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民主党の農政をどうみるか /農民連

 政府が「成長戦略」の内容として「農業の戸別所得補償制度をてこに農産物の関税を引き下げ、自由貿易協定(FTA)を推進」を検討していることを共同通信が配信したことにふれたが・・・
【農産物の関税引き下げ 政府「成長戦略」】
 民主党の農業政策について、農民連の真嶋良孝副会長の報告がアップされている。
民主党の農政をどうみるか(1/2)
民主党の農政をどうみるか(2/2)

 冒頭の民主党の3つの構成要素は、渡辺治氏が頭部、胴体、手足になぞらえ盛ん展開している論であるが、その頭部である新自由主義、自由化路線の危険性が、具体的な発言、資料で裏付けられており、勉強になる。

【民主党の農政をどうみるか】  民主党は(1)自由貿易・市場原理主義の新自由主義派、(2)「利益誘導型」「開発型」政治グループ、(3)多少なりとも国民的要望を反映するグループの“雑居ビル”的構成をもち、政策面では(1)~(3)の“つぎはぎ”的性格をもっています。  こういう性格のうち、どれが前面に出てくるかは、私たちの運動や監視にかかっています。

(1)鳩山政権は自由化の流れを急加速している
 (1)アジア・太平洋FTAを提唱
 日米FTA(自由貿易協定)をはじめとする自由化路線と戸別所得補償の抱き合わせというマニフェストは、“つぎはぎ”のなかで、新自由主義路線が露骨にあらわれた部分でした。これは国民的な反撃をあびて、「修正」されました。
 修正前のマニフェストは「米国との間でFTAを締結し、貿易の自由化を進める」と明記していましたが、修正では「締結」が「交渉を促進」に改められ、さらに「その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない」と付け加えたのでした。
 ところが、鳩山内閣が政権獲得後に着手したのは、日豪・日中韓・APEC(アジア・太平洋経済協力)レベルのFTA推進でした。とくに問題なのは、12月30日に閣議決定された「新成長戦略」の目玉として、アジア・太平洋FTAが打ち出されたことです。
 APECは太平洋に面する21カ国が加盟する世界最大の経済フォーラムで、日本がFTAを結んでいない主な国――アメリカ、中国、オーストリア、ニュージーランド、韓国、カナダ、ロシアなどが含まれています。
 要するに、日米、日豪、日加、日中などのFTAを一本化したアジア・太平洋FTAを一挙に結んでしまい、「あらゆる経済活動の障壁を取り除き」「貿易を自由化する」という計画です。
 アジア・太平洋FTAが結ばれれば、米や小麦、畜産物、砂糖などに加え、野菜・果実・加工食品・果汁など、ほとんどすべての農産物に影響が及び、WTO妥結を待つまでもなく、日本農業が壊滅の危機に直面することは必至です。

 (2)背景にあるのは、相も変わらぬ財界の圧力
 「新成長戦略」のもとになったのは、経産省が10月から12月にかけて開いた「成長戦略検討会議」で、メンバー6人中、財界関係者は丸紅会長・東芝会長を含め4人。自民党政権時代にも見られなかった偏った構成で行われた議論は、「日本は農林水産業の制約があり難しいというが、周辺諸国で交渉が進む中、残された時間は少ない」「農業を中心とした国内改革が前提になる」などというものでした。
 また、御手洗経団連会長は「FTAの推進にも取り組んでもらっており、民主党政権になっても経団連の考えは反映されている」と勝ち誇っています(「フジサンケイ・ビジネスアイ」1月5日)。

 (3)WTO交渉でも
 さらに赤松農相は「WTO交渉は、旧来から姿勢は変わらない。しかし、この内閣の方針は、できる限り自由貿易に向けてやっていこうということだから、そういう方向で話がまとまるように努力する」(1月26日)と述べています。

