子育て新システム案要綱と「子どもの最善の利益」
この要綱には子どもの権利条約で定められている子ども施策の中心概念である「子どもの最善の利益」という言葉がない、という点が、この制度の性格を極めてよくあらわしている。
【子ども・子育て新システムの基本制度案要綱 内閣府6/25】
【現行保育制度を解体 政府が要綱 「子ども園」に一本化 赤旗6/26】
【子どもの権利員会:総括所見:日本(第3回)】
要は、国の責任を放棄し、規制緩和された雇用ルールに対応し、安上がりに、女性の労働力を確保しながら、そのサービス自体を個別契約にもとづき儲けの対象にしようとする新自由主義の政策に他ならない。
保育制度を「介護保険」と同じように市場化しようとするもの。
だから、民主党が、先の国会で、障害者団体との約束を破って、障害者自立支援法(介護保険と制度設計の基本が同じ)の延命法案を出したのも一貫性がある。
子どもの権利員会:総括所見:日本(第3回)/「ARC 平野裕二の子どもの権利・国際情報サイト」からの転載
その勧告の一部を引用すると
・国家行動計画
「「子ども・子育てビジョン」および「子ども・若者ビジョン」の策定に関心をもって留意する。しかしながら委員会は、条約のすべての分野を網羅し、かつ、とくに子どもたちの間に存在する不平等および格差に対応する、子どものための、権利を基盤とした包括的な国家行動計画が存在しないことを依然として懸念する。」
・資源配分
「子どもの権利を実現する締約国の義務を満たせる配分が行なわれるようにするため、中央および自治体レベルの予算を子どもの権利の観点から徹底的に検討すること。」を強く勧告する。
・子どもの最善の利益
「37.子どもの最善の利益は児童福祉法に基づいて考慮されているという締約国の情報は認知しながらも、委員会は、1974〔1947〕年に採択された同法に、子どもの最善の利益の優越性が十分に反映されていないことに懸念とともに留意する。委員会はとくに、そのような優越性が、難民および資格外移住者である子どもを含むすべての子どもの最善の利益を統合する義務的プロセスを通じ、すべての立法に正式にかつ体系的に統合されているわけではないことを懸念する。
38. 委員会は、締約国が、あらゆる法規定において、ならびに、子どもに影響を与える司法上および行政上の決定およびプロジェクト、プログラムならびにサービスにおいて、子どもの最善の利益の原則が実施されかつ遵守されることを確保するための努力を継続しかつ強化するよう勧告する。
39.委員会は、子どものケアまたは保護に責任を負う相当数の機関が、とくに職員の数および適格性ならびに監督およびサービスの質に関して適切な基準に合致していないという報告があることに、懸念とともに留意する。
40. 委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
(a)そのような機関が提供するサービスの質および量を対象とし、かつ公共部門および民間部門の両方に適用されるサービス基準を発展させかつ定義するための効果的措置をとること。
(b)公共部門および民間部門の両方において、そのような基準を一貫して遵守させること。」
子どもの最善の利益の視点で、包括的な計画を持ち、予算を確保し、公務、民間を問わずサービス基準を守られ、発展させる、ことを求めているのである。
この方向とはまったく違う方向にすすもうとしている、と思う。
【現行保育制度を解体 政府が要綱 「子ども園」に一本化 赤旗6/26】菅内閣は25日、市町村が実施責任を負っている現行の保育制度を全面的に解体する「子ども・子育て新システム」の基本制度案の要綱を決定しました。
制度の基本設計では、子育て関連の国の財源や労使の拠出金を一括して特別会計をつくり、市町村に交付。市町村は、現金給付(子ども手当)と保育サービスなどをどう組み合わせるか、どのような子育て施策をするか、を独自に決めて提供するとしています。
どのサービスをどれだけ実施するかは市町村に任されるため、市町村によっては実施されないサービスが出ます。
給付は(1)すべての子育て家庭向けの個人給付(2)就労状況に応じた給付―の「2段階」とします。
個人給付は、現金で受け取るか、「一時預かり」などに使うかを個人の選択で組み合わせる仕組みを提示。学校給食費や塾・習い事の利用券に替える方式も検討します。
就労支援では、現行の保育所、幼稚園を廃止し、新設する「子ども園」に一本化します。それによって現行の保育所最低基準は撤廃。利用者は市町村との契約ではなく、事業所と直接契約することになります。
利用者は就労状況に応じて「保育の必要性」の認定を受け、認定の範囲内でサービスを利用。超過部分は別料金になる見込みです。料金は「公定価格を基本としつつ…柔軟な制度を検討」としています。
「子ども園」、そのほかの短時間保育などのサービス、学童クラブの事業者は指定制とし、営利企業の参入促進のために、現在の規制をなくし、運営費を他の事業に使うことを容認します。
来年の通常国会に法案を提出し、「恒久財源」を確保しながら、2013年度の本格実施に向け段階的に実施するとしています。【解説 全面的市場化狙う 子ども守る視点なし】
菅内閣が決定した「子ども・子育て新システム」の基本制度案は、「利用者本位」「すべての子どもへの良質な生育環境を保障」などをうたっています。
しかしその中身は、保育への国の責任を投げ捨て、子育てへの国の財政責任をあいまいにして地域格差を広げるとともに、保育を「産業」として強化するために全面的な市場化を指向するものです。
制度案では、新システムの実施にあたり、成長戦略策定会議などとの連携を図るとしています。菅内閣の「成長戦略」の土台となった経済産業省の「産業構造ビジョン」では、保育の全面的な市場化の方向があけすけです。
同ビジョンは、現状の幼稚園と保育所に分かれた制度は「市場分割」だととらえています。幼稚園は料金設定が自由なのに対し、保育所は公定価格であるなど「硬直的」だとして「幼保一元化」を求め、一元化した子ども園は、「経営主体がサービス内容と価格を設定」できるよう求めています。
直接契約で価格も自由となれば、公的責任のもとで担われる現行の保育の仕組みは全面的に解体され、完全に市場で売り買いされるものになります。
もともと保育所は、子どもの生活を丸ごと支えるという、幼稚園にはない機能を負っています。そのために調理室を必ず置くなどの規制があります。
基本制度案では、異なる機能をどのように一体的に運営するのかはまったく不明です。
子どもの視点からではなく、保育をビジネスチャンスととらえ、いかに営利企業がもうけを上げられるようにするかが発想の出発点だからです。
これをすすめれば、介護分野で起きているように、保育士の待遇も子どもの保育の質も悪化することは避けられません。参院選挙で厳しい審判を下すことが絶対に必要です。
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