県教育振興基本計画 「多忙感の解消」を考える
昨年9月に、教育振興基本計画が策定された。この中には、今、学校の生鮮がどういう困難に立ち向かっているかを読み取ることができる。
――「有効求人率の低さ、若者の県外流出」など一定の年齢になった時に、将来の見通しをもつことが困難になる要因。「全国に比べ厳しい高知の家庭と暮らし」など貧困の連鎖として指摘される問題。そうしたことも背景に「不登校・暴力行為・中途退学者・いじめの状況」など全国の中でも厳しい状況にある生徒指導上の諸課題が指摘されている。
しかし、教員の多忙化、メンタルヘルスの悪化が全国的にも問題になっているが、基本計画は「多忙」でなく「多忙感」の解消となっている。課題を探ってみた。
これまで県教委は、高知県の教員1人あたりの児童生徒数は全国最小と、いかにも教員に問題があるような印象を与えているが、事実は以下のとおり。
しかし、現実は、高知市への一極集中と中山間地域の過疎化という状況があり、平均数は意味をもたない。教員1人あたりの児童生徒数は、高知市の小・中学は全国平均並みであり、一方、中山間地で、一人あたりの子ども数は少ないものの公立図書館など施設面でのハンデや複式学級など課題をかかえていることが「基本計画」からも読み取れる。
教員と保護者の信頼関係を分断するようなアナウンスは控えるべきだろう。
「基本計画」は、教職員について「子どもたちの成長に日々かかわり、その人格形成に大きな影響を与える存在であり、その資質・指導力の向上は極めて重要な課題です。」とは述べている。
県議会でもたびたび問題になってきた教職員の多忙解消だが、基本計画にあるのは「多忙感の解消」!
この意味は行政側から見れば2つしかない。「現実は多忙でないのに『多忙』と言っているだけ」ということか、「どんなに多忙で異常な状況でも、それを感じない心をつくりあげるのか」のどちらかではないか。
教員が子どもと向き合い授業改善や学力向上のための本来の業務に専念する時間を確保する観点から、県民の願いに応え30人学級など教育条件の整備を進めてきた。
全国各地の努力も反映して文科省の予算案には「確かな学力の育成を図る観点から、教員が子ども一人一人に向き合う環境をつくるため、5,500人の教職員定数の改善を図る」という削減路線からの転換が示されている。
30人学級の本格的な導入にすすむべきであろう。
・働く環境の整備――
労働安全衛生法が改定され、08年4月より、全ての事業場において、事業者は、労働者の週40時間を超える労働が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申出を受けて、医師による面接指導を行わなければならなくなった。
また、長時間の労働――週40時間を超える労働が1月当たり80時間を超えた場合――により疲労の蓄積が認められ、又は健康上の不安を有している労働者、事業場で定める基準に該当する労働者についても面接指導を実施する、又は面接指導に準ずる措置を講じるよう努めなければならないとされている。
この改定は、労働者の「申出」がなかったら、面接指導が免れる点で重大な問題点を持っており、業績主義なかでの申出自粛、健康障害が発生した場合でも申し出なかったことを理由とする労働者の「自己責任」への転嫁の道につながりかねない。特に、県教育行政が「多忙感」の解消と言っているもとで、率直に相談、申出ができるのが危惧がある。
行政には、相談のしやすい状況をつくる責任がある。
・前提として、労働時間の適正な把握が必要である。
06年4月の文科省通知「労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行について」には改めて、「労働時間の適正な把握について」と触れられている。
方法としては、労働時間の把握は、使用者が、自ら現認するなど、確認し、記録する、タイムカードなどの記録で、使用者の責任でもって行うべき内容となっている。
昨年10月1日に大阪高裁は、京都市内の小中学校教員が「無定量な超過勤務の是正」を求めた訴えた裁判の判決で、3名の教員について、市の安全配慮義務違反を認定し、損害賠償を認める判決を行った。
