原発・石炭火力—時代錯誤の「エネルギー基本計画」案
気候ネットワークが5日、資源エネルギー庁の「エネルギー基本計画」骨子案について、旧来型の化石燃料資源利用拡大と原子力発電の利用拡大を主軸に置いた「時代錯誤的なもの」として「気候安全保障」の観点を入れた政策の確立を訴えている。
【「エネルギー基本計画」骨子案 再生可能エネの大幅普及を中心に、新しい次世代エネルギーシステムを構築するべき4/5】
鳩山内閣の「CO225%削減」案(地球温暖化対策基本法)は選挙詐欺とも言えるひどい内容だったが、それとはある意味、整合性がある。ということはここがやはり本心なのだろう。
【「エネルギー基本計画」骨子案 再生可能エネの大幅普及を中心に新しい次世代エネルギーシステムを構築するべき】 2010 年4 月5 日 気候ネットワーク資源エネルギー庁はエネルギー政策基本法に基づく「エネルギー基本計画」の見直しに着手し、3月24 日、「今後の資源エネルギー政策の基本的方向について~「エネルギー基本計画」見直しの骨子(案)~」を発表した。その内容は、2030 年に向けたエネルギー政策の方向性として旧来型の化石燃料資源利用拡大と原子力発電の利用拡大を主軸に置き、今後20 年を突き進もうとするもので、時代錯誤的なものとなっている。
◆視野にない「気候安全保障」の観点 …今日課題を見誤っていないか?
骨子案の冒頭に示されているのが「エネルギー安全保障」の概念であり、「総合的なエネルギーセキュリティの確立、資源確保・安定供給の強化」を図るとする。その必要性を否定するものでは全くないが、ここに「気候安全保障」の視点が完全に抜け落ちている。これをあわせて掲げ、「気候・エネルギー安全保障」の課題としてとらえることが不可欠である。
化石燃料の大量使用が引き起こした気候変動が加速していることを裏付ける情報は日々増えている。今後、エネルギー起源のCO2 の大幅削減を図らなくてはならないことにもはや議論の余地はない。気候の安定化を失えば、国家の安全保障問題へと拡大するリスクが大きく高まる。低炭素経済社会を構築するためには、何よりもエネルギー政策においてCO2 排出削減を確実に進め、低炭素なエネルギーシステムを構築しなければならない。
しかし、本骨子案では、気候リスクを低減することもCO2 を減らすことも前提にせず、「エネルギー安全保障」を確保しようとしている。日本の温室効果ガス排出の9 割はエネルギー起源CO2 であるのに、この政策方針で2020、2030 年にCO2 がどれだけ減るのか示されず、政策目標にもない。
しかも、「エネルギー安全保障」を図る方策は、資源の確保・拡大という一面的な視点によるものだ。
これからのエネルギー政策を、「気候安全保障(クライメート・セキュリティ)」を総合的な「エネルギー安全保障(エネルギー・セキュリティ)」と同列に位置付けることなくして、時代に合ったエネルギー政策といえるのだろうか。◆進めるべきは再生可能エネルギーではないのか?
骨子案では、自給率を高める必要性と資源の安定供給の必要性が強調されている。太陽光や風力、バイオマス、地熱といった再生可能エネルギーこそ純国産エネルギーであり、その安定供給のための促進策を第一に位置づけられるべきはずであるが、その位置づけは極めて弱い。逆に、骨子案では、広義に、原子力も“準国産”と呼び、日本企業が権益を確保した化石燃料の自主開発資源をも含め、これをもって広い意味での自給率を上げるとしている。
しかし、国内にウラン資源のない原子力が“国産”ではないことは言うまでもなく、石炭や石油の資源獲得に権益を拡大することを「自給率を高める」とするにも無理がある。
「気候安全保障」と「エネルギー安全保障」の両方を考慮に入れ、資源のない日本がこれから最優先に進めるべきエネルギーは、まぎれもなく再生可能エネルギーであるはずだ。にもかかわらず、その大幅な導入拡大と推進政策が示されていないのは、基本の筋道を誤っているのではないか。◆原子力推進・石炭火力推進が、本当に未来のために選ぶべき道なのか?
