障害者自立支援訴訟で基本合意 たたかいの成果
障害を自己責任とする「自立支援法」の違憲性を問う訴訟で、政府が原告団と、2013年8月までに新制度への以降、速やかな応益負担の廃止など基本合意を結び訴訟を終結することで合意した。
【運動が勝ち取った基本合意 ~これからが本当のスタート~ きょうされん1/8】
【障害者自立支援訴訟、終結へ 厚労相「3年内に新制度」朝日1/7】
【障害者自立支援法訴訟:終結へ 厚労相「障害者尊厳傷つけた」 原告と合意 毎日1/8】
原告側は声明文で「社会保障裁判の歴史や障害者福祉運動において画期をなす歴史的なもの」と評価したと報道されているが、一斉提訴から1年2ヶ月・・・当事者の決意、そして国民的な大運動の成果である。
一昨日触れたが、公的サービスの市場化という新自由主義路線にストップをかけるもので、同じ制度設計の保育制度改革を阻止する力にもなる。
基本合意を実効あるものにする運動。そのためにも応益負担の早期廃止のために予算300億円(予算案は110億円で部分実施に留まる)を確保させるたたかいが重要になる。
政党助成金310億、米軍おもいやり予算2500億円、証券優遇税制廃止1兆円・・財源はある。政治の決断の問題である。
「きょうされん」の声明が当事者の苦悩、決意がよく伝わってくる。「これからが本当のスタート」だと言うのはその通りだと思う。
【運動が勝ち取った基本合意 ~これからが本当のスタート~ きょうされん】 ■歴史の扉をこじ開けた原告たち 2010年1月7日、障害者自立支援法訴訟の原告は政府との間で基本合意文書を交わした。これにより、今後この訴訟は終結に向かうことになる。2005年10月31日に全国の障害のある人と関係者の切実な思いを踏みつぶすようにして成立したこの法律の廃止を政府が文書で表明し、原告と確約をしたのである。2008年10月31日の第1次提訴、2009年4月1日の第2次提訴、2009年10月1日の第3次提訴と続いた原告は14の地裁で71名にも及ぶ。この原告たちの勇気ある決意と行動が、重い重い歴史の扉を押し開いたのだ。実はこの日、全国の原告と弁護団、障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす会(以下、めざす会)のメンバー115名は、基本合意文書(この段階ではまだ案であった)の内容と扱いなどについて調印式直前まで4時間以上にわたって真剣な議論を行っていた。例えば「障害者自立支援法制定の総括と反省」の項目について、多くの原告は「反省という文言では不十分であり、謝罪とするべき」と主張したが、結果的にはこの主張は叶わず「・・・心から反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる。」との表現にとどまった。また、応益負担の廃止に向けてまず2010年度から障害福祉サービスと補装具の利用に関して市町村民税非課税世帯はすべて無料となるが、自立支援医療の利用料は無料にならなかった点についても「当面の重要な課題とする」にとどまっている。このようにこの合意文書は100点満点というわけではなく、それ故に少なくない原告は「本当に合意していいのか」「障害のある者同士が分断される気がする」「合意した後は一体どうなるのか」と不安を口にした。
一方、「障害者自立支援法廃止の確約と新法の制定」「・・国(厚生労働省)は・・違憲訴訟を提訴した原告らの思いに共感し、これを真摯に受け止める」「・・新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず・・」など、現時点で政府側が精いっぱいの歩み寄りをしていることも原告たちは受け止めた。自立支援法の全般的な課題についての問題意識を基本合意という形で政府側と共有することは、今後の新制度の検討に当たっても有効に働く。
こうした二つの側面の間で原告たちは率直に議論をし、そして最後に、残された課題は今後の運動の課題として引き継ぎつつ、訴訟に傾注してきたエネルギーを今後は新たな法制度作りに向けることを決意したのである。またこの場で、新たな法制度を検討するために内閣府に設置される障がい者制度改革推進本部の下の障がい者制度改革推進会議のメンバーとして、本訴訟の弁護団長である竹下義樹氏と、めざす会世話人であり日本障害フォーラム(JDF)幹事会議長でもある藤井克徳氏が招請を受け、1月12日に開催される第1回会合に出席する旨が報告された。
