地域主権改革~社会保障を脅かす 東洋経済
憲法25条に風穴をあける小泉「構造改革」をひきづく「地域主権改革」について、週刊東洋経済が「その内容を知った障害者や保育関係者が反発を強めている」とレポート。この間、マスコミも取り上げてきた「貧困」や「孤立」の問題と直結する問題でもある。こうした積極的な報道を期待したい。
【地域主権改革の内実、国の責任の希薄化が社会保障を脅かす5/24 東洋経済】
【地域主権改革の内実、国の責任の希薄化が社会保障を脅かす5/24 東洋経済】 昨年8月の衆議院選挙。民主党は「暮らしのための政治」「国民の生活が第一」(鳩山由紀夫首相)をスローガンに掲げ、大勝利を収めた。そして鳩山政権は発足とともに、改革の“1丁目1番地”(最優先事項)に「地域主権改革」を据え、徹底した地方分権を目的とした新たな制度作りに乗り出した。ところが、その内容を知った障害者や保育園関係者が反発を強めている。◆当事者の知らぬ間に障害者関連法を“改正”
ここに「地方分権改革推進計画等に関する質問および意見」と題した“申し入れ文書”がある。差出人はDPI(障害者インターナショナル)北海道ブロック会議議長の西村正樹氏。宛先は、北海道8区選出の衆議院議員で、首相補佐官(地域主権改革担当)の逢坂誠二氏だ。自身も身体障害者である西村氏は、障害者自立支援法廃止のための運動を通じて、逢坂氏とは旧知の間柄だった。
同文書が逢坂氏に送られたのは1月22日。そこには逢坂氏らが進めてきた、「地域主権改革」に対する疑念がつづられていた。
「内閣総理大臣を本部長とし、各閣僚で構成される『障がい者制度改革推進本部』が昨年12月に発足し、その下に『障がい者制度改革推進会議』が設置されました。そして推進会議の下、わが国の障害者施策は、障害者権利条約の批准と国内法の整備を基本として、5年間をかけて見直しを進めることが現政権で確認されています。ところが、同じ内閣府において、私たち障害当事者がまったく知らないところで、障害者施策の見直しの方向性が示されていました。そうなった経緯・趣旨・理由についてご説明いただきたい」
真意をただすべく、2月12日、西村氏は総務省内で逢坂氏と面談した。西村氏はその場で、障害者に直接かかわる法律に関して、当事者に何の説明もないままに見直しが進められている理由について尋ねた。しかし、「逢坂氏は、まさにこれから決めていくことで、今は申し上げられないと繰り返すばかりで、きちんとした説明はなかった」(西村氏)。
その後、西村氏には何の連絡もないまま、障害者関連の法改正も含む地域主権改革関連法案が提出され、4月27日に与党3党の賛成多数により、参議院で可決された。◆住民意見の聴取義務や施設の防火基準まで廃止
あまり知られていないが、現在、衆議院で審議中の地域主権改革は、社会保障や教育など、国や地方自治体が担う公共サービスの仕組みを根本から変えることを狙ったものだ。
昨年10月7日、内閣府の地方分権改革推進委員会(丹羽宇一郎委員長=当時。同11月に活動を終了)は、「自治立法権の拡大による『地方政府』の実現へ」と題した第3次勧告を鳩山首相に提出。「国による自治体への義務付け・枠付けの見直しと自治体による条例制定権の拡大」、および「国と地方の協議の場の法制化」を主要課題に盛り込んだ。
従来、国はさまざまな法律や政省令などにより、地方自治体が実施する施策に関与してきた。それらのうち、自治体に一定の活動を義務付けることを「義務付け」、手続きや基準について枠をはめることを「枠付け」と呼ぶ。そして自治体の自治事務における義務付け、枠付けは地方分権の趣旨から望ましくないため、必要最低限を残して廃止すべきだと委員会は提言した。
12月15日に「地方分権改革推進計画」が閣議決定され、地方分権が「地域主権」と呼び名を変えて改革が始まった。地域主権の実現のうえで優先的に見直す対象として挙げられたのが、保育園や特別養護老人ホームなど福祉施設に対する国の関与だった。先の第3次勧告は、厚生労働省が定めた児童1人当たりの保育園の最低面積基準や、保育園や障害者施設、特別養護老人ホームに関する防火・防災基準は廃止が望ましいとした。自治体が独自の判断で基準を設けるべきだとしたわけだ。
そして義務付け、枠付けの廃止・縮減を目的として、児童福祉法や障害者自立支援法など41法律の一括改正を目的とした、「地域主権改革関連法案」(3法案)が参議院に提出されたのが、今年3月29日。しかし内容が障がい者制度改革推進会議に報告されることはなかった。
西村氏が問題の重大性を知ったのは、今年に入ってからだ。旧知の労働組合幹部から「大変なことが起きている」と耳打ちされたのがきっかけだった。そして地域主権改革の内容を知って驚愕した。
