2011年度・予算案のスケッチ
2011年度の予算について、赤旗がシリーズで報道していたものに、地方財政など少しメモを追加して整理したもの。
また、昨年同様、後日、詳しい備忘録をつくりたいが、まずはスケッチ的なもの。
【1 税・財政 】
◇ 消費税増税に道開く
・菅首相 消費税増税について「6月ごろまでをめどに、方向性を示したい」と明言
・法人実効税率(国、地方)の5%引き下げ。 減収額は1兆2千億円(国税分)
→ 財源は、企業優遇税制「見直し」で5849億円。差し引き6345億円が手当て出来ず。
・証券優遇税制(上場株式の配当、譲渡益への税20%を10%に軽減)の2年間延長
・「空前の金あまり」(日経)の大企業と大資産家には優遇税制、その穴埋めに消費税増税
◇大企業、アメリカ奉仕の姿勢
・過去最大の予算 /一般会計総額92兆4116億円。昨年予算を1124億円上回る
→ 政策の経費に充てる「基礎的財政収支対象経費」(一般歳出と地方交付税交付金の合計) 昨年比694 億円減の70 兆8625 億円。/国債費は、9000 億円増の21 兆5491 億円。
・税収/企業業績の回復などを背景に昨年度当初比3 兆5310 億円増の40 兆9270億円
・国債発行 44 兆2980 億円、昨年比50 億円減 /決算ベースで3年連続(当初予算ベースで2年連続) 、税収を上回る。
・税外収入 昨年比3 兆円以上減の7 兆2000 億円
→ 「埋蔵金」が枯渇/ 「臨時的な措置は限界。11 年度限りだ」(野田財務相)
・「新成長戦略」~ 大型公共事業を予算化 三大都市圏環状道路、国際コンテナ戦略港湾のハブ機能強化
・軍事費 4兆7752億円(前年度比0.3%減)。「元気な日本復活特別枠」(2兆1千億円)のうち1858億円を、在日米軍駐留経費負担が占める。
◇教育、暮らし予算は切り込み
・義務教育国庫負担金、国立大学運営交付金、私学援助は削減
・子ども手当の上乗せ(7千円)は3歳未満児対象。小学1年生にかぎり、35人学級実施
・年金額は、予算上0.3%減額
◇1兆円超の「元気な日本復活特別枠」を設定して政策コンテストにより競わせる方式を採用。
国民に意見を求めたパブリックコメント/ 意見総数約36 万2232 件のうち8 割近い28 万3448 件が文部科学省関係の予算に意見/ 「高校生の給付型奨学金事業」は2 番目に意見数が多く、96.9 %が肯定的意見だったが、「評価会議」では「C」判定で予算化を見送り。一方、「思いやり予算」は「必要ない」53 %にかかわらず、「A」判定で1858 億円満額決定 ―― 民主党の姿勢が顕著になった。
~ 大企業・大資産家優遇税制、軍事費という「2つの聖域」にメスを入れず、“財源確保は消費税”という姿勢を鮮明にしたもの。
【2 公共事業 】
◇大型港湾・道路は継続へ
・特殊要因の一括交付金化の減少分を含め5兆4799億円。前年度比5.1%減
・大型事業の一定の見直しを行っている/ 、直轄ダムの建設予算は9.7%減。各地で反対運動の続くスーパー堤防事業は、予算計上されず。直轄高速など道路予算は0.8%減、空港整備も36.4%減
・東京外郭環状道路など大都市圏の大型道路建設は継続 /大都市圏の道路インフラ重点整備1118億円、+5.0%、国土ミッシングリンク解消3376億円 +5.3%
→ /東京・練馬区~世田谷16キロを地下トンネルで結ぶ巨大工事、1兆数千億円。巨額の事業費だけでなく大気汚染・地下水の影響など問題点が指摘されている。
・京浜・阪神の2港を物流拠点(国際コンテナ戦略港湾)として機能強化 316億円/+94.8%
・首都圏空港の強化 83億円 +25.2%
◇財界の要求
・小泉「構造改革」のもとで強められた「都市再生」分野/大企業本位の街づくりを支援する「プロジェクト支援事業」35億円、民間資金を活用した「成長戦略」に7億円。/「新成長戦略」の特別枠で重点配分
・国民生活分野/ 高齢者向け住宅供給325億円、社会資本の維持・更新・耐震化の予算が増額
