「帝国主義論」と現代世界 備忘録
「レーニンの再検証―変革者としての真実」(聽涛 弘)より「『帝国主義論』と現代世界」の備忘録。
著者は、「帝国主義論」は、「現に行われている強盗と略奪の帝国主義戦争に反対し」「闘うために書かれた。ここに真髄がある」とし、今日においては、「多国籍企業の支配に対する世界と日本の人民の闘争」の発展、「国際舞台でおこっている積極的変化と人民の闘争を一体化させて平和の世界構造をつくる」ことが要であるとして、「帝国主義論」の方法論、分析の角度が、今日的意義をもっていることを検証している。
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「帝国主義論」の序文には「資本主義は、ひとにぎりの「先進」諸国による地球人口の圧倒的多数の植民地的抑圧と金融的絞殺との世界的体系に成長した。そしてこの「獲物」の分配は、頭のてっぺんから足の先まで武装したニ―三の世界的に強大な略奪者ども(アメリカ、イギリス、日本)のあいだでおこなわれており、彼らは自分たちの獲物の分配をめぐる自分たちの戦争に全世界を引きずりこむのである。」とあるが、獲物の分配をめぐる戦いには大きな変化がでているが、帝国主義を世界体系としてた点と今日の多国籍企業の跋扈の意味・・・ このあたりに興味がわく。
「帝国主義論」と現代世界 備忘録
【「レーニンの再検証―変革者としての真実」 聽涛 弘より (2010年8月)】
・本章の目的/ 現代の世界を見る場合、「帝国主義論」は意味を失っているかどうかの検証
・今日の時代が帝国主義戦争を不可避としていたレーニンの時代とは違う
→ 第二次世界大戦後におこった植民地体制の崩壊と、反戦思想と平和運動の巨大な前進が世界大戦を阻止することができる今日の世界をつくりだした。
→ また新興国の経済成長による先進資本主義国の相対的地位の低下、社会主義を目指す国の存在と南米での左翼政権の拡大、「資本主義の限界」が問題となる時代 /核兵器廃絶が国際舞台での課題に。志位委員長がNPT再検討会議で訪米し、世界の外交政治と日本の人民運動を結びつけ、大きな役割を発揮
→ これらレーニンの時代と違い、大きな構造的変化をおこしている証左
・この変化を一層発展させる努力をはらうこと /これが現代世界を見る基本的指摘
◆2つの極論
(1)ほぼレーニンの時代と変わらないとするもの/無視していいものだが国際的に一定の範囲で議論されている
(2)世界の新しい傾向を過度に強調し、その誇張のうえに現代世界を描くもの/ 3つまの系列
①国際平和論 /アメリカ一国覇権主義が崩壊しつつあること、「地域共同体」の動きを過度に強調/ 世界の平和の構造がほぼ事実として形成されつつあるとみなす。/EUは「平和の共同体」とみなす議論 /「アジア共同体」で、アメリカの従属から自立し、アメリカの行動を抑えられる。
②国家論 /経済のグローバル化で「国民国家」の役割はなくなり「超国家」システムが構築され「世界は1つ」になりつつある。「国民国家」を基礎とする帝国主義を否定するもの
③「地域経済共同体」論 /「共同体」と名をつけば一律に肯定とらえる議論 /アジア経済共同体が形成されれば、得られた利益を国内に還元でき、内需拡大、企業業績が伸び日本国民「繁栄の共同体」となる
~こうした議論があるもとで「帝国主義論」を検討してみることは、世界を見るときの重要な方法論上の意義を見出すことができると考える
◆「帝国主義論」の方法論的意義
・レーニン /世界の正確な状態をつかむためには「全世界の経済生活の基礎に関する資料の総体をとりあげなければならない」(序文)
→ 「全世界の経済生活の基礎」をとりあけないと世界全体を認識できない、という方法論は今も極めて重要な意義をもつ。/世界の軍事的・政治的諸問題を見る場合も経済生活の「基礎」を見なければならない。
