子ども・教育にもっと投資を ベネッセ調査
教育に対する公的支出は、OECD加盟国の中で最低レベルである。Benesse教育研究開発センターが「子どもにもっと投資を」と発信している。
大学までの教育費は、すべて公立で約1千万、私立で2300万円という巨費がかかる。
また、教育の充実にとって、中学の主幹教諭・教務主任へのアンケート調査では、82%が「教員が足りない」、45%が「勤務時間が長い」と回答し、学力向上などを「現在の人員の努力だけに委ねるのだとしたら、あまりに無策」と批判している。
【子どもは「未来」 Benesse教育研究開発センター 3/19】
【子どもは「未来」】
Benesse教育研究開発センター 教育調査室長 木村治生 (2010/3/19)
◆子どもにもっと投資を
いよいよ最終回。これまで、2年にわたってデータを取り上げながら、教育の今日的な問題を考えてきた。この間、さまざまなテーマを取り上げたが、一貫して抱いていたのは「大人世代が子どもたちに適切な資源配分をしているだろうか」という疑問である。国の借金は増え続けている一方で、高齢化が進み、生産人口は減っていく。今の子どもたちは、そうした環境の中で国の借金を返済していかなければならない。家計に例えると、月の収入40万円に対して、支出は58万円。積み重なったローン残高は4600万円にも及んでいるというような状況である。
では、子どもたちの能力を高める投資ができているかというと、そうとはいえない。教育に対する公財政支出(対GDP比)は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最低レベルであるからだ。子どもの教育にお金を掛けてくれないのに借金ばかり続けるような家を、誰が継ぐだろうか。
現代の日本は、世代によって配分される資源が偏っている。繁栄を築いた高齢者に、敬意を払わなければならないのは分かる。それにしても、世代間格差は大きい。今の社会保障制度は、高齢者層ほど利益が大きい設計だ。生涯における「受益額-負担額」は、60歳以上の世代では一世帯当たり4875万円もプラスなのに、将来世代(20歳代未満)では4585万円もマイナスである。子どもは「未来」をつくる主役であるのだから、もっと投資をしてもよいのではないだろうか。
*この項のデータは、いずれも2009年財務省のホームページより引用。
◆子育てがしにくいという意識
教育に対する公財政支出が少ないことは、結果として保護者の教育費負担の拡大をもたらす。お金を掛けなくても子どもは育つものだし、お金を掛けたからといって良い子に育つという保証はない。しかし、周囲が一定の支出をする中で、子どもの教育費を削るのは、親としてはそれなりに勇気のいる選択だ。
図1:教育費総額
*注:幼稚園から高校までのデータは、文部科学省「子どもの学習費調査」(2006年)による。また、大学のデータは、国民生活金融公庫「家計における教育費負担の実態調査」(2006年)をもとに試算した。学校外の教育費用も含まれている。
図1は、進学した学校が公立か私立かによって、教育費総額がどのように異なるかを示したものである。これを見ると、すべて公立に進学しても1000万円弱、すべて私立だと2000万円を超える費用が掛かることが分かる。生活に掛かる費用まで含めると、もっと大きな額になる。
このような状況では、子どもをたくさん育てようという発想は生まれにくい。どうしても、少なく生んで大事に育てるという教育戦略が優勢になる。夫婦に理想の数だけ子どもが持てない理由を尋ねたところ、最も多かった回答は、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」であった(国立社会保障・人口問題研究所「第13回出生動向基本調査(夫婦調査)」2006年)。少子化の原因は、非婚化・晩婚化だと指摘されているが、こうした夫婦の意識も見逃すことはできない。
「子は三界の首かせ」ということわざがある。三界は、仏教用語ですべての世界を意味する。子どもがいると、首かせをはめられたように一生自由を束縛されるということだ。今年(2009年)に入って保育所の待機児童が増加しているが、子どもがいることで働くことができないほど行政の支援が貧弱だと、「首かせ」としての側面を強く意識してしまう。「教育費をすべて国が賄え」とは言わないが、子どもを持つことのマイナス面を緩和するような施策をもう少し充実させてほしいと願う。
◆教育の現場で不足する資源
学校教育の現場に対しても同様だ。連載の中でも、学校がさまざまな取り組みを行うための資源が不足しているのではないかという問題を指摘してきた。ここ数年、教育基本法が改正されたり、新しい施策が次々に導入されたりして、学校教育がずいぶん変わった。ゆとり教育の反動で、学校には学力向上の努力が課せられた。しかし、それに見合う資源が投下されたかと言われれば、疑問を感じざるを得ない。
*注:10項目から3つまで選択。
出典)ベネッセ教育研究開発センター『中学校の学習指導に関する実態調査2008』
図2は、次期の新学習指導要領を実現する上で課題になることを、中学校の教員(主幹教諭・教務主任)に選んでもらった結果だ。これを見ると、8割が「教員の数が足りないこと」を選んでいる。教員の多忙化が問題になっているが、やるべき業務の増加に教員数が連動していないというのが実態だろう。
それにしても、新しい試みの成否を現在の人員の努力だけに委ねるのだとしたら、あまりに無策だ。新しい試みを成功に導くには、その前に準備しておかなければならないことがある。
◆教職=未来をつくる仕事
この最終回では、子どもは未来であり、未来への投資が必要ではないかという話をした。教職は、その未来の創造に直接携わる仕事である。とても魅力的で、意義のある仕事だと思う。
本連載は、そのような教員を目指す読者に、データを用いて話をしてきた。役に立ったのかは不安である。しかし、最近、データを読み取る力と、その根拠をもとに自分の考えを述べる力が、とても重要になっているのを実感する。未来をつくるというホットな仕事の中でも、データを参考にものを考える冷静さが求められる。それがプロである。連載を通して、少しでもそうした姿勢の大切が伝えられていたとしたら、これに勝る喜びはない。
「グラプのポイント」
①すべて公立でも、大学まで進学させ場合の教育費は1000万円近くになる。子どもをもつことによる親たちの財政負担を緩和する施策が必要だ。
②新学習指導要領を実現する上での課題として「教員の数が足りないこと」を挙げる教員が多い。新しい試みには、教員数の増加が求められる。
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