(2)戸別所得補償の前倒し・「満額確保」は自由化推進の条件づくり
 (1)原点は代表就任直後の小沢発言
 鳩山政権の自由化熱中ぶりは自民党政権時代以上というべきでしょう。大問題なのは、戸別所得補償が自由化推進の条件づくりだということであり、とくに小沢幹事長は、このことを公言してきました。原点はここにあります。
 小沢一郎氏は代表に就任した06年に「民主党が政権を取ったら、米国と自由貿易協定を結ぼうと考えています。韓国とも中国とも結ぶ。ただし、結ぶからには例外はなし。金融も何もかも全部自由化する」「日本の農水産品の総生産額は13兆円ですよ。それを全部(つぶして)補償したところでタカが知れている」とぶちあげました(『月刊BOSS』06年6月号、このほかテレビ・新聞でも同趣旨の発言)。
 また小沢氏は、昨年8月のマニフェスト修正騒動のさなかにも「(自由化で)農産物の価格が下がっても所得補償制度で農家には生産費との差額が支払われる」「農協が一方的にわいわい言っている。ためにする議論でしかない」と述べて「修正」に反対しました。

 (2)「戸別所得補償」で参院選を乗り切り、その後に自由化?
 「貿易自由化は民主党の基本路線で、来夏の参院選以降は、WTOの議論の進展に合わせ、自由化シフトを強める可能性もある」(「産経」09年9月12日)という観測があり、農協などが抱いている根本的な不安もこの点にあります。
 また、連立政権合意には「日米FTA」は盛り込まれておらず、福島社民党党首は「体を張って(交渉入りや締結を)止める」と述べましたが(日本農業新聞9月10日)、与党内部でも、民主党内のグループや社民党などの抵抗が予想されます。
 そのために持ち出されたのが、マニフェストを1年前倒しして戸別所得補償モデル事業を実施することでした。財源難を理由に財務省が難クセをつけ、予算の8割カットを要求して暗礁に乗り上げたとき、「政治主導になっていない!」という鶴(タカ?)の一声で「満額確保」を命じたのは小沢幹事長だったという事実は決して軽く見るわけにはいきません。

 (3)自由化熱中の致命的弱点
 民主党は「風頼み」の党であるという弱点を持っており、その克服のために小沢幹事長が自民党支持基盤の掘り崩しをはかっています。しかし、これ以上の輸入自由化は農業団体や農民、さらに消費者の強い反撃を呼び起こさざるをえないという致命的な弱点を持っています。
 また、民主党政権の自由貿易原理主義は、お金さえ出せばいくらでも食糧を買えるという破たんした前提にしがみつき、世界的な食糧危機の打開をまともに考えていないという点も重大な弱点です。
 大宣伝や農業団体との共同、与党を含むすべての政党に対する働きかけを強めることが求められています。

(3)農業予算を切り刻んでスタートする戸別所得補償は、経営の立て直しと農業再生・自給率向上に本当に役立つのか
 (1)自民党農政を修正する側面がある
 「米戸別所得補償モデル対策」「水田利活用自給力向上事業」は、市場原理一辺倒の農政の転換や、強制減反の見直しという点で、自民党農政に一定の修正をもたらす側面があります。当初案で大幅に減額されていた転作への助成が、農民連をはじめ、関係者の運動を反映して「激変緩和措置」として上積みされたことも重要な成果です。
 したがって、私たちは、自分の経営に役立つかぎりにおいて、この制度を活用するとともに、この制度の次のような弱点・限界を徹底的に批判し、農民の要求にもとづく制度に改めさせる必要があります。
 また、この程度の「支援」策を口実に、自由化するなどというのは絶対に許されない、私たちはだまされないという宣伝を大いにやることが重要です。