・「帝国主義」の経済的基礎理論の5つの指標(第5は別)も、新しい変化をともないながらも、現代を見る手かが利として意味をもっているのではないか。
・資本主義の「寄生性と腐朽性」の規定は、今回の金融危機を見るならば明確な有効性を持っている。
★以下、具体的に見る…
・レーニン「帝国主義」は、経済的には独占資本主義、と定義 /しかしスウェーデンは、独占資本主義であっても「帝国主義」とは呼ばない /それは侵略性をおびた軍事政権をとってないから
→「帝国主義」とは優れて軍事的である/ レーニンは「帝国主義」は、「政治的には・・・暴力への反動への志向である」/ この政治的軍事的規定と結びついて「帝国主義」概念が生まれたのだと思う /したがって独占資本主義=帝国主義というのは一般的にいうのは正しくない。
・しかしレーニンは、しばしば「帝国主義とは資本主義の独占段階である」と想定している。
→ なぜなのか / 当時のヨーロッパの理論状況があったと思う。/「帝国主義」は多くの学者、評論家・政治家が使用した言葉。スウェーデン、デンマーク、スイスなどの「帝国主義」と言われている。独占、金融の発展などの新しい経済的特徴を「帝国主義」との言葉で結びつける状況があった
→ レーニンは、こうした小国の「帝国主義」まで含んだ帝国主義論ではない。「帝国主義とはなにか?」で6カ国だけあげている。/当時の帝国主義列強をとりあげて分析したのが「帝国主義論」であり、そこでは独占資本主義が侵略性をおびた強力な軍事力と結びついていた。/よって「帝国主義論」で、「帝国主義とは資本主義の独占段階である」と言う自然に規定しても、不思議ではなく、誤っていたとはならない。
◆多国籍企業と世界
・金融危機に見られるよう国際金融が世界経済を支配しているかに見える/ 実態は、銀行機能の著しい変容と結びついているが、危機の根底には、多国籍企業の過剰生産があった。
・金融危機対策として、莫大な国家資金が注入されたが、それは巨大な長期債務を残すだけであり、本格的解決は実態経済の回復なしにはありえない。
→生産活動が経済の基礎であるという当然の立場に立てば、世界経済の基礎として抽出できるのは多国籍企業であろう。
・多国籍企業の巨大な力 /82000社、海外子会社81万社以上、世界の生産の1/3。国際貿易で、多国籍企業同士の取引1/3、同一多国籍企業間の取引1/3、本来の国際協調を支える国と国との取引は1/3(世界投資報告09)
→ 先進国の多国籍企業の圧倒的力/上位100社が強力な支配力/ GDP500億ドル以上の国は60カ国、売り上げでそれ以上の多国籍企業は112社(06年)、うち71社は米日独仏英の企業(ジャピロ「2020」)
・国レベルの経済を無視していいということではない。現在の世界経済は多国籍企業と各国経済の混合体
→ とりわけ中国、インドなど新興国の隆盛
→ しかし、中国はじめ新興国での外国の多国籍企業の比率の大きさ/中国の輪出の57.1%が多国籍企業(07年)、工業生産高の29.5%(08)と、中国経済の発展は多国籍企業抜きには計ることができない。
・先進国では、多国籍企業は、産業の空洞化、失業、賃金の絶対的低下、非正規職員の増大、長時間労働、貧富の格差の拡大など、重大な問題を国内経済にもたらしている。
・以上のことから、今日の「世界の経済生活の基礎」として取り出すべきは、多国籍企業/ では多国籍企業の本質とは何か。/「帝国主義論」ですべて分析するつもりはないが、解明の手がかりとして重視する必要
◆国際独占体としての多国籍企業
・第一の指標は重要/「生産と資本の集積・集中が進み独占体が形成される」
→ 資本主義の蓄積運動を「生産と資本の集積・集中」からつかむことは「資本論」の基本的視点/レーニンが特徴づけの出発点にあげたことの現代的意義は、8万の独占企業が世界の生産の1/3を占めていることに明瞭にあらわれている/ レーニンの時代と違うことは、あまりにも大規模な巨大国際独占体の形成
