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「地域主権改革」と建設分野 建政研

建設政策研究所が、以下の見解を出している。結局、「総額抑制」したうえ「事後チェックによる統制」、営利化と生活関連部門の縮小、ナショナルミニマムの破壊となるのではないか。というもの。
【「地域主権戦略大綱」に関する建設分野からの見解 8/12】

 民主的な中央政府(所得再配分機能を受け持つ)を築く課題をぬきに、地方にまかせればうまくいくかのように描くところに、根本的な問題を感じる。

【「地域主権戦略大綱」に関する建設分野からの見解】

2010年8月12日NPO法人建設政策研究所

 政府は2010年6月22日に「地域主権戦略大綱」(以下「大綱」と呼ぶ)を閣議決定した。「大綱」の内容は自公政権時代の地方分権改革推進委員会の勧告を踏まえて、民主党政権下の地域主権戦略会議においてまとめたものである。
 「大綱」は全体を10項目に分類しているが、その中でも「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」「基礎自治体への権限委譲」「国の出先機関の原則廃止」「ひも付き補助金の一括交付金化」「地方政府基本法の制定」「自治体連携・道州制」の項目は、憲法上の国の国民への義務や地方自治のあり方を大きく変更するものであり、結果的に国民・住民の「自己責任」によるさまざまな負担を負わせ、憲法が保障する国民主権・住民主権を破壊しようとするものである。
 建設政策研究所は、ここに「大綱」の持つ問題点およびその背景、特に「大綱」の建設分野における問題点を述べ、「大綱」への見解を明らかにするものである。

1.「大綱」の全体像とその問題点
「大綱」の冒頭には「地域主権改革の理念と定義」、「目指す国のかたち」、「改革の工程」について述べられている。その中の「地域主権改革の意義」の項では、国と地方公共団体との関係を対等なパートナーシップの関係に根本的に転換するとしている。これは一見、国が中央集権的に決めたことを地方に押し付けるのを止めさせるという風に見えるが、むしろ憲法25条2などで規定する、国民のすべての生活部面に対する国の責任が守られなくなり、自治体任せになることを意味している。さらに「国民が地域の住民として、自らの暮らす地域の在り方について自ら考え、主体的に行動し、その行動と選択に責任を負う‥」と述べ、国が統一的に国民の福祉の基準を決め実行するよりも、国民が地域の住民として、自らの行動に自ら責任を負うという住民の「自己責任」に置き換えている。
そして、「地域主権改革の定義」では「日本国憲法の理念の下に、住民に身近な行政は地方公共団体が自主的かつ総合的に広く担えるようにするとともに、地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにするための改革」と述べている。これは憲法第92条の地方自治の基本原則で規定する「住民主権」の立場と異なり、「地域」という社会の一単位に「主権」を持たせ、住民は「地域」の諸課題に責任を持たされるという、主客転倒した「改革」といえるものである。
また、「地域主権改革が目指す国のかたち」の項では、「国と地方の役割分担に係る『補完性の原則』に基づき、…基礎自治体が広く事務事業を担い、基礎自治体が担えない事務事業は広域自治体が担い、国は広域自治体が担えない事務事業を担うことにより、その本来果たすべき役割を重点的に担っていく」という国と地方自治体の役割分担を述べている。これも一見すると住民に身近な基礎自治体を重視しているように見えるが、国や都道府県が担っている事務事業をまずは基礎自治体に押し付けるという意味での役割の移管であって、住民の身近な行政どころかそれ以外の多くの行政事務を担うことになる。基礎自治体は財政や組織体制の不十分さから、新たな住民負担を負わせる徴税措置とともに自治体の広域行政化を図り、住民への行政サービスは「住民が自らの責任で行なう」こととなる。その一方で、国の任務は外交と軍事など多国籍企業の利権と国際競争力強化を重点とした任務に特化させることとなる。

2.「大綱」が打ち出された背景
「大綱」が打ち出されるに至った背景には多国籍企業をはじめとする財界の意図がある。財界の総本山といわれる日本経団連(会長米倉宏昌住友化学会長)は道州制の導入を目指して早い時期から検討_提言を発表してきた。彼らは道州制を_究極の構造改革_と位置づけ、「官から民へ」「小さな政府」を徹底させることにより、財界主導の経済社会の運営を目指そうとするものである。そのため、国、地方自治体の役割を根本的に見直し、国・地方の行財政政策をグローバル経済下における国際競争力の強化に集中させようとするものである。具体的には、第一に、基礎自治体の合併をさらに推進し、広域化させることにより、基礎自治体の住民に奉仕する事業をできる限り縮小させ、行財政機能を都市部に集中させることにより大企業活動にいっそう奉仕する基礎自治体に変質させる。
第二に、大企業の自由な経済活動を妨げる国の規制を廃止ないし緩和させることにより、グローバル競争に対応できる企業活動を保障させる。
第三に、国、地方自治体の機能を縮小させることにより、全体的に財政支出を削減させ、大企業の税負担をいっそう縮小させるとともに、経済活動の足かせとなっている904兆円以上にものぼる国・地方の長期債務の縮小を図る。
第四に、国家の機能を全体的に国民主権、住民主権から財界に奉仕する機能に転換させる。
このような背景のもとで打ち出された「大綱」にもとづく地域主権戦略は、その先に国のかたちの大転換につながる道州制を導入し、さらには財界の意図を合憲化させるための憲法「改正」が目論まれている。

