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ナショナルミニマム切り下げに 「地域主権改革」に日弁連が意見書

 日弁連の地域主権改革に対する意見書。
 「今回の地域主権改革は,保育,教育の分野でも,これまで国が定めてきたナショナル・ミニマムを自治体の判断で切り下げることを可能とする側面を持つが,地域主権戦略大綱にナショナル・ミニマムへの言及がないことからも明らかなように,具体的影響の検討等,ナショナル・ミニマムに関する議論が十分になされているとは言い難い」と憲法の諸条項に照らして、慎重かつ徹底した審議を求めている。
【地域主権改革に関し,保育,教育の保障の観点から,慎重かつ徹底した審議等を求める意見書】

 特に教育分野の規制緩和についてについて、具体的な指摘で学ばされる。


 気になった指摘の部分。

・保育・・・「他の先進国と比較しても極めて低い基準にとどまっている。このような低水準の最低基準であるにもかかわらず,地域主権改革の名のもと,現行最低基準を下回るような基準を各地方自治体が定めることができるような制度にすることは,国家の責務を果たしたことにはならないし,かえって子どもの成長発達に悪影響を及ぼすこととなる。」

・教育・・「定時制高校も含めた公立高校の収容定員基準を都道府県条例委任とすれば,都道府県の財政格差に応じて,その統廃合をより促進し,特に,困難を抱えた若者から学びの機会を一層奪うという深刻な事態に陥る危険が高い。」
 「多用される臨時的任用や非常勤の教員は,極めて低賃金であったり,病気休職などが事実上許されないという劣悪な労働環境にあるが,かかる非正規雇用の教員が教育現場に広がることは,授業時間しか学校にいない教員や,雇用の継続について不安を抱える教員によって学校現場が支えられることを意味し,教育の安定性・継続性の観点からも,子どもたちの学習権充足にとって好ましくないことは明らかである。」


【地域主権改革に関し,保育,教育の保障の観点から,慎重かつ徹底した審議等を求める意見書】

 2010年(平成22年)12月17日

 日本弁護士連合会

◇第1 意見の趣旨 
 第174回国会に提出され,現在,衆議院において継続審議となっている「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」(以下「地域主権改革推進一括法案」という。)の審議及び今後提案が予定される地域主権改革推進関連法案の策定にあたっては,保育,教育の分野にも重大な影響が及ぶ可能性があるため,保育,教育の保障の観点から,具体的影響を精査し,影響を受ける当事者の意見を十分に聴取したうえ,拙速を避け,国民的議論を踏まえた慎重かつ徹底した審議がなされることを求める。

◇第2 意見の理由

1 はじめに
 前政権下において地方分権改革推進委員会が設置され,政権交代後の2009年10月,同委員会の第3次勧告が提示された。これを受けて,政府内で具体的な見直し検討作業が本格化し,まずは地方分権改革推進計画が策定され,同計画に基づき地域主権改革推進一括法案(第1次法案)が国会に上程され,本年4月28日参議院で可決され,衆議院に送付された後,会期終了により継続審議となっている。
 本年6月22日には,地域主権戦略大綱が閣議決定され,第3次勧告の積み残し分のうち,第2次見直し分が決定され,これに基づき2011年の通常国会に地域主権推進一括法案(第2次法案)が提出される予定となっている。

 地域主権戦略大綱によれば,今後,地域主権改革の更なる進展のため,第3次勧告の実現に向けて引き続き検討を行うとされている。
 当連合会は,地方分権一般について,現段階で一定の意見を述べるものではないが,少なくとも,今回の地域主権改革は,その影響が極めて広範な分野に及び,保育,教育の分野にも重大な影響が生じる可能性があるから,最低限,具体的影響を精査し,影響を受ける当事者の意見を十分に聴取したうえ,拙速を避け,国民的議論を踏まえた慎重かつ徹底した審議がなされるべきであると考える。

