革新市政研究~「都市間競争」という仕掛け
24日、革新市政研究会の定例会。3回ほど前より、革新市政の特徴を見るために、松尾、岡崎市政へと議論が移っている。私は例によって、全国的流れの中で見るという観点で報告。
議論は。憲法、地方自治の本旨にもとづく一人一人の幸福追求・保障という役割が、「都市競争」という仕掛けのもとで、変質させられてきている。市民共同が、まったくべつの意味を持つようになっている、ことなどに議論が集中した。次回は、「新しい公共」を打ち出した05年の地方行革指針を改めて見てみようとなった。
【松尾・岡崎市政 政策の特徴2010.4】
はじめに / 全体的なスケッチ -- 前回議論を踏まえ
・公とは何か ―― 公務の質の低下、政策能力が欠けている
・萎縮する職場
職員の自己責任 リスク管理、オンブズマン → マニュアル化 / 一方、生活保護の法令違反
特定市民と幹部の癒着
・トップダウンか、ボトムアップか
マニフェスト第一・地域経営体論 → 「憲法を暮らしに生かす」 市民要求・実態が土台
革新市政 現場の第一声、ケースワーカー
・松尾・攻めの市政――イベント、モデル事業、条例など多発
・岡崎・前市政の後始末・財政再建、職員削減、アウトソーシング
Ⅰ 地方分権改革の中での「自治体」の変質 ―― 松尾・岡崎市政の時代的背景
(1) 地方自治とは・・・
・国民が権力の暴走に歯止めをかけ、国民の自由と権利を保障するよう権力を統制する立憲主義
・その統制を中央政府と地方政府の2つのルートを通じて行うのが憲法の構造
戦争の反省の上に、地方自治体は国の下請け機関ではないことを表している
・現憲法の地方自治は、社会権を背後にもっている意味で古典的な市民自治とは異なる。
・ナショナルミニマム保障と地域の歴史、文化、自然条件にあった「幸福の追求」
◆進藤兵 「分権型国家」が住民生活と地方自治を破壊する 06年
現行憲法に95条があることは、住民は、国民として見た場合は「国政の主権者」だが、同時に、地域共同体にとっては「地域的な主権者」であるということ、そして地域共同体の統治機関である地方自治体(ローカル・ガバメント)と、国民国家の統治機関である中央政府とは「権力分立」関係にあるということ、この2つが含意されている
◆辻清明『日本の地方自治』
「憲法と同日に,あたかも双生児であるかのごとく,この世に生れ出た法律は,地方自治法ただひとつ‥‥。したがって,日本国憲法の原理が衰退することは,同時にわが国における地方自治の衰運を意味し,地方自治の本旨の歪曲と縮少は,とりも直さず憲法の原理に対する侵犯と見てよい」
(2)地方分権と都市間競争
・日本の大企業が本格的な多国籍企業としてのグローバルな展開。それに適合した国のあり方としての「地方分権改革」 → 「国と地方の役割分担」、地方の権限拡大=規制緩和と地域間競争
◆「地方分権の実現に向けた政治的決意を期待する」 1994年10月20日 経団連
本格的な地方分権実現への期待と機運が高まっている。わが国が国際社会における責任ある役割を果たすとともに、国内においては多様で活力ある豊かな経済社会を実現するため、明治以来の官主導・中央集権型の国家システムを、今こそ民主導・地方分権型に抜本的に改革すべきである。
◆1996年 経団連『魅力ある日本―創造への責任:経団連ビジョン 二〇〇二』
情報通信技術革命と新自由主義的な経済グローバリズム→「一国フルセット型産業構造」からリージョナル「ハイブリッド型産業構造」への転換→能動的な外交・防衛・マクロ経済政策への中央政府の「力の集中」→内政分野での民間化と地方分権 → 「地方分権」改革が経済社会・国家全般の再編のなかに位置づけられている
「真に豊かで活力ある市民社会」を建設するにあたっては、国民一人ひとりが、
1多様な個性、能力を活かして、主体的に経済社会の運営に参画する能動性、
2行政・会社への依存意識、もたれ合い意識を払拭し、自己責任原則をわきまえ、自助・自治意識に基づいて行動する自律性、
3倫理規範の遵守、権利と表裏一体の関係にある義務の履行を図るとともに、社会と個人的利益とのバランスをとる社会性、
を備えることが基盤となる。
◆ 新しい全国総合開発計画に関する提言 1996年 経団連
-「新たな創造のシステム」による国土・地域づくりを目指して-
「急速に高齢化が進行し経済社会の活力低下が危惧されている今こそ、地域は、大競争時代の到来を認識し、住民や企業に選択される魅力ある地域づくりのための具体的な施策を提示するなど、主体的に取り組むべきである。」(はじめに、より)