判決では、研究発表校としての準備、野外活動の準備や生徒指導が困難な学校での空き時間のパトロール、下校指導、夜店のパトロール、教材研究やテストの採点など時間外や持ち帰りにならざるをえなかった勤務の実態を認定している。これらは高知県の学校においても常態化している内容であるが・・・判決は、勤務実態を正確に認定し、安全配慮義務違反、損害賠償が認められました。
さらに判決は、使用者に代わって指揮監督を行う権限を有するものとして、最高裁の判例をひきながら、市教委とともに、現場の校長の管理監督責任もいっそう明確にした。
また、労働安全衛生法の改定を考慮し、「詳細な時間の管理までも求められていると解することは相当ではない」という内容を平成15年時点に限定し、現時点では、勤務時間管理の詳細な把握が使用者に求められていることもいっそう明確にした。
ちなみに、京都市では昨年12月よりタイムレコーダー試行的に導入されている。
高知県でも自ら出勤、退勤時間の記入がなされているのだが、使用者の責任において把握する点で問題がある。現場に聞くと、「持ち帰りの仕事も多く意味がない」とか、「忙しくて記入すること自体が面倒で毎日5時半にかえっていることにしている」という状態だという。
労働時間の正確な把握につい課題である。そもそも正確な時間外勤務の実態調査もなされずに「多忙感」と言っているようでは解決にならない。実態調査が必要だ。
・産業医の配置――
通知では、常時50人以上の教職員が働いている学校等においては、産業医を活用する等の方法によって面接指導を実施すること、産業医を選任していない学校等については、08年4月までに、保健所等と連携して、面接指導を実施できるような体制を整えることについて指導することが示されている。
全国的には、教職員50人未満の大多数の学校では、各教育委員会は、学校教職員安全衛生管理規定を制定し、健康管理医を定め、産業医に準じた体制を導入しているとのこと(08年6月の「日本医事新報」 宝塚市の中学校管理校医・産業医の岸本通彦(みちひこ)氏、関西大学社会学部教授の久保田稔氏による「学校における健康管理と産業医」より)
2007年12月の文科省通知では、産業医の配置を推進するよう各教育委員会に要請している。
産業医の配置がとうなっているか、調査が必要。
産業医は、毎月一回職場巡視し、健康障害防止の措置をとること、安全衛生委員会に出席し活動を報告し意見を述べる。勧告・助言を行うことが、役割と規定されている。
50人未満の職場も含めて産業医の巡視の状況、必要な予算確保はどうなっているか、調査が必要だ。また、勧告・助言は何件、どんなものがあったのか
・・・ こうしたことをきちんと行ったうえで、「多忙」でなく「多忙感」の解消なのか。
学校医が経験をつめば産業医になれる規定があるとのことだが、さきの「学校における健康管理と産業医」の中で、「(小児科が多い)学校医が産業医や健康管理医を兼務する場合、ひとりの医師が学校保健、産業保険に精通する必要が生じる」とし、専門性への課題を投げかけています。またメンタルヘルスも増大しており、産業医もメンタルヘルスの知識を持つとともに精神科医との連携が必要とのべている。
専門性が発揮できる支援体制など条件整備が必要だ。
・権利の行使と社会的利益--
ある教師は、「子どもため」とがんばっているときは、充実感をもって仕事に打ち込み、長時間労働も苦にならない、と言っていたが、教職というのは過重労働に陥る傾向がある。
人員不足を個人が無理をするのでなく、政治が体制整備として解決することは、子どものためであり、また、若者の働く場を生み出すことになる。
そのためには、教職員が労働者としての権利をしっかり行使することは、単に個人の問題でなく、社会全体の利益になる。
これは、サービス残業の一掃、有給休暇の取得など労働者の権利行使が、実は、日本経済をまともな方向にすすめるという「労働総研」の試算・提言とも一致する。
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