「国際競争力」とは何か/友寄英隆 備忘録
労働条件の引き下げの口実につかわれる「国際競争力」論。 「国際競争力」とは何か 雑誌「経済」の編集長を長くつとめた友寄英隆氏の新著からの一章、二章部分の備忘録。
その内容のファジーさと変質。価格競争は為替レートで相殺され、非価格競争が主戦場になっていること。財界の言う労働条件り「下向き競争」に未来がないこと示し、たたかいの方向として、国際連帯の強化、日本でのILO条約批准の低さの克服を主張する。
極めて興味深い一冊。
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【「国際競争力」とは何か 友寄英隆 2011.2 (かもがわ出版)/ 備忘録】1章 「国際競争力」をどうつかむか
◇「国際競争力」とは何か―― 概念的な規定の試み
・「通商白書」の規定の整理①もともとは「商品の競争力」ないし「企業の競争力」にほかならず、「価格競争力」と「非価格競争力」を基本的要因としている。(87年版)
→ この「価格…」と「非価格…」は、マル経でいう「商品の二要因」(価値と使用価値)に対応しているといってよい。資本主義的商品生産では、「価格…」と「非価格…」は、つねに一体となっており、国内市場でも、世界市場でも変わらない。
→「非価格」面を一定とするなら、資本は「価格競争力」を強化する。そのたる「国際競争力」強化のスローガンは、労働条件の切り下げ、下請け企業の単価切り下げの重圧となる。② 「価格…」と「非価格…」は両方ともに、企業の「イノベーション」によって培養・強化される。
価格競争力を強化するプロセスイノベーションと、新製品・製品の質の改善など「非価格競争力」を強化するプロダクトイノベーションに2つの側面がある/ 「商品の二要因」に対応してもの。
~ イノベーション競争との関係で重視されてきたのは、個々の企業の生産・流通を支える地域的な産業集=分業組織の形成の意義/ M.ポーター教授が理論化=「クラスター」形成③グローバル競争の激化は、「企業の競争力」を国家的な制度・政策の面から推進する、いわゆる「国際制度間競争」を発展させた。
→ 本来は「商品の競争力」「企業の競争力」であった概念が、「国の競争力」の意味でも使われるようになった。/ ほんらい利潤追求の企業とは異なる目的、原理で機能している国家の諸制度を、一部の多国籍企業の利潤追求の活動に奉仕させる道具に改変させ、国家間競争となると、/「国際競争力」という概念の変質であり、乱用である。④グローバル競争のもとでの「国際競争力」強化のために、米国を中心とした「戦略的貿易政策」とそれを理論的に裏付ける「新しい貿易理論」が発展/ 自由貿易協定などグローバル化を促進した。
→ 自由貿易協定は、それ自体が「国際競争力」の内容を規定する要因ではないが、グローバル競争の舞台、土俵を拡大する役割を果たす。/「市場開放」と「国際競争力」は車の両輪、一体のもの。◇「国際競争力」の概念は、なぜ抽象的で、あまり明確でないのか―― その3つの要因
①量的に比較可能な「価格競争力」につていも、貨幣価値の基準となる為替レートが、変動相場制のもとで日常的に変化 / 個々の企業の努力とまったく別な理由で、「国際競争力」が日常的に変動
②「非価格競争力」は、「価格競争力」と違って、量的に一律に計って比較することはできない。使用価値の側面 / またイノベーションの条件、クラスターの条件も、簡単に国際比較できない。
③もともと「企業の競争力」概念の曖昧なところに、さらに「国際制度間競争」などの規定が加わり、いっそうあいまいさに拍車。/ 国の制度は、利潤追求のためにあるのでない。「国際制度間競争」という「国際競争力」の規定は、それ自体に無理がある。
⇒ 経済財政白書「一国経済の『競争力』というのは曖昧な概念である」(2010年版)
⇒「国の競争力」「国の競争戦略」が競われるようになった時期は、「新自由主義」イデオロギーのもと、市場化、規制緩和が推進された時期 / 国際競争力を、「企業の競争力」から「国際制度間競争」に拡張することは、新自由主義的な「構造改革」路線を強行する側面支援となった。◇「通商白書」の「国際競争力」論の歴史的展開
