「共通番号制」の危険性… 監視社会、犯罪天国、社会保障の変質
民主政権・財界がすすめようとしている「社会保障と税の共通番号制」について、社会保障の立場から保険医協会が、また税の立場から、税経新人会全国協議会の会報に、石村耕治・白鴎大学教授の論考が紹介されている。
超監視社会、一方で犯罪天国。社会保障の変質と、「箱物」にかわる新たな「公共事業」・・・などなど課題が見えてくる。
【「社会保障・税の共通番号制」創設に反対する意見 保団連12/5】
【民主政権がめざす共通番号付国民IDカード制 ~個人情報を公有化するデータ監視社会構想は要らない!】
それぞれ私なりに中心点を整理すると・・・
保団連の主張は・・・
①「共通番号制」は国民にとって、本当に必要な制度なのか、公平・公正で信頼できる税や社会保障はどうあるべきかなど社会保障と税の全体像の議論をただちに開始すべきである。と前提がかけていることを指摘。
②年金、医療、介護に関する「給付と負担」を、個人単位で把握し、「死亡時に財産が余っているのは、保障が手厚すぎたと判断し、死後精算で遺産・相続財産から給付金を回収する」という財界の要求する「社会保障個人会計」にむすびつく。また、長期疾病や難病患者、障がいを抱える人たち等が、負担に比べて給付が多いとの理由で、社会保障制度から排除されかねない。など社会保障の理念を変質させるもの。
③個人情報保護の問題。
④IT化などインフラ整備ばかりが先行し、国民への社会サービスやプライバシー保護が二の次になっている。導入費だけで3000億円かかる、その費用対効果も検証されてない。
石村氏の論考では・・・
①すべてのサービスがID カードなし受けられない日常生活となる。「スーパー電子監視国家構想」であり、また、IT 産業向けの新たな公共事業(公共工事)でもある。憲法13条(個人の尊重)に違反。
②納番で所得把握には限界があることは自明。むしろ、コンプライアンスコスト(納税協力費用)、プライバシー保護コストがかさみ“ 外部不経済”につながる。ネット取引全盛の今日、ネット空間にマスターキー(納番=共通番号)付個人情報の垂流しは避けられない。
民主党は住基ネット廃止法案を過去4度だしたが、今、危険性を指摘する声がでないのは変質だ。
③アメリカでは共通番号で「成りすまし犯罪者天国」になっている。わが国においても、可視的な共通番号を導入すれば、成りすまし犯罪者が闊歩する社会になる怖れが極めて強い。
④イギリス新連立政権(2010年5月)は、恒常的に国民の人権を踏みにじる制度であるとして「国民ID カード制」を即刻廃止にした。同様の制度を日本は、2013年から導入しようとしている。
⑤働く貧困層対策として「給付(還付)つき税額控除」導入については「近視眼的」とし、現在の税控除などの手続きの煩雑さから、結局貧しい層が排除されかねない。「福祉と税制は分離していた方がセーフティネットになる」と指摘する。
また、給付つき税額控除を導入している諸国では、納番を導入していない国もあり、「共通番号制」が不可欠というのはごまかし。
また同じ税経新人会全国協議会の会報に立正大学教授・浦野広明さんの論考ものっている。
【給付つき税額控除の問題点~個人情報を公有化するデータ監視社会構想は要らない!】
その中で
「コンピューターによる国民管理政策は電子機器関連産業や情報管理産業に巨額の受注をもたらす。それら巨大産業にとっては喉から手が出るほど欲しいものだ。」と指摘しているが、このあたりに本質であろう。
また「 事業者が取引毎に番号の入ったインボイスを発行するには高額のコンピューターを買わなければならない。毎年の税制改定に対応するソフトも高額だ。零細業者にはとても負担できない。」とも指摘している。
【「社会保障・税の共通番号制」創設に反対する意見】2010年12月5日 全国保険医団体連合会
1、意見の概要
政府の国家戦略室は6月29日、「社会保障と税に関わる番号制度に関する中間取りまとめ」(以下「中間まとめ」)を発表した。年金や医療、介護など番号制はすでに導入されているが、「中間まとめ」は、税と社会保障の両分野に跨る個人情報をIT化によって名寄せ・突合し、個人単位で「負担と給付」の管理を目的とする「社会保障・税の共通番号制」(以下、「共通番号制」)の創設を提起した。
