住宅リフォーム助成~地域循環型経済へ 備忘録
11日、昨年、高知市の公共工事の分析・提案でお世話になった建設政策研究所・副理事長の辻村先生を招いて(本当は、翌日の四万十市での学習会で来高)、業者団体、議員団らがかかわり学習会を開催。
全国でひろがる「住宅リフォーム助成制度」など地域循環型経済づくりがテーマ。辻村さんは、ゼネコンで30年間全国の現場をまわってきた方で、32号線の工事で大豊に2年いた、という現場肌の研究家。
以下は、講演の備忘録(文責は当ブログ)
【住宅リフォーム助成制度を~ 地域循環型経済づくりに向けて】 2010年12月11日 建設政策研究所 副理事長 辻村定次1. 外需依存経済からの脱却、新しい内需型経済システムとしての地域循環型経済
住宅リフォーム制度の話の前にもう少し幅広い話を。
私どもの研究所では、今の日本経済の疲弊状況から地域の経済を再生するにはどうするか、と地域循環型経済の観点で議論している。この20年、バブル経済の崩壊以降、大企業だけ潤い、国民生活がよくならないじ状態が続いてきた。60年代の高度成長期は、大企業も栄えて、国民生活、中小企業もある程度よくなった。70年のオイルショックあたりから大企業栄えても中小企業が栄えなくなった。特にバブル崩壊後、大企業だけが栄えるいびつな構造となった。日本の経済のシステムが、外需、輸出産業にだけに力を入れてきた。自動車、電機などは繁栄した。トヨタだけで年間利益1兆円。トヨタが日本経済を支えているようなおかしな状況。その自動車も電機、08年の金融危機でダメになり、外需がダメになったら、日本経済がダメになった。
このいびつな経済を脱却するには、地方から内需を拡大する方向に転換しなくてはならない。政府も内需拡大と言うが、過去は大型公共事業をバンバンやった。バブル後に大量におこなったが、大幅な財政赤字をもたらした。もう、それはできないし、そんな時代ではない。では、どこから立て直すか。それぞれの地域から、自律(立?)した経済をつくる必要がある。2.新しい内需型経済システムとしての地域循環経済のしくみ
地域には、民間企業の生産と自治体の財政支出による生産という2つのエンジンがある。たとえば高知市では民間の生産が非常に冷え込んでる。通常そういう場合は、自治体の財政投入で、民間の経済を刺激していく政策をとらなくてはならない。
従来。財政支出の仕方には公共事業があるが、今、バンバン出す財政はない。財政を地域の経済が潤うために、どう重点的投入にするか考える必要がある。地域の民間業者による請負、委託です。地域内から、たとえば建設工事なら材料も地域内から購入する。労働者も地元で雇う。地域の原材料を買えば商店、ものづくりの部門に仕事がいく。地域の労働者をつかえば労働者は地域の中で物を買う。経済が波及していく。そうやって民間の経済を立て直していく。地域の中で経済が循環していくシステムをつくっていく。物流、物の動きと同時にお金が動いていく。自治体の税収を地域に投下し、それを地域の業者が使い、仕事をつくれば、お金は地域の中をぐるぐるでまわっていく。貨幣循環が地域でおこなわれないと地域経済は発展しない。
地域経済が発展しないのは、例えば、公共工事では外に出すと下請けもつれてくる。儲けは本社。お金がまわらない。
自治体は、企業誘致が好きたが、雇用を増やしてもらおうとするが、そのためにインフラ整備、税の免除などの財政支出がいる。その企業が繁栄すればいいが、ダメだとわかったらパッと出ていく。出て行ったあとには、その企業が入ってきたことでつぶされた商店などが残骸のようにある。日本のあちこちにある。そういう経済は基本で気にダメと、それで地域循環経済と言っている。3.消費購買力の強化がカギ