・多国籍企業の誕生/60年代に現れ、70年代に本格化し80年代に世界を支配/アメリカが戦後ヨーロッパの復興にマーシャルプランで支援。革新運動の抑制、ソ連に対抗する上での帝国主義の盟主としての使命であったが、これを背景に、アメリカの民間企業が60年代にヨーロッパに進出したのが多国籍企業の始まり。
→ 70年代初めまでは、米、西欧、日は高度成長を果たしたが、独占企業は、過剰資本の投資先を見つけることができなくなった。アメリカは、ベトナム戦争が泥沼化、ドルの世界に垂れ流し、ドル価値が急速に下落
→ 2つの大事件/ ①71年、金・ドル交換停止。ドルが紙切れに ②73年、オイルショック /資本主義世界に大混乱を引き起こし、73年以降、米、西欧、日は長期不況に突入
→ 多国籍企業の本格的展開はここら開始/ レーニン 独占体はくりかえされる恐慌の中で、資本の熾烈な競争を戦い抜きながら生まれてくることを明らかにしたが、本格的な多国籍企業も同様である。
・多国籍企業の途上国への進出/「ワシントン・コンセンサス」による国有企業の民営化、各種の規制撤廃。また世銀、IFMなど使い殖民地時代に特化された生産物の輸出を中心とする開発戦略で、途上国を奇形化。
→ これが多国籍企業の本格的進出を促進。さらに70年代からの「新自由主義」が拍車
→80年代に多国籍企業が世界経済を大きく支配する構造に/ もともと大企業である多国籍企業、さらに国際市場での生産と資本の集積・集中が進んだ結果、売り上げ面では重要産業で数社、多くとも10社が支配する巨大国際独占資本が形成された~ 石油、自動車、航空、金属、化学・薬品、食品など
・日本は、遅れて80年代に入り本格化/ 理由は、他の先進国と比較して労働条件の劣悪さ、下請け条件のひどさにより、国際競争力の強い商品をつくることができ、輸出を経済の中心とする国であったから。
~80年代、対米従属化の貿易摩擦を、自主規制で解決し、輪出国が輸出を規制される壁にぶつかり、多国籍起業家がはじまった。(メモ者 プラザ合意後の円高がさらに推し進めた)
・日本は、後発ゆえに、競争に打ち勝つために一層野蛮なものとならざるを得ず、日本の労働者に深刻な搾取の強化をもたらした。
◆金融資本について
・レーニンの第二の指標/ 独占を形成する上で銀行が特別に新しい役割を果たし、銀行資本と産業資本が融合し金融資本を成立させること
・しかし、現在「多国籍金融資本」いうものは成立してない。/ 逆に、多国籍銀行が産業資本のしばりからはずれ、「金融経済」の世界だけで行動、証券業務や投機に走るなど「寄生性と腐朽性」をかつてなく進化させ、今回の世界恐慌を引き起こす一因となった。
~ 巨大多国籍企業は、借り入れを主とせず自己資本で海外投資をしている。
・第二の指標の中で、銀行が「経済機関」だけでなく、「政治機関」をも支配し、社会を「従属関係の網の目」をはりめぐらせる「金融寡頭制」をつくると指摘していることの重要性は今日でも強調すべきこと /そして、これこそ「独占のもっとも顕著な現われである」としている。
→ 独占体としての多国籍企業は、自国の政府機関を最大限に活用して海外進出している。/ 第3の指標とかかわることだが、海外投資のためには、政府間で「投資保護協定」など二国間協定が必要。各種の貿易ルールの策定には、政府レベルの国際的な貿易機関も必要/ 多国籍企業にとり政府機関の利用は当然の必要事。
☆「帝国主義」は存在しない、あるのは「帝国」だとう議論がある/ 理由は企業が超国家的であり、「国民国家」の権力を必要としなくなっており、多国籍企業自身が「権力」「帝国」という理由
→ この議論はなりたたない /多国籍企業にとり国庫機関利用は不可欠。多国籍企業は、無国籍ではなく本国を持つ。例)グーグルと中国との摩擦に国務長官が乗り出す