2 保育分野への影響

(1) 子どもの成長発達権保障と「最低基準」
 保育所は児童福祉法7条に定める児童福祉施設であり,児童福祉施設の設置運営については,児童福祉法45条に基づき厚生労働省令により,最低限の設置基準として「児童福祉施設最低基準」が定められているが,この児童福祉施設最低基準は,子どもの成長発達権保障という観点からは,決して十分とは言えない。まさにこれより下げてはならないぎりぎりの「最低基準」であり,同最低基準3条5項においては「厚生労働大臣は,最低基準を常に向上させるよう務めるものとする」と規定されているのである。にもかかわらず,制定以来ごくわずかの改正(底上げ)しかなされてなく,子どもの成長発達権保障の観点からは必ずしも十分とは言い難い。特に,保育所の最低基準は,戦後間もない1948年(昭和23年)に定められて以来,現在に至るまで抜本的改正がなされてなく,他の先進国と比較しても極めて低い基準にとどまっている。このような低水準の最低基準であるにもかかわらず,地域主権改革の名のもと,現行最低基準を下回るような基準を各地方自治体が定めることができるような制度にすることは,国家の責務を果たしたことにはならないし,かえって子どもの成長発達に悪影響を及ぼすこととなる。

 ところで,本厚生労働省令により全国の児童福祉施設等が従うべき,まさに「最低限の基準」として,全国の児童福祉施設において「最低限」の質の確保が共通してなされているのも事実である。従って,最低限の「基準」そのものについて水準の向上に向けて見直すべきであるとともに,国が「最低基準」を定めてそれを全国の児童福祉施設に遵守させる制度自体は,保育についても,これを堅持すべきである。

 上記に関連し,当連合会は,1996年9月20日付け「児童福祉法改正に関する意見書」等で児童福祉施設最低基準の見直しを求め,また,2010年10月8日の人権擁護大会においては,「貧困の連鎖を断ちきり,すべての子どもの成長し,発達する権利の実現を求める決議」を全会一致で採択し,その中で「政府は,現在進めている最小のコストによる保育政策を直ちに転換させ,保育の質を向上させるべく,保育分野での規制緩和政策を転換し,保育施設の最低基準を堅持・充実させなければならない」と提言し,さらに,2010年11月17日にも,児童福祉施設等で措置にかかる施設等の設置運営基準については,最低限の国家的基準を堅持すべきとする意見書を発表したところである。

(2) 具体的問題点
① 児童福祉施設(保育所等)の居室定員,防火・防災上の設備,避難設備などに関する基準

 地域主権改革推進一括法案の13条によれば,児童福祉法に定める児童福祉施設(保育所等)の居室定員,防火・防災上の設備,避難設備などに関する基準は,「参酌すべき基準」とされ,地方公共団体が十分参照した結果としてであれば,地域の実情に応じて,国の基準と異なる基準を定めることが許容されるとする。
 しかし,防火・防災上の設備や避難設備などは,子どもの生命や身体の安全と直結するものである。にもかかわらず,その基準について地方公共団体が国の基準よりも低い基準を定めることが許容されるならば,基準の低下に歯止めをかけることができず,子どもの生命や身体が危険にさらされるおそれがある。また,居室定員は「児童の健全な発達に密接に関連する」ものであるにもかかわらず,地方公共団体が国の基準より低い基準を定めることが許されるならば,基準の低下に歯止めをかけることができず,子どもの成長発達が阻害されることになりかねない。

② 保育所の居室床面積に関する重大な例外扱い

 地域主権改革推進一括法案13条は居室床面積を「従う」べきものと規定しながら,附則の4条で「児童福祉法45条1項の規定により条例を定めるにあたっては,保育の実施への需要その他の条件を考慮して厚生労働省令で定める基準に照らして厚生労働大臣が指定する地域にあっては,政令で定める日までの間,同条2項の規定にかからず,保育所に関わる居室の床面積については(中略)『標準』として定めるものとする」として,重大な例外を設けている。すなわち,保育所の居室の床面積は,厚生労働大臣が指定する地域にあっては,政令で定める日までの間,「標準」とする時限措置がとられ,同地域(東京都など)では,居室の床面積についても,国の基準と異なる基準を定めることが許容され,これは,待機児童問題に対応するための方策であると説明されている。

