きな問題を生じさせることになる。
また、木材市場については、米国占領下の1951年に丸太の輸入関税がゼロにされ、その後も開放政策が継続し、木材自給率は27%(2009年)まで落ち込んでいる。TPPに参加すれば、関税品目の合板や集成材など木材製品の関税もゼロとなり、国産材の需要拡大を進めている合板や集成材分野が大きな打撃を受ける。そのことは林業再生と地域再生をめざす林業関係者の努力を打ち砕き、森林が荒れ果て、国土の荒廃がいっそう進むことになる。2.日米安保レベルを超える日本経済のアメリカ化の進行
アメリカの通商代表部(USTR)が3月1日に議会に提出した「貿易政策と通商交渉に関する報告書」にはTPPに参加する意義を強調し、TPP交渉が完結すれば「参加国の規制制度が互いに矛盾のないものになり、米国企業がTPP市場で障害なく活動できることになる」と述べている。
すでに「日米経済調和対話」の第1回会合(2月28日~3月4日、外務省と米通商代表部の事務レベル会合)では、情報通信技術(ICT)、知的財産権、郵政、保険、透明性、運輸・流通・エネルギー、農業関連課題、競争政策、ビジネス法制環境、医薬品・医療機器の10分野にわたる約70項目に及ぶ規制緩和を日本側に要求している。
菅首相のTPP参加発言がアメリカの対日要求をエスカレートさせており、日本のTPPへの参加は日本をアメリカ主導の「環太平洋経済共同体」に引きずり込み、日本の経済主権が根こそぎ奪われる可能性が大きい。Ⅱ.TPPへの参加が建設分野に与える影響
1.巨大輸出企業のみが有利となり、地域経済の疲弊が地域建設業の仕事を奪う
菅内閣が急遽TPPへの参加を表明した背景には、アメリカの圧力とともに日本の自動車・電気など巨大輸出企業からの強い要求がある。巨大輸出企業にとっては、ベトナムなどTPP加盟の低賃金国で直接生産を行ない、安い製品をアメリカなど他のTPP加盟国に関税なしで輸出することが可能になり、国際競争の上で圧倒的に優位に立つことができる。しかし、そのことは工場の海外立地をいっそう促進することになり国内生産の減少による雇用の削減となる。このような製造業や農林業という基幹的産業の国内での縮小は地域経済の疲弊にいっそう拍車を掛け、地域における消費購買力の大きな落ち込みは地域建設業の仕事を奪い、地域建設業にとっても壊滅的打撃を与えるものとなる。2.公共事業の国際入札範囲の拡大、競争政策がもたらす問題
現在、日本の公共調達の国際入札適用基準はWTO(世界貿易機関)政府調達協定に基づき設定されている。ところがTPPに参加し新たにP4基準が適用された場合、TPP加盟国との間での国際入札適用基準は大幅に緩和されることになる。
図表にあるように地方自治体発注の公共工事はWTO基準では23億円以上から7億6500万円以上に国際競争入札基準が緩和される。特に公共工事の設計をコンサルに委託する場合は2.3億円から750万円以上と大幅に緩和され、設計委託の多くは国際入札ということになる。地方自治体の国際入札件数が大幅に増加した場合、地域建設業に以下のような問題が生じさせることが考えられる。(1) 公共事業の遅延と事業量の減少
コンサル事業の多くが国際入札になった場合、公共事業の設計や入札手続きの煩雑化や入札公告期間の長期化、設計・技術仕様の性能基準化や国際規格の採用など国内基準との調整が大きな問題となる可能性がある。そのため、適切な執行体制が確保されない場合には公共工事の設計段階での遅延と滞留が円滑な公共事業の消化の妨げとなり、事業量の減少を招くことが予想される。また、地方自治体の公共工事の国際入札基準がWTO基準の3分の1に引き下げられるため、国際入札案件が大幅に増加することが予想される。(2) 発注・入札制度における地域建設業振興施策の廃止の可能性
国際入札は基本的に内外無差別の一般競争入札により受注者を決定する。公共工事の国際入札案件が増加した分、地域建設業振興のために設けられた以下のような「条件」が緩和されることになる。①分離分割発注の廃止と発注ロット拡大の可能性
現在、大型公共工事はできるだけ多くの業者が参加できるように工区分けや専門工種ごとに分離して発注する努力が行なわれている。しかし、これらが内外無差別の競争を排除するための行為として廃止され、できるだけ発注ロットを大きくするように海外入札参加者から要求される可能性がある。②ランク別入札方式、地域要件は廃止される可能性