(メモ者 なにより秩序の安定などに軍事力を必要とするが、それは国家権力の発動である)
・政府機関の利用の方法 /レーニンは「人的結合」を指摘
→ 現代のアメリカは官民が「回転ドア」と称される癒着体制を形成
ルービン元財務長官は、ゴールドマン・サックス会長、長官の後、シティグループに
元世銀総裁ウォルフェンソンは、モルガンの最高責任者に
元WTO事務局長サザーランドは、ゴールドマン・サックス会長に
農業交渉にあたる米政府代表は、カーギルの会長、副会長
農務長官は、アグリビジネス・生命科学企業のモンサントの役員に
◆資本輸出と多国籍企業
・第3の指標は、商品輸出にかわる資本輸出 /まさに多国籍企業そのものに当てはまる。/ 「生産と資本の集積・集中」の一層の進行にともなう利潤率の低下により「先進国で巨大な『資本の過剰』が生まれる」(帝国主義論)
→ 国内で投資先を見つけ出せなくなった独占資本は、過剰資本の投資先を国外に。/レーニン時代と違う新しい特徴は/ かつての資本輸出が資源の獲得とそのための鉄道を中心とするインフラ整備が主たる目的 / 外題はそれに加え、安い労働力を使い生産を組織し、生産物の流通をつくりだす。
☆多国籍企業とは「国際独占体の高度な形態であり、世界の数多くの地点に生産拠点をもうけ、各地点で最適の生産物ないしは生産工程を選び、生産をすすめ、企業内の自由な流通をつくりだし、世界的規模で利潤を最大限にすることをはかる独占的な巨大企業」である(工藤晃「資本主義はどう変わるか」)
・検討すべき課題/ 現代の資本輸出がレーニン時代と本質的に同じかどうか /現代では、途上国が、先進国の直接投資を歓迎しており、帝国主義的性格がないのではないか、の議論
→ 直接投資を歓迎しているが /決して無条件ではない 「技術移転を伴う投資」「合併企業の設立を伴う投資」「現地規制のかけることのできる投資」なら歓迎している
→ この3つの要求の実現は容易ではない / 途上国が無条件で飲む場合の多くは、その国の政権の姿勢や多国籍企業との腐敗が深く結びついている。
・「東アジアの奇跡」/80年代、韓国、台湾、香港、シンガポールは、自立化をすすめながら目覚しい発展/その理由は、外資を導入しながらも高い関税率の維持、輸入の数量規制の実施で、自前の産業の保護・育成策をとったから
・その反対が、政権が腐敗したインドネシア、フィリピン /外資100%投資を許可し、従属を強めた
→ 自国産業の保護・育成策を真剣にとらない国は、多国籍企業の「下請け国」となる。
→「資本輸出」の重要性とは、国際経済の中心が商品の交易から、相手国の搾取に変わることを意味する点にある。この本質は、現代の資本輸出の様態の変化によっても除去できない。
◆国際カルテルの規定について
・第4の指標は、国際カルテル、トラストなど国際独占体が世界の分割を「始める」こと /現在は、国際カルテルの動きはなく、むしろ世界市場で多国籍企業間の熾烈な競争が闘われ、国境を越えた企業の買収・合併が進行している。~ とりわけ航空業界、自動車、鉄鋼産業
→ この熾烈な競争がどう収斂するかわからない。/レーニンは「分割のはじまり」と述べ、その過程が完了したとはのべてなく、将来の展望の手をしばることをしてない。・研究の方法論として重要
◆植民地崩壊について
・第五の指標は、地球の領土的分割が完了していること。だから新たな市場拡大には世界戦争が不可避とする段階の資本主義として。/この指標はいまでは古くなった。
☆以上見たように、レーニンの示した経済指標の多くの部分が、現在でも有効性を持っている。/ それではこの経済的基礎から、どのように政治的・軍事的状況が生まれるのだろうか。
◆現代世界と軍事同盟
・多国籍企業は自由に世界に進出し移動することを望むものである以上、ある国がどこかの国の植民地であることを嫌う/ 多国籍企業の母国が途上国に対し、植民地時代とは違う態度をとらせる大きな要因
