市民の図書館の歴史と未来 備忘録
高知市は市民図書館の原点といえる「移動図書館」を民間委託したが… 24日、市議団で図書館行政について学習した。講師は、元高知市民図書館長で、氏原、坂本、横山市政と戦後革新市政とともに歩んできた渡辺進さん。(同席させてもらった際のメモ・備忘録)
【市民の図書館の歴史とこれから求められる機能】
Ⅰ 市民の図書館の誕生—初期市民図書館が追求したこと
1.高知市議会の先駆的とりくみ
①市議会がはじめた高知市文化祭
・45年終戦、高知市の7割が消失するなど戦争の傷跡、46年、南海大震災~戦災と震災からの復興が高知市の大きな課題となる。
・ハード面における都市整備だけでなく、精神面の建て直しが重要と、市議会議長が「文化祭の開催を」市に提起。執行部は「復興でそれどころでない」というので、議会として実施をことを合意。
・議員と47年5月の地方自治法施行により設置された議会事務局11名が軸に実施―― 48年、田植え競争など暮らしに密着した協議、体育祭、議場を使ってのダンスパーティーなど50余りの事業を実施
②市議会図書館
・市議会に政策力をと、議会図書室設置(47年8月)、出版事情も悪く東京出張の時にリュックを背負い、古本を購入したり、進駐軍の持っている資料を提供うけて英訳したり。「勉強しろ」「しよう」という雰囲気があった。予算の特徴、財政分析も、議会側が選考して冊子をつくっていた、それを後に執行部が行うようになった。
・市議会図書館条例公布(48年6月)、進駐軍の指示で同年2月に国会図書館法は公布されたが、社会教育法(49年6月)、図書館法(50年4月)もなかった。その時に、議員だけでなく一般市民が使う自治法で言う「公の施設」として位置づけ市民に公開、市民対象の講演会も実施。全国で唯一。議会が直接市民サービスを提供したもの。有識者と議員で構成する運営委員会を設置 /大都市部以外で地方に図書館はない。
2..高知市民図書館開設
・49年9月。荒廃の街に文化の灯ともる。戦後高知市に建設された最初文化施設
・議員のとりくみ、市民の要望でできた稀有な図書館。当時に○○記念図書館という碑の代わりで建てられたものが多い。
・名前にこめられたもの 「市立」でなく「市民」。誰が作ったかは関係ない、誰のための施設か。
・「市民のためならなんでも」がモットー。ノウハウもない、20代の職員中心に。レコードコンサートの定期開催も・・・
☆県立図書館新館落成 50年6月
3.移動図書館(BM) 機動力を持った図書館
・50年4月に貸出し文庫開始(移動図書館の前身、85グループに貸出し)、51年4月移動図書館
①全市民サービス 一番遠いところから。「いつでも、どこでも、だれにでも」の第一歩
当時、車もなく、名古屋にあった舞台付のバスを参考に作成(中央に書架3千冊、座席、屋根が舞台、後部に踊り場、スピーカー付)。その後、より細い道に入れるよう小型の車も購入。
~ 「市民とともに」、その根幹に移動図書館があった。
②巡回農業文庫と農業相談 足のない県の農業改良普及員を積み、営農指導とともに
③巡回労働文庫と労働相談 当時、JHQの指令が行政が労働組合づくりを指導。それとタイアップして
④九州大学医療部巡回診療に協力 戦後、国立大が地方を巡回診療。しかし足がない。そこで「人の心を癒すのが読書なら、まず病気を治すのが先決」と医者、看護師などを乗せて巡回
⑤移動図書館の児童サービス
海浜文庫、林間文庫、社会科教室、採集会など多様な活動
4.図書の消耗品扱い
・利用本位の図書館管理、全ての手続きを民主的に—市民本位の例規の点検
5.出版事業
日本の出版は過度に東京に集中して、地方を完全に埋没させているが、地方にも出したい本があり、世に問いたい研究がある。これは「日本の中の高知」という視点から「高知のなかの日本」に変えていく活動。
→ 市民のもとめるものを提供するのが図書館、すばらしいものが「地方だから」と出されないのはダメ。マスコミは売れる本は出すが地道な研究、資料などはでない(アメリカは、それを大学の出版局が保障。日本の研究者の多くも日本で本が出せず、アメリカで出している。)
・出版を通じ築いた大学の研究者との関係は、有形無形に、行政のレベルアップにつながった。数年前に、高知市は出版事業を廃止したが、単に目先の経費の問題ではない。
6.読書会など小集団学習の推進
