生きづらさの時代の「若者支援」 備忘録
「住民と自治」09.12の「生きづらさの時代の支援を考える」特集から、備忘録第三弾。荒岡作之・大阪経法大教授の「包括的若者支援策と地域・自治体の課題」。
これまでの支援策は、新自由主義のいう「結果の不平等は仕方がない」との立場で、若者の側の「資質」「能力」「努力不足」に問題があるという視点から、市場原理主義に対応できる“人間力”を備えた社会人になることを若者に求めるもの、という根本問題を指摘し、“「諦観」「自己責任」論の呪縛から若者を解放し、権利の主体者として人間発達を保障する支援策を”と述べている。以下、備忘録
【包括的若者支援策と地域・自治体の課題】
大阪経法大教授・荒岡作之
(1)若者・若い世代をめぐる深刻な実態
・完全失業者(09年8月)361万人、率5.5%、有効求人倍率0.42
・非正規雇用 比率 20-24歳43%、25-29歳28%(青少年白書08年)
・正規雇用も長時間・過密労働 子育て世代で労働時間が最も長い
週60時間以上 20代後半23%、30代前半26%(総務省「労働力調査」)
名ばかり正社員の多くは、サービス残業、社会保険未加入、有給「なし」の「使い捨て」状態
・職場・仕事環境の悪化、人間関係を悪化させ、持続する強度のストレスがメンタルヘルス不全を増大
離職率の高さ、非婚化・少子化傾向にいっそうの拍車をかける
・多くの若者が「あきらめ」を抱きつつ働いている
「自己責任論」の浸透~「『平等』なチャレンジの『結果』だから仕方がない」等
「お客が喜んでくれる」「職場に仲間がいる」等の「やりがい」に救いを求める若者の存在
⇒「使い捨て」「自己責任」「やりがい」は同じ地平にある(本田由紀、今野晴貴)
自己責任、やりがい、という若者サイドの対応に留まる限り、悲惨な「使い捨て」労働を改善する道は見えてこない
・地域で暮らす若者の多くが、非正規雇用や無業の生活困難な住民となっている。
契約・派遣で「流入」「流出」する“難民”化した「流動型」住民もいる。
・こうした状況は、将来のコストは増大させ、それを引き押しした財界・大企業にとっても大問題
・前向きな人生を描けず、地域とのつながりの薄い若者が厚い層をなし、“滞留”する事態は、地域経済の再生にも計り知れない負の影響を与える
⇒ 若者の仕事とくらしを支える地域と自治体をつくるのは喫緊の課題
(2)従来の若者「支援」の特徴と問題点
・相次いだ政府・財界の政策、提言
「若者自立・挑戦プラン」(03年6月)、「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」(04年12月)、「再チャレンジ支援総合プラン」(06年12月)、「子ども・若者育成支援推進法」(09年7月)
◆「子ども・若者育成支援推進法」(09年7月)
・企業の採用行動、雇用戦略にも問題があるとしつつも、主軸を若者の「自立」においていることが特徴
→「自己責任」論は、強い政治的イデオロギー性を発揮しながら「自立」支援にも向かっている
・雇用問題は「ミスマッチ」が原因で、若者の側の「資質」「能力」「努力不足」に問題があるという視点
→ 新自由主義 結果の不平等は仕方がない。そこで、プランは、市場原理主義に対応できる“人間力”を備えた社会人になることを若者に求めるもの。
◆競争主義と一体の「支援」は、
「良くない結果」に対する負い目、人生の諦観をつくり、人間の尊厳を奪う一方、国と企業に生活擁護と雇用の社会的責任を果たさせるものではない。むしろ、労働者、国民を犠牲にして利潤を追求する財界・大企業に忠実な「支援」である。
・これまでのプラン/実態とかけなれた低い「目標」が財源等の裏づけを欠いたまま制定されている
例) 雇用創出「目標」を掲げた公共事業・サービス部門が、自治体リストラで、「縮小化」「民営化」が進行し、官製ワーキングプアを生み出す、公的事業の「貧困ビジネス」化すら進んでいる。
◆「推進法」~ 活かすことは、具体的運用上で可能
・同法は、
「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会報告」(05年6月)
「次世代育成支援対策推進法」、「子どもと若者総合支援勉強会」での提言(08.10)を踏まえで制定
・「良好な家庭環境での生活の重要性」「良好な社会環境の整備」を主張し、「地域協議会」を推進母体に
「ニート、ひきこもり、不登校、発達障害等の精神疾患など子ども・若者の抱える問題」に対する支援法
→ 法の名称、適用範囲の修正をみたように、若者支援として活かすことは、具体的運用上で可能
同氏は、「社会生活が困難な若年無業者、ワーキングプア、派遣きりで職も住も失った若者は、支援対象の主役といえる」と評価する。
◆法の枠組み
・施策の策定、実施責任は、国および地方自治体
・「育成推進支援本部」が「大綱」を策定し、都道府県・市町村が、地域ごとに「子ども・若者計画」を策定
(現在、「大綱」は策定されてない)
・キーワード ①窓口の一本化 ②実効あるネットワーク ③早期の対応、継続的な支援/(子どもと若者総合支援勉強会の「最終まとめ」より)
→ 新法の「育成支援ネットワーク」構想に活かされている。
①総合相談センター(専門家配置。ワンストップ窓口)、
②「子ども・若者支援地域協議会」(地方自治体設置、関係機関〔自治会なども〕で構成。)
~これは次世代育成支援法でも採用されている(メモ者 本当に実効性があるか???)