骨子案では、原子力発電の推進(2020 年までに8 基増設、85%の設備利用率)と、石炭火力を中心とした火力発電の推進の方針を明示している。
原子力の推進は、これまでと同様に、電源のベストミックスと称して、中長期的な基幹電源と位置付けられている。これまでの地球温暖化対策は原子力発電の推進を前提に設計され、省エネや再生可能エネルギー対策が十分取られてこなかったが、事故やトラブル、地元の反対等で原発計画は予定通りに進まず、その分石炭火力発電等の増加によるCO2 排出増加を招いてきた。今後も原子力の推進を基本とすることは、地球温暖化対策の過去の失政を繰り返すものである。また、原子力の経済性は、多額投入される公的資金、放射性廃棄物の長期的管理の費用を含めて考えれば、全く疑わしい。また、火力発電の中でも骨子案で強調されているのは、化石燃料の中でも最もCO2排出の多い(天然ガスの1.8倍)の石炭火力発電の推進である。「コスト・供給安定性の面で優れたエネルギー源」として、新たに石炭火発を新増設することは、気候変動問題への対処と相反する方向性である。
このような原子力・火力発電を中心とした大規模発電システムの延長は、低炭素型のエネルギーシステムの構築を実質的に困難にしてしまう。これが本当に進むべき未来の選択だろうか。◆再生可能エネを軸にした次世代エネルギーシステムの構築を
「気候・エネルギー安全保障」の観点に立てば、エネルギーシステム全体が大きく変わらなければならない。スマートグリッドに代表される新しい次世代エネルギーシステムは、まさに、現行の原子力・火力発電を中心とする大規模発電を中心にしたエネルギーシステムから、再生可能エネルギーを中心とした分散型のエネルギーシステムへの転換を可能とし、需要側の管理やピークカットを進め、再生可能エネルギーを最小限に使って最大限の効用を得ることを実現する「賢い」システムのことである。
しかし、骨子案に書かれた次世代エネルギーシステムはそうした大転換を展望したものではなく、むしろ、これまでの原子力・火力発電中心の大規模発電を継続する方針に沿って既存のシステムを基本とするもののようである。2030 年に向かっては、再生可能エネルギーを中心にした、現在と全く異なる新しい「エネルギーシステム」の構築を展望して対策を講じていく必要があるのではないか。◆新しいエネルギーシステム作り、雇用づくりのための政策を
前述のような、再生可能エネルギーを中心にした新しい次世代エネルギーシステムを構築していくためには、再生可能エネルギーの推進策(全量の固定価格買取制度の導入や、制度的障害の見直し等)や、エネルギー供給及び需要側の最大部門である産業部門に対して直接排出でCO2 排出制約を課す制度(キャップ&トレード型の排出量取引制度)が、その推進を担う中核の政策となる。
また、骨子案にあるような化石燃料やウランの資源獲得や権益拡大のために多額の資金を投入するのではなく、高騰が予想される化石燃料輸入費を減らし、その分国内投資として、純粋な国産エネルギーである再生可能エネを普及させ、それを「賢く」使うためのシステム作りに先行的に投資を行うような方向性を目指すべきである。それが新たなエネルギー産業及び関連産業に新規雇用を作り出すことを確固たるものにする。
残念ながら骨子案の方針は、今後わずか数年間の、既存のエネルギー関連会社にとっての利益だけを考えたものとなっている。これからの日本経済社会の発展や新規雇用の創出、気候の安定に向けて、少し長い目で中長期の利益を考えるならば、これとは全く異なる未来に希望の持てるエネルギー政策が描けるはずである。将来を見誤らないエネルギー政策を市民とともに作ることを求めたい。問合せ:気候ネットワーク 東京事務所
TEL:03-3263-9210, FAX:03-3263-9463, E-mail: tokyo@kikonet.org
http://www.kikonet.org__
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