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憲法原理を基本にした国と自治体の協力共同関係 「地域主権改革」の問題点

「地方分権改革推進法」(2007年4月施行)2条は、「地方分権改革の推進は、国及び地方公共団体が共通の目的である国民福祉の増進に向かって相互に協力する関係にある」と規定しているが「地域主権改革」は、国の責務、役割の縮小に偏向しており、国と自治体の「民主的協力共同関係」が大事だと、三橋良士明名誉教授が憲法原理を基本にした論を展開している。 「地方自治問題研究機構」のHPより
【「地域主権改革」の動向と課題について 三橋良士明・静岡大学名誉教授】

憲法原理をもとに論点の整理は以下の三点。

①「国と地方」というが「憲法原則である国民主権原理は、国家権力の帰属と政治支配の正当性が国民にあることを意味するが、その国政レベルにおける統治団体が国であり、地域レベルの統治団体が自治体であ」り、「『政府間関係』として、対等・並立的関係にあると理解すべき」。

②「国と自治体は、その共通の目的=人権保障=実体的価値的公共性を実現するために、それぞれの役割に応じて、ともに協力・共同すべき関係にあるのであり、国民・住民は『人権保障のための二重の統治体系をもつことを意味する。』」

③日本国は、連邦国家ではなく、「主権国家の中央集権権力の存在を前提として、地方自治(住民自治と団体自治)が保障されている」のであり、「憲法の保障する基本的人権の実現に関して国に固有の責務・役割があることを大前提として、国と自治体は、人権の保障・実現のために、それぞれの役割に応じて、協力共同すべき関係にあるということである」。そのあり方は、「各行政分野ごとの個別具体的な検討をすること求められている」

その憲法原理にたって、「地域主権改革」について次ぎの2点を指摘している。

国の責任にかかわるナショナルミニマムについて、「義務付け・枠付けの見直し」にかかわり、「勧告(地方分権改革推進委員会第二次勧告)では、自治体の自主性・自由度の拡大の観点がことさら強調され、ナショナルミニマムに関する国の責務・役割について述べるところは全くないのである。」「国の立法的関与の縮小=条例制定権の拡大を大義名分として、これまでナショナルミニマムとされてきたものを見直し、その縮小・緩和・廃止を図るという意味をもち、そのことがまさにこの改革の核心であり、ねらいである」と警鐘をならす。

さらに「二重行政の排除」については、「二重行政の弊害とはどのようなものであるかは全く検証されていない、としたうえで「国民・住民は人権保障のための二重の統治体系(国と自治体)をもっていることからすると、人権実現のために国と自治体が、それぞれの役割に応じて協力共同すべき場合があ」り、「いわゆる『二重行政』のすべてが否定されるべきものではなく、改革されるべきは、『弊害』のある二重行政であり、その検討は、各行政サービスごとに個別具体的に行うことが不可欠である。」

 (メモ者 この間の「地方分権改革」が地方自治論から言えば、団体自治の側面からの「役割分担」に終始し、住民自治の側面が抜け落ちていた。が、その問題点は、憲法原則から見るとよりはっきりする。
 また「地方分権改革推進法」の目的から言っても、現在の議論のあり方に歪みがあるとの指摘は重要) 

【「地域主権改革」の動向と課題について 】

 三橋 良士明(静岡大学名誉教授)2010/8/3

 この論考は、2010年6月20日に行われた地方自治問題研究機構の運営委員会で、三橋良士明氏(静岡大学名誉教授)が「話題提供」として講演を行った際のテープを起こし、編集部が整理を行った原稿に、三橋名誉教授が手を入れたものです。昨年の政権交代後の民主党政権下の「地域主権改革」の動向を概観し、今後の改革を考える基本的論点のひとつの「国と自治体の役割分担論」に焦点をあてたものです。状況認識を深めるために非常に有益と考えます。是非、議論の参考にして頂きたいと思います(編集部)。