→ 実効性あるネットーワーク形成は急務(メモ者 構成員が「自己責任」論を克服していることが要)
(3)若者支援策への地域・自治体のとりくみ
◆若者の抱える困難とその現れ方は多様
・有業・無業(学生、主婦)、正規、非正規、事業者規模、職種・キァリア、地域、性別、メンタル状況
~ “溜め”の大きさに違いがある。また、地域ごとの特色を帯びながら他の問題と関連する
・ワンストップサービス化は不可欠
生活保護は市役所、仕事はハローワーク、生活福祉資金は、社協という連携上の改善。職と住を失った「流動型」若者支援には、即効性が必要だから
◆極めて立ち遅れている地域・自治体のとりくみ
若者の労働と生活のリアルな把握(メモ者 これが難敵! 同世代の民青が聞き取りした「白書」のようなリアルな調査は、行政、マスコミでは“壁”がある。よって「地域協議会」には、若者組織が入ることが必要)にもとづいた「若者支援計画」の立案、施策の作成
◆自治体にあける支援のあり方を整理するための4つの留意点
①政府と財界に、良好に雇用機会、正規雇用創出の責任を果たすことを求める。
・そのため自治体自らが、
農業、中小企業へのサポートの強化
公共事業、サービスを推進/人手不足の教育、医療、福祉、環境、防災等で雇用創出
官製ワーキングプアの解消、公契約の推進
②劣化した職場・労働環境の是正を当該企業に求める
・安全配慮義務違反をしている企業の違法性をただす。労働局に規制や勧告を求める
・職場の良好に人間関係は、働き続ける上で重要→差別的処遇、パワハラ、セクハラの防止。
・自立可能な賃金の確立、最賃の引き上げ(メモ者 自治体の非常勤職員の待遇改善が大きな焦点)
③ 実効ある支援には、地域の特性を活かしたきめ細かな作業が不可欠
・自治体のあり方とし、こうした作業は、「大合併」や道州制にはなじまない
・各人に適応した継続的支援を行うイギリス型の「パーソナル・アドバイザー」の配置が必要
・地域の実行あるネットワークの形成(メモ者 自己責任論を打破する「社会教育」が両輪)
・総合相談センター(労働問題、社会保険の明るい相談員、心の相談員の常駐が必要)
「流動型」の若者に対する住居確保、生活資金援助、社会保険適用、生活保護の拡充
④ 「諦観」「自己責任」論の呪縛から若者を解放し、権利の主体者として人間発達を保障する支援策
・仲間同士の結びつきや共通の「学び」体験をベースにした社会連帯の経験の場の拡充
文化、スポーツ、学習、ボランティア活動への参加の支援装置を多様に用意する必要
・国、自治体による「所得補償つきの職業能力形成支援」
・労働者権利教育の強化
→ こうしたことは、若者の新しい共同・連帯を前進させる契機となり、「定住型」若者が憲法の生きる自治体づくりに参画する可能性を高める。
◆総合的包括的な支援策の確立を
・若者支援は社会の責任
・支援策のための財源が不可欠
地域経済の再生、持続的発展は必須条件
大企業への規制を強め、応分の社会的保障費用分を求めることも重要
・生活基盤全体の包括支援とともに、若者自身が主権者として労働条件改善、支援策策定に取り組むことが重要
~「反貧困」の取組みを通じ、性別、企業枠などを超えた多様な“共同”“連帯”が生まれている
◆未来は、労働者・国民の取組みにかかっている
新政権のもと、主権者である住民本意の憲法が生きる地域づくりができるか、それが若者の生活と雇用保障の新たな契機になるかは、今後の労働者・国民の取組みにかかっている。
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