当連合会は、国民生活に密接に係わる個人情報を国家が利活用するための「共通番号制」は、生存権保障としての社会保障の理念を変質させ、財界が要求する「社会保障個人会計」や「自己責任」を可能にするものとなるため、創設に反対する。また同時に、これまで政府が採ってきた社会保障・税政策との関連で危惧するところが多く、政府は「共通番号制」の議論の前に行うべきことがあるという立場である。
「共通番号制」創設に反対することを前提とし、「中間まとめ」に対する意見を表明する。
なお、IT化が国民にもたらす利便性一般を否定するものではなく、とりわけ問題が山積する年金制度への国民不安を解決する施策として「共通番号制」と区別したIT化は必要と考える。2、「共通番号制」創設に対する意見
(1)「共通番号制」とそのIT化は、あくまで手段である。その目的は、憲法13条、14条、25条の理念に基づいて我が国の社会保障制度と税制度を、その在り方を含めて実現することでなければいけない。しかるに、「中間まとめ」は、その目的とするところの全体像や原則が明らかにされておらず、また、その国民的議論や合意も不十分である。
(2)政府は「中間まとめ」への意見を求めるにあたって、社会保障と税の役割として所得再分配機能を挙げている。そのことは間違いではないが、問題は、どういう原則のもとでの所得再分配機能にするかである。すなわち、社会保障と税の在り方としては、憲法の理念と社会的公正・公平を重視する立場から、応能負担原則を強化する方向でなければならない。ましてや消費税のような逆進性を強める方向であってはならない。これは国民の多くが望むところである。
「共通番号制」は国民にとって、本当に必要な制度なのか、公平・公正で信頼できる税や社会保障はどうあるべきかなど社会保障と税の全体像の議論をただちに開始すべきである。将来の社会保障と税のあり方に関する本質的な議論がないまま、先行して、その手段としての「共通番号制」やIT化を実施することになれば、先々、各制度間の整合性を欠くなど不合理を招き、時間や費用がムダになる可能性が大である。(3)「共通番号制」創設は、そもそも国民の望んだものではなく、産業政策として財界から出された要求である。 「共通番号制」創設とIT化によって、年金、医療、介護に関する「給付と負担」に関する情報を、番号を用いて名寄せ・突合して容易に個人単位で把握できるため、政府・財界が考える「社会保障個人会計」につながることになる。日本経団連は2004年9月に「社会保障制度等の一体的改革に向けて」の提言の中で「社会保障個人会計の導入」を掲げ、「財産相続時における、社会保障受給額(特に年金給付)のうち、本人以外が負担した社会保険料相当分と相続財産との間で調整を行う仕組みも検討すべきである」とし、死亡時に財産が余っているのは、保障が手厚すぎたと判断し、死後精算で遺産・相続財産から給付金を回収することも考えている。
このようにして、「給付と負担」のバランスを考えることは、長期疾病や難病患者、障がいを抱える人たち等が、負担に比べて給付が多いとの理由で、社会保障制度から排除されかねない。本来社会保障は、基本的人権を保障する制度である。個人レベルでの勘定をするものではない。「共通番号制」創設は生存権保障としての社会保障の理念を変質させ、財界が狙う「社会保障個人会計」などに繋がるものであるため、明確に反対する。(4)社会保障や税に関する個人情報はきわめて秘匿性の高いものである。プライバシーが厳重に保護されなければならない。既存の住基ネットの住民票コードは、行政の事務に相当数利用されているといわれているが、十分な機能と権限を有するプライバシー保護のための第三者機関は未だ創設されていない。レセプトオンライン請求システムでも、患者の病名や治療内容などの個人情報を取り扱うにもかかわらず、その保存、削除、消去などの詳細な取り決めがなされずにスタートし、今日に至っている。今後将来にわたって、電子データ化された個人情報の流出や目的外利用、民間保険会社など営利企業に利活用されることが危惧される。