◇はじめに
 このところ、これまでの「地方分権」に代わり「地域主権」なる用語が改革の理念・目標を示すものとして用いられることが多い。その理由は、昨年、政権与党となった民主党が、これまでの「地方分権改革」と異なる新しさ・独自性を示そうとして、「地域主権改革」という用語を用いるからである。しかし、政権交代後の民主党内閣の「地域主権改革」の動向をみても、その「地域主権改革」がこれまでの「地方分権改革」と比較してどのような新しさ・独自性をもっているかはなお定かではない。
 昨年9月の政権交代により発足した鳩山内閣は、「地域主権改革」を「1丁目1番地」の重要政策課題と位置づけて、地域主権戦略会議の設置、地域主権改革推進一括法案等の国会提出など、その推進を図ってきた。ところが、「政治とカネ」の問題や米軍普天間飛行場移設問題の迷走などで内閣支持率が低下したことから、鳩山内閣は参議院選挙を前にして総辞職し、2010年6月8日、菅内閣に交替した。また174回国会は6月16日をもって閉会となり、国会審議中の地域主権改革推進一括法案等は継続審議扱いとなった。菅新内閣は、前内閣の「地域主権改革」路線を引継ぎ、6月22日に「地域主権戦略大綱」を閣議決定したのであるが、民主党政権による「地域主権改革」の中身づくりおよびその実行はなおこれからの課題ということである。
 私の今日の報告は、昨年の政権交代後の民主党政権下の「地域主権改革」の動向を概観したうえで、今後の改革を考える際の基本的論点のひとつである「国と自治体の役割分担論」に焦点をあてて、若干の問題提起をするものです。 
「地域主権改革」と言おうが「地方分権改革」と言おうが、その改革は、地方自治制度の改革にとどまらない、国民主権国家の構造を変える改革であることを再確認しておくことが重要であり、そのような問題意識から、「国と自治体の役割分担論」に焦点をあてて、報告する次第です。
Ⅰ 「地域主権改革」の理念と課題について

1 鳩山前内閣の「地域主権改革」の動向について
(1)昨年8月の総選挙において、民主党は「国民生活が第一」をスローガンとする反構造改革的内容を含むマニフェストを掲げて選挙を戦い、そのマニフェストには「霞ヶ関を解体・再編し、地域主権を確立する」と記されていた。国民・有権者は「格差と貧困」をもたらした新自由主義的構造改革路線からの転換を期待して自公政権退場の審判を下したのであるが、鳩山内閣スタート時の基本方針(2010年9月16日、閣議決定)は、そのような政権交代の背景を意識してであろうか、「地域主権」につき、次のように述べていた。
「今後、日本が目指すべきは、すべてを政府に依存する政府万能主義でも、格差を生み弱者を切り捨てながら、すべてを民間に委ねる市場原理主義でもありません。国民生活を第一とする『国民主権』。住民による行政を実現する『地域主権』。そして、自立を目指す個人が、他者を尊重しながらお互いに支え合う『自立と共生』。これら3つの理念を実現することにより、国、地方自治体、国民が、それぞれの役割を生き生きと果たしながら社会全体を構成していく。この姿こそ、目指すべき日本のあり方です。」

(2)鳩山内閣の「地域主権改革」の具体的取組みの主なものは、「地方分権改革推進計画」の閣議決定(2009年12月5日)と「地域主権改革関連法案」の国会提出であった。
 「地方分権改革推進計画」は、鳩山内閣の地域主権改革の第1弾といわれたが、それは、「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」、「国と地方の協議の場の法制化」および「今後の地域主権改革の推進体制」の3つの課題に関する取組み方針を定めたものである。その内、「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」は、前政権のもとで設置された地方分権改革推進委員会の第3次勧告に沿って、①施設・公物設置管理の基準、②協議、同意、許可等、③計画等の策定及びその手続について、法令による義務付け・枠付けを見直し条例制定権の拡大を図るために必要な法制上の措置を求めるものであった。
 そして、この「地方分権改革推進計画」に沿って、3つの「地域主権改革関連法案」が国会に提出された。そのうち、「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」は、法令による義務付け・枠付けの見直しに関係する41法律の一括改正と地域主権戦略会議の設置(内閣府設置法の改正)をその内容としていた。「国と地方の協議の場に関する法律案」は、国側(内閣官房長官、地域主権改革担当大臣など)と地方六団体代表との協議につき、その運営・協議対象事項などについて定めたものであった。