・49-2010年版まで62冊の白書は、一貫して「日本企業の国際競争力」をいかに強化するかにあった/ が、その理論的意味、定義、政策的力点は、次代によって大きく変化している。
(1)最大の要素は、価格競争力にある―― 高度成長期の輸出拡大のための規定
・50-70年代にかけては、輸出を経済の最大のエンジンと位置づけて、輸出競争力の強化に検討を集中
~「価格は国際競争力の最も大きな要素」(63年版)、「急速な経済成長は、価格協力が急速に強化されたため」(70年版)
・官民ともに、国際競争力=輸出競争力=価格競争力として規定していた。ある意味明確な定義
→「国の競争力」などというファジーな要素は入り込む隙間はない。(2)「国際競争力の不均衡は為替レートで調整される」-―激化する貿易摩擦に対応する規定
・60年代後半から、集中豪雨的輸出による貿易摩擦が激化、政治問題化
→ 70年代の「通商白書」では、輸出とともに輸入の増大を政策的に重視する記述が増加
・輸入競争力という新しい概念の登場
~「国際競争力の概念は、抽象的であり、その定義および尺度は、あまり明確でなく、輸出競争力と同義で用いられることが多いが、ここでは輸出入両面を統合としたものととらえ…」
・実際には、貿易摩擦の調整は、輸入拡大の政策的な誘導とともに、為替レートの大幅な切り上げ、円高によってすすむこととなる。
~「現在のフロート化においては為替レート変動の自由度が高まっているため生産コストの引き下げも為替レートの上昇で相殺される」(76年版)
→ このことは、国際競争力を規定する基礎的条件が為替レートにあることを鮮明にした。
・「悪魔の循環」の発生/ 競争力の維持のためのコストダウンが、さらに円高を招く・・・(3)「品質、デザイン、サービスなどの非価格競争力で勝つ」――定量的な把握が困難な規定
・「非価格競争力も最終的には価格競争力に反映される」(70年版)と規定するなど、日本の競争力が、低コスト構造による「価格競争力」に支えられ、非価格競争力の弱いとう実態が反映していた。
・しかし、貿易摩擦の激化、為替レートによる急激な調整、円高が進むようになると「非価格競争力」が、国際競争力の中心と位置づけられるようになる。
・ とりわけ85年のプラザ合意後、いっせいに「非価格競争力」の強化に戦略が移転
~「具体的には特に、性能、納期の正確さ、アフターサービスといった面での非価格競争力が強い企業がおおくなっている」(90年版)、「わが国企業は為替相場の変動による不確実性の増大に対し、企業活動のグローバル化、品質・機能等の向上による製品差別化を通じた非価格競争力の強化等の戦略的対応を行った」(93年版)・ところが、「国際競争力」の内実を「非価格競争力」の面からとらえると、計量的な比較は、分析は不可能となる。
~「『国際競争力』とは、価格競争力のみならず品質、デザイン、ブランド、アフターサービス等の非価格競争力をも重要な構成要素とする、幅の広い概念である。したがって国際競争力の(数量的)表現には曖昧さが付きまとわざるを得ない」(86年版)、「国際競争力を定量的に把握することはかなり困難である」(88年版)(4)グローバル時代への対応① 「イノベーション競争」―― 新興国に勝つ「国の競争戦略」の登場
・90-2000年代の「通商白書」/「国際競争力論」のさらにあたらな展開 /イノベーションの重視
~ イノベーション /狭義には「技術革新」、広義には「企業の経営方針の刷新」なども含む
・変化の2つの要因 /企業の多国籍化にともない「国際競争力」の規定自体を、貿易と投資を含む広い概念に発展させる必要が出できた。/多国籍企業の直接投資の拡大につれて新興国の急速な経済発展がはじまり、世界経済の構造が「グローバル経済」といわれるように変化。企業内貿易の増加など従来の貿易理論だけでは説明できない現象がうまれた。
・急成長する新興国が豊富な労働力による「価格競争」で優位に立っているのに対し、先進国は、これまで以上に「非価格競争力」の意義が重要になった。
→ とりわけ新たな製造方法の革新、新素材・新製品の開発などイノベーション(技術革新)は、「価格競争」(プロセスイノベーション)、と「非価格競争」(プロダクトイノベーション)の両面にかかわる要素であり、競争戦略上、その役割が大きくなった。