~ 大型事業を見直し、小規模、維持管理、国民生活中心への転換こそ、地域の仕事と雇用を生み出すうえでも急務。
【3 雇 用 】
◇不十分な求職者支援
・雇用予算 2547億円、前年度比715億円、21.9%の減額
→ 要因は、一般会計から労働保険特別会計への繰入額が3010億円から2156億円へと減少したため。/厚労省は「来年度は雇用の改善により、失業保険の減少が見込まれるため」と説明
◇生活支援は
・失業給付の受給者 完全失業者の22.5%で、4人に1人以下。/ 一年以上の長期失業者が完全失業者の4割に迫っている ~ 給付日数の延長など制度の拡充こそ必要
・失業給付を受給できない求職者が職業訓練を受ける際の生活支援 775億円 /これまでの支援制度を恒久化 ~ 支援額月10万円は生活保護以下。/ 厚労省「支援であり、生活保障ではない。低利貸付制度をつくるので、その利用も想定している」と説明
・失業者の正職員就職支援 48億円 / ハローワークに1600人の求人開拓推進委を配置
・新卒者・既卒者向けの「学卒ジョブサポーター」(10年度補正予算で設置)2003人の活用に102億円。
~ 正職員就職支援、学卒ジョブサポーターも1年の有期雇用/ 担当者が失業の不安を抱えての業務
・雇用促進税制/ 一定基準以上の雇用を増やした企業への優遇税制、3年間の期限付きで実施
→ 対象となる労働者は、正職員とせず、雇用保険加入者としたため期間工、パートも含まれる/ 優遇税制をうけながら期間工を2年11ヶ月で使い捨てするなら、現状追認に過ぎない。
◇運動の成果も
・最低賃金引き上げに向けた中小企業支援 50億円 / 計上されたのは運動の成果
→ しかし、概算要求では、計画的に時給800円以上に引き上げる場合への奨励金が計上されていたが、予算化されず。/経営改善の相談窓口設置、経営効率をあげるための設備投資への助成が中心に。/ 雇用対策として有効に機能するかは未知数。
【4 文 教 】
◇35人学級 小1のみ
・文教予算 4兆1641億円。前年度比778億円減。
・小学一年の35人学級が予算化 /少人数学級の効果を否定してきた政府の姿勢を転換させた、国民の運動の成果
→ しかし、今後6年間で小中学校の全学年を35人学級にする計画は確定せず、11年度から計画していた2年生分は認められなかった。
→ 11年度に必要な教員のうち1700人は現在加配されている教員を当て純増は300名、と、地方で加配教員によって実施していた少人数学級が後退する危険がある。
◇大学で減額
・自公政権から削減され続けた「国立大学運営交付金」は、58億円、0.5%減額 / 文科省は、大学教員研究特別整備費58億円を計上しており、「削減に歯止め」と説明しているが、同整備費は、大型設備が対象で、使途が自由な運営交付金とは異なる。→「削減方針見直し」の公約を違反
・私立大学への経常費補助 3209億円、13億円減。
・大学生への奨学金 127万2千人分。8千人増。/増加分のうち9割が有利子。無利子は9千人増。
◇学力テスト費増額、耐震化予算の減
・全国学力調査費 35億円、2億円増。12年度からは理科を対象科目に拡大するための準備費用も計上。
・高校生への給付型奨学金 122億円は認められず。/扶養控除の廃止により、負担増となる層の手当できず ~ 現在、文科省と財務省で「同様の効果のある枠組みを協議中」とのこと
・公立学校の耐震化 227億円減の805億円 ~ 昨年も大幅削減が問題となり、補正で対応
【5 社会保障 】
◇「傷跡」元に戻さず
・社会保障関係費 28兆5153億円。1兆4360億円の増 /そのほとんどが高齢化などによる自然増
→ 自公政権による社会保障抑制路線の「傷跡」を元に戻すものとはなっていない。
各医療保険への国庫負担金として、「協会けんぽ助成費」が1兆1108億円(前年度比661億円増)、「国保助成費」が3兆3703億円(647億円増)、「後期高齢者医療助成費」が3兆9179億円(1839億円増)。