 そもそも,同13条は,居室床面積等について「児童の健全な発達に密接に関連する」として厚生労働省の基準に従うべきものとされており,これは,最低限の床面積の確保が子どもの健全な発達に不可欠であることから,国の統一の基準としているのである。然るに,上記附則4条を定めることによって上記統一基準に反する状況を是認するとすれば,子どもの健全な成長発達や安全を犠牲にし,保育の質を無視して単に量的に受け入れ児童を増やすこととなる。これは,乳幼児期の子どもが安全・安心に成長発達する権利を侵害するものと言わざるを得ない。
 まず,乳児期は,生活リズムの個人差が大きく,「食事」「睡眠」「排泄(おむつ交換)」「あそび(ほふく)」において,乳児一人一人のペースに合わせた保育を行うことが求められている。また,幼児期は,生活リズムをもって食事の時間及び午睡の時間の設定が可能であるが,その一連の生活行為も,個人のペースに配慮することと,集団としてスムーズに展開することを兼ね備えることが必要とされている。このように,乳幼児期の子どもが安全・安心に成長発達するためには,すなわち,子ども一人当たりにどの程度の面積が確保するべきかという面積基準が極めて重要である。

 ところで,現行の保育所最低基準においては,子ども一人当たりの面積基準が0~1歳で3.3㎡,2歳以上で1.98㎡などとなっているが,「対象面積に廊下や机・椅子などの可動式の収納設備の置いてある床面積を含まない」という記載がなされていないために,これらの床面積を差し引くと子どもの実際の活動スペースはさらに狭くなる。このような中で,一人一人の生活リズムを大切にしながら,食事をし,遊び,睡眠をとるということが困難であることは明らかである。
 現行の最低基準においても,乳幼児期の子どもの安心・安全な成長・発達を保障するためのスペースとしては,極めて不十分であると言わざるを得ず,このような状況下で1日の大半を過ごす乳幼児たちは,精神面でのストレスも大きくなり,それによって噛みつきや子ども同士の喧嘩が増加することは,保育現場の経験則上自明のこととされている。また,保育士がこれらの問題行動に対応することによって,全ての子どもへの目が行き届きにくくなれば,目を離した隙に生じやすい死亡事故の危険要因を高めることにもなっているのである。   

 このような状況でありながら,現在の面積基準をさらに切り下げることや,切り下げられるような仕組みを導入することは,一人一人の子どもの発達に応じた保育をさらに困難とするものである。なお,現行の最低基準以上のものとなるよう取組を進めることが重要であるとの指摘がなされている報告書(社会福祉法人全国社会福祉協議会「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業総合報告書( 2 0 0 9 年3月)」)においては,さまざまな調査・検証の結果,0~1歳で4.11㎡以上,2歳以上で2.43㎡以上が必要な面積として提起されている。
 また,同報告書においては,アメリカ,イングランド,フランス,ドイツ,スウェーデン,ニュージーランドの6か国について,保育所の施設基準を調査したところ,日本の子ども一人当たりの面積基準が諸外国と比較して低い基準にあったとの指摘がある(前掲報告書)。このことは,諸外国においては,保育所の施設基準における子ども一人あたり面積基準が,日本のそれよりも高く設定されており,かつ,子どもの安全・安心な成長発達のために,一定水準以上の子ども一人当たりの面積の確保が重視されていることを示している。

 ところで,待機児童問題は,児童福祉法24条1項違反の問題であって,国は,積極的に財政負担を行うことによって,かかる違法の状態である待機児童問題を解消すべき義務を負っているのであるから,面積基準を最低基準以下にすることを,たとえ時限的,地域限定的にせよ容認し,子どもの安心・安全な成長発達を犠牲にすることによって対応すべき問題では全くない。
 なお,都市部などにおける待機児童問題においては,面積の広い賃貸物件が少なく,賃料の坪単価や保証金も高くなるため,コスト高から認可保育所の設置に困難を来す傾向にあると指摘されているが,例えば,最低定員の緩和などのさまざまな方策により,子ども一人当たりの面積基準を満たし,子どもの安心・安全な成長発達を図りつつ,認可保育所の設置を容易にすることは可能なはずである。

3 教育分野への影響
(1) 教育分野への広範かつ重大な影響

 地域主権改革推進一括法案で改正の対象となり,又は今後改正の対象として予定されている教育関連法制は,学校教育法,へき地教育振興法,就学前の子どもに関する教育・保育等の総合的な提供の推進に関する法律,公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律(以下「義務標準法」ということがある。),公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準に関する法律(以下「高校標準法」ということがある。),学校保健安全法など極めて広範囲かつ多岐にわたる事項に及んでおり,これを包括的に地方に委ねた場合には,一定の教育条件水準のもとで,安全に,等しく「学ぶ権利」が,地域を越えると保障されないという事態が懸念される。