→ このこと多国籍企業が、軍事上の問題に無関心であることを全く意味しない / テロや地域紛争を排除し、進出国での資本の自由な活動の保障を要求 / 日本が80年代に入り多国籍企業が本格化するなかで、自衛隊の海外派兵に積極的になり、90年代に入り憲法「改正」の動きを強めたのは端的な例
・イラク戦争 / アメリカは、テロとの戦いを大義名分にして戦争を開始したが、それが長引き、現在は戦闘行為は「中止」したものの、引き続き一定規模の米軍を駐留させているのは、イラクの国営企業を民営化させ、アメリカの多国籍企業や金融機関の経済支配を確立するためむしろむき出しの植民地主義といえる。
・アフガン戦争 /これも同じく、アフガンに眠る92兆円規模のリチウム、銅、金等の巨大資源を確保しようとすることに対し、戦争が深刻化 /アフガン政府は、外国資本との汚職・腐敗関係にまみれており、外国資本導入に積極的であり、これがテロ組織と部族勢力の反撃を強化させている。/ 2010年5月末、ドイツ大統領は、アフガンへのドイツ軍の派兵は「ドイツの経済的利益を守るため」と発言し、ドイツ史上初めて大統領が辞任した(6/1付け各氏)
◆世界の変化とアメリカ、ヨーロッパ
・ただ旧来型のアメリカを盟主とした世界の軍事体制をそのまま必要としているわけではない。この構造にいま変化が生まれていることは確か
→ 契機になったのは03年イラク戦争 / フランス、ドイツがアメリカとの協力を拒否。ソ連崩壊後のアメリカ一国覇権主義が、この事態により軍事的政治的に崩れていった。/エマニュエル・トッド「帝国以後」で、ドイツと日本がアメリカを支えなければ、アメリカ「帝国」は崩壊すると主張
・地域の平和共同体の創設の動き / TACには、EUが加入、オバマ政権になりアメリカも加入。/アジア市場の発展を考慮しつつ、このアジアの動きが無視できなかった結果であるが、大きな変化に相違ない。
・重要なことは、ものごとを一面化しないこと / アフガンにはドイツもフランスも参加、フランスはNATOに復帰。/ 世界の人民の闘争でしか打ち破れない世界、決して現在の外交政治によっては解決できない帝国主義諸国の軍事体制は、依然として強固に存在しているのである。
~ 2010.5 オバマ「国家安全保障戦略」を発表 /冒頭で、アメリカの「安全保障戦略の主題は、米国の強さと影響力を再構築することにある」と宣言/ 世界で26万の米軍駐留、10年前のブッシュ政権時代と同規模/NATOと日米同盟を堅持
・ヨーロッパも同様 /イラク戦争をめぐる仏独と米の矛盾はレーニン時代と同様の帝国主義間の覇権争いではない /フランスは、アメリカと距離を置くことで、フランスを世界で浮き立たせようとする国であった。そのことはフランスが帝国主義でなくなったことは意味しない。/2010年6月、グアドループ、マルティニーク、フランス領ギアナ、コードジボワール、中央アフリカ等、かつてのフランスの旧植民地に3.5万人のフランス軍を駐留させている。核兵器に対するフランスの主権は絶対に手放すことはしないと宣言。
・
◆EU統合軍
・EU全体を「平和の共同体」とみなすことはできない。EUは現在でも侵略的軍事同盟のNATOを堅持している。/また欧州条約第17条にもとつぎ、1999年にEU統合緊急展開部隊(6万人規模)の創設を決定/ これは域外に展開する舞台、その後様々な議論はあったが、07年リスボン条約でも基本は確認され、規模は縮小したが、統一した軍隊が編成されている。03年フランス、07年ドイツが中心の統合軍がコンゴで作戦
→ 重視すべきは、EUという単一の経済体が統一した軍隊をもつことは当然であるとしていること /03ブリュッセル欧州理事会「安全保障戦略文書」は、「よりよい世界を構築することはEUの義務」とし、テロ、核拡散、地域紛争に「早期に、迅速で、必要ならば強力な介入」する決意を表明/ 「平和の共同体」とはいえない