また「介護保険給付費国庫負担金」は2兆2679億円(1178億円増)、「年金給付費国庫負担金」は10兆3755億円(2498億円増)
◇国保料の高騰
・国保は、低所得者の増加、医療技術の高度化にもかかわらず公的負担が増やされておらず、保険料が高騰
→ 民主党は、後期高齢者医療制度廃止、国保に8500億円程度の国費投入を公約していたが、実行されず。
・地域医療を守る予算(女性医師の離職防止、看護職員の確保など)、救急・周産期医療の予算は、116億円減の627億円。
・介護 「地域包括ケア」推進予算が19億円増の63億円/「介護サービス基盤整備費」は前年度比220億円減の63億円/介護・看護職員による24時間循環型サービスの推進(60ヶ所)が目玉(27億円)
→ しかし、軽度者への給付削減がセット。介護給付を医療の必要な重度者に重点化する方向が危惧される。
・年金 物価変動に対応として0.3%減
→ 標準的なサラリーマン世帯(厚生年金と老齢基礎年金2人分)で、月709円の減額
◇年金財政を口実に増税
・基礎年金の国庫負担50%は維持 /2.5兆円の財源は、独立行政法人、特別会計の余剰金など一年限りのもの /安定財源を口実に、消費税増税が狙われている
→ そもそも定率減税の廃止の理由は、「国庫負担の50%」の財源。
・障碍者自立支援医療の低所得者無料化は先送り /違憲訴訟団と国との「基本合意」で「当面の重要な課題」として最優先で実現が確認されていたもの
・生活保護の老齢年金復活も実施されず。
・子ども手当 3歳未満は、月2万円(7千円上乗せ)に。/11年度以降実施される年少扶養控除の廃止による影響で、3歳未満児を持つ世帯で最大月6千円負担増となるため。
→ 必要額の2085億円は、所得税の給与所得控除、成年扶養控除の縮小で捻出
【6 地方財政 】
◇一般財源総額は前年と同額
・地方財政計画の一般財源(水準超経費のぞく)は、前年とほぼ同額/58兆7790億円。187億円増
・地方交付税 17兆3734円 4799億円増 /「地域活性化」事業など別枠加算(1兆2650億円)、10年度の繰越金(1兆126億円)による。
・地方税・地方譲与税 35兆5786億円。1兆1519億円増
・地方交付税の振り替え制度である「臨時財政対策債」 1兆5476億円減の6兆1593億円
~ 臨財債は、全自治体配分から、不交付自治体をのぞくなど、財政基盤の弱い自治体に重点化の方向
◇歳出 投資・給与など減
・一般行政費単独は315億円増 /社会保障関係の自然増8400億円程度伸びるが、/給与関係費4164億円減、投資的経費(地方単独分)2777億円減(移し替え影響額除く)
→ 社会保障の自然増分を、投資的経費、給与抑制で帳尻あわせたもので、/ 実質、8000億円減
→ 給与関係費の抑制は、公共サービスの質の低下、官製ワーキングプアなど非正規職員の増をもたらす/2010年度も給与費4000億円削減しており、自公政権からの「地方構造改革」路線が継続。
・ただし、2010年補正
地域活性化交付金 3500億円
社会資本整備総合交付金積み増し 1854億円
(保育所設置など)安心こども基金の期限延長と積み増し 1000億円
学校施設の耐震化等の推進 1250億円
地域医療再生基金の拡充等 2100億円
雇用創造事業の拡充 2000億円 (予備費とこみで)
と一体で考えると、一定の地方財源は確保されたといえる。
◇地方負担は
・子ども手当の地方負担は、11年度になくすとしていたが、継続
・「地域自主戦略交付金」/ これまでの「社会資本整備」「農山漁村地域整備」の交付金を一部振り替えて創設。11年度は、都道府県対象に5120億円(具体的内容、よって影響も不明。12年度から市町村。)
【7 農林水産 】
・2兆2712億円。1806億円、7.4%の減。11年連続の減少、7年連続で3兆円割れ。