 そもそも,公立義務教育諸学校においては,2001年に義務標準法の弾力化が図られ,地方裁量による少人数学級制とともに,正規の教員定数を非常勤講師等の任用で充てることが可能となった。2004年度からは国の「40人学級」基準による教職員給与総額の範囲内での給与や教職員定数の決定を都道府県の裁量に委ねる「総額裁量制」が導入され,2007年度から義務教育費の国庫負担率が2分の1から3分の1に削減され,地方の義務教育費負担割合を増やすなどの政策が展開されてきた。その結果,地方財政の格差が広がる中,地方裁量による少人数学級制を支えると同時に人件費削減を図るために,臨時的任用や非常勤の教員の多用化が進み,義務教育費の国庫負担最高限度算定額を下回る教職員人件費にしかならずに国庫負担金を国庫に「返納」する自治体が現れ,財政力の弱い自治体ほどこの傾向が強いと指摘され,2008年度には16道府県が「返納」したとされている。このような状況を受け,中央教育審議会初等中等教育分科会長は,2010年7月26日,文部科学大臣に対し「今後の学級編制及び教職員定数の改善について(提言)」により,「40人学級」基準を引き下げ,これに伴う教員定数の改善を求め,学級編制に関する権限を都道府県教育委員会から市町村教育委員会へ移譲する前提ではあるが,義務教育費の国庫負担制度の堅持・拡充を求め,国庫負担率の2分の1への復元の検討を求め,正規教職員の配置促進を求める提言を行っている。

 このように多用される臨時的任用や非常勤の教員は,極めて低賃金であったり,病気休職などが事実上許されないという劣悪な労働環境にあるが,かかる非正規雇用の教員が教育現場に広がることは,授業時間しか学校にいない教員や,雇用の継続について不安を抱える教員によって学校現場が支えられることを意味し,教育の安定性・継続性の観点からも,子どもたちの学習権充足にとって好ましくないことは明らかである。加えて,このような非正規雇用の教員の多用化は,年度途中における正規教員の産休や病休に対応する本来の臨時的任用教員の確保を困難にしており,授業に穴が空き,年間授業計画の遅れを余儀なくされる事態を発生させているとも伝えられる。このように,地方自治体の財政力の格差に伴う教育条件の偏りが,既に生じてきているという現状がある。

 また,例えば,第3次勧告においては,高校標準法5条で定める公立高校の収容定員の基準(本校で240人・分校で政令で定める数を下回らない。夜間定時制課程のみの場合その他政令で定める特別の理由のある場合を除く。)について,「廃止」又は都道府県「条例委任」とされる。しかし,収容定員基準を都道府県条例委任とすると,都道府県の財政格差に応じて,さらに統廃合を容易にする形で引き上げられてしまい,「通学できる範囲内に夜間定時制高校がない」という事態の再現を招くという問題が予想される。
 不況に伴う公立高校人気を背景に,夜間定時制高校への志望が殺到し,昨年,定時制高校の志望者は20年間で初めて定員を上回った。夜間定時制高校には,中学までの学習のつまづきを立て直したり,自分のペースで勉強したりする生徒が多く通っており,その役割を考えれば,希望者の入学を確保し,教員の増員をはかるなどの体制を整えるべきである。中学校卒業で仕事もなく,居場所のない若者に勉強の機会を与えないのは,社会を支える人材の育成を制度的に放棄しているに等しい。このような状況の中で,さらに定時制高校も含めた公立高校の収容定員基準を都道府県条例委任とすれば,都道府県の財政格差に応じて,その統廃合をより促進し,特に,困難を抱えた若者から学びの機会を一層奪うという深刻な事態に陥る危険が高い。
 政府は,高校の授業料の実質無償化に向けた政策を進めているが,経済面での支援だけでは不十分であり,すべての子どもがその資質や発達段階に応じた教育を受ける権利を実質的に保障されるよう,教育態勢を充実させることが必須である。子どもがどこに住んでいようとも,教育の実質的保障がなされるためには,国による教育制度にかかる最低基準を確保した上で,地方がその状況に応じた上乗せ・横出しの支援を行う体制を堅持すべきである。