・年間300回以上開催。生活の中の本音発掘、憲法学習と教科書無償運動
7.ユネスコ協同図書館事業(日本で唯一)
・世界各地で先進的な活動をしている図書館を、ユネスコを通して結びつけ、相互に啓発し、協力しあうことによって、その国の図書館活動をさらに伸ばしていこうというもの。
「本当の図書館はこういうものだということを、先駆的にしめしてれたのは高知市民図書館である。この図書館は昭和20年代後半から30年代の終わりまでの間、日本の市立図書館の先頭に立って機関車の役割を果たした」
(「世界」 昭和47年11月号「日本の潮」 岩波書店)
8.分館開設 /57年旭から。現在6分館、16分冊、蔵書96万冊
9.本館新設 高知方式―― 逆攻めの図書館奉仕網整備
①「いつでも、どこでも、だれにでも」の奉仕網整備
最初の本館は、空襲にあった金属性の倉庫を活用。まず移動図書館、次に分館、そして最後に本館と・・・すすめた。
②点字図書館開設
・「どこでも、だれにでも」と考えると当然あるべきもの。障害者を排除しないのは「基本中の基本」。図書館として一体的に運営するのは当然。今は、分けられ特殊化している。
→ユニバーサルデザインの発想。この発想で市の施策、施設の総点検が必要では
・県に「つくれ」と掛け合ったが、相手にされず「それなら市でつくろう」となった。
・高知市の点字図書館は、憲法論など難しい本の点訳がたくさんあり、全国から貸出しの要望がある。もっと充実させるべき。情報センターとしての機能があってよい
10 特殊文庫(誇るべき資料群)
・平尾文庫、奥宮文庫、楠瀬家資料、若尾文庫、安芸文庫、大野文庫、近森文庫、寺尾写真文庫など
Ⅱ.これからの図書館に求められる機能
1.情報提供機関―― 地域の知的情報センター
①民主主義は知的に独立した市民の社会
②住民の生活と地域が豊かになるための情報、資料を全く自由かつ的確、迅速に提供する
③生涯学習(生涯教育)の拠点
2.具体的には
①ビジネス支援
・規制緩和、グローバル化の中の、起業、経営、販売促進、更には就職活動などに対応する広範なビジネスサービス(1.2.3次産業全般)
→ 地域を支えるのはスモールビジネス、中小企業であり、ニューヨーク公共図書館(研究図書館4館、地域分館85館)の「科学産業ビジネス図書館」は72台のコンピューターで常時無料で世界にアクセスできる。(この取組みで、リーダースダイジェスト、ポラロイドカメラ、コピー機の発明もこの中から)
アメリカの国会図書館は1900万冊。英語はその1/4で、多くの言語のものがある。ビデオなどの資料は5100万点、それでも勉強する人には足りない、と言っている。職員は5000人。日本とは桁が違う。
②市民生活の安心・安全を支えるための情報や資料の提供
・育児、家事、調理、商品の安全、品質の点検とその評価、近隣関係やコミュニティ活動などの進め方、あるいは諸取引の知識などの提供。災害対策や被害防止のための知識など生活のすべてに関する情報の提供
③健康・医療情報の提供
健康の保持をはじめとして治療、看護、介護等の知識や情報の提供が求められる
④心身障害者への「情報提供機関」としての役割(読書権の保障)
同様に高齢者や入院患者へのサービスも
⑤児童への読書サービス
幼児から小中高校生が読書の楽しさや学ぶことの楽しさを身につける広範にサービス(子どもたちの心の広場)
⑥なんでも相談室
社会に「孤独」をつくらないための共同の場/ イギリスの図書館の例。上記のような図書館の機能とそれに伴う専門スタッフを配置すれば「なんでも相談」に答えられる。みんなが気軽に相談にこれる場所。
⑦魅力ある文化環境
高知県から大都市に転居した人が一様に口にするのは、学校以外の教育環境の豊かさであり、その中には必ず図書館が含まれている。いまの人々は文化の中を生きているのである。
⑧人類の築き上げた「知的文化遺産」の保存
図書館は、人類が築き上げた古今東西の「知的文化遺産」を保存し、後世に伝える機関である。
→(メモ者。きちんとした博物館のない高知県にあっては、県立図書館の任務としてこの分野が特に重要であり、公文書保管とあわせ、大きな保管スペースがいる。市民図書館との合築は、何十年か先を見た議論ではない)
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