地域の経済を立てなおす基本は何か。消費購買力をつけること。これまで政府の経済政策は、物をつくる供給サイド、企業の支援。モノを使う側の支援はなかった。しかし、需要がないと過剰生産になる。やはり最終消費をどう増やすか、国民の消費購買力を増やことが日本の経済を立て直すカギとなる。それが日本が弱っている。 今、特に弱っている。リーマンショック後のリストラ、賃下げ、社会保障の負担像で国民のモノを買う力が落ちている。住宅新築は78万戸。80万戸を切ったのは45年ぶり。積水ハウス、大和ハウスは、今年3月の決算報告を見ると、その原因について、国民の賃金低下、雇用不安、国民の購買力低下が原因と分析している。私たち中小建設業者も同じ原因で仕事がなくなっている。地域の住んでる住民の所得が低下し、モノを買え力がなくなり、そして仕事がない、という状況になってる。住民の購買力をつけることが、政治の大きな仕事だと思うが、そこに目が向いてない。4.住宅リフォーム助成制度
住民に購買力をつける上で、最も典型的な事例が住宅リフォーム助成制度。住民の要求とマッチして、制度を作ったところでは、需要がすごく広がっている。住民は、家が古くなって、水漏れしてるとか、トイレ具合が悪いもがまんしている。それが自治体が「補修すれば補助します」となれば「この機会に」と動機づけをさせた。自治体が購買力が落ちている住民に少し手を差し伸べた。それで消費が拡大し仕事が増えている。そういう類の制度はいろいろあるが、住宅リフォーム助成制度は、その中でも住民の要求とピタッとあった政策。1年前は83自治体だったが、10月31日現在で1県、173自治体に増えている。1年間で2倍、急速に増えている。
国は、今年、経済対策として住宅版エコポイントに1千億円の予算をつけた。利用が広がっているが、使っているのは大手ハウスメーカー。新築、そして窓の断熱改修—これはサッシメーカーで、小さな業者の役にたってない。ここに住宅リフォーム助成と、エコポイントとの大きな差がある。・岩手県宮古市の制度が一番すぐれている、と思っている。
①増改築だけでなく、修繕、営繕を含んでいる。非常に助成する工事の幅が広い。
②小規模工事ほど助成割合が高い。20万円以上の工事に、一律10万円の補助。20万の工事なら半分補助とんる。お金がない人が頼みやすい。業者にとっても仕事がたくさん出で来る。宮古市の業者さんは大変で「忙しくでカラオケにもいけない」という。カラオケにいけば、地域に循環しますが・・・。
③地域内に本店のある業者が施工する。
④申し込みが非常に簡単。業者さんがすべてやってくれる。申請書、納税証明書(本人同意があればできる)、事前と事後の写真も業者がやってくれる。住民にとって手続きが全然面倒くさくない。・次が秋田県の制度。補助する工事の対象が広い。50万円以上の工事ですが・・。
仕事が増えるので、住民税、法人住民税などと税収が増える。家もよくなるので固定資産税も増え、自治体にまた還元される。これが地域循環型経済。実績は、21億円の予算をくみ、9月1日で交付12億円。工事高194億円。15.4倍
・一番経済効果が高いのが庄内市。工事すれば「祝い金」を出す。工事費の5%、上限50万円。すごい人気。「祝い金」なので面倒な申請がない。それが出るということで住民が補修に踏み切る。通常の耐震改修がなかなか使われてない。住宅リフォーム制度が急になぜ使い出されたか。
1つは、制度をつくった自治体が「経済疲弊をなんとかしなくてはならない」と説明会、宣伝をやっている。そして受け皿の業者さんもチラシをつくって宣伝をする。こういう情報提供がないと、住民が施策に気がつかない。それが、民商、建設労組のみなさんがしっかりしたところは業界全体でとりくんでいる。
2つめに、自治体の方も「つくっても・・・」と思っていたが、宮古市、秋田県の事例など見本が出来、すごい波及効果、雇用効果があると分かり、「ではうちの自治体も」と実施しているところが多い。業者の「仕事を」と願いと、自治体の「地域経済の活性化を」という目的がかみ合って進んでいる。
・実現にむけて、どう推進するか。
高知県ではまだ出来てないが、多くの自治体では、民商、建設労組が議会の各会派に要請し、議会が全会一致で採択し、制度がつくられている。いろいろ最後まで抵抗する政党もありますが。市長にも要請してつくっている。実績があがっていますので、実績を示すと通りやすい。ぜひ高知でも取り組んでいただきたい。5 地域経済に貢献する公共工事