改革の第1弾に当たる今回の法案では、国が定める障害者施設の防火・防災基準が、自治体にとって順守義務のない「参酌基準」に格下げされた事実が判明。
さらに今年度中に予定されている2次法案では、障害者基本法やバリアフリー法、障害者雇用促進法なども見直しが予定されていることがわかった。そして検討されている改正内容を聞いて、西村氏はさらに驚いた。
昨年10月の第3次勧告で示された案では、バリアフリー法について、こう書かれていた。「住民や施設の利用者である高齢者、障害者など利害関係者の意見の反映については、従来、国の基準として講ずべき措置だったが、廃止または意見聴取の努力義務・配慮義務化が望ましい」。
また障害者雇用促進法に関しても、「障害者の採用に関する計画の策定については、これまで策定が義務づけられていたものを廃止または『できる』規定化、努力義務化、規定の例示化、または目的程度の内容への大枠化を講じるべき」とされた。
つまり、障害者政策に関する国の責任を後退させる内容を含んでおり、当事者の知らぬ間に法案化の準備が進められていたのである。
◆保育関係者が受けた衝撃も大きかった。
第3次勧告は保育園の面積基準や職員配置基準を定めた全国一律の児童福祉施設最低基準を廃止し、「国は(順守義務のない)標準や参酌基準を示すにとどめるべき」とした。「自治体が条例により自由に基準を定めることで、創意工夫を生かした保育園の運営が可能になる」というのが、委員会の主張だった。
が、基準を自治体に委ねた場合、狭い保育園にさらに多くの子どもが詰めこまれることによって、保育の質が低下する懸念が持たれていた。日本の保育園の最低基準(3歳以上の児童1人当たりの面積基準)は、先進国中で最も低い水準にとどまっている(下図)。基準の引き上げが必要なことは、最低基準が制定された1948年以来、長きにわたって指摘され続けてきた。
しかし、引き上げではなく、国が定めた最低基準よりも低い基準を条例で設定できることが、法案に盛り込まれた。児童1人当たり面積は「自治体が従うべき国の基準」として残るものの、東京都など待機児童が多い地域では当分の間、順守義務のない標準とされたのである。建築基準法に上乗せされていた防火・防災基準の撤廃も盛り込まれた。
◆補助金の一括交付金化で社会保障予算は削減も
地域主権改革で、もう一つの重要な政策が、「ひも付き補助金」の「一括交付金」化だ。これは、政策ごとに細かく定められてきた国庫補助負担金を廃止し、大ぐくりにすることで、自治体の裁量権を高めることを狙いとするもの。6月までに制度の大枠を定め、2011年度予算から一部実施する方向で作業が進められている。ここでも問題となるのが、社会保障や教育分野の扱いである。
民主党は昨年の衆議院選挙で「ひも付き補助金の一括交付金化」を公約に掲げた。マニフェストでは、「社会保障・義務教育関係は除く」と明記していた。しかし、ひも付き補助金の大部分を社会保障・教育関係費が占めていることが判明(下図)。現政権はこれらの補助金も対象に含めることを検討し始めた。
一括交付金化が実現すると、自治体は予算の使い道が自由になる。反面、全体の財源が不足している場合にはほかの分野に転用されたり、赤字補填に使われる可能性も高い。
そうした弊害は、先行して補助金が一般財源化(交付税措置化)された分野ですでに起こっている。たとえば、85年度に一般財源化された学校図書館の図書費では、国が交付税措置した額の77%しか、図書予算に計上されていない(09年度)。
また、がん検診では、98年度に老人保健法の対象から外されるとともに国庫負担金の一般財源化が行われ、大きな困難に直面した。「問題は受診率の低迷にとどまらない。検診の精度の低下や、有効性(死亡率低下効果)が確認されていない検診が自治体間に広がるといった、新たな問題が発生している」(国立がん研究センターの斎藤博検診研究部長)。
さらには公立保育園の運営費も04年度に一般財源化。「それ以降、財政難を理由とした廃園や、保育士の非正規職員化が加速している」(村山祐一・帝京大学文学部教授)。
本来、社会保障や教育では、ナショナルミニマム(国民に等しく保障された最低水準)をしっかりと確保すべきだ。そしてそれを上回る部分については、自治体や住民の判断で創意工夫を凝らしていくことが、地方分権の姿として望ましい。地域主権の名の下に、社会保障や教育に対する国の責任を放り出すとしたら、それこそ本末転倒である。
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