保育がもたらす利益とは 子育て新システム
「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」について全国保育団体連絡会の見解。
新システムは、経済成長戦略の一環として営利追及、短期的な企業の儲けの場とする立場である。それに対し、「保育がもたらす利益というのは、個々の企業が得る利益ではなく、子どもの幸せと成長によって社会全体が受け取る利益」と批判している。
【子どもの権利保障、よりよい保育実現の視点からの改革を
「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」に対する見解 7/27】
OECDですら、「人生の最初を力強く」として就学前教育の充実、無償化を、社会投資の立場から提案している。大学も保育も、世界の流れを逆走しようとしている。
【子どもの権利保障、よりよい保育実現の視点からの改革を 「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」に対する見解】 全国保育団体連絡会 2010年7月27日6月29日、政府は少子化社会対策会議(議長:内閣総理大臣 全閣僚で構成)において「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下、新システム)を決定しました。2011年に児童福祉法など関係法律を改正し、2013年度からの実施をめざしています。
新システムは、①子ども・子育て支援に関わる体制と財源の一元化、②基礎自治体(市町村)による自由な給付設計、③幼稚園・保育所の「こども園」への一体化、④多様な保育サービスの提供、などを実現するとしています。しかし新システムの本質は、憲法第25条、児童福祉法第2条、第24条等が定める国や自治体の保育に対する責任を後退させる、保育の「産業化」にあります。
新システムは、経済成長戦略の一環として提案されており、政府の「新成長戦略」や「産業構造ビジョン」が、幼稚園も含めた保育・子育て分野を市場ととらえ、この分野で「稼ぐ」ことを打ち出しています。まさに子どもの権利や発達より「儲け」を優先するシステムといえます。そのことは、すべての子どもを対象とし、乳幼児期から切れ目のないサービスを保障するといいながら、新システムのための公費投入の拡大について一切明示していないこと、障害をもつ子どもや社会的養護を必要とする子どもへの対応などにまったくふれていないことからも明らかです。
保育がもたらす利益というのは、個々の企業が得る利益ではなく、子どもの幸せと成長によって社会全体が受け取る利益です。保育所や幼稚園は子どもの大切な育ちの場であり、子どもの成長・発達は社会に大きな利益をもたらすものです。だからこそ、国・自治体は保育・幼児教育の条件整備、保育内容の充実に責任をもつべきであり、そうした責任を投げ捨て、保育を歪めるような「改革」を私たちは認めることはできません。現行保育制度は児童福祉法のもと、①国と自治体の保育実施責任、②国による最低基準の確保、③保育費用の公費負担、を原則にし、地域や家庭の状況にかかわらず、保育を必要とするすべての子どもに平等に保育を保障する制度です。
ところが新システムは、全体として市町村の裁量に委ねる仕組みになると説明されていますが、その前提である自治体の責任は現行制度の責任を大きく後退させるものです。とくに保育の実施に関わる保育・幼児教育給付については、①市町村の責任は保育の上限量の認定と補助金の給付にとどめ、保育所入所は保護者の自己責任で施設と直接契約する、②最低基準は企業の参入促進をはかるために廃止し、地方にまかせる、③保育費用は応益負担とする、など保育における市町村の実質的な責任はほとんどなくなってしまいます。
市町村の責任が限定され、財源の確保も十分でないとなれば、負担増によって利用したくてもできない家庭や、保育水準や保育の質の低下、地域格差が生じることは避けられません。新システムは、幼保一体化といいながら、ことさら幼児教育と保育を区分して扱っています。ここでは幼児教育は単なる就学準備のための教育にされています。そして保育は保護者が働いている時間だけ預かる託児にされ、保護者の就労時間などに応じて曜日や時間単位で売り買いされる、バラバラなものにされています。新システムは、これまで保育実践の中で積み上げ、発展させてきた養護と教育の統一という保育観、子どもの日々の共同的な生活やあそびにねざして発達を保障するという、日本の保育や幼児教育の到達を無視した、幼保一体化の名に値しないものです。
