労働局の地方移管 勤労権保障の観点から懸念 日弁連
意見書は、「憲法で定めた労働者の最低労働条件の保障と雇用の確保を国の責任において全国統一的に行う制度を変更することになりかねず,全国一律・一定水準の労働行政が確保されなくなることが危惧されるうえ, 近年一段と厳しい雇用情勢のもとで, 特に女性, 若者の労働に関して多大な影響を及ぼす」と、慎重かつ徹底した審議をもとめている。
また、I L O 条約違反となるとの指摘をしている。
【都道府県労働局の地方移管に関し, 勤労権保障の観点から, 慎重かつ徹底した審議を求める意見書】
以下は、私の問題点の概要のメモ
◆労働基準監督行政の地方移管の問題点
(1) 労働基準監督行政の充実強化の要請
・日本における労働基準監督官は,2472 人。ILOの監督官数の目安「先進国は労働者1 万人に対して1 人」を大幅に下回っている。このため,十分な監督行政が確保されないまま,賃金・残業代不払等の労働基準法違反や最低賃金法違反, 労働安全衛生法違反が放置されている状況で、求められているのは労働基準監督行政の充実・強化であり,質・量ともに充実した労働基準監督官の確保である。
・労働基準監督行政が地方に移管された場合,これらの業務を,地方自治体の職員に委ねることとなり,求められる専門性の確保の問題や地方自治体の財政力によって,人員体制が縮小されるなどして,最低基準たる労働条件の確保に支障をきたすおそれがある。
(2) 全国斉一の監督行政の要請
・広範囲にわたる権限および司法警察員としての職務は、憲法2 7 条1 項の勤労権の保障,同2 項の勤労条件法定主義に基づき,国がこれを確保すべき要請によるものである。
・地方移管で、全国規模の労働安全衛生上の緊急事態等への対応( 石綿作業従事者等への監督指導や法令違反の取締り等)や全国展開する企業の労務管理の是正等について,迅速・機動的な監督指導が可能なのか疑問である。
◆ハローワークにおける無料職業紹介事業は国の責務
(1) 勤労権保障の要請
・ハローワークによる無料職業紹介事業は,憲法2 7 条に基づく勤労権の保障として,社会的弱者のための雇用対策等,必要な施策を総合的に講じており,これらはわが国も批准した「職業安定組織の構成に関する条約」(第8 8 号条約。1948年採択, 1953 年日本批准。以下「8 8 号条約」という。)上の国際的義務であり,国が最低保障として直接実施する責務がある。
・無料職業紹介事業は,政府が管掌する雇用保険や雇用対策とも密接に関連しているのであり,労働者の勤労の権利を保障する趣旨からすれば, 国が責任を持って一貫して実施すべきである。
(2) 広域ネットワーク構築の必要性
・無料職業紹介事業は,一国において,労働力の広域移動を迅速に確保するだけの規模( ユニバーサル・ネットワーク)を備えていなければならず,また,職員についても雇用保険法等の知識や求人開拓・職業紹介技能等の専門性の確保も要請される。
・大型倒産や不況期の雇用対策体制構築と指示・命令の迅速な伝達と実施が重要である。
03年に栃木県の足利銀行が破たんした際に,同行の支店が存在する労働局( 福島労働局,茨城労働局,群馬労働局,埼玉労働局)の職業安定所に特別相談窓口を設置し,内定取消しへの対応,取引のあった中小企業への指導( 出張相談,助成金の活用等)。
N O V Aやジオスの破綻に当たっても,国によって緊急対策本部が設置され,緊急対応がなされた。特にこれらのケースは,賃金不払いもあったことから,労働基準局も加わり,特別相談( 雇用保険を含む),立替払制度の運用, 関係企業指導などに全国規模で取り組まれた。
(3) 充実強化の要請
・ハローワークは2010年度で全国545か所,職員は1 万1861名。定員削減により職員1人当たりの労働力人口は5579人。イギリス450人,ドイツ467人,フランス623人に比べて極端に少ない、
厳しい雇用情勢が続く中,一層の充実強化が図られるべきである。