すでに施行されている、住基ネットやレセプトオンライン請求システムなどから、プライバシー保護に関する課題や、技術的な問題点を明らかにし、営利を目的とする民間資本による利用禁止はもちろん、国の使用にも制限を加え、国民がコントロールできる仕組みをつくることが必要である。そのためにも第三者機関の創設や、情報漏えいなど問題発生時の最終責任を含めた責任の所在と罰則規定、OECDプライバシー保護8原則の遵守のための具体的施策等が必要である。政府は「共通番号制」創設の議論の前にこれらを整備すべきである。(5)導入目的の一つとして示されている「正確な所得把握」は、「消費者を顧客としている小売業等に係わる売上げ(事業所得)や、グローバル化が進展する中で海外資産や取引に関する情報の把握などには一定の限界があり、番号制度も万能薬ではない」(「平成22年度税制大綱」)と、政府自らが認識している。「中間まとめ」が示した目的そのものが破綻していると言わざるを得ない。
仮に「正確な所得把握」のための番号制を導入するのであれば、利用目的を限定し、公平・公正を期すために、どのような回避手段も許さない規制や、把握した所得に対する総合課税によって応能負担原則を強化することが必要である。(6)そもそも番号制度を導入している諸外国と日本とでは、国民の政府への信頼や政府の情報公開の透明性などの前提が異なる。このような前提を抜きして、「共通番号制」創設やIT政策を進めようとしているため、日本ではインフラ整備ばかりが先行し、国民への社会サービスやプライバシー保護が二の次になっている。また、医療・社会保障費が抑制され続けている中、導入費用だけでも3000億円を超える試算が示されており、その導入と維持に係わる莫大な費用についても強く疑問に思うところである。その費用対効果も十分検討されているとは思われない。日本では、まず、行政の情報公開制度の充実をはかり、政府の信頼と透明性の向上をはかることが重要である。
3、おわりに
本来、国民主権の我が国においては、国家が国民に監視されることはあっても、国民が国家に監視されることはあってはならない。私たちは「共通番号制」創設に反対すると同時に、その先にある国民一人一人のあらゆる個人情報が一元管理される恐れのある「国民ID」制についても反対の立場である。
【民主政権がめざす共通番号付国民IDカード制~個人情報を公有化するデータ監視社会構想は要らない!】白鴎大学教授 石村 耕治
はじめに
平成22年度税制改正大綱では、「納税者権利憲章(仮称)の制定」などを謳い、「納税者主権の確立に向けて」とか口当たりのいい副題がつけられた。しかし、まず実施されたのは「租税制裁の強化」。また、早急に検討に入ったのは「納税者番号(納番)の導入」。一方、「納税者権利憲章の制定」は視界不良で、本気度が問われている。これでは、さらなる権力的な税務行政、“ 納税環境の劣化” が懸念される。
1「 共通番号付国民ID〔カード〕制」とは何か民主政権は、住基ネットに加え、新たな国民監視ツールである「共通番号」と「国民ID〔カード〕制」を導入し、“ データ監視国家【国民情報の公有化】” の構築を急いでいる。これらの監視ツールは、次の3つの組織で検討されている。 政府の国家戦略室共通番号制度検討会は、住基ネットに加えて、新たな国民総背番号として「税と社会保障共通番号」の導入を検討。一方、 政府のIT戦略本部は、生まれたときに国民全員に共通番号付のIC 仕様の身分証明証〔国民登録証=現代版通行手形〕を発行する「国民ID〔カード〕制」を導入、2013年度からの実施を計画。さらに、 税制調査会 専門家委員会納税環境整備小委員会(三木義一小委員会座長)が、「共通番号付ID〔カード〕制導入」の翼賛役を演じている。