 上記以外にも,このような懸念が強いものとして,以下,主要な点のみを指摘する。

(2) 地域主権改革一括法案についての具体的問題点

① 学校教育法
 4条で,市町村の設置する「幼稚園」については,その設置廃止等には都道府県の教育委員会の「認可」が必要であるところ,法案では,「予めの届出」で足りるとされる。市町村立幼稚園の設置・廃止・変更が独自の判断で行いやすくなる一方で,財政事情の影響を受けやすくなり,上記2.で指摘したと同様のことが妥当するばかりでなく,幼稚園の公的役割のチェックシステムが損なわれる危険がある。

② へき地教育振興法
 5条の2で定める「へき地手当」について,文部科学省令・文部科学省の定める基準に「従い」,月額,地域手当てとの調整を条例で定めて支給するとしてきたところを,法案では,それぞれ「参酌して」条例で定めるとしているが,これは,都道府県の財政状況の影響を受けやすくなり,教員確保・教育条件の面で地域格差をもたらすことになることが懸念される。すなわち,上記(1)のとおり,地方の財政状況の影響から,臨時的任用や非常勤の教員を多用することによる,安上がりの「へき地教育」が指向されれば,劣悪な労働条件の下で雇用不安を抱える教員による,教育の継続性を考え難い事態がもたらされ,全国どこにいても等しく教育を受ける権利の保障にはほど遠い事態が懸念されるのである。

(3) 第3次勧告中に残された項目についての具体的問題点

①「施設・公物設置管理の基準」関係

ア 就学前の子どもに関する教育・保育等の総合的な提供の推進に関する法律
 勧告では,3条1項・2項の認定こども園の設置・運営基準につき,「廃止」又は都道府県「条例委任」を行い,「参酌すべき基準の一層の弾力化,大綱化を図る」としている。また,6条2項の認定こども園の表示基準について,「廃止」又は都道府県「条例委任」とされる。
 子育てのあり方が模索され,イギリスにおける未就学児童とその親に対する総合的支援策としてのシュアスタートなどの実効性に注目が集まる中,認定こども園の設置基準としての都道府県条例では,もともと国基準は「参酌すべき基準」として位置づけられていたが,一層の弾力化・大綱化は,設置基準の一定水準の確保という面で,都道府県の待機児童解消の展望や財政事情の影響を受けやすく,上記2で述べたと同様の問題とともに,利潤追求を第1とする過度な民営化の促進により,保育条件の低下や継続性が保たれなくなるなどの弊害を生じる懸念がある。

イ 学校教育法
 勧告では,3条の学校の設置基準(文部科学大臣の定める設備,編成その他に関する設置基準に従う),128条の専修学校の設置基準(文部科学大臣の定める教員数,校地・校舎面積・位置・環境,設備),及び1 2 9 条の専修学校の校長の資格( 2 項「識見」と「従事したもの」),教員の資格(3項「文部科学大臣の定める」)について,「廃止」又は都道府県「条例委任」とされる。従来も,一律の設置基準が,人口急増地域や老朽化した校舎の建替などの際の財政負担能力との関係で問題とされ,特区制度の活用などもあったと伝えられる一方,地方自治体の努力によりより好ましい教育環境に配慮した学校づくりの取り組みもなされてきていたところである。しかし,学校の設置基準は,学校で学び生活する子どもたちにとって,その安全や学習環境を保障するものであり,アレルギーを持つ子どもたちや発達障がいを持つ子どもたちなど,特別の配慮や支援を要する子どもたちをはじめ,全ての子どもにとって,学校環境における最低限の安全を確保するという重要な意味を持ち,これは全国どこにおいても確保されるべきものである。このような設置基準そのものが都道府県条例委任ということになると,都道府県財政格差の影響を受けざるを得ず,最低限度の教育条件の水準を維持することができるのかどうか,重大な懸念が生じる。

