「金融危機を読み解く」 高田太久吉 備忘録
今日の金融恐慌をどうとらえるか。高田太久吉・中央大教授が昨年10月の著作より、序章と終章、および1~6章の「まとめとして」の部分の備忘録。
「備忘録」というに結構な量になったが・・・「kinyukiki_yomitoku.doc」をダウンロード
ブログ内には、現代資本主義に内包する矛盾、金融システムの不安定性・脆弱性、歴史的限界、打開の方向にかかわり、1.4.5章と終章の「まとめとして」の部分のみを記載。
◆第一章 過剰な貨幣資本の蓄積と機関投資家 「まとめとして」
・現代資本主義に内臓する矛盾は、主要産業における慢性的な過剰生産、現実資本の投資停滞、経済成長率の低下、労働分配率の低下、失業率の上昇、社会保障など経済変動安定化装置の取り外し、さらに、これらの変化を集約する形での、機関投資家への膨大な貨幣資本の集中へ発現する。
・それらの多くが証券市場に流し込まれ、金融的利得を目指して投機的に運用される。
・機関投資家や富裕な個人があげる金融的利得の主要な源泉は、現実資本による剰余価値生産ではなく、家計と企業の増大する債務および財政支出であり、これらの民間と政府が負担する金利である。
→そのため従来は証券市場で売買できなかった家計と企業の債務を魅力的な証券に転換する技法と仕組みが発展
→貨幣資本を一定の利回りで運用するため高利回りの新証券を次々と組成・販売する必要がある/そのため健全な借り手だけでなく、低所得者ローンやレバリッジローンなどリスクの高い分野に拡大していく
→これらを購入する機関投資家は、運用資金の増大の競争圧力のもと、ますます高リスク高利回りの証券に資金を運用することを迫られる。
・ブームが限界に達すると、隠蔽された信用リスクがいったん表面化すれば、一挙に崩壊/壮大なポンツィ金融の仕組みにほかならない。
◆第四章 国際金融業の変容と国際金融危機 「まとめとして」
・国際金融システムの不安定性と脆弱性をもたらす主要な構造的要因として現代の国際資本市場を独占している大手マネーセンター銀行の国際的投機活動を検討してきたが、その結論の要約は…
①97東アジア通貨危機、98ロシア政府のモラトリアムに発する信用不安は、新興市場とハイリスク証券市場からの大規模な資本流出をともなった。その要因は、国際銀行融資の急激で大幅な収縮、海外機関投資家による新興市場でのポートフォリオ投資の引き上げ、およびマネーセンター銀行の国際的トレーディング資産の圧縮であった。(メモ者 巨大な連鎖の構造)
②現代の国際資本市場は、多数の金融機関と機関投資家が無差別に競争する原子的市場ではない。ごく少数の大手金融機関によって支配される高度に寡占的な市場である。/国際資本市場の圧倒的シェアを占めるのは、10行あまりのアメリカのマネーセンター銀行(および投資銀行)
③マネーセンター銀行の90年代以降の業務の特徴は、国際融資の期間の短期化、トレーディング業務の重要性の高まりである。それはマネーセンター銀行の伝統的融資活動の衰退であり、機関投資家化とその資金運用の投機化である。
→よって現代金融システムの不安定性と脆弱性を説明するには、マネーセンター銀行の国際的投機活動が、どんな要因とメカニズムを介して国際資本取引の激しい変動とシステミックリスクを生み出すが秋からにする必要がある。
④ マネーセンター銀行のトレーディング業務は、その本質が投機であり、機会主義的活動であるから、本来的な国際金融システムと銀行経営の両面で不安定性を高める /しかし、そのトレーディング資産の市場リスクを評価する方法(VAR 最大見積もりリスクを算入する自己資本比率による管理)とリスク管理自体の内部に、国際金融システムと資本取引の不安定性と脆弱性を高める重要な要因が組み込まれている
★実質一単位の資産で取得されたトレーディング資産が、ヘッジのために様々な派生的取引を必要ならしめ、全体の取引は多角的かつクロスポーター(複数国にまたがる)取引として元本の何倍にもなる。この進行には、資本が自由にさ国境を越えて自由かつ迅速に関連市場の間で移転し、リスクの取り入れや排出が摩擦なく行われる「シームレス」(継ぎ目のない)市場が必要である。/しかし、それはロシアのモラトリアム、マレーシアの非居住者の資本取引の制限など市場分断政策がとられると、根底から覆される。
→ VARの計算要因の資産価格やその変動率が根本的に変化し、VARの値も大幅に変化するので、要求された自己資本比率を達成するため、トレーディングの圧縮、流動性の確保が余儀なくされる /特にVARは日単位での計算であるため、いったん事があきた場合、その影響が収束してないもとで、巨額のトレーディング資産を迅速に組み替えることは困難であり、しかも各マネーセンター銀行の投資戦略(資産構成)が似ていることから、資産構成の組み換えは、いっせいの売り、いっせいの買いとなって市場を大きく偏向させる。