2 民主政権の「個人情報の公有化構想」は憲法違反民主政権は、共通番号を使って、税、社会保障、医療、介護など多様な分野の国民の幅広い個人情報(プライバシー)を、行政や民間の多様なデータベースで分散集約管理するナショナルデータベースの構築を狙っている。つまり、共通番号は、各種データベースに入るマスターキーの役割を果たす。 この構想では、国家は、全国民の個人情報を、各人の共通番号で串刺しして、行政情報として分散集約管理することになる。一方、国民は、行政が管理する自分の個人情報については、自分に発行された共通番号付国民ID〔カード〕を提示して見せてもらうことになる。つまり、共通番号付国民ID〔カード〕を携行しないと、行政サービスが受けづらくなるばかりか、保険診療も受けられない仕組みである。そして、いずれは、警察菅がID カード読取機を持って巡回し、ID カードなしにはお使いにも出られない日常生活が待っている。
元財務省役人でこの構想の立役者である古川元久議員は、これを「電子政府構想」だという(日経2010年5月20日朝刊参照)。だが、わが国において、“ 個人情報は個人の財産” である。古川構想は、「国民のプライバシーの公有化構想」、「スーパー電子監視国家構想」そのものである。また、IT 産業向けの新たな公共事業(公共工事)でもある。民主政権が唱えた「国民が主役」や「地域主権」の公約にぶつかるばかりか、明らかに憲法13条〔個人の尊重〕に違反する。
3 共通番号を「納税者番号」に使うことの意味納税者番号(納番)制度は、納税者に重複しないかたちで番号を付け、「税の捕捉」が関係する雇用や金融取引、納税申告書や課税資料に番号をつけて課税庁に提出を求め、コンピュータで「名寄せ」し集約管理する仕組みをさす。大きく、 個人や事業者などすべての納税者に課税庁が付番する方式と、 個人には共通番号、事業者などには課税庁が付番する方式がある。付番する方式がある。わが国の場合、後者 が最有力候補である。
例えば、住基ネットで使われている住民票コードは、原則として“ 住民本人と行政機関のみが知りうるような性格の番号” として運用されてきている。「納税者番号」についても、多くの国々で採用する方式は、原則として、“ 納税者本人と課税庁のみが知りうるような性格の番号” である。つまり、わが国の現行の“ 納税者整理番号” 的な性格のもの。したがって、仮に納番が要るとしても、新たな共通番号ではなく、現在ある納税者整理番号を整備し、所轄が変わっても番号が変わらないようにすれば、それで足りるはずである。ところが、国家戦略室共通番号制度検討会が考えている個人用の「納税者番号(納番)」は、“ 納税者整理番号” をイメージしていない。第三者にも見える(可視的な)番号である。“ 官民にまたがり、かつ、多分野で共用する” 汎用の「共通番号」の導入である。給与の支払や銀行口座の開設をはじめとしたさまざまな民間取引にも使える汎用の納番の導入である。端的にいうと、あらゆる“ 所得把握” をねらいとした納番=共通番号である。また、課税庁などは、税務調査や名寄せ・データ照合に、各人の納番=共通番号を頻繁に使うことを想定している。
しかし、納番で所得把握には限界があることは自明のところである。むしろ、コンプライアンスコスト(納税協力費用)、プライバシー保護コストがかさむ。明らかに“ 外部不経済”につながる。また、納番=共通番号の導入は、その使い方次第では、個人情報や番号情報漏えいのリスクと隣り合わせの社会をつくることになる。とりわけ、共通番号を納番(所得把握)に使うことは、共通番号を“ 目に見える番号(可視的な番号)” として使わざるを得ず、納番付情報が各所に筒抜けになる危うさをはらむ。また、ネット取引全盛の今日、ネット空間にマスターキー(納番=共通番号)付個人情報の垂流しは避けられない。
民主政権から誰一人、この危険な構想に対し異を唱えないのも異様である。かつて、民主党は、野党時代、4度も住基ネット廃止法案を出した。この政党の「変節」に国民の信頼が揺らぐのも当り前である。
