家計の貧しさは報酬還元の不全 第一生命経済研究所
第一生命経済研究所 経済調査部のレポート。一部大企業は、大きく業績を伸ばし、「空前のかねあまり」となっているが、家計は貧しくなっている。その要因について「労働時間が長くなった分、報酬が相対的に低下して時給換算の給与が伸びない」「業績に見合った報酬が少なくなり、時間当たりの報酬還元が細ってきている」と分析し、こうした傾向が若手労働者のやる気を失わせ、デフレ脱却の足かせとなっている、と指摘している。、
【なぜ、家計は貧しくなったか~報酬還元の不全、賞与は削減され、労働時間は延長~ 11/2】
◆概要
「給与所得者の受け取る1人当たり平均給与額は、1988年以来の低水準になっている。給与削減は、賞与の調整を中心に進んでいる。労働時間が長くなった分、報酬が相対的に低下して時給換算の給与が伸びないことも、一般労働者の待遇悪化を意識させている。物価下落に連動するように賞与水準が調整されていることは、主に中堅所得層の給与を直撃し、一生懸命に働いたときの見返りを感じさせにくくなっている。業績に見合った報酬が少なくなり、時間当たりの報酬還元が細ってきているが、豊かさの実感を乏しくさせている原因と考えられる。」
◆レポートより
・給与水準については、2009年は357万円と1988年以来の低位となっている
・給与削減の内訳としては、賞与削減額が55%(ピーク比・実額▲15.7兆円、▲38.4%)を占めている。 給与所得者の報酬(給与・手当・賞与)に占める賞与の割合(13.8%)は年々低くなり、2009年では1955年以来の低い割合になっている。
・一般労働者では、所定内給与が緩やかに減額されていく中で、所定外給与の方は増えていた。これは、一般労働者の労働時間が長時間化※する傾向にあるということである。一方で所定内給与や賞与で報酬が支払われる部分が少なくなっているため、結果として単位当たり労働コスト(時給)は下がる。報酬をパー・アワーで測ると、残業をするほどに稼ぎの効率は低下しているのが実情である。
・本来、正社員が行う仕事までパート・アルバイトが代替していくと、決められた労働以外の部分は、正社員が余計に働いて仕事の穴を埋めなくてはならなくなる。正規雇用者の人員拡充がされない中で、従来以上の役割分担をこなしていかざるを得なくなっていることがあるのだろう。
・パート労働者であっても、一般労働者に似たような働き方を要求される人が増えてきているので、全体として一般労働者とパート労働者の時給が収斂してきているとみることができる。
・一般的に、賞与は業績に連動して動くと理解されるが、本当にそうした通説的な理解が正しいのかどうかはわからない。/賞与水準が企業収益とは連動せず、むしろ物価に似た動きになっているのは意外な結果である。その背景には、デフレだから賞与が切り下げられる作用と、賞与が切り下げられるからデフレになる作用の双方向の因果関係があるだろう。
・中堅所得層がますます減少/おおむね年収500万円以上の中堅所得層が大きく所得を絞り込まれる反面、年収300万円以下の給与所得者が急増していることである。家計は2009年に軒並み低所得化していて、年収400万円以下が全体の60%を占めるに至っている(年収300万円以下は42%)。
・若手まで給与カットが及ぶ/2008年までの給与削減では、勤続年数25年以上のベテランが大幅に給与水準の引き下げを余儀なくされて、若手の方は相対的に給与削減の難を免れてきていた。それが、2009年は従来は給与カットを回避できていた若手の方に調整圧力が一気に及んで、なりふり構わず給与削減が進んだのである。
・年功賃金を薄めるような給与水準見直しが経験年数の浅い若手にまで及んでいることは、スキルを身につけてもすぐには待遇改善に結びつきにくくさせるだろう。このことは、個々の勤労者がスキルを蓄積すれば、将来所得の増加が見込めるという期待感を低下させ、長期雇用・年功賃金制度の良さを実感させなくさせる効果を持つ。こうした変容も、若い給与所得者のやりがいを喪失させることにつながっていく。そうした傾向を改めることも、デフレ構造から抜け出すためには重要である。
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