→その結果、国際資本市場の集中的構成とあいまって、特定市場における極度の流動性不足(取引が成立しない状態)を顕在化させる
⑤マネーセンター銀行とその「別働隊」としてのヘッジファンドはの投機活動は、きわめてグローバルに分散されており、局地的な信用不安に大して大きな抵抗力をもっているように見える/しかし、国際資本市場が少数の金融機関と大手機関投資家が独占している構造のもとでは、これらの投資家の分散的投資自体が地域市場間の連動性を高め、いずれかの市場で発生した信用不安が文字通りグローバルな規模で他の市場に連鎖的に波及する、資本取引の国際的な逆流を引き起こす要因となっている。
◆第五章 ヘッジファンドと国際金融危機 「まとめとして」
・アメリカの大手投資銀行の融資業務が投機的性格を強めたのは、ラテンアメリカ向け融資(それらは相手国政府・中央政府が絡むソブリンローンが中心でどちらかと言えば長期的なもの)が破綻した80年代以降であり、その場合の主たる投機対象は、国内の不動産、エネルギー、LBO市場である。/これら国内投機が破綻した90年代に、対象が国外に移り、あらゆる投機対象資産を標的とする短期的投機活動が展開されるようになる。
・アメリカのヘッジファンドと大手金融機関・機関投資家の大規模な投資活動とその破綻に見られる深刻な病理現象は、このような歴史的な流れの中で、理解される必要がある。
→ この間の一連の金融市場の混乱と危機が暗示しているのは、大手金融機関の無謀な高収益を世界的規模で追求するあまり、自国の国民と企業からますます遊離し、本来的な金融仲介機能を放棄し、金融機関としての腐朽性と投機性を極度に深めていることである。これが、今日の国際金融市場に見られる主要な病理現象の実態。
◆終章 「まとめとして」
・今回の金融危機は、波及した金融市場の範囲の広さ、危機波及のおそるべき速さと波及メカニズムの特異さ、資産デフレによる損失の甚大さ、金融産業に及ばした衝撃の激しさ、各国政府が協調し前例のない規模と手段で対応しながらも金融危機を封じ込めることが出来ず世界同時不況が顕在化し、世界経済恐慌の可能性さえはらんでいる、戦後の前例のないもの
・この甚大な危機の背景に「新自由主義イデオロギー」「新古典派経済学」「市場原理主義による規制緩和策」の「三位一体」の影響力が支配的になった事情がある。/それが「経済の金融化」「金融の証券化」をという経済・金融の二重の構造変化が急激に進行がもっとも重要な要因として浮かびあがる。
・そうした背景のもと、経済の危機には、現代資本主義の歴史的限界が少なくとも以下の点で新しい状況として発現している。
①莫大な貨幣資本が生産的に活用されないで、投機的資本として、金融、不動産市場のみならず、原油や穀物など重要な商品市場にまで侵入し、これらを危険な投資的金融市場に変質させている状況
②自動車などさまざまな産業で過剰生産状況がひろがり、急激な需要の落ち込みで世界同時不況の様相が深まり、膨大な失業者、貧困層が生み出されている状況
③巨大金融機関で相次いで破綻し、規制緩和をすすめてきた各国政府による大規模な救済、国有化が進展
④アメリカとEUの政策の違いが鮮明になり、新しい社会経済システムを模索する動きが世界的に広がっている状況。南米など途上国の一部で新しい社会主義をめざす動きが広がっている状況
したがて、今回の危機を分析しその原因を解明する作業は、新自由主義を根本的に批判し、これに代わる新しい社会・経済システムの構想を模索する作業につながらざるを得ない。
→ その場合、「市場原理主義」の批判に狭く限定することを避けなければならない /現代の危機は、市場原理主義によって深刻化した「市場の失敗」だけではない /過剰な貨幣資本が危険な投資資本となり、失業と貧困に苦しむ膨大な人々に雇用の機会を提供できないのは、むしろ「資本制生産の限界」を示している。
・今回の金融危機から世界同時不況への悪循環を、金融市場の回復で断ち切ることはできない。金融市場の回復には、実体経済が回復し、企業収益が回復基調となり、雇用と消費需要を支える労働者の可処分所得が回復することが前提条件である。→ 大規模な雇用確保策、需要創出策、将来不安を軽減し、企業が長期的視野にたった投資を実行するように誘導する政策が求められる。さらに、社会保障の充実、教育の公的負担の引き上げ、中小企業や環境を念頭においた一次産業支援・・・
・この政策の財源として①思いやり予算、イラク支援など米軍支援を含む軍需支出、軍事独裁国への経済支援などの大幅削減 ②富裕層にたいする優遇税制の根本的見直し、個人と企業に対する累進課税の厳格な実施、企業に対する優遇税制の見直しなどを、実施していくことを提案したい。
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