4 アメリカでは共通番号で「成りすまし犯罪者天国」に国家戦略室共通番号制度検討会は、2010年6月29日に、共通番号の利用範囲や使う範囲について『中間とりまとめ』を発表した。いろいろな選択肢を盛ってはいるが、“ アメリカ型の共通番号”、つまり行政分野や民間で幅広く利用するタイプ、が本命。 そのアメリカにおいては、可視的な社会保障番号(SSN)=共通番号が濫用され、「成りすまし犯罪」で手がつけられなくなっている。議会や省庁が対策をねっっているが、抜本策を見出すにはいたっていない(サイバー税務研究No.9「 アメリカにみる社会保障番号の危険性」http://www.pij-web.net/user/pij_index.php)。
わが国においても、可視的な共通番号を導入すれば、成りすまし犯罪者が闊歩する社会になる怖れが極めて強い。共通番号制度検討会では、抽象的に個人情報の保護には触れるものの、番号濫用の実態にはまったく触れていない。意図的に回避している。きわめて不誠実である。
5 イギリス新連立政権は、人権を蝕む「国民ID カード制」廃止にドイツでは、共通番号制は憲法違反である(CNN ニューズ62号http://www.pij-web.net/pdf/cnn/CNN-62.pdf 参照)。
また、イギリスでは、前労働党政権が、08年から、「国民ID 番号カード制」を実施した。指紋や目の虹彩などの生体情報を含む広範な個人情報を全国民や外国人に提出させ、国家がデータ監視する仕組みが稼働した。しかし、2010年5月に誕生した新(保守党・自民党)連立政権は、「国家が必要以上に国民の個人情報を収集しない方針」を打ち出した。そして、前労働党政権下で導入した「国民IDカード制」を恒常的に国民の人権を踏みにじる制度であるとして、廃止法を制定し、この制度を即刻廃止した。
ニック・クレッグ(Nick Clegg)副首相は、マスコミのインタビューにこたえて、「この無駄で、官僚発想的で、権利侵害的なIDカード制は、前政権の害悪のすべてを象徴するような存在である。早急にこのIDカード制度を廃止することにより、新政権は、閣僚になった者の身勝手な思いつきによって市民の自由を犠牲にするようなことはしないことを約束するものである」と述べた。 ところが、わが民主政権はイギリスが廃止したのと同様の人権侵害ツールを、2013年に導入しようというのである。
6 納番なしでは給付つき税額控除が導入できないは“ 口実”与野党ともに、「働いても貧しい人たち(ワーキング・プア)」を支援する仕組みとして、「給付(還付)つき税額控除」導入に積極的である。この制度は、1975年に、アメリカで、連邦所得税に勤労所得税額控除(EITC = EarnedIncome Tax Credit)」の名称で導入したのが最初である。その後、カナダ、アイルランド、イギリス、オランダをはじめOECD 諸国などに広がった。
(1)「福祉」と「税制」は分離していた方がセーフティネットになる
わが国の場合、この制度導入は多難である。まず、財源の捻出に加え、既存の各種控除との調整は重い課題である。また、全員確定申告するアメリカなどと違い、職を転々とし、年末調整の適用もなく働いても貧しい500万を超える人たちに対する申告支援制度整備の課題は重い。申告支援が十分でないと、逆に、この人たちを、実質的に“ 切捨て、福祉ゼロ状態” に導く。一方、課税庁の機構・サービス内容も、これら「働いても貧しい人たち」向けに大改革が必要である。まさに納税者権利憲章が必要とされるところである。 給付つき税額控除を入れても、所得のない人たち向けには最低生活給付(生活保護など)は依然として必要である。結局、二重に行政サービスが必要となるわけで、給付つき税額控除をバラ色とみるのは近視眼的である。(2)過誤申告、不正申告の氾濫
事実、給付つき税額控除を実施している国では、制度の複雑さからくる過誤還付、目に余る不正還付が横行している。
例えば、アメリカでは、全EITC 申告の30%弱にも及ぶ(石村耕治「給付(還付)つき税額控除と納税者サービス:アメリカの「働いても貧しい納税者」の自発的納税協力問題を検証する(1)~(6)」税務弘報56巻9号~ 57巻5号参照)。
税制調査会現地調査報告(2009年6月)でも、アメリカでのEITC にかかる税務執行の困難さを指摘している(http://www.cao.go.jp/zeicho/siryou/pdf/sg2kai2-1.pdf)。