さらに幼保一体化の進め方や内容について何も語らないまま、スケジュールだけを提案していますが、成り立ち、機能、子どもの年齢構成、職員養成や資格など、多くが異なる幼稚園と保育所の一体化に短時間で結論を出すことは無謀であり、問題が多すぎると、幼保の関係者がともに懸念を表明しています。よりよい保育・幼児教育の実現をめざすための改革であれば、今でさえ国際的に低水準の職員配置や処遇、施設設備などの条件の改善と、そのための大幅な財源拡大の提案があってしかるべきですが、そうした提案はまったくされていません。それどころか、政府は最低基準の規制緩和をすすめ、最低基準の切り下げを容認するような地方条例化や、3歳以上児の保育所給食の外部搬入を認めています。新システムはこうした「改革」を促進し、子どもや保護者、保育現場にさらなる負担を強いるものです。
国と自治体の責任を投げ捨て、保育・子育てを市場に委ね、保育・幼児教育を変質させる新システムの導入は、将来に禍根を残すものであり、国民が望むところではありません。私たちはその撤回と再考を求めます。いま、格差と貧困が広がるなかで保育所入所要求が高まり、待機児童が急増しています。国民の生活と子育てが困難に直面しているときだからこそ、子どもの発達、保護者の就労と生活を同時に保障する公的保育の果たす役割がいっそう重要であり、児童福祉法のもと、国の責任で保育所の緊急整備を行うなどの積極的な対応が何よりも求められています。
日本の保育の現状に対し、OECDなどの国際機関も保育施策拡大のための公費の増大など、改善すべき課題を提言しています。保育制度改革にあたっては、①現行水準を決して後退させない最低基準の確保と抜本的改善、②現状改善のための公費の大幅投入、③施策の実施を保障する国と自治体の公的責任の堅持・拡充、が不可欠であり、そうした視点での関係者を含めた十分な議論と改革が求められています。
どんな地域、どんな家庭に生まれても、子どもたちは保育を受ける権利を保障されるべきであり、家庭の経済状況や、市町村の財政状況によって受けられる保育に格差が持ち込まれるようなことがあってはなりません。くり返しますが、子どもの成長・発達こそが社会に大きな利益をもたらすのです。子どもの成長・発達のための費用を惜しまないことが、将来の利益につながるのであり、だからこそ、いま、子どもの施策の拡充のために国として最大限の努力をすることが必要なのです。
保育・子育ては未来をつくる仕事です。同時に、幼い子どもたちの今を輝かせる仕事でもあります。私たちは、子どもの最善の利益を保障する「よりよい保育」のあり方を多くの国民と共有し、保育の量の拡充と質の維持・向上のために力をつくします。「よりよい保育」の実現を求める人たちと支え合い、新たな共同を広げ、さまざまな形で社会的な発信をしながら、地域から創意あふれる実践と運動をすすめていくことを多くの保育・幼児教育の関係者に心からよびかけます。
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政策の貧しさ。
儲けをもくろむ浅ましさ。
そのかげで子どもがばたばたと死んでゆく国になってしまった。
全保連のこの見解、どうして大きく取りあげられないの??とはがゆいはがゆいです。
Posted by: おりがみ | July 31, 2010 10:24 PM
2歳と5歳の保護者です。
新システム。本当に怖いです。日本の子どもたちや社会は一体どうなっていくの?と不安になります。「starting strong」が世界で言われているのに、なぜ日本は逆行するのか。
そもそも、幼稚園と保育園の役割は別だと私は思うし、待機児童を解消するなら、お金も人材も惜しまずに、保育園や幼稚園をもっと充実させて、一時保育や短時間保育専門の部屋や先生を確保し、そこで対応すれば済む話ではないのか?と思います。
企業参入をさせてメリットがるのは一体だれ。。。子どもたちではないことだけは確かです。保護者として、今は周りの人に新システムを知ってもらい、反対の声を少しでも大きくしていけたらと思っています。
Posted by: とらまろ | September 23, 2010 11:33 PM