浜名湖ボート死亡事故 指定管理者制度が生み出した悲劇
「官から民」のツールとして導入された指定管理者制度。今年6月18日、浜名湖で訓練中のボートが転覆して中学生1人が死亡した悲劇は、4月から、小学館集英社プロダクションが指定管理者として運営した矢先の事故だった。その問題点について自治体学校の静岡県地方自治研究所の方のレポートよりメモを作成。
◇施設は、浜名湖半にある県立三ケ日青年の家。自然の中で、野外活動や共同生活を通して、青少年の育成や生涯学習を支援する役割をになう。多種多様な設備を有し、多くの県民が利用している。
これまでは、県教育委員会が、指導主事クラスの有能な教員を配置して運営してきた。
◇指定管理者の選考
「海洋訓練のノウハウを有している業者」「危険性に対する対処方法」などを審査し選考するとし、昨年12月に、岡山県での実績のある業者として、また岡山でボートに関する中心的な職員2名を配置することで「大変責任の持てる会社」(教育委員会)として小学館集英社プロダクションに決定。
◇起こるべくして起こった事故
静岡新聞7月17日付けは「浜名湖のボート転覆1ヶ月」という特集で4つの疑問を提起
①天の中、なぜ訓練中止の判断ができなかったのか。
「マニュアル『カッター訓練の手引きのずさんさ』」(出航中止の条件に幅がある)と、「約1ヶ月の引継ぎ基幹の短さ」をあげている。
(メモ者 季節、時間などにより、天候がどうかわるかなど、とても文書だけでは伝えらない。その土地土地にしかない長年の経験のものが言う領域である。)
②えい航中になぜ転覆?
「(業者には)えい航のための経験がなく、えい航される側に必要とされる舵取りの指示もなかった」。これは1ヶ月という引継ぎ時間の短さに起因。
③救難活動はなぜ難航?
救助隊は、行方不明者よりもボート上の生存者を優先するというトりアージにもとづき、ゴムボートの収容人数を確保するため「本格的な水中捜査に必要な泉水用具を持っていなかった」。「事故の状況を的確にしらせる関係機関との連携に課題があった」
④なぜ、彼女だけが?
「人数確認に手間取った」「救助の手が少なかった」
◇経験が物を言う時代 経験の伝承が途絶えることに不安
青年の家の前所長はこうのべている。
「一ヶ月間の引継ぎ期間の短さと県営時代ではえい航方法の基本的な認識は全職員が共通して持っており、えい航されるボートの舵の指示の徹底をしていたが、そのノウハウまでは伝えられなかった。
4年間で職員の異動があったが、経験豊富な職員が新人を実践を通じて指導することで、技術を引き継いでいた。経験がものを言う時代。紙では伝わらない。指定管理者に移ることで経験の伝承が途絶えることになる不安があった。県教委には『引き継ぎ期間を長くして』と伝えだが、聞いてもらえなかった。個人的には指定管理者に移行すること自体、個人的には反対だった」
(静岡新聞、同日付)
(メモ者 指定管理者は、数年でまた公募する。委託を続くと、公務の中に経験、専門性がなくなっていく。そうなれば評価もできないし、指導・点検もできない。委託料を吊り上げられても抵抗できない。質の面でも、コスト面でも多くの不安材料を抱えることになるいうのはの民間委託に全てにかかわる問題)
◇他の体育施設でも死亡事故
体育協会とNTTファシリティーズが指定管理者となった総合運動場の体育館で09年4月、折りたたみ式バスケットゴールに29歳の青年が首をはさまれ死亡している。
県当局が08年の定期点検で、ゴールを支える支柱に「特に早急な修理・交換が必要」とする不具合を指摘していたにもかかわらず「修理しないまま使用した」ことが原因と発表された。
協定書には、器具の修理費は、30万円以下は指定管理者。それ以上は、県が「協議が整った場合のみ補修する」となっている。ポールの修理費は約60万円で、指定管理者からの情報がうまく伝わらず、放置されたものである。
県営直営のときのように、職員が準備、後片付けをしていれば、回避された事故である。
◇死亡した2箇所の共通する事故原因
・専門性の持った職員配置をないがしろにして、尊い命を奪った2箇所の事故で、体育館は1年間閉鎖、三ケ日青年の家の再開も未定。
・「コスト削減と質の向上」という謳い文句と裏腹に、高い代償となり、閉鎖によるサービスの不提供、安心と安全を確保できずに県政は信頼を失った。また他の多くの指定管理や民間委託で弊害がうまれている。
・県営自体は、多くのボランティアが手伝いをしていたが、指定管理者になり「民間企業の手伝いはやりたくない」と、ボランティア精神をなくしてしまっている。
・一方、業務委託では、毎年業者が変わり、その都度、賃金が下げられ、官製ワーキングプアが急増している。
この事態をうけ、静岡県自治労連は「県は指定管理者制度は抜本的見直しを」と要望書を出している。
(メモ者/ 自治体学校初日の7月31日は、ふじみ野のプール事故で亡くなった女の子の命日。同地から来た参加者は、この悲劇を風化させないため毎年、命日に市民集会を開いていると報告していた。命が犠牲にされないと、安易な民間委託が見直されないのか、と怒りを禁じえない。
委託して質を担保するなら、専門性のもった職員による日常的な点検・管理が不可欠であり、そうすれば、コスト削減にはならない。この部分を手抜きするから「安くあがる」のである。
ふじみ野の担当者はプール管理を委託した時点で、「この仕事は終わった」と自らの視野の外に行ってしまった感覚を持った、と報告されていたのが象徴的である。
さらに指定管理者の業務内容は、簡単な収支報告がでるだけで、議会にはブラックボックスとなっている。「企業秘密」が壁となり、チェックできない。
市場化とは、市場を通じて安くて良い商品が選ばれる、という考えのもと、事前チェックから事後チェックへ変更をもたらす。命が犠牲にならないと見直されない、というのはある意味、市場化の本質的問題だと思う)
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