「地方自治法の一部改正法律案」は、地方公共団体の組織及び運営について、その自由度の拡大を図るための措置を主な内容とするものであった。例えば、議員定数の法定上限の撤廃、議決事件の範囲の拡大、行政機関等の共同設置などについて、現行地方自治法を改正する内容である。
 しかしいずれの法案も国会の会期終了にともない継続審議となった。それゆえ鳩山内閣が「地域主権改革」として法制化したものは何もなく、そのすべてが今後の内閣に引き継がれることになったのである
菅内閣は、去る6月22日に「地域主権戦略大綱」を閣議決定した。この「地域主権戦略大綱」が、現段階における民主党政権の「地域主権改革」の全体像と今後の取組み課題を示すものである。

(3)これまでの自公政権の下での「地方分権改革」において、その改革推進上、大きな役割を果たしてきたのが、いわゆる諮問機関である地方分権改革推進委員会や地方制度調査会であった。ところが、政治主導・内閣主導を掲げる民主党内閣は、地域主権改革を推進するに際して、これまでのような諮問機関方式をとらず、内閣総理大臣と総務大臣の下にふたつの「政策会議」を立ち上げた。ひとつは地域主権戦略会議である。同会議は、地域主権改革に関する基本方針・重要事項等の調査審議や施策の実施・推進を任務とし、内閣総理大臣が議長である。メンバーは、内閣官房長官、担当大臣、有識者など15名以内の議員により構成される。これまでのところ、同会議は、①義務付け・枠付けの見直し、②基礎自治体への権限委譲、③ひも付き補助金の一括交付金化、④出先機関の抜本的改革の4つを主な課題として動いている。
もうひとつは、地方行財政検討会議であり、総務大臣が議長となり、総務副大臣、自治体首長・議長、有識者等、計17人をもって構成されている。同会議の主な検討事項は、①地方自治体の基本構造のあり方、②住民参加のあり方、③財務会計制度・財政運営の見直し、④地方自治体の自由度の拡大についてであり、「地方政府基本法」の制定を目指している。
以上のような「政策会議型」の改革推進組織の設置形態は今までにない方式であると言ってよいだろう。

2 「地域主権改革」の全体像と主な課題について
(1) 去る6月22日に閣議決定した「地域主権戦略大綱」は、「地域主権改革」の全体像と主な課題について、以下のように述べる。

① 「地域主権改革の定義」について
「『地域主権改革』とは『日本国憲法の理念の下に、住民に身近な行政は、地方公共団体が自主的かつ総合的に広く担うようにするとともに、地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにするための改革』である。『地域主権』は、この改革の根底をなす理念として掲げているものであり、日本国憲法が定める『地方自治の本旨』や、国と地方の役割分担に係る『補完性の原則』の考え方と相まって、『国民主権』の内容を豊かにする方向性を示すものである。」

② 「地域主権改革が目指す国のかたち」について
「国のかたちについては、国と地方が対等なパートナーシップの関係にあることを踏まえ、国が一方的に決めて地方に押し付けるのではなく、地域の自主的判断を尊重しながら、国と地方が協働してつくっていく。国と地方の役割分担に係る『補完性の原則』に基づき、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本とし、基礎自治体が広く事務事業を担い、基礎自治体が担えない事務事業は広域自治体が担い、国は、広域自治体が担えない事務事業を担うことにより、その本来果たすべき役割を重点的に担っていく。その中でも、住民に身近な基礎自治体を重視し、基礎自治体を地域における行政の中心的な役割を担うものと位置付ける。これを基本として、国と地方公共団体は、行政の各分野において適切に役割を分担するとともに、地方公共団体の自由度を拡大し、自主性及び自立性を高めていく。」

