軍拡競争の懸念 沖縄・二紙
「戦う自衛隊への変貌」「原則のなし崩しは危険」「沖縄の負担増」「逆に軍事的緊張感を高める結果となる。安全保障のジレンマ」・・・沖縄の2紙の社説が共通して指摘している。
二次大戦で地上戦を戦い、今も米軍基地が集中し、周辺国に近接する沖縄の声と思う。
【新防衛大綱 ソフトパワーこそ必要だ 琉球新報・社説12/19】
【[新防衛計画大綱]軍拡競争を煽らないで 沖縄タイムス・社説12/18】
北朝鮮の武力挑発は許されるものではない。領土問題やノーベル賞への対応など中国の一連の行動も「大国」としての責任ある態度ではない。
そのうえで、沖縄の二紙は、極めて冷静である。
その外交の力・・・ 国連で、1年前に「2020年までに1990年比25%削減」を公言した日本政府が、COP16で、京都議定書の単純延長に反対し、国際的公約を簡単に投げ捨て、国際的な温暖化対策にブレーキ役を果たした。
こんな国が、これから何を言っても信用されないだろう。そういう「非常に大きな成果」(11日、菅首相)があったばかりである。
その上、専守防衛の基本を簡単に転換した「新防衛大綱」も、九条を持つ国として、戦後の国際社会に復帰した日本の信頼、外交力のアップにどう結びつくのか・・・ 失うものの大きさを、よくよく考える必要がある。
【新防衛大綱 ソフトパワーこそ必要だ 琉球新報・社説12/19】政府は新たな「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画を決めた。
これまで防衛政策の基本に据えてきた専守防衛を実質的に放棄して「動的防衛力」という新たな概念を盛り込んだ。「戦う自衛隊」への変貌(へんぼう)を意味する。
国民的な議論を十分尽くさないまま、安全保障の基本姿勢を変更したことになる。このような民主党政権の政策決定のやり方は、将来に禍根を残す結果を招きかねない。
新大綱は南西諸島を含む島しょ部の防衛力強化を打ち出した。
空自那覇基地はF15戦闘機を1・5倍に増やし、海自は南西地域の警戒監視に向け潜水艦やヘリコプター搭載護衛艦を整備。陸自は与那国、宮古、石垣島と想定される地域へ部隊配備する。
一方で民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた日米地位協定の改定については触れていない。負担軽減の具体策は見あたらない。沖縄にとって米軍基地の負担軽減どころか、自衛隊の配備強化でますます過重な負担がのしかかることになる。
新大綱は「我が国の存立を脅かすような本格的な侵略事態が生起する可能性は低い」と指摘している。にもかかわらず、日米同盟を「深化・発展させる」と記述し、情報、周辺事態、弾道ミサイル防衛などで協力を強化する。シーレーン(海上交通路)確保や宇宙、サイバー分野、気候変動分野の連携も盛り込んだ。
何のために米軍と一体化するのだろうか。逆に周辺国は日本への警戒を強め、軍事力を増強する可能性が高まるだろう。米国への協力を強化すればするほど、自国ではなく同盟国の戦争に巻き込まれるリスクは増大する。「安全保障のジレンマ」に陥っている。
武器輸出禁止措置を講じている武器輸出三原則の見直しに含みを持たせた。自衛隊の国連平和維持活動(PKO)への派遣条件を定めたPKO参加5原則を見直す可能性にも触れている。原則のなし崩しは危険だ。
新大綱はハードパワー(軍事力)については盛り込まれているが、科学技術や文化、外交力を使って相手を引き寄せるソフトパワーについてはほとんど触れていない。むしろ「平和国家」というソフトパワーを減らしている。
軍事力をいかに使うのかではなく、戦わずして相手を魅了する方法こそ研究すべきだ。
【[新防衛計画大綱]軍拡競争を煽らないで 沖縄タイムス・社説12/18】政府は今後10年間の防衛力整備の指針となる新たな「防衛計画の大綱」を閣議決定した。大国化する中国、北朝鮮を念頭に「動的防衛力」という新しい概念を掲げ、国境を接する南西諸島の防衛強化を打ち出したのが特徴である。
動的防衛力とは何か。テロや離島侵攻を想定し機動力や即応性を重視して部隊を運用する考え方である。1976年の初の大綱以来、過去3回までは、脅威に必要最小限の自衛力を均衡して保有する「基盤的防衛力構想」を踏襲していた。専守防衛から戦う自衛隊への政策の転換である。
大綱では、またも沖縄に負担が押し付けられそうである。防衛省は北海道から南西諸島方面に最大2000人を移し、最西端の与那国島には約100人の陸自「沿岸監視部隊」を配備する計画である。
いったい何のために。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件が念頭にあるのなら、海上保安庁の警備を強化すればいいのではないか。軍事的な緊張感を煽(あお)るだけではないのか。なし崩し的転換は危うい。陸自第一混成団はすでに第15旅団に格上げされている。海自は潜水艦を16隻から22隻に、空自は那覇基地の戦闘機を約20機から約30機に増強する。
沖縄本島の面積の約20%は米軍基地が占めているというのに、今度は離島に自衛隊部隊が配置される。沖縄中が米軍と自衛隊の軍事の島になる。政府がお題目のように唱える負担軽減はどこにいってしまったのか。
戦後日本の「平和国家」の国是の一つともいえる「武器輸出三原則」緩和の明記は社民党の反対で見送られたが、将来的に輸出解禁に道を開く表現を潜り込ませている。
軍事組織は、軍産複合体と絡み合いながら自らの生き残りを図る属性を持つ。
脅威をつくり出し、煽り、自らの存在意義を高めるというのが常套(じょうとう)手段である。
自国の安全を高めるためといって軍備増強を図る。同じように相手も軍備増強で応じる。互いの不信感の中で、終わりのない軍拡競争の連鎖に巻き込まれる。安全のためだったはずが、逆に軍事的緊張感を高める結果となる。安全保障のジレンマである。
ほんの1年ちょっと前まで「この地域の安全保障上のリスクを減らし、経済的なダイナミズムを共有しあう」(鳩山由紀夫前首相の国連総会演説)といっていた民主党の東アジア共同体構想とも矛盾するのではないか。
中国にもくぎを刺しておきたい。「ポスト胡錦濤」の最高指導者に内定している習近平国家副主席は「中国は決して覇権を求めない」と表明している。
だが、領土や海洋権益の拡大を狙っていると疑わせる動きが活発で、近隣諸国の「中国脅威論」を生んでいるのも事実である。空母建造を進めているとも報道されており、この地域の不安定を高める大きな要因になっていることを忘れないでもらいたい。
大綱は、中国や北朝鮮をこの地域の不安定要因として挙げているが、日本が周辺諸国の緊張を高める国として警戒されることを懸念する。
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