3.建設分野からみた「大綱」の問題点
以上のように「大綱」は国民・住民にとって深刻な問題をもたらすものであるが、建設分野からみた具体的な「大綱」の問題点は、社会資本整備における国の基準設定を放棄し、国の責務を後退させ、住民生活の安全確保の責務を地方自治体や住民になすり付ける点にある。その結果、住民の生活環境に格差が生じることになる。さらに、広域行政化とともに地方に回る財源の総額抑制が意図されているため、生活関連の公共事業がおろそかになり、その担い手である地域建設業の振興を阻むことになる。
これまで全国知事会等の地方団体は、「中央集権システム」の弊害を指摘し、国の関与を縮小し自治体の自由度を高めて「地域の実情を最もよく知る地方の自己決定権を確立する」「地方分権型社会」への改革を要望してきた。  
これらの要望には地域住民の声を一定程度反映した内容が含まれている。「大綱」は、これら地方団体からの要望をたくみに取り入れ、地方からの要請という体裁を装わせて、真の狙いである主客転倒した「改革」を推進するものである。
なお、以下で示す「義務付け」「枠付けの見直しと条例制定権の拡大」の道路法、公営住宅法、都市計画法等(国土交通省所管の法律)の見直しは、すでに「地方分改革推進計画」(09年12月閣議決定)で示され、「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」に盛り込まれた(第174国会〈10年1月~6月〉
提出。現在、継続審議)。
今回の「大綱」では、その条項以外が見直されて、掲げられている。

1)「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」
義務付け・枠付けの見直しについては、道路法と公営住宅法において、これまで国が全国一律に定めてきた地方道や公営住宅にかかわる諸基準を条例委任にするとし、さらに公営住宅については計画的な整備に関する基準を廃止するとした。都市計画法では、大都市等であることを根拠とした国の協議同意を廃止、市決定の都市計画における都道府県の同意を廃止(同意を要しない協議に変更)するとした。また、「大綱」の「基礎自治体への権限委譲」において、現在都道府県が決定している都市計画の一部を、すべての市町村へ移譲するとした。
これらの見直しの背景には、地方団体からの「中央集権システム」への問題指摘がある。例えば、国が画一的、統一的な基準を決めて、地方は補助金の関係でそれに従わざるを得ず、そのため、地域の実情に応じたきめ細やかな社会資本整備ができない、また、国の認可や合意が必要な場合は国との調整に多くの時間と労力をさき、社会経済情勢を踏まえた的確な都市計画ができない、などである。
しかし、国が最小限保持すべき技術的基準を放棄した地方道にかかわる条例委任は、国民・住民の走行・歩行の安全性や快適性などでの地域間格差を生み出しかねない。
公営住宅の場合、入居に当っての収入基準は「政令で定める金額を超えない」範囲で条例委任となり、自治体によってはさらに切り下げを行い、公営住宅への入居範囲を狭くし、入居者の居住の権利を脅かす可能性がある。公営住宅の維持、修繕、改修は現状でも不十分だが、整備基準の廃止によって整備が一段とおろそかになる可能性がある。
また、都市計画分野の権限委譲は、財政や組織体制が万全ではない基礎自治体にとって過度な負担になり、まちづくりや住環境整備での地域間格差をもたらしかねない。都市計画では民間開発業者などからの提案制度が創設されているが(2002年)、行政負担の軽減から民間開発業者や土地所有者の提案を積極的に活用する基礎自治体が現れ、営利を目的とした民間企業任せの都市計画が進められる危険性がある。