・戸別所得補償制度 畑作にも拡大し「本格実施」。8003億円計上 ~ 麦、大豆など畑作対象で2123億円、水田活用の所得補償に2284億円、コメの所得補償に1929億円
→ 「加算措置」に150億円。うち規模拡大加算に100億円(10アール当り2万円交付)
・林業では森林管理・環境保全直接支払制度 324億円
・漁業では、資源管理・漁業所得補償 518億円
◇TPP推進を先取り/自由化前提
・農業の「規模拡大加算」は、8月の概算要求にはなかった項目 / 11月にTPP参加を視野に入れた「包括的経済連携に関する基本方針」の閣議決定にともない予算化
→ TPP参加を6月に判断する方針 /「基本方針」は、「すべての品目を自由化交渉の対象とし」そのために「国内改革を先行的に推進する」としているが、自由化を前提にした措置
→ 「基本方針」は、「国内生産維持のため消費者負担を前提として採用されている関税措置等の国境措置」を見直しで「納税者の負担制度」への移行を検討するとしている。/ つまり戸別補償制度は、自由化・関税撤廃の見返り措置と言える。
★TPP参加の影響(農水省試算)
食料自給率40%→13%、生産額の減少(農産物4兆1千億円、林産物500億円、水産物4200億円)、農業の多面的機能の喪失額3兆7千億円、GDPの減少8兆4400億円、就業機会の減少350万9千人。
【8 経済産業、中小企業 】
◇「新成長戦略」前面に
・「グリーンイノベーション」 55億9千万円(一般財源)、3710億3千万円(エネルギー対策特会)
→ エコ技術開発補助 173億1千万円 / 電機自動車の購入補助267億円(2倍以上)
・「インフラ関連産業・システム輸出」推進 一般57億2千万円、エネ特242億円(グリ・イノと重複有)
→ インフラ輸出促進6億5千万円、エネルギーシステム輸出190億円を計上
◇中小企業 要求遠く
・中小企業対策費 58億円、3.0%増の1969億円 / 一般予算の0.36%
→ 海外展開支援2億円、アニメ・ファッションなど文化産業の海外販路開拓を支援する「クールジャパン戦略推進」に11億5千万円。/大多数の中小業者には利用的ないもの
・ものづくり支援/ 大企業の「国際競争力強化」に役立つ中小企業を支援する「戦略的基盤技術高度化支援」に10年度と同じ150億円。/地域経済の活性化のため、産学官が連携して取り組む「地域イノベーション開発」は24億円減の10億円。
~ 中小企業のものづくり支援は、特定の技術分野、高度技術が求められるものに限定。中・低度でも中小企業が自由な発想で取り組める技術開発支援は、ますます狭められている。
【9 軍事費 】
◇「思いやり」固定化へ
・4兆7752億円。0.3%減。政権交代後も、思いやり予算含む5兆円規模の軍事費は変わらず
・「思いやり予算」 1858億円 /5年間維持・延長を米国と合意(1/21)
→ 米軍基地内の小中学校は冷房100%完備、公立中学(東京都区部除く)の冷房設置率22.5%
・米軍再編経費1230億円 /米国内で予算削減の動きが出ているグアム「移転」関連で過去最高532億円
・米軍関係経費3189億円 /再編経費、「思いやり予算」、日米特別行動委員会(SACO)関係経費
・ミサイル防衛 1080億円/ 日米共同開発している海上配備型ミサイル(SAM3ブロックⅡA)開発費
→ ゲーツ国防長官 「武器輸出三原則」の見直しにつながる同ミサイルの第三国移転を求めている(1/13)
◇動的防衛力
・中国など周辺国を敵視する「動的防衛力」構想を打ち出した「新防衛大綱」(昨年12月決定)を踏まえ
/ 潜水艦一隻575億円、「離島対処」での陸海空実働演習予算、与那国島など先頭諸島への陸上自衛隊配備など計上
・海外派兵体制の強化/ C1輸送機に代わる時期輸送機C2の2機取得657億円 ~同機の行動範囲は、4倍弱と大幅に強化。
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