「高齢社会の到来、国民の価値観の多様化や女性の社会進出、さらには若年労働者の将来的な不足に対応して、高齢者や若者、女性、障害者など、あらゆる層にとって魅力ある地域づくりを行なわない限り、人口の定住を通じた地域の発展は考えられない。また新産業・新事業創造の拠点としても、内外企業が求める条件を満たした地域をつくりあげなければ、地域は大競争に生き残れない。」(国土づくり・地域づくり戦略のあり方)
◆活力と魅力溢れる日本をめざして 2003年 経団連
・ 「公」を担うという価値観が理解され評価される
こうした社会においては、国が「公」<おおやけ>の領域を規定し、隅々まで神経を行き届かせて統治するのではなく、自立した個人が意欲と能力を持って「公」を担っていく。そのためには、個人の多様な必要性や欲求に柔軟に対応できるよう、官と民、国と地方の役割を根本から見直し、地域が主体となって新しい豊かさを発信していく。そのため州制を導入する。
また、地域の自律を促すためには、「公」を担う意識を持った個人がフラットなネットワークを構築し、協力的市場の形成を通じて、地域にある潜在的な需要を顕在化させていく。
◆改憲型地方分権改革批判 二宮厚美 「新自由主義の破局と決着」09年より
☆国と地方の役割分担論 --- 補完性の原理をすりかえた地方分権論 /自民党・新憲法草案
・地方自治体の性格の切り替え~ 自治体はもっぱら「住民に身近な行政」を担う(91条の2)
→ 国と地方の役割分担、機能分担を行う 「適切な役割分担」(92条)
1999年「地方分権一括法」で改定された地方自治法ですでに採用されている。
・改定地方自治法の規定は、地方自治の拡充、分権化の推進に積極的意味をもつように見える。「世界地方自治宣言」の「補完性の原理」沿ったものという評価が生まれている~ はたしてそうか?
・「補完性の原理」とは・・・
「公的な責務は、一般に、市民に最も身近な当局が優先的に遂行するものとする。その当局への責任の配分は、その任務の範囲と性質及び効率性と経済性の要請を考慮してきめなくてはならない」(ヨーロッパ地方自治憲章)
~公的な責任・責務は、まず住民に身近な公共団体に割り当てる。基礎自治体で手に余る責任は、他の広域自治体や全国機関に委ねる、という考え方。
・「草案」は、公的責任の分担論でなく、国・地方の役割分担論に立っている。
→「住民に身近な行政」にまず、公的責任を割り当てているのではない!
→これは「補完性の原理」のすりかえ/「責任分担」と「役割分担」は、分権といっても大きな違い
「責任分担」では、教育、福祉の「役割」は、国・地方で分有、共有されるが、「役割分担」では、国の役割から教育、福祉は外されてしまう。
☆NPMの適用・濫用
・民間企業の経営手法を公共部門に適用する方式。
・住民を、自治体の主権者・主人公であるというより、行政サービスの顧客と捉える。そこから官僚制にもとづくトップダウン型の行政管理方法となる。
①戦略課題の政策評価、財政効率化を目標にした行政評価をとおし、サービスの優先順、「範囲」をきめる
②政策課題、行政目標を達成する手法の選択肢が考案され、最小の経費で最大効果を狙う
③「公民間のコスト比較」を基準に、民間委託や公共セクター内の効率的経営手法が推進される。
~ PFI、独立行政法人、指定管理者制度、市場化テスト法、公益法人改革
☆公共から地域経営体へ -- 市民や企業に選ばれる地域づくり
・新しい公共 地域アクターの戦略本部としての自治体、民営化、NPO /自助、共助、公助
①自治体を戦略本部として規定 /自治体の実働部隊の役割は副次的なものに
②自治体業務のアウトソーシング化/ 実働部隊は、営利企業とNPOに代表される民間主体に委ねる
③地域の公共空間は、直営の行政部門、民間の営利企業、ボランティアやNPOという三者の協働で担われる
・自治体は、公共セクターというより、一種の地域経営体のイメージに塗り替えられる。新自由主義の課題は、戦略本部として、経営体となった自治体行政に、民間手法を注入することとなる。
☆自己責任と受益者負担主義の徹底
・介護保険 措置から契約に。 「官から民へ」
◆金井利之・東京大学教授 ガバナンス 09年9月号
「近年、各地の自治体では、住民自治組織が自治体行政に依存しないで、課題解決にあたり、公共サービスの担い手となることが、『住民自治』として唱導されている。しかし、これは『住民自治の矮小化』というべき現象である」「住民の意向に従って自治体行政に仕事をさせるという、自治体に対する民主的統制の発想が『住民自治』から消え去っている」