2)「国の出先機関の原則廃止」の問題点
建設政策研究所では、先に「『国土交通省地方整備局廃止』の動向に関する見解」(2009年12月10日)において、「社会資本の整備や維持管理責任を民間や地方自治体に移管することは、国が果たすべき役割を限定させ、憲法第25条2が規定する『国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない』という安心・安全な国民生活への国の責任を放棄することにつながる」ことを指摘した。
しかし、今回の「大綱」では、「『原則廃止』の姿勢の下、ゼロベースで見直すこととし…」と、出先機関の原則廃止を明確にした。先の地域主権戦略会議(議長・菅直人首相)では、すでに国土交通省の地方整備局など8府省の13機関を地方自治体に移す対象とすることを決めている(2010年7月28日)。国土交通省の機関では地方整備局、北海道開発局、地方運輸局が対象となった。
本来、社会資本整備および維持管理の分野において、国の出先機関が果たしている役割を充分に検証しなければならないはずである。そのことなしに、「二重行政」の解消や地方知事会の要望と称して、安易に「原則廃止」を掲げたことは、国民の生活・安全を守るべき国の責任の放棄と言わざるを得ない。

3)建設分野における「ひも付き補助金の一括交付金化」とその問題点
(1)ひも付き補助金の問題点
これまでひも付き補助金として交付される国庫支出金によって地方の公共事業が行われてきた。しかし、そこには次のような問題があった。
①補助事業には国が決めたさまざまな制約や条件があり、地方自治体にとっては過疎地帯・都市部など地方の実情に合った公共事業を行うことができない。
②ひも付き補助金の性格から、政官財の癒着構造が温存されていた。
③補助金のみでは事業が困難なため、地方も一定の財政支出を伴い、地方債が累積していく状況にあった。

地方自治体はこれらの問題を地域の実情に合った財源を確保できる改革を要望し、あたかもそれを受けた形で「ひも付き補助金の一括交付金化」は進められてきた。しかし、それが果たして、地方自治体が真に望む財源になるのか。

(2)一括交付金の問題点
「大綱」において「ひも付き補助金の一括交付金化」は重点項目の一つとなっている。「社会保障・義務教育関係」は一括交付金の対象からはずすとされたが、公共事業関係を含めそれ以外については「ひも付き補助金を廃止し、基本的に地方が自由に使える一括交付金にする」としている。しかし、一括交付金化には以下のような問題がある。

第一に、一括交付金化には国から地方へ移譲する財源の総額を抑制する意図がある。地方への財政配分については「三位一体改革」においてすでに地方交付金が5.1兆円も削減されている。配分される一括交付金や残される補助金総額をどのように充実させるのか不透明であり、「三位一体改革」の継続となる可能性が大きい。
第二に、「大綱」では「地方の自由度を拡大する観点から、各府省の枠にとらわれず使えるようにし、できる限り大きいブロックに括る」としている。そして、その使途は各地方自治体の優先順位に基づくため、自治体間での住民サービスの質が異なる可能性がある。
第三に、地方自治体が一括交付金をどれだけ自由に使えるかは疑問が残る。なぜなら、使途の自由度を拡大するに伴い、「個別自治体への国の事前関与を縮小し事後チェックを重視」するとしている。関与の仕方について、国は一括交付金化の実施状況を点検し、PDCA サイクルを通じて制度の評価・改善を図ることを明記している。このようなことから地方自治体がどれだけ自由に使途を決定できるか不明確である。
第四に、「大綱」では、「現行の条件不利地域等に配慮した仕組み」にするとして地方交付税交付金と同様の性格を併せ持っている。一括交付金そのものの曖昧性が残されている。

(3)建設分野における一括交付金化の問題点
一括交付金化によって、地方にまわる財源の総額が抑制されれば、生活関連の公共事業を抑制する地方自治体が出てくることが予想される。生活関連公共事業の発注が削減されれば、その担い手である地域建設業振興が危ぶまれることになる。地場建設業が主要産業になっている地域も多いため、地域経済の衰退に拍車がかかることが懸念される。
また、財政がひっ迫した状況にある地方自治体が多く存在するが、税収の増大を期待して政府が推奨する大企業誘致を積極的に促進する地方自治体も少なくない。また、広域自治体との連携が強化されれば、財源は大規模インフラ整備に重点が置かれることになり、投下資金が地域内を循環せず、地域外に流出することになる。
地域の公共事業では既存施設の維持補修や住民生活の利便性の向上などに使用されることが期待される。一括交付金の総額の増大とともに、住民のニーズを反映した使途の選択、特に公共事業のあり方が問われることになる。

おわりに
以上述べてきたように「大綱」の推進は基礎自治体の広域自治体化、財政の圧縮、ナショナルミニマムの放棄などにより、地域住民の生活の利便性、安全と福祉・環境を守るべき公共事業が縮小されるとともに、公共施設の安全性、利用の公平性などの基準を歪めるものとなる。
さらに地域建設業の振興、建設就労者の雇用と労働条件の確保、ひいては地域からの経済再生をいっそう困難にさせるものとなる。
建設政策研究所は、地域住民に密着した公共事業の推進と地域中小建設業の発展の上からも、国民主権・住民主権を破壊する「大綱」の具体化に反対するものである。

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