納税と福祉を一体化し“ 納番で所得把握を厳正にし、不正監視する政策” は稚拙な空論といえる。(3)実は、納番なしでも給付つき税額控除導入は可能
民主政権や財務省は、給付つき税額控除導入には納番が必要不可欠かのようなPR をしている。しかし、給付つき税額控除を導入している諸国では、納番を導入していない国もあるし、納番があっても納税者整理番号として利用している程度の諸国(イギリス、ドイツなど)も多い(森信茂樹編『給付つき税額控除』〔中央経済社、2008年〕39頁参照)。
アメリカ型の納番がないと給付つき税額控除を導入できないようなPR は不適切。納番導入誘導のための“ 口実” である。 また、納番のない現行制度下でも、地方税法が原則として市町村内に住所を有する者のすべてに市町村税の課税ベース申告の義務を課していることから、所得額が非課税限度額以下の者も含め、すべての住民の所得把握ができる仕組みの下にある。仮に給付つき税額控除を導入するということで、所得制限のチェックが必要というのであれば、現在でも市町村がやればできる。「新たな納番」は要らない。
むすび~憲法違反の可視的な共通番号や国民IDは要らない「納番を導入し、租税制裁を強化することと引き換えに、国税通則法を改正するなどして納税者権利憲章を実現する」。これが民主政権=財務省のシナリオではないかとの見方もある。
しかし、財務省は、さらなる課税強化策を狙っているように見える。 ターゲットは、かつて、1952〔昭和36〕年国税通則法の制定答申に盛られたような一般的租税回避否認規定【「税法の解釈及び課税要件事実の判断については、各税法の目的に従い租税負担の公平を図るため、これらの経済的意義及び実質に即して行うものとする。」】の創設(実質課税の原則の導入)ではないかと思う。最近における役所寄りの学者や実務家などの論考を注意深く精査する必要がある(例えば、品川芳宣「国税通則検討委員会報告(9):租税回避行為に対する包括的否認規定の必要性とその実効性」月刊税務事例41巻9号所収)。国税通則法を改正して納税者権利憲章の根拠規定を盛り込もうとすると、財務省は、納税の義務強化の視点から一般的租税回避否認規定(実質課税の原則の導入)も盛り込もうと画策する可能性も高い。一般的租税回避否認規定の導入をゆるさないためにも、日弁連などが、国税通則法改正ではなく新たな「納税者権利保護法」の制定を目指す方針に転換したのには一理ある。 いずれにしろ、民主政権の誕生は、「国民が主役」で、納税者権利憲章などを制定し、納税者の権利を尊重する徴税の仕組みをつくることにあったはずである。しかし、どう見ても、民主政権が掲げた「国民が主役」、「脱官僚政治」は夢物語。逆に、今や「役人が主役」で、租税制裁強化の実施、納番(共通番号)さらには国民ID〔カード〕制の導入、巨額の内部留保のある大法人への減税と表裏一体での消費税10%引上げ等々、財務省をはじめ中央の役人はやりたい放題である。納税者権利憲章の制定など、こうした「役人が主役」状態では、実現できるわけがない。これでは、前自公政権と同じかそれ以下で、民主政権は“ 存在根拠なし” ではないか。 納番の元となる共通番号やID〔カード〕制導入について、役所や役所寄りの学者などからは、情報セキュリティ論(プライバシー保護措置を講じれば、共通番号や国民ID〔カード〕などを“ 是” とする考え方)が主張される。しかし、この問題は、憲法論、人権論の視点からの検討が必要である。矮小化されてはならない。 民主政権は、来春の通常国会に共通番号導入法案を提出するとしている。「共通番号」と「ID〔カード〕制」は一体でとらえなければならない。将来に「負の遺産」を残さないためにも、スーパー電子監視国家につながる憲法違反の「共通番号付ID〔カード〕制」の導入を絶対にゆるしてはならない。税理士界をはじめとした各界の積極的な対応が急がれる。
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