◆核兵器問題
・核兵器廃絶が、国際政治の舞台で語られたことが普通のこととなる、大きな変化。2010、NPT再検討会議の第一委員会報告草案には、核兵器廃絶の工程表を作成する国際会議を2014年に開催する画期的意義をもつ構想まで打ち出された
・一方で、核兵器保有国が、草案の具体的部分を骨抜きにしてしまったのも一方の事実 /オバマ「核兵器が存在する限り米国は核兵器を保持する」(2010.5)、ヨーロッパからのアメリカの戦術核兵器の撤去を拒否(2010.6)/ロシアは核兵器先制使用を確認(2010.3) /中国は先制使用をしないこと、核兵器の廃絶は主張しているが、「精強で効果的核戦力を構築することを重視」(06軍事防衛白書)
・このように核大国は、イラン、北朝鮮の核は問題にし、核がテロリストの手に渡らないことは問題にするが(核安保サミット)、肝心の自分の核兵器をきっぱり廃絶するイニシアチブを積極的にとろうとしない。
★これらは情勢を悲観的に見るために述べたのではない/ 国際舞台でおこっている積極的変化と人民の闘争を一体化させて平和の世界構造をつくるため。/依然として今日の情勢のもとでも世界の人民にとって、すべての軍事同盟の廃棄、外国軍隊の撤去、開閉器の全面禁止・廃絶こそ、世界政治の第一級の課題であることを強調するため
→ アジアの平和の積極的要因として提起されているTACを真に実りあるものにするうえでも、平和の課題の人民的追求との一体化が不可欠である。/ 世界の変化を主導的に前進させるのは人民の力である。
◆「寄生性」と「死滅しつつある資本主義」
・多国籍企業は、世界資本主義の危機を救う救世主として登場してきたが、真の救世主ではなかった。今回の金融危機と世界不況はそのことを世界に明瞭に証明した/ レーニンの指摘した資本主義の「寄生性と腐朽性」という特徴づけは見事に現代に生きている。
・レーニンは、「金融資本」の成立と「資本輸出」が発展すると、独特の国が形成されると解明/ そこでは経済活動の根本である生産から「完全に」遊離した「金利生活者の層」がつくりだされ「国全体に寄生という刻印」が押されるから。イギリスでは金利生活者の収入が、外国貿易からの収入の「5倍も上回っている」(帝国主義論)
→そしてこのような「金利生活者の国家とは、寄生的な、腐朽しつつある資本主義の国家である」と規定
→ このような資本主義は「生産の社会化」と資本主義的私的取得の矛盾が「比較にならないほど高い段階」に達したものであり、歴史的には「資本主義制度から、より高度の社会・経済制度への過渡」であり「より正確には死滅しつつある資本主義」と指摘した。
◆銀行の変容
・今日の世界にはかつてない「金利生活者の層」が存在 /レーニンは原因を銀行の役割の大きな変化にもとめたが、1990年後半にアメリカで銀行業務の重大な変質が顕著に
→ 産業資本、商業資本に資金を貸し付けて、収益を得ることが本来の業務だが、産業資本の利潤率の低下とともに、収益を思うように上げられなくなり、/ 証券業の兼務、投機資本にも信用を開放
→ 生産と実際の消費とが直接結びついてない「架空の需要」を相手に金融活動を展開 /その典型がサブプライムローン。資金提供は大銀行。リスクを少なくするため証券化して販売。06年4830億ドル。さらにリスクを回避するため債務担保証券の販売。06年950億ドル /様々なローンの証券化 /あらゆる規制を回避するヘッジファンドの活動と、タクスヘイブンの存在
→ この金融経済の世界に投資家が殺到し、生産活動から遊離した純粋の「金利生活者」の群れができる
・レーニンが規定した、資本主義の最高の発展段階は「寄生性と腐朽」であり、その国家には「金利生活者国家」の烙印が押される。(メモ者 「金融立国」のスローガンがそのままを表現)