地方自治体のランク別入札方式は経審点数及び自治体独自の主観点数により入札参加業者をA~Dなどにランク分けし、 発注標準も業種と予定価格により同様にA~Dなどに格付けされ、業者ランクごとに入札参加できる案件を制限している。また多くの自治体では業者の所在地により市内業者、市外業者などに区分し、ランク別と地域要件を組合わせた条件付一般競争入札方式を採用している。しかし、この方式は国際入札では海外の入札参加業者が一方的に不利になるため採用されない可能性が高い。③低価格競争を防止するための最低制限価格制度や失格基準は適用されない可能性
公共工事の過度な低価格競争を防止するために採用されている最低制限価格制度や低入札価格調査制度における失格基準の導入などは競争を制限する制度として国際入札では採用されない可能性がある。④ 総合評価方式の地域建設業振興の立場からの評価項目が改廃される可能性
入札制度における総合評価方式はTPP協定で廃止されることはないだろうが、日本において地域建設業振興や住民福祉の立場から地域産材の活用や災害防止への協力、地域の行事への協力など海外業者に不利となる評価項目は改廃される可能性がある。(3) 公共調達へのTPP加盟国企業の参入による受注の減少と雇用・賃金の悪化
現在、WTO参加国の日本の公共工事、サービス事業、PFI事業等への参入は極めて限定的であるが、TPP協定により国際入札基準が低下した場合、アメリカ、オーストラリアなどの企業の参入が拡大する可能性がある。特にこれら企業がTPP参加の新興国の場合、あるいはアメリカなどが新興国と共同で参入した場合、新興国の安価な賃金労働者が参入し、低価格競争の激化による地域建設業者の受注と収益の減少を招くことになる。
そのため、公契約法(条例等)を早期に制定し、全国の地方自治体にも公契約条例を広げ、賃金等の規制を厳格に実施できる体制を整備し、海外参入建設業者に対しても条例を厳守させる体制にする必要がある。
一方、コンサル事業など公共サービスへの海外企業の参入は急増することが予想される。そのため、公契約条例のコンサル事業などへの適用範囲を大幅に拡大し、海外の受託企業に対しても厳格に適用していく必要がある。3.建設産業への外国人労働者・技術者の参入による雇用と労働条件の悪化の可能性
TPPのP4協定をみると、「一時入国」の条文には、TPP加盟国の国籍を持つ個人が貿易やサービス提供に従事するための入国を容易にするため、入国審査を簡素化すると規定している。「一時入国者」というのは「産品やサービスの提供に従事する自然人」と規定され、建設労働に従事するためにTPP加盟国から入国する建設労働者は当然含まれていると考えられる。そのようになれば、ベトナムなど新興国から低賃金建設労働者が簡単な入国審査で建設現場に従事することが可能となる。また、労働者派遣法など労働の規制緩和要求が加盟国から強まり、現場への建設労働者の派遣が容認される可能性もある。そのことは建設労働者の雇用・就労条件の悪化、賃金など労働条件の更なる低下へとノンルール化をいっそう促進させることにつながる。
そのため、TPPから建設労働者の権利を国際規模で保護するためには、産業別労働協約を締結するための制度を早急に確立し、労働協約の内容が外国人労働者を含めすべての建設労働者に適用される法制度にすることにより、海外から入国する建設労働者の賃金・労働条件も日本の法制度で規制し、賃金ダンピングを前提とした過当競争を防止していく必要がある。おわりに
政府や財界、マスコミを含め、TPPへの加盟がグローバル化の中で時代の流れのように煽っているが、TPPにアメリカが参加したことにより、アメリカ主導の包括的自由貿易体制に組み込まれることになる。日本経済の持続的発展のためには、アメリカの圧力にもとづく市場原理主義ではなく、地域経済主体の安定した域内循環と内需を基本とした経済構造の構築を展望しつつ、国民生活の将来を見据え長期的視野に立つ対外貿易関係をつくる必要がある。
そのためには、第1に財界・大企業が求める工業輸出のために農業を犠牲にさせるのではなく、農産物の価格安定や農業就労者確保を図り、安定的な食糧供給の確保をめざすべきである。
第2にはアメリカ主導のTPP自由貿易協定体制を離れ、平等・互恵を原則とする貿易体制の実現に向けて、日本の国際的役割を自覚的に果たす方向をめざすべきである。
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