③ 「地域主権改革の工程」と「改革の主な課題」について
本大綱は、「当面講ずべき必要な法制上の措置その他の措置を定めるほか、今後おおむね2~3年を見据えた改革の諸課題に関する取組方針を明らかにするものであって」、その改革の主な課題は以下のものである。
第1は「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」、第2は「基礎自治体への権限委譲」、第3は「国の出先機関の原則廃止(抜本的な改革)」、第4は「ひも付き補助金の一括交付金化」、第5は「地方税財源の充実確保」、第6は「直轄事業負担金の廃止」、第7は「地方政府基本法の制定(地方自治法の抜本見直し)」、第8は「自治体間連携・道州制」、第9は「緑の分権改革の推進」である。
今後、「内閣総理大臣を議長とする地域戦略会議を中心に、より一層政治主導で集中的かつ迅速に地域主権改革を推進する。また、適時に国と地方の協議の場を開催し」、実行ある協議を行っていくこととする。

2.第二次地方分権改革期?
(2)「地域主権改革」の理念・原則について
 「地域主権改革」という用語の目新しさにもかかわらず、「地域主権戦略大綱」において、その改革を説明する理念・概念として登場するものは、地域総合行政主体、補完性の原則、基礎自治体の重視、自治体の自由度の拡大、国と自治体の役割分担、「住民による選択と責任」などであり、それらはこれまでの改革において用いられてきた概念・論理である。民主党政権の「地域主権改革」は、そのうち、補完性の原則、基礎自治体の重視、「住民自らの判断と責任」を強調する点に特色があるように思われるが、それらの特色がどのように具体の制度改革とリンクしているかはなお定かではない。
「地域主権戦略大綱」が当面の改革課題として掲げる「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」、「基礎自治体への権限委譲」、「国の出先機関の原則廃止」の課題は、この3年間、地方分権改革推進委員会が検討し勧告してきたものであり、それらの検討に際して、地方分権改革推進委員会が基本としてきた考え方が、「国と自治体の役割分担の原則」であった。その理由は、地方分権改革推進委員会の設置根拠法である「地方分権改革推進法」(2007年4月施行)が、「地方分権改革の推進に関する基本理念」につき、次のように規定していたからである。
「地方分権改革の推進は、国及び地方公共団体が共通の目的である国民福祉の増進に向かって相互に協力する関係にあることを踏まえ、それぞれが分担すべき役割を明確にし、地方公共団体の自主性及び自立性を高めることによって、地方公共団体が自らの判断と責任において行政を運営することを促進し、もって個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図ることを基本として行われるものとする」(同法2条)。
 民主党政権の掲げる「地域主権改革」の理念が具体の制度設計とどのように論理的にリンクしているかはなお定かではないことから、その検討は今後に委ねるとして、今日の報告では、以下、これまでの分権改革においてその改革をリードする考え方・論理として機能してきた「国と自治体の役割分担の原則」について、若干の検討を試みることにする。地域主権改革が国家構造改革であることからすると、自治体の役割に係わる補完性の原則や基礎自治体優先の原則などの検討に加えて、改革のもう一方の当事者である国の役割についての検討が欠かせないと考えた次第です。

Ⅱ 改革の基本原則として機能する「国と自治体の役割分担の原則」
1 「国と自治体の役割分担の原則」とは
 「国と自治体の役割分担の原則」とは、かつての第1次地方分権改革以来、その改革をリードしてきた原則であり、現行地方自治法1条の2にも明記され、また、この間、地方分権改革推進委員会が具体的な制度改革を検討する際に起点に据えてきた原則である。