 (2)農民の願いからも、選挙公約からも後退した戸別所得補償
 (ア)1万3703円で米をつくれというのか
 07年夏の参院選では、民主党の次のようなビラが反響を呼びました。
 「コメがたとえ1俵5000円になってしまったとしても、中国からどんなに安い野菜や果物が入ってきても、すべての販売農家の所得は補償され農業が続けられます」「例 市場価格5000円+補償額1万円=合計収入1万5000円」
 多くの農家の期待は、せめて1俵1万5000円になるというものだったはず。しかし、戸別所得補償の定額部分の交付単価を全国一律に10アールあたり1万5000円に設定し、補償の上限を1俵1万3703円にとどめています(表1)。
 これは、農水省が調査した米生産費1俵1万6690円に比べれば3000円も赤字です。
 その秘密は、稲作農家の家族労賃を2割カットしたことと、自作地地代・自己資本利子を含む全額算入生産費ではなく、支払利子・地代算入生産費を使ったことです。
 鳩山政権は、あまり高く補償すると「貯蓄に回ったりするなどモラルハザードが起きるおそれがある」から低くしたと強弁していますが、よくも言えたものです!

 (イ)全国一律でいいのか
 筒井信隆・衆院農水委員長(前ネクスト農相)は「全国一律に交付するところにミソがある」「適地適作を促す仕組みである」と述べています(農業協同組合新聞1月10日)。
 しかし、1俵1万3703円以下の生産費は北海道だけであり、四国・中国ブロックは、補償されてもなお1万円近く赤字です(図1)。「適地適作」の名で、東海から九州にかけての米作りを一掃するつもりなのかといわざるをえません。

 
(ウ)戸別所得補償分の買いたたきは必至
 「所得補償は歓迎だが、補てん分を見込んで卸業者から値下げを求められる危険性がある」(日経1月9日)と報じられており、すでに大手卸は「値下げ」を公言しています。買いたたきに対する「対策を準備しておくことが必要ではないか」という質問に、筒井農水委員長は「大型量販店の価格形成力に問題がないとは思わないが、それに対抗するには直売所や産直を広範に広げ……流通形態を変えることが課題」と、問題をそらし、政権としては何の手も打たないことを公言しています。
 産直など「もう一つの流通」が重要なことはいうまでもなく、私たちはすでに実践しています。しかし、買いたたきを規制すべき政府・与党が問題をそらすのは無責任きわまりないといわなければなりません。さらに、米価が下がった場合に支払われる「変動助成」は1俵1200円といわれていますが、これもまた買いたたきの誘因になりかねません。これでは“農家戸別所得補償”ではなく、大手流通資本の“所得補償”になりかねません。

 (エ)「激変緩和」―本当に転作助成の目減りは避けられるか?
 「シンプルでわかりやすい助成体系」の名のもとに、画一的な助成体系にした結果、転作助成金が激減するという問題が火を吹きました。あわてた政府は、08年の助成金と2010年の助成推定額の差額を地域協議会単位に調べあげて差額を310億円とはじきだし、これを「激変緩和」予算として、とりあえず転作助成の目減りを避けることにしました。
 これで一件落着かに見えたのですが、それほど甘くはありません。
 山田農水副大臣は「激変緩和措置を来年も再来年も、ずっと続けて欲しいという期待もあるようだが、あくまで激変緩和措置だから、国と相談しながら、今回は、慎重に、できるだけ限定的にやっていただきたい」と発言しています(1月21日の記者会見)。
 これは、第一に激変緩和は1年限りの措置であり、来年以降も続く保証はないという意味です。
 第二に、転作助成の差額が無条件に補てんされるわけではなく「限定的」なものにとどまります。
 「限定的」の意味は、(1)「その他作物」(1万円)への助成を減らしたり、飼料作物の単価を減らすなどの「自助努力」によって目減り額を減らすことが大前提、(2)そのうえで、どうしても大幅な減額になる場合に、国の審査を受けたうえで激変緩和枠を使うことができる――という意味です(農水省の「Q&A」による)。すでに宮城県や秋田県などが県独自の予算で目減り分を補てんすることを決めており、こういう動きは全国に波及する見込みです。子ども手当も転作助成も地方負担――これでは「地域主権」の名が泣こうというものです。
 さらに、農水省の担当者は「野菜や果実、花などはいくら増産してもカロリー自給率向上に寄与しない。今回は激変緩和措置をとったが、野菜などに転作助成金を出し続けるのが妥当かどうか、今後検討する」と述べ、「その他作物」への助成そのものを打ち切ることをほのめかしています。