~ 95年、科学技術基本法の制定 / 独立行政法人化など大学「改革」の強行へ
・85年 ヤングレポート 新興国との競争に勝つために「国家戦略」の役割を重視/各国に衝撃を与える(5)グローバル時代への対応② 「国際制度間競争」-- 「企業の競争力」から「国の競争力に」
・イノベーション政策とともに強調されはじめた「国際制度間競争」という新たな規定
~ 「企業の競争力」としての「国際競争力」の意味を国家間の競争にまで拡張した規定 / 国家そのものを競争の主体として「制度改革」を競い合うもの
・新自由主義による「構造改革」政策の導入と時期的に重なり合う
→ 「企業が国を選ぶ」という共通の時代認識に立つ。(01年版)
→ しかし、「国を選ぶ」ことのできる企業は、一握りの多国籍企業に限られる。/圧倒的多数の企業は、国内市場で活動している。グローバル化が進んでも、その実態は変わらない。こうした現実を無視して、「企業が国を選ぶ」という一方的な基準で「国際制度間競争」を煽り立てることは、ほんらい政府がすることではない。◇国際的背景 ―― 米国の「競争力戦略」の衝撃 (概略)
・知的財産戦略、戦略的貿易戦略、/ IBMの知財収入 90年30億円→02年1500億円
・EUは、企業の社会的責任と一体 / リスボン戦略の「知識基盤社会」~雇用の拡大、環境保護を基本的な政策目標に位置づけていること。~「決して労働条件を下げるものであってはならない」(ドイツ政労使代表と経団連との懇談での発言 06/12/1)
・新興国も加わっての「グローバル・イノベーション競争」の激化
→ この時代は、20世紀までの欧米日の資本主義的大国主導の世界経済の構造を根底から変える可能性/ とともに、地球環境危機の深刻化、貧困と格差の拡大、エネルギーと食料問題、世界的な金融危機・国際的不均衡の拡大、という資本主義の矛盾を激化させる恐れがある。第二章 日本財界の「国際競争力論」の陥穽
◇「国際競争力」を口実にした労働条件切り下げ ~ 客観的な根拠はあるのか
①価格競争は為替レートしだい。「通貨の自主権」の確立が急務である
・国内で大半が消費される賃金の国際比較は、市場レートでなく、購買力平価とすべき/ 市場レートは、購買力平価よりもかなり割高
・価格競争では、為替レートの変動が決定的な意味を持つ
~「日本では労働生産性の上昇に比して賃金上昇率がそれほど高くならなかったため労働コストが相対的に低く抑えられてきた。…しかしながら、為替レートの円高シフトなどの影響によって、80年代後半以降日本の製造業のドルベースの雇用コストは急激に上昇した」(通商白書98年代)
・日米関係最優先の政治のために、アメリカのドル世界支配体制のもとで自主的な通貨政策を事実上放棄/ この是正こそ重要②日本の大企業は巨額な利益をあげ、溜め込んでいる。
・2000年代、史上最高の利益を毎年更新/資本金10億円以上、内部留保01年168兆円→08年241兆円
/非正規雇用の拡大、成果主義賃金など「総人件費抑制」
→ いざなぎ景気(65-70年) 毎年10%以上の賃上げ、10年間に賃金4倍(物価2倍を差引いても3倍)/今回は、現金給与総額で7年連続減少、95-05年で平均賃金は388万円から352万円。一方、大企業の役員報酬は2倍、1433万円から2811万円へ③日本の労働生産性は高い
・根津・富士通総研専務「賃金を抑制せよ、は誤り」とし、その根拠として、近隣のアジア諸国にくらべて日本の労働生産性は非常に高いことに加え、ここ4、5年で、さらに生産性が上昇しているために「国際競争力を考えても、全体としては2%程度の賃上げの余地はある」(日経07/3/26)
~根津氏の主張は、財界の主張してきた「生産性基準原理賃金」論の枠組みを前提にしているが、その財界の賃金論からみても異常という指摘④発達した資本主義国としては「非価格競争」が重要になる
・「製品の品質」「デザイン」「販売力」「アフターサービス」「資金力」「技術開発力」など、経営のあらゆる部面にかかわる非価格競争が行われている → 非価格競争は、為替レートの変動の影響を受けない