◆多国籍企業の過剰生産
・この異常な金融経済はかならず破綻する / 金融活動はいくら生産から遊離しようとも、最後には産業資本の動向に規定されるから /産業資本のところからしか、金融の利子を生む剰余価値は生まれない。/今回の金融恐慌もこれと結びついて爆発したる
・金融恐慌のおこる裏では、多国籍企業の過剰生産の進行
→ 海外投資07年にピーク 過剰蓄積の90年代後半と07年の比較
世界計4.4%から14.8%、先進国3.7%から15.6%、途上国6.5%から12.6%、旧ソ連圏5.8%から20.9%
→ 過剰生産・蓄積の結果、失業率の増大。金融が収縮しだしたのは07年。この2つが重なったことが特徴
・二次大戦後の高度成長のあとに襲った資本主義世界の長期低迷状況 / 新しい形態で利潤を追求し矛盾を打開しようとした多国籍企業も結局、資本主義を救えなかった。
→ 30年あまり溜まってきた矛盾が、08年9月に100年ぶりの金融恐慌として爆発
・多国籍企業は「生産の社会化」を世界に拡大、しかし取得は私的。この矛盾は前代未聞のものになっている
→ 先進資本主義国は「過渡的な資本主義、より正確に言えば死滅しつつある資本主義」の過程を通過中 /国家は、公的資金を使って危機に対処している。それは『成功』するかもしれないが/ しかし、法則的には、レーニンが言う「資本主義制度からより高い社会・経済社会への過渡」を通っていることはまちがいない。/レーニンの「帝国主義論」の方法論的、理論的意義が再確認される。
◆レーニン「帝国主義論」の真髄
・レーニンの痛烈なカウツキー批判。なぜか? /カウツキーの「超帝国主義」論~ 独占資本が国際的カルテル、トラストを結ぶことで、帝国主義を乗り越えた「平和的な」世界がこれからつくれるとするもの
→ レーニンにとって、経済的に「超帝国主義」が生まれるがどうかが問題ではなく /「平和」の幻想を振りまき、現に行われている強盗と略奪の帝国主義戦争に反対して闘わない姿勢が許せなかった。/ レーニン「すでに到達した帝国主義を回避して、実現させるかどうかわからない『超帝国主義』への夢想によって逃避しようとするこの志向のうちに、マルクス主義のひとかけらもない」と厳しく批判。 /
→ レーニンの「帝国主義論」は闘うために打ち出されたもの。ここに真髄がある。
→ この見地にとって、われわれが現代世界をとらえ、多国籍企業の支配に対する世界と日本の人民の闘争の、今日の条件に即した具体的政策提起をしていくことがもっとも重要なこと
・地球温暖化問題でも多国籍企業の規制は、人類的課題。
・途上国の自立的経済発展にとっても多国籍企業の横暴を許さない闘争はますます重要に。
・先進国でも産業空洞化と失業、本国の労働者の低賃金、非正規雇用の拡大という深刻な問題
~ 97-04年 OECD調査 労働者の賃金は先進国30カ国で約8%低下
⇒ 多国籍企業を、各国、国際連合がコントロール下におく戦いを進めなければならない時代に入っている。
◆「アジア共同体」構想について
・国民の戦いの側面から問題を見ていく必要がある。
・「地域経済共同体」構想は、発展途上国の国家が中心となり、民主的な地域共同体をつくろうとするもので意義あること。/なぜなら多国籍企業はいかなる規制も好まず資本の自由な移動を求めるから。
→ しかし、そうなるかは、すべて力関係によって決まる。/多国籍企業は「共同体」構想を悪用し、自らの利益追求の場に帰ることが狙うだろう
→ 未来はいくらでも美しく描けるであろうが /われわれの根本問題は、一体誰がその未来をつくるかということ。
・日本政府と財界は「東アジア共同体」の名のもと、新幹線や原発など各種インフラの売り込みに懸命。「新成長戦略」(経産省2010.3)~アジア諸国への「インフラ輸出総合戦略」。しかも「インフラファンド」を設立し、公的資金で大企業のアジア進出の促進を決定。/レーニンがいう「独占」と「政府機関」の癒着の極み。