◆島恭彦による「地方分権」批判/ 1951年「現代地方財政論」
「地域的不均等発展は、まず地方財政間の水平的な財政力格差を、次には国と地方の間の垂直的な財政力格差を拡大する要因になる。もしそうだとすれば、国の財政によって垂直的かつ水平的な財政格差をならす財政的中央集権こそ必然であり、地方固有の財源で地方固有の事務をまかなうことを建前とする古典的地方自治は1つの空語ではあるまいか。地域不均等発展の法則が作用する段階では、問題は中央集権か地方自治かでなく、民主的中央集権にささえられた民主的地方自治であろう」〔83年、著作集、「はしがき」より〕
Ⅲ 松尾市政・岡崎市政の主な施策
【松尾】
・「攻めの政策展開」、都市間競争、高度開放時代、積極財政、中核市
・区画整理、かるぽーと、清掃工場、龍馬スタジアム、黒潮アリーナ、土佐橋、小学校新設 /98豪雨対策
・産業活性化条例(長浜工業団地、ソフトウェア団地)、
・高知市高齢者憲章、名誉市民条例、都市美条例、里山保全条例、まちづくり条例
・コミュニティ計画、市民活動サポートセンター、公園整備、シネコン問題、窓口センター(支所廃止)
・子どもの医療費無料化(鍋島候補の公約への対抗)なごやか宅老所、学童保育 /介護保険スタート
・東部・南部健康センター、病院統合
・文化振興ビジョン、エコタウン、スローライフ推進計画、IT推進本部
・土曜市、よさこい全国大会、竜馬副読本、武家屋敷保存、高知城400年祭、龍馬の生まれたまち記念館
・特定市民、横内小建設、中学校弁当問題
【岡崎】
・「財政再建団体転落の可能性」への対応。執行停止、民営化、事務事業見直し、定員2700名体制(中核市平均130人に1人)
・不当要求対策要綱設置、補助金・不適切発注で2つの特別委員会、保育所裏金問題、
・市営住宅・火災保険未加入で職員への賠償、リスク管理、改革推進室と目標管理
・国保、障害、高齢者、寡婦の独自減免廃止、家庭ごみ収集有料化方針
・鏡・土佐山、春野との合併 /墓地問題、未登記土地問題など
・コールセンター誘致、若者就職応援センター
・西部健康福祉センター、青年センター、総合あんしんセンター、江ノ口コミュニティプラザ
・南四国をリード /追手前小学校廃止決定・中心市街地活性化プラン。環境モデル都市
「より激化していく都市間競争に打ち勝っていくためには,一定の基盤整備は今後も必要」
(「新高知市財政再建プランの策定にむけて」より 09年2月)
・「市民協働部」発足
Ⅳ その特徴 ―― 公務労働の変質、劣化
①都市間競争、新しい公共など、地方分権改革の流れの導入
松尾市政では「攻めの政策展開」で、市民・企業から選ばれる地域づくりを国のモデル事業を積極的に導入し展開した。岡崎市政も同じ発想ながら、財政危機を前に、「新しい公共」にもとづく自治体リストラを担っている。
②トップダウン、マニフェスト型 ―― 公務の空洞化
下からの積み上げでなく、トップダウン-- NPM手法。 議論のない庁議、職場への変質
しかも、「特定」な勢力・個人の意見が重用される運営(たとえば特定市民・特定業者問題、中心商店街、部落解放同盟)が、職員のモチベーション、モラルの低下を招いた。
そのほころびを、岡崎市政ではリスク管理、職員の自己責任、短期の異動という手法により、さらに職場の専門性の低下と萎縮というマイナスのベクトルを生み出した。
③市民主導、市民協働の強調
「市民と行政のパートナーシップ・まちづくり条例」、「市民協働部」設置など。しかし、②で指摘した内容から言えば、真の住民自治としてのものか。「新しい公共」の考えのもと、「住民自治の矮小化」ではないか。
・07年12月14日 岡崎市長答弁
「いわゆる公務員としての公務労働の専門性につきまして御質問をいただきました。
平成17年3月に国から示されております地方行革指針の中で,これまで行政が主として提供してきました公共サービスにつきましても,今後は地域において住民団体の皆様方を初めNPOや企業等の多様な主体が提供する多元的な仕組みを整えていく必要があるというふうに国からも示されておりまして,従来民間では担えないとされてまいりました公務労働の範囲や意義につきましても,それぞれ現在その認識も変化をしてきているところでございます。」
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