ウ 公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律
 勧告では,3条・4条の学級編制の標準規定・県教委が定めた基準の規制につき,「廃止」又は都道府県及び市区町村の「条例委任」とされる。また,小中学校教職員定数の標準,特別支援学校教職員定数の標準,教職員定数算定の特例,分校等への適用などの規制・基準につき「廃止」又は都道府県及び市区町村の「条例委任」とされる。さらに,短時間勤務の職を占める者等の換算基準,教員定数に含まない数の基準について,「廃止」又は都道府県及び市区町村の「条例委任」とされる。
 学級編制基準,教職員定数標準,教職員定数の数え方について,臨時的任用や非常勤の教員を定数に組み込んで数えるのかどうかを含めて条例委任してしまうと,都道府県の財政状況により,非正規雇用教員の多用化に歯止めがなくなり,上記(1)で述べた現状より更に教育条件に格差が生じ,「学ぶ権利」の平等保障が確保できなくなるばかりでなく,標準や教員定数の数え方がばらばらになって,全国の教育水準に照らした比較すらできなくなる可能性が生じ,教育条件向上の目標が失われることになりかねない。

②「協議,同意,許可・認可・承認」関係

 公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律勧告では,5条の「学級編成」(4条の学級編成基準に基づく)について,設置する市町村教委は,予め都道府県教委との協議・同意を行うとの要件を廃止するとされており,上記①ウと連動して問題が生ずることが懸念される。

③「計画等の策定及びその手続」関係

 学校保健安全法(旧学校保健法平成20年6月18日法改正)
 勧告では,5条の「学校」の「学校保健計画の策定・実施」義務規定,27条の「学校」の「学校安全計画の策定・実施」義務規定につき,「計画等の策定及びその内容に係る規定そのものの廃止」又は「計画等の策定に係る規定の『できる』規定化又は努力義務化,及びその内容に係る規定の例示化又は目的程度の内容への大枠化」のいずれかの措置を講ずるとされる。
 しかし,学校保健・学校安全についての計画とその実施を義務づけることは,目標達成を確実にするための方途であるはずだが,これを努力義務化していくことは,責任を軽視することにつながりかねず,結局,学校で生活の大半を過ごす子どもたちに,健やかに,かつ,安心・安全に学校生活を営むことを計画的に保障していく努力すらおざなりなものになっていく事態が予想される。計画の策定が任意であったり,努力義務にとどめてよいとするのは,セーフティネットやナショナル・ミニマムについては国が責任を持つという観点から問題がある。

4 結論
 今回の地域主権改革は,保育,教育の分野でも,これまで国が定めてきたナショナル・ミニマムを自治体の判断で切り下げることを可能とする側面を持つが,地域主権戦略大綱にナショナル・ミニマムへの言及がないことからも明らかなように,具体的影響の検討等,ナショナル・ミニマムに関する議論が十分になされているとは言い難い。

 また,今後上程が予定されている第2次法案においては,使途が限定されたいわゆるひも付き補助金を廃止し,一括交付金化することが予定されているところ,①地方が自由に交付金を使えるようになるため地方自治の本旨に適うという積極的な評価がある反面,②多数者の利益に流れ,子どもなど社会的弱者・少数者の権利保障が後回しにされて,利潤追求を第1とする過度な民営化の促進・人件費の抑制等による社会サービスの質の低下を招く,特に,財政が悪化している自治体におけるナショナル・ミニマムの切下げを招来し,憲法25条,14条の理念に反する深刻な事態につながるとの消極的な評価もある。上記に個別に検討したところからも明らかなように,今回の地域主権改革は,保育,教育分野においては,総じて,一定の保育・教育条件水準のもとで,安全に,等しく「保育を受ける権利」及び「学ぶ権利」が,地域を越えると保障されないという事態を招く危険がある。

 よって,当連合会は,憲法13条,14条,25条,26条等に照らし,一定の保育・教育条件水準のもとで,安全に,等しく「保育を受ける権利」及び「学ぶ権利」を地域を越えて保障し,子どもの成長発達権を保障する観点から,地域主権改革推進一括法案の審議及び今後の地域主権改革推進関連法案の策定にあたっては,保育・教育分野における具体的影響を精査し,影響を受ける当事者の意見を十分に聴取したうえ,拙速を避け,国民的議論を踏まえた慎重かつ徹底した審議がなされることを求める。

以 上__

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