それ以外にも地域の経済の再生に貢献するのは公共工事。地域密着型の公共工事にする。①.住民提案型の公共工事を
・今年、国は公共施設の木造でつくるの基本方針をだした。民間の木造化も入っている。これも使っていく。
・小規模工事登録制度。これも広げてほしい。制度を持っているところで活用できてないところもあるが・・・。使いやすくするため50万円の上限を、100万、120万にあげる。発注件数を増加させていく。
同制度は、公共工事の入札の参加申請を出していない小さな業者が対象。登録すれば、随意契約で工事、修繕を、近くの工務店に順番に与えていく。そうすると2ヶ月に1回くらい仕事が出てくる、とかなる。学校のガラスの補修などを集めて、地域に出す仕事してまとめて出す。普段、入札に入れないところに光をあてる。
・公共施設などの補修。施設だけでなく、下水道とか、最近問題になっているのは橋梁がおちる事故がある。調べると、市道にかかっているものはほとんど点検されてない。予算も組まれてない。大きな鉄骨の橋は中小業者では難しいが、基準で15m以上と未満があるが、15m未満の木造の橋は、定期的な塗装、補修で長持ちさせることができる。地域の業者でやれる仕事。住民の安全のために調べて提案していく必要がある。②.工事価格の問題
工事の量の問題でなくて価格の問題がある。せっかく受注しても赤字だった、経営悪化になったでは困る。設計労務単価の引き上げにとりくまないといけない。全国では労務単価は1997年がピークで13年連続で下がっている。労働者の賃金が下がれば労務単価は下がる。2省協定労務費調査で、毎年実際の賃金を調査して出しているが、不況で賃金が下がっているので、設計労務単価が下がっている。
この国の出した単価の使用が地方自治体に義務付けられているか。私は直接国交省に電話して聞いたら「義務付けたことはない。地方自治体が独自につくってかまわない」という返事。
国の表を使っている限り、労務単価はあがるはずがない。よほど景気がよくなって賃金があがらないと労務単価は上がらない。生身の人間の労務単価を生活費、技能を全然関係なく積算するのはまちがいと思う。
自治体が標準生計費、生計費見合いの単価を独自につくるべきと提案している。どの自治体も、公務員の毎年の賃金を算定するために、標準生計費を調べている。それをもとに目安に決めているが、これを活用して独自につくることを提案していく必要がある。③入札。仕事がないので際限のない競争となっている。競争が一階に悪いことではないが、最低制限価格を引き上げ、それ以下だと失格だと決める。首都圏では75%~90%の範囲になっているが、調べるとほとんどは75%で、90%の決めているところは少ない。最低制限価格があっても落札率は75%、76%とで落とされ、くじ引きが多い。私としては最低85%を提案したい。
大きな工事では、低入札審査制度があるが、失格基準がない。川崎市では予定価格の27%で落ちている。自治体は「これで大丈夫か」と調査しているが、業者が「大丈夫」と出したらオッケーになっている。失格基準をもっと高めていく必要がある。無茶苦茶な低価格を防止することも、地域経済をまともにするために大事。6.公契約条例
千葉県野田市で公契約条例が、今年4月から実施。2,3日前、川崎市の常任委員会で可決し、国分寺市も12月議会で成立すると言われている。
この内容は、賃金をある程度のところで歯止めをかけるという仕組み。どのあたりで歯止めをかけるのか、設計労務単価が非常に低いので、歯止めを高めると業者さんが大変になる。
条例は元請をしばるもの。下請け業者がそれ以下の賃金をはらったら元請業者の責任を問う。野田市の場合は、労務単価の8割と最低賃金決めている。これ以下での条件はだめと元請業者をしばり、度重なると指名停止につながっていく、しくみ。
元請もすごい競争で、赤字になるかどうかで仕事している。川崎市の建設業協会は「元請の首をしめるもの」と異論を言っている。だから、条例を本格的に機能させるためには、設計労務単価の引き上げと最低制限価格の引き上げが必要。
