民主「地域主権改革」と自民「新憲法草案」の共通性
自由法曹団が見解―― 【「地域主権改革」の正体 12/13】。
4つの問題点を指摘している。① 憲法の福祉国家理念の破壊 ② 地方自治とくに住民自治の形骸化 ③ 地方財政の充実は実現しない ④ 公務員の重大な権利問題、を明らかにし、
国民的反撃が急がれる、と呼びかけている。
そのうち問題①と②の部分の概要は以下のとおり。
憲法25条を空洞化させる点で、民主「地域主権改革」と自民「新憲法草案」は共通する構造を持つ。また、②の整理は大いに参考になる。
◇問題1 憲法の福祉国家理念を破壊する
1 社会福祉を向上させる基準の破壊(「義務付け・枠付けの見直し」)
(1)「基準」は「縛り」ではなく「支え」
―― 国の定める「基準」は、国が施策の内容は財源に責任を持つ「支え」として、憲法の定める福祉国家理念に基づいて定めたもの。国の法令が社会福祉を向上・増進させる基準を破壊しようとするもの。
(2)正体は憲法25条2項の「改憲」
憲法25条2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定める。社会福祉等の向上のためには、社会福祉等の基準を国が定め、この基準に達するように施策に取り組むことが必要不可欠である。この基準は、国民最低限(ナショナルミニマム)と言われる。国の基準を破壊すれば、国は社会福祉等の向上のための責任が果たせなくなる。「地域主権改革」は、憲法25条2項の解釈改憲である。
(3)基準について、専門的科学的知見を結集し、国民的議論をして変えていくのではなく、「地域主権」のかけ声のみによってこうした基準が曖昧にされ、地方自治体の判断で切り下げてよいとすることは、わが国の社会福祉等の根幹に関わる重大問題である。
2 国の責任による福祉国家施策・組織の解体(「国の出先機関の原則廃止」)
(1)「身近だから」は理由にならない
―― 「身近」な行政だから国の機関が不要だという立論は、論理的にもまったく成り立たない。「身近」な施策にこそ、国が十分に責任をもって体制と施策を整える必要がある。
(2)国の出先機関の役割
―― 国として地方に出先機関を設けている部署は多岐におよぶ。そしてそれぞれの国家機関は、社会権その他の基本的人権保障のために、それぞれの地域で重要な役割を果たしている。・・・・
(3)国の出先機関の役割は地方に委ねられない
―― 国立病院は都市部でも地方でも地方の財政力によって左右されない一定水準の医療を受けられる医療提供体制の確立に役立っている。労働行政が地方の財政力によって左右され、「働くルール」や監督の体制・程度が地方によって異なることになれば、体制が不十分で監督の緩やかな地域では労動者の保護が不十分になってしまうおそれがある。・・・・などなど。
(4)国の施策と組織の解体は許されない
「出先機関の原則廃止」は、国の責任で行われてきた福祉国家的施策とこれを担う組織を解体し、地方自治体の財政力によって福祉施策の体制や水準に差異をもたらすことになるものであり、許されない。
3 国による福祉施策の財源保障の解体(「ひも付き補助金の一括交付金化」)
(1)国の補助金は「ひも付き」ではなく地方自治体の「命綱」
-- 国による福祉施策の財源保障の解体であり、地方自治体の財政力によって福祉施策に大きな格差をもたらす。
(2)地方自治体の財政危機の正体
-- 自治体の財政危機の正体は、福祉施策ではない。「日米構造協議」で約束やバブル後の景気対策として大型の「ハコモノ」を実施による。「三位一体改革」による地方財源は大幅削減。財政危機の原因を正しく把握し、その責任追及や、どこが利得を増大させているかを分析することなしに、財政危機への対応策は不可能。
(3)補助金の一括交付金化で地方自治体の財政は改善しない
-- 交付額を大幅に増やさない限り、使途を特定しようが一括にしようが、地方の財政難にまったく改善はない。
(4)大型公共投資に圧迫され福祉施策の切り下げは必至
-- 現実には、補助金の一括交付金化が進めば、福祉や教育など、広範な住民に必要な福祉施策は、切り下げられることは必至。なぜなら、首長や地方議員に多額の政治献金をできる企業が、その見返りに大型公共投資を求めれば、限られた財源の中で福祉施策の財源が削減されることになるからである。
(5)地方ごとの格差の是正は国が責任を果たして再分配こそ