(→ さらに日米安保の強化/ アジアを「1つのマーケットとして繁栄を享受する」には、「強固な安全保障体制が必要」(田中均・元外務官僚、読売6/25))
→ 日本企業がアジア共同体で活発に活動すれば「トリクルダウン」で高賃金・高福祉の日本ができるとするのは、完全な多国籍企業擁護論
→ レーニンがカウツキーを批判したのは「超帝国主義」を唱えたからでなく、今の戦いを回避したから。/ 日本国民が多国籍企業とそれを支援する政治の政策と闘わない限り、国民生活上・平和の「アジア共同体」をつくることはできない。/中国、ベトナムにしても人民の立場に立つ経済繁栄をつくりださなければ、真に反映した社会、平和のための社会を建設してことにはならない。
→ これらは科学的社会主義のイロハである。/ イロハが忘れられるのは、世界の曖昧なとらえ方がある。
◆変革の主体の形成
・闘う主体の形成は容易ではない /資本主義の限界が指摘されても、主体が形成できなければ変革できない。
→ レーニンは「帝国主義論」の中でもこの問題を重視。
・レーニンは、資本主義の最高段階は「労働運動における2つの基本的傾向」を生み出すと主張
→ 植民地支配から得られる「独占的利益」によって「プロレタリアートの上層部を買収する経済的可能性」を作り出し、労働運動の中に日和見主義を「培養し、形成し、強化」する。/他方で、帝国主義と日和見主義とに「反抗」する勢力が成長する。
・マルクス、エンゲルスの解明に注目/ イギリスの労働運動がある時期以降闘わなくなった問題。/組合幹部が「労働貴族」になり、一部の労働者が「労働者としての性質をなくしている」
~ マルクス、エンゲルスもレーニンも、リアリストである
・現代の労働者の意識/ 植民地からの超過利潤ではないが、独占資本主義が生み出す超過利潤によって従来にない労働者の高い生活水準が維持された結果(労働者側からの戦いの結果もある)、意識に大きな変化が生まれたことは20世紀後半の世界史的事実
→ これが「労働者としての性格をなくした」労働者を生み出し、先進国で変革がおこらない最大の原因 /御手洗・元経団連会長「そもそも今の時代、従業員を搾取したりいじめたりする経営者は存在しません」「たまに100件に1件ぐらい搾取する会社が出てくると、大企業の悪、エゴと批判される」(朝日、2010.3.21)
→ さらに現代は、精神労働の役割が非常に大きくなっている。/精神労働者の意識の変化~ 給与生活者が労働者であるという本質的な規定に間違いはないが、その基準ですべての労働者をとらえることはできない。労働者の内実は一様でなく多面的である。
・もちろんレーニンが指摘する「反抗」も起こっている。/ 「派遣労働者」層の存在、労働者の上層部との間に存在する中間的労働者~ これらの層は切実な要求をもっている。
・上層部とそれに近い層でも、日本経済の今後に非常に強い関心を持っており、変革の推進には、この問いにも明確に答える必要がある。
・変革の主体の形成のためには、当面の政策課題の実現に奮闘するとともに、御手洗元会長を根源的に批判できる理論を身につけることが不可欠。/古典を学ぶ理由もここにある。
おわりに
客観的なレーニンを描こうとする中で、生粋の革命家であるレーニンにとって、実践活動でも、理論活動でも、常に人間の能動性をなにより重視していたことに気がついた。それを科学として確信するにはレーニンなりの努力があったはず。それは若い時代に、理論の中から主体性を引き出す哲学志向を磨いたことにあった。社会を変革するために、レーニンの精神から学ぶものが多いと改めて感じる。
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