それは、次のような内容である。
 国は、①「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」、②「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務」、③「全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い」、自治体は、「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体に委ねることを基本として」、「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの」とする。
 このような「役割分担原則」がこれまでの改革論の起点に据えられ、それは国・自治体間の事務配分を制度設計する際の基準として、また自治体の事務に関する国の関与を限定する基準として機能してきたのである。

2 地方分権改革推進委員会勧告にみる「役割分担原則」の機能
 地方分権改革推進委員会第1次勧告(2008年5月)は、改革の基本となる考え方として、「国と地方の役割分担」について、次のように述べる。
 「中央政府・地方政府が対等・協力の関係に立ちそれぞれの役割を果たすには、国と地方の行政の重複を排除し、国と地方の明快な役割分担を確立することが必要である。外交、防衛など国家としての存立にかかわる事務をはじめとする国が本来果たすべき役割を重点的に担うように中央政府の役割を限定し、住民に身近な行政は地方自治体に移譲し地方の裁量と責任の中で実施することが基本である。」
 そして、具体の検討においては、現実に国が担っている事務・権限を、①重複型、②分担型、③重層型、④関与型、⑤国専坦型に類型化し、「国と地方の二重行政」の排除という観点から、各タイプごとに見直しの方向を示す。例えば、重複型は、「事務・権限が法令上一つの主体に専属しておらず、国と地方自治体がそれぞれ処理することが許容されているもの(例:民間に対する助成・支援、調整、広報など啓発など)」であり、これらについては、「地方に一元化して実施することを基本として、新たな区分けの線引きを行う」と述べる。また、重層型は、「国が専ら本府省において策定する全国的な指針や全国一律の基準にしたがい、地方自治体が事務事業を実施するもの(例:介護保険、義務教育など)」であり、これらについては、「法令による義務付け・枠付けや関与の見直しなど、法制的な仕組みの横断的な見直しを行う。」と述べる(そのほか、分担型、関与型、国専坦型等については、第1次勧告を参照のこと)。
 かくして、「国と自治体の役割分担の原則」は、事務・権限の自治体への移譲・廃止問題、自治事務に関する国の立法的関与の見直し、国の出先機関の抜本的改革などの検討に際して、その改革の方向性を示す「基本原則」として機能してきたのである。

3 小括
 これまでの改革において用いられてきた「役割分担原則」は、国の役割を極力、限定することにより、自治の総量(事務・権限の総量と自由度)が増え、自治が充実するという考え方であり、その論理は、国の役割・責任を過度に縮小させる機能をもっている。
 ここで改めて、この3年間の分権改革推進の根拠法であった「地方分権改革推進法」(2007年4月施行)をみると、同法2条は、「地方分権改革の推進は、国及び地方公共団体が共通の目的である国民福祉の増進に向かって相互に協力する関係にあることを踏まえ、それぞれが分担すべき役割を明確にし、…」と規定する。
 留意すべきことは、この規定は、国と自治体の役割分担を明確にするに際して、「国及び地方公共団体が共通の目的である国民福祉の増進に向かって相互に協力する関係にあること」が踏まえられるべきであるとも言っていることである。       ところがこの間の現実の改革論議においては、「役割分担原則」のみが強調され、国と自治体が「共通の目的である国民福祉の増進に向かって相互に協力する関係」にあることが忘れ去られているかのごときである。
 民主党政権の推進する「地域主権改革」の特徴・特質はなお明確でないが、基本的にはこれまでの「地方分権改革」を継承するものであることから、その検討における基本問題のひとつとして、国と自治体の役割分担のあり方や国と自治体の関係について、私たちの考えを整理しておくことが必要であろう。