調印式は厚生労働省の講堂で行われ、長妻昭厚生労働大臣、原告の代表として秋保喜美子さん、そして竹下義樹弁護団長の3人が、基本合意文書に調印をした。その後行われたそれぞれの立場からのあいさつの中でも、やはり原告の言葉は心に残った。「初めて応益負担の金額が分かった時、その余りの多さに妻が『離婚しなければ生活できない』と言った。障害のある自分と結婚したばかりに妻にこんな思いをさせてしまう、これがこの国の障害福祉制度の実態です」「自立支援法と同時にホームヘルパーの時間が100時間も減らされてしまい本当に困った」など自らがこの法によって受けた被害、「応益負担をなくして障害はあっても誰もが安心して暮らせるようにしたい」という原告として立ち上がって以来持ち続けてきた熱い思い、そして「これで終わったわけではありません。今からがスタートです。本当に安心できる制度を作るために頑張りたい」という今後に向けての決意・・・その一つ一つの言葉の重みは、立場の違いを越えて調印式の会場にいたすべての人の胸に刻まれたことだろう。
■全国の大運動があったからこそ…
準備期間も含めると約3年余に及んだ本訴訟はこれで一応の区切りを迎え、今後の選択肢としては和解・取下げ・放棄の3つがあるという。これから原告・弁護団・めざす会の三者でどの道を選ぶのかを議論することになるが、原告の思いを尊重するならば、取り下げや放棄はあり得ない。政府との合意事項を司法の場でも確認するという意味で、14地裁すべてで和解を目指すべきだ。和解となれば、判決と同等の効力を原告と被告の双方に及ぼすことになり、今回の基本合意の内容から言えば原告サイドの勝訴的和解と言ってもよいとのことだ。まさに、原告を中心として弁護団・めざす会の三者が、途中では激しい議論も交わしながら、最後まで「ひと固まり」で進むことを堅持したことによってもたらした歴史的な成果である。そして更に忘れてはならないのは、この歴史的成果は約5年に及ぶ全国の障害のある人たちと関係者の「自立支援法反対」「応益負担はいらない」という大運動が勝ち取った成果でもあるということだ。訴訟運動は、言ってみればこの大きな運動の一環でもあった。2005年の7月5日に日比谷公園で行った11000人の大フォーラムを皮切りに、毎年自立支援法が成立した10月31日に取組んできた全国大フォーラムは大きなインパクトをもたらし、旧政権の下でもその都度、一定の制度改善を勝ち取ってきた。そして新政権の下で初めて行った2009年10月30日の大フォーラムでは、長妻大臣が出席して「自立支援法は廃止することを決意している」と参加者の前で直接明言したのである。
またこの大運動の特徴は、主要な障害団体がお互いの主張の違いは尊重しつつ一致できる点で共同を広げてきたことである。こうした共同の取組みは中央のみならず全国各地でも模索され、地域の障害者運動にとっても財産となっているのだ。今にして思えば、まさに未来につながる大運動に取組んできたと言っても過言ではない。
■本番はこれから
折しも、同じ1月7日に各マスコミは自立支援法成立の中心人物であった国立社会保障・人口問題研究所の京極高宣所長の論文盗用問題を報じた。他にも自立支援法成立に深くかかわった複数の厚労省関係者による不正事件も既に報じられている。こうしたことを見るにつけ、この人たちが深く関与した法律が障害のある人と家族、関係者に対して筆舌に尽くしがたい苦しみを与えてきたことへの憤りを改めて感じる。また、この3年の間に福祉支援の利用をストップして家に閉じこもった人や、将来の展望を見失い福祉の職場から去って行った支援者、そして心中事件などで失われた命など、取り返しのつかない被害が実際にあったことを思うと、「もっと早く今の局面をつくりだすことができていれば」という痛恨の思いがこみ上げてくる。こんな思いを胸に抱えつつ、私たちはこれから新しい歴史の出発点に立ったことになる。新たな制度作りに直接関与するという、これまで経験したことのない未知の世界に足を踏み出すのである。