-- 福祉施策の水準を維持充実するためには、国が必要な税を徴収し、財政力や税収の乏しい地方自治体に使途を特定して補助して再分配する以外に方策はなく、これこそが憲法の求める福祉国家理念に基づく国の責務(憲法25条以下)。
4 自由民主党の「新憲法草案」と同じ考え方
―― 自民党草案は第8章「地方自治」の章で・・・
・地方自治の本旨(91条の2)の規定では「住民の参画を基本とし」「住民はその負担を公正に分任する義務
を負う」として住民の負担と義務を強調。
・広域地方自治体を明記(91条の3第1項)することで道州制の導入を志向。
・地方自治体の財政は自主財源を基本とし(94条の2第1項)、国の責任を後退。
このように、地域主権改革大綱は、現行憲法の福祉国家理念を変質させる点で、自由民主党「新憲法草案」とも共通の考え方に立っている。
◇問題2 地方自治とくに住民自治の後退
1 事務押しつけで財源の乏しい自治体は壊滅(「基礎自治体への権限委譲」)
-- 市町村合併で中心地域と周辺地域との格差が拡大し、住民意思の地方政治への反映は後退している。また財源の裏付けのないままさらに事務を基礎自治体に担わせれば、財源の乏しい地方自治体は壊滅する。
2 住民の声が届かない首長本位の地方自治体づくり(「地方政府基本法」)
(1)ねらわれている地方議会の形骸化
--「地方政府基本法の制定(地方自治法の抜本見直し)」の検討を進め、順次国会に提出するとしている。「改革」の方向は、住民の声が届かない首長本位の地方自治体への改変である。
(2)住民の声が届かない「少人数議会」(議員定数の法定上限の撤廃)
-- 現行地方自治法が法定数を規定したのは、多様な住民意思を地方政治に反映させるという、議会制民主主義の根幹を支える趣旨である。住民の意思の直接の反映が不十分になれば、それは福祉施策の低下に直結する可能性が大きい。
市議会議員の半減を公約して議会と対立する河村名古屋市長、大阪府と大阪市の統合を訴える橋下大阪府知事は、いずれもテレビ・新聞等のマスメデイアを通じて頻繁に取り上げられて高い支持率を維持し、他方で福祉施策の削減を続けている。住民の声が直接届けられる地方議会から、マスメデイアを通じて首長の権限を強大化させる地方政治への改変の先取りをしている事例である。
(3)地方議会への小選挙区制の導入
――「地方自治法抜本改正に向けての基本的な考え方」では「都道府県議会の議員をはじめ、地方公共団体の議会の議員の選挙制度については個人本位の選挙制度になっているが、政策本位、政党本位の選挙制度に変更すべきではないか」を検討するとされているが、それは地方議会にも、国会で導入されている小選挙区制を導入することを検討するという意味。
小選挙区制は、4割台の得票で8割の議席を得る政党が出る一方で、多数の議席に結びつかない票が出る、民意の公正な反映のできない選挙制度であり、住民の意思の反映を後退させるもの。
(4)行政機関等の共同設置
-- 継続審査となっている地方自治法一部改正案(第174 回国会提出)では、行政機関等の共同設置を可能にしようとしている。この行政機関には、議会事務局(その内部組織)、行政機関、長の内部組織、委員会又は委員の事務局(その内部組織)、議会の事務を補助する職員等が含まれる。これは、市町村合併に類似した行政機関の統廃合であり、地方自治体の住民の需要にきめ細かく対応することは、著しく困難になるであろう。
(5)二元代表制の修正
-- 二元代表制とは、地方議会が住民から直接選挙されて住民の意思を反映するとともに、首長も住民から直接選挙され、二元的な代表が相互に緊張関係を保って地方政治を運営するあり方。
首長は執行機関として地方自治体においてただ一人選ばれ、地方政治をめぐる単一の争点について住民の意思のいずれが多数であるかを託すことはできるが、地方政治全般の多岐にわたる問題については、地域住民の各層の意思を代表する地方議会において討論と議決を通じて決定される必要がある。したがって、地方自治体の多様な住民の声を地方政治に反映させるという観点からは、地方議会の権能と役割は、十二分に尊重されなければならない。
もし、一部の地方自治体においてみられるように、テレビ等に頻繁に取り上げられる首長が、地方議会を形骸化して施策を推進する意図で二元代表制の見直しを進めることになれば、地方自治体における少数派の意見は地方議会を通して反映させることが困難になるおそれが大きい。
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