「賃金における均等待遇」論-地方自治研
女性労働者の低賃金の是正、そのために「同一価値労働・同一賃金」とその技法としての職務評価の導入が奨励されている。それらの議論を、小越洋之助(国学院大学教授)が、「賃金における均等待遇を巡る論点についてについて」として報告した内容が、地方自治問題研究機構でアップされている。論点は、かなり詳細ななるが、 私としては大きくは2つ。現実の非正規の使い捨てにどうたたかうか、労働力再生産費の社会化(社会保障--間接賃金の問題)をどう確立するか、と現実を改善するたたかいが要となっているように感じる。
【賃金における均等待遇を巡る論点について -遠藤公嗣氏論文を手掛かりに-11/12】
以下、その中心部分・・・
◇正規と非正規の均等待遇問題――内部労働市場と、外部労働市場の規制の在り方
均等待遇について、―― 職場内の「内部労働市場」の中の男女の賃金における均等待遇問題であり、正規労働者と非正規労働者の格差の問題をいかに縮めるかということ。非正規労働者が仕事の面で基幹化しているもとで、均等待遇を主張する背後に「基幹化」という根拠がある。と指摘。
同時に、パート労働者も含めた非正規労働者――外部労働市場――では、賃金は、基本的には市場賃率に連動しており、それを規制する制度的要因として「最低賃金制」や「公契約」がある。
均等待遇問題の領域にはその外部労働市場の中の規制と、内部労働市場化する中における様々な手段の両方の領域がある。と指摘し、しばしば外部市場での規制が抜け落ちる点を問題にしている。
そして「流動的労働市場では、その基準は年齢ではなく職種別になってきている。正規労働者の分野においても、外部労働市場の問題、市場賃率、横断的賃率の規制を考えなくてはいけなくなってきている。」と指摘し、
「最近はやりの「官から民へ」という流れのなかでの民営化・民間委託化が急速に広まってくる中で、どんどん安上がりにしていく流れが強力になってきている。」「非正規労働者の人たちをどうするか。職務評価を議論する前に、非正規労働者は使い捨てにされているとか、賃金が全く上がらない、逆に引き下げられる、という問題が現実に存在している。私の問題意識ではむしろこの問題のほうが重要である。」と主張している。
――私の印象は、こうした外部労働市場のあり方の改善―― 目の前で起こっている惨劇とのたたかいなくして、内部労働市場の均等待遇論も空虚になると語っているととれる。
◇労働力再生産費の社会化-正規労働者と非正規労働者の根本的解決の展望-
ここでは氏は、
「労働力再生産費の社会化、簡単に言うと、今までの日本では、医療、年金、住宅、教育などの費用は、国庫負担による社会保障や公共サービスではなく、賃金からの控除によって賄われてきた現実がある。とくに社会保険中心主義の日本では保険料は直接賃金から差し引かれる。
その現状の中で、職務給だけの議論で格差問題を扱うことになると、極めてイビツな問題が起こると同時に、企業内の解決だけでこの問題に接近すると、新自由主義者は、「正社員の年功賃金カーブをもっと下げろ」と盛んに言っているので、そういう議論に陥る可能性がある。
この解決法として、賃金問題を追求することはもちろん重要であるが、同時に、教育、住宅、医療、年金などの社会的な制度を企業の中のものではなく、いかに社会化させていくかという課題がある。そういう流れの中で議論をしないと、正規労働者と非正規労働者を含めた本当の意味での均等待遇の条件はできないのではないか。」
と指摘している。
―― 社会保障は、労働力を安売りさせないための強力な後ろ盾である。このあたりは、資本論の「相対的過剰人口」論やブースの雇用政策、ヨーロッパの労働運動をささえる「社会的公正」という思想・・などにつながる課題である。
【「貧困の蓄積」と半失業・非正規労働 備忘録 2010/10】
【社会的公正~「ルールある経済って、なに?」 備忘録 2010/5】
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