・しかし、財界の国際競争力は、もっぱら価格競争の面を強調し、賃下げを押し付けることに特徴⑤「労働力の再生産」の安定こそ、長期的な「国際競争力」の源である。
・賃下げ、労働条件の切り下げは、短期的には、企業利潤を増大させるが、長期的にみれば、労働力の再生産の条件を掘り崩し、将来の労働生産性の低下をもたらす。
・財界の「国際競争力」論は、競争力を規定する客観的要素、総合的観点を無視し、概念があいまいなことを逆手にとった極めて近視眼的な発想
→ 貧困と格差の拡大、(貧困の連鎖)、若者のワーキングプアと少子化など「労働力の再生産」の危機
→ 財界「新成長戦略2010」…「現状のままでは、労働力人口の減少、とりわけ若年労働者の確保の困難となることが、競争力の低下につながっていく恐れが強い」/ 財界の「競争力」論の陥穽◇労働力の「下向き競争」との国際的なたたかい――ILOのディーセントワークの提唱と国際労働基準
①多国籍企業と、労働条件の「下向き競争」
・国際貿易開発会議(02年版) 労働条件の「下向き競争」に警告 / 発展途上国が特区をつくり、直接投資を呼び込み、多国籍企業の低い労働条件を公認し、拍車をかけている、というもの
→ 発展途上国での搾取強化だけでなく、本国においても「下向き競争」でワーキングプアを作り出す
→ 19-20世紀にかけて勝ち取ってきた労働者の権利の切り下げを狙う、歴史に逆行したもの②国際連帯の運動で、「国際競争力」の強制法則に民主的なルールを
・国際的な民主的ルールが必要 / 民主的に規制することは、長期的にみると資本にとっても必要
→ 際限のない労働条件の切り下げ競争は、各国の労働力の再生産を掘り崩し、資本蓄積と再生産の条件そのものを破綻させてしまう。
・国内運動、国際連帯とともに、国連のもとで活動している国際経済機構、特にILOの役割が重要②ILOの「ディーセントワーク」の提起
・1999年総会で提唱 働き甲斐のある人間らしい労働
~「家族全体が普通の生活ができる収入が継続的にえられ、適切な労働時間、休日などの労働条件が確保されている」「労働者としての諸権利、結社の自由・団体交渉権・失業保険・十分な雇用・雇用差別の廃止・最低賃金などが守られている」「失業や病気になったときの社会保障、住宅や老後の生活、子供たちの生活や教育などの保障・社会的保護があり、生産的でやりがいのある人間らしい仕事が保障されている」③ディーセントワークを、日本で実現する運動を
・菅政権も「ディーセントワークの追求」をかかげているが、言葉だけかかけても実現はしない。
・ILOの条約や勧告を批准し、実行することが必要
・188条約(うち5つは時代遅れで撤回)のうち批准数は
→ 日本48。フランス123、イタリア111、イギリス86、ドイツ83と比べ著しく低い /とくに、1号「8時間労働」、47号「週40時間労働」、132号「年次有給休暇」など18本の労働時間・休暇関係の条約を、一本も批准してない。
・98年ILO宣言で、「最優先条約」とさたれ8本のうち、105号「強制労働の廃止」、111号「雇用及び職業における差別待遇」も批准してない。④「国際競争力」を振りかざした「労働条件切り下げ競争」に未来はない
・19世紀的な「競争社会」に世界の勤労者を引き戻そうというのは無理な話 /発展途上国の経済発展が進むほど「下向き競争」の条件そのものが狭まる
・搾取、収奪の強化は、資本主義の矛盾をいっそう拡大し、資本主義体制の維持さえ危うくなる新たな経済危機がおこるだろう。/ 最近の金融危機・世界恐慌の爆発と、そのもとでの規制のあり方の検討
・個々の企業レベルでみても、「国際競争力」をふりがさした経営戦略による急成長は、持続しない
→ リコールの多発、ものづくりの核心である品質と安全性の低下・「下向き競争」をうちやぶるたたかいが、世界各地で発展せざるを得ない / 多国籍企業の横暴をさえてきた「新自由主義」が、世界経済危機とともに大きく後退しつつある。それは新自由主義路線へのたたかいがあったから。その力が、いま世界の流れを大きく変え始めている。/今、日本でもたたかいの時!
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