障害のある人の願いを真ん中にして、きょうされんがこれまで蓄えてきた実践と政策検討の到達を新制度に反映する絶好の機会が到来した。原告が言うように、「今からがスタート」なのである
【障害者自立支援訴訟、終結へ 厚労相「3年内に新制度」朝日1/7】 障害者が福祉サービスを利用する際に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法の違憲訴訟をめぐり、全国の原告・弁護団らと厚生労働省は7日、訴訟の終結に合意した。長妻昭厚生労働相は「障害者の尊厳を深く傷つけた」と反省の意を表明。2013年8月までの新制度への移行を約束した。 06年の施行後に負担増を強いられた障害者らが「生存権などの侵害にあたり違憲」として、全国14の地方裁判所で71人の原告が提訴。今後は各地裁で和解を中心に終結に向けた手続きが進められる。 長妻氏と原告・弁護団らは7日、厚労省で基本合意文書に署名した。同法について「十分な実態調査の実施や障害者の意見を十分踏まえず、拙速に施行」したと指摘。そのうえで「心からの反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる」とした。 さらに、同法廃止後の新たな福祉法制の実施に向けて、「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)で、障害者自身が参加して議論を進めることを確約。残る課題として医療費の負担軽減策が盛り込まれた。 自立支援法の施行は06年。支払い能力に応じた負担から、サービスの利用量に応じて原則1割を負担する仕組みへ変わり、障害が重い人ほど負担がのしかかった。反発を受けて自公政権は負担軽減措置を取り、平均負担率は3%程度になったが、障害者の憤りは収まらなかった。 鳩山政権が誕生し、連立与党が自立支援法廃止で合意したのを受けて、長妻厚労相は就任早々その方針を明言。厚労省と原告側が解決に向けて協議を進めていた。 原告側は声明文で「社会保障裁判の歴史や障害者福祉運動において画期をなす歴史的なもの」と評価。長妻氏は「今日を新たな出発点として、障害者の皆様の意見を真摯(しんし)に聴いて新しい制度をつくっていく。その前にできる見直しは進める」と表明した。 ただ、法律が廃止されるまで1割負担の仕組みは残る。厚労省は来年度予算で負担軽減のため300億円を要求したが、医療費の軽減分が盛り込まれず、政府案は約100億円にとどまった。原告らは見直しを求めているが、復活は難しい状況だ。
【障害者自立支援法訴訟:終結へ 厚労相「障害者尊厳傷つけた」 原告と合意 毎日1/8】 障害福祉サービス利用の原則1割を障害者が負担する障害者自立支援法の違憲訴訟を巡り、原告団、弁護団と長妻昭厚生労働相の3者が7日午後、「基本合意」に調印した。合意は、支援法実施で障害者に悪影響をもたらしたことについて、政府が「心からの反省」を表明、同法廃止後、13年8月までの新制度制定に障害者が参画するなどの内容。全国14地裁で71人が「障害が重いほど負担も重い(応益負担の)法律は憲法違反」と国を訴えた裁判は終結へ向かい、施行後3年余りの障害者福祉法制を大きく転換させた。【野倉恵】 基本合意は、このほか、利用者負担や制度の谷間を作らないための障害の範囲見直しなどを、新法の論点とする▽来年度予算案にない低所得者の医療費負担を当面の重要課題とする▽基本合意の履行状況を確認するための原告団・弁護団と国(厚労省)の定期協議の実施など。 同日夕、厚労省内で開かれた調印式で長妻厚労相は「(法律で)皆さまの尊厳を深く傷つけ、心から反省の意を表明します。障害者施策の新しいページを切り開いていただき感謝申し上げる」とあいさつ。原告を代表し署名した原告第1号の広島県廿日市市、秋保喜美子さん(60)は「一人一人の(原告の)思いが合意に入り、感激している」、弁護団長の竹下義樹弁護士は「訴訟を終わらす決断をした71人の原告をたたえてほしい」と述べた。 裁判で原告らは、「法律は障害を自己責任のように感じさせ、生存権の保障を定めた憲法に反する」と訴えてきた。法施行後、福祉サービス対象者約51万人の75%を占める市町村民税非課税世帯では、9割で月額平均8452円負担が増えた。
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