地域主権改革 男女平等の実現に重大な影響 日弁連
「地域主権改革」の一環として、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」と「男女共同参画基本法」による都道府県の基本計画の策定及び公表等の義務付けが廃止されようとしていることに対し、日弁連が「わが国の男女平等・男女共同参画の実現に看過できない重大な影響が及ぶ」と反対の意見を出している。
それにしても民主党政権・・・民法改正を先送りしただけでなく、逆走しようというのか。
【地域主権改革に関し,男女平等及び男女共同参画の観点から見直しに反対する意見書】
【地域主権改革に関し,男女平等及び男女共同参画の観点から見直しに反対する意見書】 2010年(平成22年)12月16日日本弁護士連合会
第1 意見の趣旨
政府が地域主権改革の一環として実現を目指している地方分権改革推進委員会第3次勧告のうち,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」及び「男女共同参画基本法」(以下「両法」という。)の見直しについては,同勧告にしたがい都道府県の基本計画の策定及び公表等の義務付けが廃止等されることとなれば,わが国の男女平等・男女共同参画の実現に看過できない重大な影響が及ぶことから,両法の見直しには反対である。
第2 意見の理由
当連合会は,地方分権改革推進委員会の勧告を含む地域主権改革全般について,現段階において,一定の意見を述べるものではない。本意見書は,政府が地域主権改革の一環として実現を目指している地方分権改革推進委員会第3次勧告のうち,男女平等・男女共同参画の実現の観点から看過できないと考える「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」及び「男女共同参画基本法」(以下「両法」という。)の見直しについて当連合会としての意見を述べるものである。
1 両法に関する見直しの内容
両法に対する見直しについては,地方分権改革推進委員会が平成21年10月に公表した第3次勧告別紙1「3つの重点事項個別条項について具体的に講ずべき措置」,別表3「計画等の策定及びその手続き」の中に掲げられている。政府は,平成22年6月の地域主権戦略大綱において,地域主権改革の更なる進展のため,第3次勧告の実現に向けて引き続き検討を行うとしている。
ここで,「計画の策定及びその手続き」の見直しとは,現行法で都道府県に義務付けられている「基本的な計画の策定・公表」に関し,「廃止またはできる規定化または努力義務化及び内容に関わる規定の例示化等により単なる奨励にとどめる」というものである。つまり,基本計画の策定義務・公表義務を廃止するかまたは努力義務あるいはそれよりも緩い例示化等の方法によって「単なる奨励」にとどめるというのである。
両法における「基本計画の策定・公表」はいずれも国の方針に基づき都道府県の施策を方向付ける基本的かつ重要な事項であり,その義務付けの廃止は両法の目的実現ひいてはわが国の男女平等・男女共同参画の実現に大きな影響を与えるものである。2 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」の見直し
同法は,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関し,都道府県に対し,同法2条の3第1項で「基本計画の策定」,2項で「基本計画の内容」及び4項で「都道府県基本計画の公表」をそれぞれ義務付けている。今回の見直しは,これら都道府県に義務付けられている基本計画の「策定」「内容」「公表」を,「廃止」するか,あるいは「努力義務化」等とするものである。
同法は,前文にあるように,配偶者からの暴力が犯罪となる行為も含む重大な人権侵害であり,女性蔑視が背景にあり被害者の多くは女性であり,特に経済的自立困難である女性に対する配偶者からの暴力は,個人の尊厳を害し,男女平等の実現の妨げとなっているものであることから,配偶者からの暴力を防止し,被害者を保護するための施策を講ずることが必要であり,女性に対する暴力を根絶しようと努めている国際社会の取組に沿うものであるとして,2001年に成立したものである。配偶者等からの暴力は,家庭内のとざされた場所で,家族による暴力ということで顕在化することなく,被害が深刻・重大であるにもかかわらず救済されないという問題がある。そのため,同法2条は国及び自治体が配偶者からの暴力の防止,被害者の適切な保護を図る責務があるとしている。
2006年の法改正により,上記の国及び自治体の責務をさらに徹底させるため,同法2条の2第1項「(主務大臣)は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本方針を定めなければならない」,2項で基本方針の具体的内容,3項でその公表を定めた。これを受けて,上記法2条の3で,都道府県が「国の基本方針」に即して,基本計画を定め,さらに具体的に配偶者からの暴力の防止及び被害者保護に関する基本的な方針や施策の実施内容等を定め,公表しなければならないという義務付けがなされたのである。
配偶者からの暴力の防止と被害者の保護を図っていくために,国で基本方針を定め,その基本方針に沿って都道府県が基本計画を立てることにより,その目的を達することができるとして改正が行われたものである。ところが,今回の見直しは,上記改正を無視する形で,「国の基本方針」に沿って都道府県の基本計画の策定,公表の義務付けを外して,「廃止」して基本計画を策定しなくともよいし,「努力義務」,さらには例示化による奨励でよいとする,というものである。配偶者からの暴力の防止と被害者保護について,同法が施行されてから未だ10年も経っておらず,国民の間に十分周知されているとは言えず,配偶者からの暴力防止も保護命令をはじめとする救済も未だ不十分で,多くの女性が苦しんでいる現状にあると言わざるを得ない。そうした現状からするならば,都道府県に対する国の基本方針に沿った基本計画の策定とその公表の義務付けを外すということは,配偶者からの暴力の防止及び被害者保護の施策の質が低下を招くことは明らかである。
よって,今回の配偶者からの暴力の防止及び被害者保護のための都道府県の基本計画に関する義務付けの見直しには,反対である。3 男女共同参画基本法の見直し
同法は,男女共同参画の実現のために,都道府県に対し,同法14条1項で「男女共同参画計画の策定」,2項で「男女共同参画計画の内容」及び4項で「男女共同参画計画の公表」を義務付けている。今回の見直しは,これら都道府県に義務付けられている男女共同参画に関する計画の「策定」「内容」「公表」を廃止するかまたは努力義務あるいはそれよりも緩い例示化等の方法によって「単なる奨励」にとどめるというのである。
同法は1999年に制定され,男女が性別にかかわりなく,その個性と能力を十分に発揮するできる男女共同参画社会の実現は,わが国の21世紀の最重要課題として位置づけられてきた。
同法13条で,1項「国の男女共同参画基本計画の策定」,2項「基本計画の内容」,3項「基本計画の公表」を国に義務付けている。これを受けて,14条において,都道府県に上記「国の男女共同参画基本計画を勘案して,当該都道府県における男女共同参画の形成の促進に関する施策についての基本計画の策定・公表」が義務付けられているのである。わが国においては,今日においてもジェンダー・バイアスに基づく性別役割分担意識が根強く残っており,例えば,女性の政治や経済への参画の程度を示すジェンダー・エンパワーメント指数は43位と先進国では最下位である(2005年国連開発計画「人間開発報告書」)。特に,現在,女性の非正規雇用の割合は5割を超えているという実情の下で,労働の分野での男女平等,男女共同参画は低下傾向にあり,母子家庭を中心に女性の貧困も問題になっている。国連女性差別撤廃委員会からもこの点も含め多くの分野で勧告が出されている。
従って,国の基本計画の下で都道府県がそれぞれ基本計画を策定し,その実現のためにより一層きめ細かな施策が求められている。そこで,政府は,現在,現状に合致した基本計画を練り直すために第3次基本計画策定の最中である。都道府県には,これらの国の基本計画に沿って改めて現状に見合った基本計画の策定が求められている。
わが国の男女共同参画実現に向けて行われてきたこれらの経過及び現状を無視し,今後の男女共同参画の実現に大きな影響を与える今回の見直しには,反対である。以 上
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