・特 に,地方自治体に権限を委譲した場合,職業安定行政機能の民間委託が可能となるが,民間企業は営利目的によって運営されるため,利益を確保する必要に迫られ,職員の賃金や労働条件が切り下げられ,雇用保障機能が十分に発揮されなくなるおそれがある。
・東京都・足立区が実施した特区事業において官民競争の枠組みが設けられ,その実績が報告されているところ,実施期間中の紹介による就職件数,就職1 件当たりのコストともに,ハローワークが大幅に上回り,求人開拓事業等を対象とした市場化テストモデル事業においても,ハローワークが実績,コスト面で上回った。かかる報告等についても十分な分析と検証が不可欠といえる。
(4) 雇用保険等の行政機能への影響
・職業安定行政としては,職業紹介のほか,雇用保険の適用及び受給に関する事務や各種の助成金・給付金に関する事務,職業訓練の斡旋などが含まれている。これらについても全国一律に実施されるべき。
・日雇い派遣,偽装派遣に象徴されるような派遣労働の問題が全国的で社会問題化しているもとで,国による職業紹介の重要性がますます明らかとなっている。
◆ 女性・若者にとっての深刻な影響
(1) 法違反の被害が女性・若者に深刻
・非正規雇用の女性や若者の深 刻な労働実態をみれば,国の責任ある体制で最低労働条件の履行確保がなされなければならない。
・全国的な大量の派遣切りによって偽装派遣等の違法派遣が明るみにでた。全国展開している飲食店の若者の残業代未払いが訴訟で解決している-- 全国的な問題として発生した場合の全国一斉の対応が殊更に求められ,地方移管は,女性,若者に対する労働行政の充実に逆行するおそれがある。
(2) 女性・若者の雇用対策の充実に逆行
・2010年5月時点で失業率は5.2%。非正規雇用の割合が08年で34.1%。特に女性は50 %超。
・2010年の労働力調査・15歳~24歳の完全失業者50万人,学卒未就職者17万人。新卒者の採用内定率57.6%( 10/1) と就職氷河期と言われた03年を下回わるなど雇用情勢は非常に厳しい。
・労働局・労働基準監督署と公共職業安定所( ハローワーク)についての廃止・縮小,地方への移管は,実効ある労働政策の実施,全国統一の労働行政の確保が,地方自治体ごとの決定にゆだねられ,地域によって権利の保障度合いが異なり,場合よっては保障されなくなってしまうことも危惧される。
・むしろ,国の的確かつ緊急な雇用政策が求められている。
◆ I L O 条約との整合性
(1) 国際労働機関(I L O )の「工業及び商業における労働監督に関する条約」第81号条約。1947年採択,1953年日本批准。以下「81 号条約」という。)は,4 条において,「労働監督は,加盟国の行政上の慣行と両立しうる限り,中央機関の監督及び管理の下に置かなければならない」と規定している。
監督機関たる都道府県労働局や労働基準監督を地方委譲することは8 1 号条約に違反するおそれがある。
(2) 職業安定組織(I L O 第8 8 号条約)について
88号条約は, 第2条において「職業安定組織は, 国の機関の指揮監督の下にある職業安定機関の全国的体系で構成される」と規定している。この趣旨は,労働者の職業選択の自由や勤労の権利を国家が責任をもって保障することにあると解される。
国の無料職業紹介事業をすべて地方委譲してしまうことは8 8 号条約に抵触するおそれがある。
・88号条約は,4条において, 「職業安定組織の構成及び運営並びに職業安定業務に関する政策の立案について,使用者及び労働者の代表の協力を得るため審議会を通じて適当な取極が行われなければならない」と規定している。
公労使の各委員で構成される労働政策審議会は,2010年4 月1 日,ハローワークの地方委譲に反対する意見を表明し,I L O 第88号条約に明白に違反すると指摘している。
外務省も 「仮にハローワーク業務を地方に委譲することとなれば,国の指揮監督の度合いが弱まることになるので,外務省としてはI L O 第8 8 号条約との整合性に疑義が生じると考えている」との表明
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