Ⅲ 憲法原理を基本にして国と自治体の関係を考える
1 憲法にその手がかりを求める
かつて自治労連を中心とする運動の中で、地方自治憲章(案)が策定されたことがある。同憲章案は、前文において、「国と地方自治体とのあいだに、民主的な協力共同の関係が確立されなければなりません」と述べる(『みんなでつくる21世紀の地方自治―「地方自治憲章(案)のはなし-』自治体研究社、1998年、参照)。
 その意味するところは、憲法の地方自治保障の下で、国と自治体の関係は、原理的・理念的には「対等・並立・協力」の関係にあり、国も自治体も国民・住民の人権保障という共通の目的実現のために、それぞれの役割に応じて、ともに協力しつつ、国民・住民のための政治・行政を行うことが求められているということである(室井力「国と地方自治体の関係」・前掲書『みんなでつくる21世紀の地方自治』14頁以下参照)。
 今日の改革論においては「役割分担原則」のみが過度に強調されるが、同憲章案の言う「民主的協力共同関係論」の観点からも、地方自治のあり方、あるいは「この国のかたち」を論ずることが、今、求められているように思われる。
 そこで、「民主的協力共同関係論」の意味するところを私なりに理解するならば、それは、以下のような考え方として整理することができるだろう。

 第1に、国も自治体も統治団体(ガバメント)であり、主権者は国民・住民であるということである。言い換えれば、憲法原則である国民主権原理は、国家権力の帰属と政治支配の正当性が国民にあることを意味するが、その国政レベルにおける統治団体が国であり、地域レベルの統治団体が自治体である。したがって、憲法の地方自治保障の下で、ともに統治団体である国と自治体の関係は、上下の関係ではなく、「政府間関係」として、対等・並立的関係にあると理解すべきことになる。
 
第2に、統治団体たる国および自治体の政治・行政は、「国民の福利」(憲法前文)の実現、すなわち「国民・住民の現代社会に適正に生存するための人権ないしそれに準ずるもろもろの権利利益の保障・確保のため」に存在するのであり、その組織と活動は、民主的にして公正かつ効率的に行われるべきことである。室井力の公共性論によれば、前者が、政治・行政の実体的価値的公共性であり、後者が手続的制度的公共性である。そして、手続的制度的公共性は実体的価値的公共性(=目的)を実現するための手段的公共性ということになる。このような公共性論からすると、国と自治体は、その共通の目的=人権保障=実体的価値的公共性を実現するために、それぞれの役割に応じて、ともに協力・共同すべき関係にあるのであり、国民・住民は「人権保障のための二重の統治体系をもつことを意味する。」

第3に、日本国憲法は、連邦制国家ではなく、単一主権国家を前提として、地方自治を保障していることである。すなわち主権国家の中央集権権力の存在を前提として、地方自治(住民自治と団体自治)が保障されているのであり、地方自治保障の内容のひとつである団体自治は地方分権主義を意味することから、地方自治の制度設計やその運営においては中央集権主義を排して地方分権主義が基本になるべきこととなる。しかしこのことは中央集権権力たる国の固有の役割・存在意義を否定するものではなく、生存権(憲法25条)や教育権(憲法26条)などの人権保障に関して、国には固有の責務・役割があるのである。
 かくして、憲法の保障する基本的人権の実現に関して国に固有の責務・役割があることを大前提として、国と自治体は、人権の保障・実現のために、それぞれの役割に応じて、協力共同すべき関係にあるということである。
 今日の改革において用いられる「役割分担原則」は、もともと「国の役割の重点化」という方向性をもった原則であるがゆえに、「役割分担原則」に基づく改革内容は国の役割を過度に縮小するものとなっている。「地域主権改革」の当面の改革課題である「義務付け・枠付けの見直し」、「基礎自治体への権限移譲」、「国の出先機関の廃止原則」の具体的検討においては、人権論を基本に据えた国と自治体の「民主的協力共同関係論」を考察視点のひとつに加えて、各行政分野ごとの個別具体的な検討をすること求められている。しかし、今日の私の報告では、そこまでの個別的検討ができていないので、二つのことを指摘するにとどめる。ひとつは、「ナショナルミニマム」についてであり、もうひとつは、「二重行政の排除」についてである。