つまり条例をつくることによって、そこに光があたっていくる。例えば、野田市は、問題が出てきて、9月に労務単価の設定の仕方を変える、最低制限価格をあげるなど入札も改善すると改正した。
一回つくれば、公共工事にある側面にルールをつくるので、競争のルールはない状況なので、他の部分に光があたってくる。働くルールとか、重層下請け構造に光があがってくる。公共工事の様々なゆがみに光があがっていく点では、いい制度と思う。
最終的には「官から民」とか構造改革路線そのものを問い直す起爆剤になっていくと思っている。
労働組合、業者、議会・議員さんが一緒になってとりくんで頂けたらと思っている。【質問に答えて】
・県レベルでは秋田県だけだが山形県。宮城、岩手県も請願が採択されている。県レベルでつくると全然広がりが違う。それに市の制度があわせてつかえる。国の補正で、耐震化の30万円の住宅改修補助制度をつくったので、あわせると大きな事業ができる。それは行政が消費者に直接税金を落としをいけば、経済を押し上げることを実証することとなる。国が海外にインフラ建設をとめために進出をすすめているが、それでは国内は潤わない。リフォーム助成で疲弊した地域に、住民ら直接助成すれば、経済効果があり、住民も、労働者も業者も喜ぶじゃないか、という実例をつくっていくことが非常に大事。その点で、県レベルでつくるのが大きいと思う。・つくる側と利用する側の相互のメリットをどう大事にするかが重要。リフォーム助成とは基本的に、住民サイドにたった政策。「やりたいけれどお金がない」という住民を助ける。それを地域の業者におこなわせるのが大事。地域の経済を活性化する政策。自治体の税金を使うのだから、住民に喜ばれる、地域内の経済を立て直しに資するという目標に沿う政策。
・デフレ脱却。ふところを暖める。1つは仕事、雇用。それ以外には税金・保険料が高いという非消費支出―日本の場合高い――を低くすること。それを国に求めてすぐに実現するか。民主党政権を見てもマニフェスト違反続出。だから地方で、知恵を絞ってやる必要がある。
・TPPで農業が疲弊すれば、高知の経済に影響を与える。農業で仕事がなくなって建設業に転出する。ますます建設業の競争がひどくなる。建設業を考える場合も農業に関心をもつ必要がある。
« TPP参加 公的医療の崩壊? | Main | 県立図書館、シキボウ跡地を排除せず 知事 »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 「高額療養費」の改悪 国民負担増で、国・企業の負担減(2025.01.08)
- 基礎控除引上げ、消費税減税…絶対額でなく負担比率の変化で見る (2024.12.09)
- 2024.11地方議員学習交流会・資料(2024.12.02)
- 所得などの「控除方針は金持ち優遇」と闘ってきた歴史(2024.11.15)
- 「立憲民主」の選挙政策を見る (2024.10.09)
「地方自治」カテゴリの記事
- 学校体育館への空調設置 スポットクーラー課題検証を受け(2024.12.28)
- 体育館の空調整備に新交付金 文科省/避難所の環境改善ガイドライン改定 内閣府(2024.12.19)
- 高額療養費、年金、高等教育、中山間地直接支払、周産期医療、学校給食 意見書案 2412(2024.12.08)
- 2024.11地方議員学習交流会・資料(2024.12.02)
- 24年9月 意見書決議・私案 「選択的夫婦別姓」「女性差別撤廃・選択議定書」(2024.09.05)
「備忘録」カテゴリの記事
- 基礎控除引上げ、消費税減税…絶対額でなく負担比率の変化で見る (2024.12.09)
- 2024.11地方議員学習交流会・資料(2024.12.02)
- 「賃上げ・時短」政策と「人手不足」問題~ カギは、持続可能な働き方(2024.10.01)
- 202408地方議員学習交流会資料+α(2024.08.15)
- 2405地方議員学習交流会・資料(2024.05.16)
Comments