(3)切り刻まれる農林水産予算
 (ア)34年ぶりに2・5兆円以下に
 民主党政権初の予算編成で、農林水産予算総額は34年ぶりに2兆5000億円を下回り、ピーク時の3分の2になりました。1975年の農林水産予算は2兆1767億円で、軍事費の1・6倍でしたが、86年に逆転し、民主党政権下で半分になりました(図2)。最大のムダ、「仕分け」対象である軍事費を聖域にして8年ぶりに増額する一方で、農林水産予算の削減を加速したためです。

 (イ)何が削られたのか
 戸別所得補償・水田利活用予算の増額分は3694億円。一方、土地改良予算の減額は3643億円(表2)。一部にムダがあったとはいえ、土地改良予算を6割削ってマニフェスト予算を確保したという構図です。そのほか農業共済・鳥獣被害防止対策などを「仕分け」にかけて削り、農水予算全体では1000億円減になりました。

 昔、中国で猿のエサ代をケチろうとして、朝に3つ、夕方に4つエサをやるといったら猿が怒ったので、朝4つ、夕方3つにするといったら大喜びしたという故事(「朝三暮四」)がありますが、鳩山政権の手口はこの程度のものです。しかし、私たちは猿ではない!

 (ウ)農業共済予算が危ない!
 さらに事業仕分けで3分の1縮減を申し渡された農業共済予算については「国庫負担2分の1は法律事項なので今年は乗り切ったが、『仕分け』は生きている。将来的には制度のあり方自体の見直しが必要になる」(農水省)と、改悪をほのめかしています。

 (エ)来年から予算を組めるのか?
 11年度から「モデル事業」ではなく、米以外の作物や漁業も対象に所得補償がスタートし、必要な財源は少なくとも1兆円といわれています。
 今年は土地改良予算を“埋蔵金”のように扱いましたが、残っているのは2129億円。いったい財源はどこから確保するのか? 来年から予算を組めるのか? おおいに疑問だといわなければなりません。
(4)農業再生と自給率向上は農民連の「要求と提言」の方向でこそ
(1)農業危機の根本原因にメスを
 根本原因は(1)政府がWTOいいなりに価格保障制度を根こそぎ廃止したこと、(2)自由化による輸入の激増、(3)大手流通資本による常軌を逸した買いたたきであり、自由化ストップ、買いたたき規制、価格保障と所得補償の組み合わせこそ必要です。

 農民連の「要求と提言」は3つの原因にメスを入れ、(1)およそ4500億円の予算を追加して価格保障を実施、
(2)これに生産コストの高い条件不利地域への所得補償を組み合わせる、(3)農産物の輸入自由化をストップし、ミニマム・アクセス米を廃止、(4)「担い手蹴(け)散らし」政策を転換し、若い農家を育てる国家プロジェクトの実施などを要求しています。

(2)農業版「2つの聖域」にメスを
 「価格支持政策は一切やりません」(筒井氏)と強調するなど、民主党はWTOと足並みをそろえて、価格保障を頑強に拒否しています。
 その姿勢は、現実に被害を与えています。昨年11月に16万トンの備蓄米の買い入れ方針を打ち出したものの、価格回復効果を持たせることに断固反対し、安値での買い上げ(民主党政権による買いたたき)を画策したため、1月にやっと4万トンを買い入れたにとどまっています。
 自由化熱中ぶりはすでに見た通りですが、ミニマム・アクセス米輸入でも異常は際立っています。10月に初訪米した赤松農相はミニマム・アクセス米輸入の達成をアメリカ側に誓約し、現実に総選挙翌日の9月1日から1月15日までに53万トン強を輸入しています。外米は買い入れても、国産米は買い入れない!
 WTO・アメリカ言いなりと財界べったりという農業版「2つの聖域」にメスを入れ、転換をはからないかぎり、農業の再生も自給率向上もありえない――民主党は、これを肝に命じるべきです。

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