2 国の責務・責任に係わる「ナショナルミニマム」について
 「地域主権戦略大綱」の掲げる第一の改革課題は「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」であり、それは、自治事務について、従来、政省令で定められてきた義務付け・枠付けの基準を見直し、「従うべき基準」「標準」「参酌すべき基準」に分けて、その基準設定を条例に委ねるものである。そのような改革案は、国の立法的関与の縮小=条例制定権の拡大を大義名分として、これまでナショナルミニマムとされてきたものを見直し、その縮小・緩和・廃止を図るという意味をもち、そのことがまさにこの改革の核心であり、ねらいである。
 「義務付け・枠付けの見直し」基準は、地方分権改革推進委員会の第2次勧告の示すところであるが(「義務付け・枠付けの存置を許容する場合のメルクマール」など)、その勧告では、自治体の自主性・自由度の拡大の観点がことさら強調され、ナショナルミニマムに関する国の責務・役割について述べるところは全くないのである。
 それゆえ、今日の改革を論ずるにおいて、また国と自治体の適正な役割分担を論ずるに際して、人権保障に係わるナショナルミニマムの実現が憲法上の国の責任であり、国にはナショナルミニミマムの実現につき固有の責務・役割があるということを強調しておきたい。
 ナショナルミニマムは、もともとイギリスのウェッブ夫妻よって提唱され。1942年のベヴァリッジ報告で示された社会保障計画の基本原則の一つである。わが国では、憲法25条の生存権保障から出発した概念として、一般に、国が国民に最低限保障すべき行政水準と解されてきた。それは時代に応じて不断の見直しが求められるものであるが、不要の時代になったわけではない。むしろ行政の市場化・民間化により「格差と貧困」が顕在化している今日の状況において、ナショナルミニマムの意義は今まで以上に大である。
 ナショナルミニマムの具体的設定は、各行政分野ごとに人権論や総合科学的知見を踏まえ、民主主義的手続きを経て行う以外にないのであるが、現在進行中の「義務付け・枠付けの見直し」においては、そのような観点からの検討が欠落し、これまでナショナルミニマムとされてきた基準を緩和・廃止する結果となっている。そのことが最も大きな問題点である。

3 「国と地方の二重行政の排除」について
地方分権改革推進委員会は、改革の基本となる考え方として「国と地方の役割分担の原則」を示した上で、その具体の検討に際して、「国と地方の二重行政の排除」という観点が重要であることを強調する。例えば、地方分権改革推進委員会第2次勧告は、国の出先機関の見直しを進めるにあたって、「国と地方の役割分担を明確にし、それぞれが適切な役割を担うことにより、『二重行政』の弊害を徹底して排除する」と述べるが、その勧告において、「二重行政の弊害」とはどのようなものであるかは全く検証されていない。
 先に述べたように、国民・住民は人権保障のための二重の統治体系(国と自治体)をもっていることからすると、人権実現のために国と自治体が、それぞれの役割に応じて協力共同すべき場合がある。それゆえ、いわゆる「二重行政」のすべてが否定されるべきものではなく、改革されるべきは、「弊害」のある二重行政であり、その検討は、各行政サービスごとに個別具体的に行うことが不可欠である。そして、その検討に際しては、国民の人権保障あるいはナショナルミニマムに関して、国に固有の責務・役割があることを正当に評価しておくことが重要である(晴山一穂「国の出先機関の抜本的改革」法と民主主義449号20頁以下参照)。

◇おわりに
「地域主権改革」に関して、検討すべき課題が多々ありますが、国も自治体も国民・住民の基本的人権の保障・実現のために存在しているということを原点に据えた制度設計がなされるべきことを繰り返し強調して、おわりとします。
(なお、地域主権改革に関する論考として、「特集『地域主権』の改革と法理 その批判的検討」法と民主主義449号、白藤博行「『新しい時代の地方自治像』を求めて」住民と自治2010年8月号6頁以下を参照されたし。)


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